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盲目

目覚めは悪かった。
部屋着がやけに寝汗で湿っていて、魘されていた気がする。

「レナ…詩音…」

何か、嫌な予感がした。

気味の悪い目覚めが災いの前兆のような気がして。

私はある程度身嗜みを整え、祭具殿へと向かった。

扉を開いた途端、声が聞こえた。

話し声だろうか。何を話しているのだろう。

階段を下りる度にその声が徐々に大きくなってくる。

階段を下り終えた時、私は違和感を感じた。

二人の声質に。そして詩音の話し方に。

「魅ぃちゃんっ…魅ぃちゃん…」

「おじさんに任せてごらーん?」

詩音が私の真似をしている…?

一体…何…?

私は気になって二人の居る廊まで走った。







「何…やってんの」

私はそれしか言えなかった。

二人が…裸になり、愛し合っていたから…

「あ…お姉…私達もう限界なんです。お姉が相手してくれないから…」

…そうだった。飼ったペットのお世話はご主人様がしなきゃいけないんだった。

二人が仲良く愛し合っているのは良いことだ。だけど…自分のものなのに自分のものでなくなったかのような感覚に戸惑う。

「だめ…今は魅ぃちゃんでしょ…?」レナがこっそりと詩音にそう告げた。
…何のことだろう、詩音は私の真似をして…何がしたいんだろう。

「そうでしっ…あ、そうだったね。レナぁ…ほぉら、感じる?」

「んぁ…魅ぃちゃんッ…恥ずかしいよぉ…」

ここまで私は壊してしまったのか?
もしそうだとしたら自覚していない自分が気持ち悪い。

…壊してでも手に入れた筈の二人が何か得体の知れないことをしてるのでは無いかと不安になる。

「それやめなよ、また撃たれたいワケ?」

「…じゃあ、お姉が相手して下さいよ…」

「そうじゃなくて。私の真似をするの…止めろって言ってるんだけど。」

なんだか気味が悪い。意図の分からない行動というのは本当に気味が悪いのだ。

昆虫や動物の不意な行動…あれに少し似ている。

何か意図があるはずだけど、分からない…それが一番感じ悪いのだ。

「レナがお願いしたんだよ…だよっ…」

…思いの外、口を開いたのはレナだった。

「…なんで?」

多少憶測してみたもののやっぱりワケが分からない。

「魅ぃちゃんにして欲しいけど…なかなか魅ぃちゃんは相手してくれないから…詩ぃちゃんが魅ぃちゃんになってくれたら嬉しいなぁって…」

…なるほど、疑似体験…といったところか。

それを知ればおかしな話では無いと思う。

だけど

「勝手なことしないでくれないかな。あんた達…自分のおかれてる状況分かってんの?」

私のもののこの子達が勝手なことをしたら躾をしてあげないといけない。
それがご主人様。










「…魅ぃちゃんはどうして…レナをここに入れたのかな?」

レナの声が急変した。いや、声だけじゃない。表情や目つき、仕草。

…何のつもり?

「レナは私のもの。他の誰にも触れさせない。」

「…そう。レナね…詩ぃちゃんの方が好き。」





…え…どうしてッ…

いや、いいんだ…レナの意志なんて関係無い。

私が私のものだと決めたのだからレナがどう思おうがどうあがこうが…私のもの…。

「レナさん…?」

「詩ぃちゃんは私のこと好きだって言ってくれたし、優しいんだもん。お互い憎んだりしたけど今ならレナ、詩ぃちゃんのことを愛せると思うの。」








違う。違う違う違う違う違う!!

そうだ…レナは私を煽ってるんだ。

ここを開けろと。中へ入って来いと…

そうに違いない…!

「あはははははは!レナぁ!!姑息だねぇ…おじさんはそんな手には引っかからないよ!!」

「あはははははははは…!!」

レナが私に笑い返してニヤリとほくそ笑む。

その笑みが不愉快だったから

「何?」

とだけ聞いた。
…それは、ミスだったのだろうか。

「悔しいんだね…魅ぃちゃん」

「…はぁッ…!?何言ってんのさレナ…」

「もういいよ、レナには詩ぃちゃんが居る…」

「レナさん…あなた…」

「詩ぃちゃんは…嫌かな?レナのこと…」

「嫌じゃありません…でも、そのッ…やっぱりレナさんにしたことが未だに…」

「レナはそれも含めて詩ぃちゃんが好きなんだよ…だよっ?」

「レナさんッ…!」

「詩ぃちゃんは…どう…なのかなっ?」

「私だって…私だってレナさんのこと…好きですッ!!」






…あはははは。

何ソレ。

何ソレ何ソレ何ソレ。









「詩ぃちゃん…」

「レナさんっ…」

私は置いてけぼり。

この二人を自分のものにしたくてペットにしたのに、ペット同士が結ばれてしまった。

私には見向きもせず二人は抱き締め合い私の目なんて気にならないらしくそのまま互いの身体を舐め合い、触れ合う。

「レナ…」

「詩音…」

「…レナッ!!詩音ッ!!」

声が届かない。
いや、二人の耳には届いている。だけど心にはもう…届かない。

いくら名前を呼んでももう届かない。

気付けば私は鉄格子をガンガンと激しく叩いていて、その手の平の痛みに気付いたのは割れたような嫌な音が鳴った時。

「うッ…痛ッ…」

痛い。




…痛い 痛い 痛い 痛い






























痛イ痛イ痛イ痛イ






























「殺して…やるッ…」

これは私の意志?

背中の意志?

何だろう。

本当にその意志は正しい?

ミスじゃない?

その答えを導き出す前に私は銃を既に拾っていた。

だけど…手の平が痛み、痺れてすぐに銃が地面に落ちる。

「レナぁぁぁぁッ!!」

声が枯れる程叫んだけれどレナは詩音の指に秘処をかき混ぜられ夢中になって喘いでいた。

私の真似をした詩音ではない、純粋な詩音相手に。

それが…私への想いとの完全な決別を表したみたいで抉られるような思いだった。

「詩音ッ…詩音詩音詩音ッ!!」

詩音もまた、レナの膣内を犯すことに夢中で私には見向きもしない。

私が最初から居なかったかのような完全な無視。

「…あはっ…あはははは…!!」

私は何がおかしくて笑っている?
何が楽しくて笑ってる?

…愉快だった。

それは自嘲的な愉快さではない。

凄く簡単で端的で的確な方法を思いついたからだ。

この子達の想いを私のものに出来ないのなら…



いっそ、命ごと私のものにしてやろう。


そうだ!

それがいい!それがいいよ!




気付けば背中には何も居なかった。

いつからだろう、居なかった。

多分、この私と同化したんだろう。

ちょっと前までは背中の鬼が言うことに疑問や恐れを抱いたりした。

だけど今はそんなどうでもいい思考回路、要らない。

殺す。

それが私のレナと詩音を手に入れる為の唯一の手段!!


なんて素晴らしいことだろう…!!


「あはははははは!!はーッ…ははははッ!!」

階段を駆け上がり本家内へと引き返す!靴を脱ぐ時間だって勿体ないからそのままでいい!
台所…台所…あった!ナイフ…ナイフ…ナイフッ…えへっ…

あとは鍵…鍵…!

鍵とナイフ…あとは…もういいや!

あはははははははははははははははははははは

私って天才かも!こんなに簡単に二人をものにできるなんて!

簡単な方法ってのは本当に最悪の選択肢だよ。大抵。

はぁ?何言ってんのさ、これ以上に良い選択肢がある?答えなよ!

それは知らないよ、でもあんたは今間違った方向に進んでいってる。

うるさいなぁ…鬼が今頃怖じ気づいてんじゃないよ

そうやって自分を騙し続けていればいいよ。

うるさいうるさい、死んでしまえ。

あはははは、今のあんたはすぐそれじゃん。情けないよ。


「うるさいッ!!」

掠れた声で叫んで鬼を黙らせ階段をかけ降りる。

最後の一段で踏み外し頭を軽く打ったけれど構わず私は起き上がり二人の廊へ走った。

「あッ…詩ぃちゃん…ダメッ…レナッ…もうッ…!!」

「いいですよ…我慢しないで下さいッ…」

バーカ!そうやっていつまでも愛し合ってればいいよ!私に命を奪われるのにさ!

鍵を取り出し廊を開ける。

痺れる手にしっかり力を込めて…私は殺す覚悟をした。

「殺す…殺すッ…!!」

未だに愛し合う二人に突き刺すべくナイフを振り上げる。

…下ろせ。
そのまま下ろせ…!

下ろせッ…!!

二人は私に冷たい目をして…ただ、ただ見つめる。




あんた、殺す気ないでしょ?

下ろせッ!!

構って欲しいだけでしょ?

下ろせ下ろせッ!!

寂しいんでしょ?

違うッ…!!

























ただ、もう一度、愛して欲しいだけ。





























…気付いて、しまった。
























何が間違いだった?

それはどうでも良かった。

必死になって手に入れたものが

私じゃない方を向いている…

それが…ただ。

ただ、虚しかった。

ただ、悲しかった。

ただ、寂しかった。

ただ、苦しかった。

















ごめんなさい。




























私は目を閉じ、漸く殺す覚悟を決め、ナイフを思いきり振り下ろした。



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