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偉業

本当に完璧だったのだろうか。

家に着いてようやく休息を得たというのに私の脳内は不安でいっぱいで…とても休める状態じゃなかった。

「ねぇ…本当に大丈夫だった…?」

「完璧だった。」

「他に何か落ち度は無い?」

「無いね。…落ち度は。」

あんたと話して落ち着きを取り戻したかったのに、そんな意味深な言い方をされると余計に不安になるじゃないか。

「じゃあ他に何があるの?落ち度以外に何かあるような言い方だけど」

そう、あんたは何かを指摘したがってる。

「邪魔者は居るよね。」

邪魔者。それは私だって気付いてる。

だけどその邪魔者に邪魔されないようなやり方をしたんじゃないか。

「支障は無いよ」

うん。大丈夫。私が我慢すればいいことだから。

「これからずっと耐えてくワケ?」

真理を突かれた私は、面食らってしまいただ黙るしか出来なかった。

「まだまだ鬼になんかなれちゃいないね」

あぁ、そうだね。中途半端でごめんね。

「うるさい」

私の機嫌を損ねた事がわかったのか鬼の方も黙った。

…そんなことは分かってる。

私だって悩んでるんだ。どうすればいいかわからない。
溜め息が溢れる。簡単なことじゃあ無いんだって分かってた。

だからこそ簡単だと自分に言い聞かせた。

…どうしたものか。

後戻りはもうできない。


このままだと気分が沈むだけだ。
何かをしよう。
何がいいかな。

あ。

レナの日記帳。

そういえばポーチに入れたままだったっけ。

…下着も。

下着については今更ながら恥ずかしい。

年頃の女子がクラスメイトの女子の下着を盗むとは…いや、違う。レナの為に取ってきてやったんだから盗んだわけじゃない。

…後でゆっくり鑑賞しよう。はぁ。


くだらない考えは置いといて私はポーチに手を伸ばし、日記帳を取り出した。

丸めて入れた為に読み難いだろうから逆の方向に数回強く曲げて気休めの修正を施す。

さぁ、何が書いてあるだろうか。






















○月×日
好きで好きでたまらない。どうにかしてる。分かってる。だけど収まらない。本当はこの日記に書いたって少しも収まらない。好きなの。本当に好き。大好きなのに、言えない。言ったらきっと後悔する…でも…伝えたい。

○月○日
魅ぃちゃんには好きな人が居るみたい。溜め息ばかりついてる。私だって本当は溜め息の1つでもつきたいけれど、まだそれは早い。魅ぃちゃんの心を振り向かせたい。圭一くんより私を見て欲しい。私を見て。私だけを見て。

○月△日
魅ぃちゃんの身体にもっと触れたい。魅ぃちゃんの心にもっと触れたい。魅ぃちゃんの指でレナを触って欲しい。魅ぃちゃんの目でレナをずっとずっと見て欲しい。

(ここからは日付の表記がない)

魅ぃちゃんとキス。
苦しくて切ないキス。


魅ぃちゃんにたくさん触って貰った。
それでも心は妬みを絶やさない。約束は守れそうにない。


もう、可能性は無くなった。結ばれてしまった。



痛かった。罪は罪だって改めて教えられた。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。



痒い。



レナは嘘しかつけない悪い子。だけど誉めて欲しい。レナは罪を償いたいだけ。諦める。諦められない。魅ぃちゃんが好き。魅ぃちゃんが好き。魅ぃちゃん魅ぃちゃん魅ぃちゃん魅ぃちゃん。園崎魅音。園崎魅音。私の隣に魅ぃちゃんが居て、私を抱き締めてくれたら。魅ぃちゃん…。欲しい。欲しいの。
















そこにはレナの苦痛と愛情がひたすらに書かれていた。
あぁ…レナ!こんなに愛してくれてたんだね…嬉しいよ。
大丈夫だよ。これからはずっと一緒だよ。
レナに会いたい。
でも今は…会えない。

…邪魔だった。

やはり邪魔者は邪魔。




消シテシマイタイ




…あれ?何?何の声?


「消セヨ」

やだ、冗談やめてよ

「消セ。*セ。」

…………………。

***************。

黙ってくれて助かるよ。どうせ明日は休みなんだ。今会えなくても明日すぐに会える。だから我慢。我慢。





―――うぉー………

目覚めはよく無かった。何か嫌な夢を見た気がしたが全く思い出せない。
私は呻きながらその身を起こすとすぐにあることが浮かんだ。

…レナ。

早く会いたい。

レナ!レナ!

私はやるべき事を全て済ませてすぐに家を出た。婆っちゃには遊びに行くとだけ告げた。




―――レナ!お腹空いてるよね!ごめんね!今から行くから!

地下祭具殿の階段を駆け下りる。

「レナ!」

「魅ぃ…ちゃん…」

不安そうな顔をして私を見つめ返すレナ。

「ごめんね…ほら、お菓子持ってきたから…食べて。」

牢の隙間から無理矢理に詰め込んで中へと押し込む。

「それと、水。ここに置いておくから」

流石にペットボトルは詰め込むことは出来ないので牢屋のすぐ側に置いた。

「あとは…」

「要らない」

レナが私の言葉を遮るように口を挟む。

「要らないから、ここから出して」

…レナは私のものになりたくない?…あぁ…そうだ、照れ屋さんなんだね。今更照れなくてもいいじゃん。
本当は嬉しいんでしょ。

「それはできないよ」

へへ。デキナイヨ。レナが素直になるまでは少なくともね。

「…どうしてこんな事するのかな…かな。」

どうして?わからない?いいや、分かってる。

「分かってるくせになんで聞くの?レナはもう私のもの。例えレナが嫌だって言っても変えられないの。」

レナは黙りこんでしまった。

「レナだってこれを望んでたはずだよ。」

「こんなの…違うよ」

そう?図星でしょ?

「これ…返すね」

日記帳を取り出し、隙間からポイと投げた。

「…これ…レナの日記…!?どうやって…!?」

「念のため昨日、レナの家を調べたんだよ。読ませて貰ったよ?」

レナは呆れたような茫然とした表情で私を黙って見つめる。

「自分の気持ちに嘘つかないでもいいじゃん。好きなんでしょ、まだ。」

日記に書いてたじゃないか。レナが悩むのなら私が行動に移す。レナはもう、悩まずに流れのままに私の元に居てくれればいい。

「…でも…レナは…」

「それでいいんだよ。私もレナが好き。耐えられない。」

複雑そうな、困惑した表情でレナは

「…それでもこんなのは間違ってるよ魅ぃちゃん…。」

とだけ言った。

「何を言ってもレナは私のもの。もう放さないから。」

気付けば私は鉄格子に顔を押し付けてレナを出来る限り近くで見ようとしていた。

「あはっ…レナ、こっちにおいで…?」

牢の奥で私に距離を置くレナは疑いの目で私を見据える。

「おいで」

なかなか、来ないね。私のものなのに。

「早く来いッ!」

ビクッと身体を震わせては怯えながらもゆっくりと四つん這いになって此方に近付くレナ。
レナは私のものなんだからキスくらいしてもいいよね。

「キスさせてよ、レナ」

私の放った言葉にレナは目を背けるももう一度私の目を見てそっと私にキスをしてくれた。

我慢できない。

私の奥から何と言えばいいか分からない激しい衝動がこみ上げた。

レナの唇を甘噛みし、その状態で歯を立ててグッ…と力を入れてゆく。

ググッ…ギチッ…

鉄格子を強く握り震えながら痛みに耐えるレナがかわいい。

私も鉄格子を握りレナの指に触れた。

…もっと強く噛んでやれ。

ギィッ…グチッ…

歯と唇を擦り合わせて、更に強く噛む。千切らんばかりに。

「んッ…いぃッ…!」

レナは遂に呻き声をあげて涙を浮かべ始める。
唇と唇の間から赤く染まった唾液が滴り落ちる。

レナの血の味…おいしい…。

吸血鬼と化した私はもっとレナの血を求めてしまって。

グチッ!グチィッ!

「やぁぁぁッ!うぁうぅぅッ!」

ガンッ!ガンッ!

更にレナは叫び出し、鉄格子もろとも私の手を自身の手の平で叩き始めた。

そして目をキツく閉じて涙を流す。

痛い?痛いの?えへっ…そろそろ許してあげようかな。

私の歯からレナの唇を解放してやると血液が更にボタボタと垂れる。
私の口内に残ったレナの血液が愛おしいので思わず舌なめずりをして舐め取った。

「いひゃいよぉッ…!うぅぅッ…!」

目から涙を、口からは血液を零しながらレナはその痛みに泣いた。

その口元を抑える手はすぐに血まみれになり手首から肘へとツーッと流れた。

「私のものなんだからすぐに言うこと聞いて。じゃないと今度はもっと痛いことするから」

私のものなんだから私の好きなようにする。
逆らっちゃダメだよ。
私のものなんだから。
私のもの…私のもの…!
あはははははッ!嬉しい!レナはもう私だけのもの!誰の目にもつかない!他の誰にも触れられない!私だけ!
レナを見て、触って、愛する権利は今から私だけのものになる!

そうだ…!





「きゃはははははッ!私だけのものだよ!レナぁぁッ!」

その事実に気付いた私は歓喜あまって叫び散らした。誇示でもあったし、咆哮でもあった。

「私だけ!レナに触れてレナを愛せるのは私だけ!きゃぁっはっははは!」

内に広がる幸せによる恍惚の感覚に酔いしれておかしくなりそうだった。

「レナ、待ってて!お菓子取ってくる!たくさんたくさん話そうね!お茶も持ってくるよ!」

これからのレナとの時間に心がときめく。
たくさんレナと遊ぼう!
ひゃッ…あはっ…!

私のものになったレナとたくさんたくさん遊ぶんだ!

急いで階段を駆け上がる!

ギギィー…

えっ…

扉に手をかけようとした瞬間に勝手に扉が開いた。

何故!?何!?誰!?

「…何や、此処か」

婆っちゃ…!!

その顔は鬼のような表情で、私を睨みつける。

こんな目で睨まれたらまさに蛇に睨まれた蛙。

全身から冷や汗が噴き出る…!

「何を勝手に開けとぉか思ぉたら…」

その手には…刀?日本刀!?

婆っちゃの部屋に飾ってある日本刀…!!

「婆っちゃ…待って…!」

「すったらこたぁしとぉたら…」

え…そんな事…って?

何?

レナを

監禁してるって

知ってる…!?



嘘…!


咄嗟に私はすぐそこにあった割れたビール瓶を手に取る…!

レナを気絶させた時に使ったもの…祭具殿の中だからと思ってそのままにしておいたが…良かった…!

「だぁほが!何晒しとぉ!」

婆っちゃが日本刀を強く握る…!

「うわぁぁぁッ!」

殺される…!殺されるッ…!


ドンッ!

婆っちゃが日本刀を振り上げる前に婆っちゃを突き飛ばした。

園崎頭首の名が無ければこの人もただの老婆。

それは容易く実行できた。

婆っちゃは弱々しく倒れこむとそのまま動かなくなった。

…しんだ…?

そんな…嘘…!

「良カッタネ、魅音」

良くなんか無い…殺すつもりなんて無かった…!
「コイツハ魅音ヲ苦メテキタジャナイカ」

…何のこと?

「コイツサエ居ナカッタラ詩音モ魅音モ差別サレナカッタ」

でも…!殺すなんて…!

「コイツサエ居ナカッタラ詩音ハ爪ヲ剥ガサズニ済ンダ」

そうだけど…!

「コイツサエ居ナカッタラ私モ魅音ニ憑カナカッタ」

「コイツサエ居ナカッタラ全テガ幸セノママ過ギテイク筈ダッタ。」

………………………。

「鬼ニナレ、魅音。」


………………………。


「魅音ヲ鬼ニシタコイツヲ…」















殺セ









「魅音ヲ鬼ニシタコイツガ魅音ノ鬼ニ殺サレルノハ業デアリ理!」

「挙句ニ魅音ヲ斬ロウトシタ。邪魔ヲシタ。」

「コイツハ罪ダ!コイツハ死ヌベキ存在ナンダ!」

……………はは。


だからさ、














知ってるってば















グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ、グシャッ…

割れたビール瓶の先端が婆っちゃの顔に何度も突き刺さる。

皮が剥がれ、肉が抉れ、筋肉が剥き出しになる!

「いひひひひひッ!ざまぁみろぉぉぉッ!!」

婆っちゃは最初のうちは呻き声をあげていたがそれもやがては途絶えた。

気絶してただけみたいだったけど…そんな事はもうどうでもいい!

これは詩音の爪の分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!

これは詩音をルチーアに閉じ込めた分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!

これは悟史を苦しめた分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!

これは沙都子を苦しめた分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!

私に鬼を彫った分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!

私と詩音を差別した分!

グシャッ!グシャッ!グシャッ!


あぁぁぁぁぁ!死ねぇぇぇぇぇぇッ!

グシャッ!ガリガリガリガリガリガリッ!ブチッ!












「はぁ…はぁ…」

私の視界に映った老婆は見るも無残な姿になって私を喜ばせてくれた。

腹部も脚も腕も首も顔も全てを地獄の業火を纏う怨恨の刃によって破壊した。

誉めてよ詩音。

遂にやったよ…!

ずっと…ずっと思ってた!

こいつさえ居なければって…!

詩音…!ほら…!やったんだよ!

えへっ…!あはははははッ!

「うぉあぁぁぁぁぁッ!!」

殺したぁぁぁぁぁッ!
やった…やった…

ビール瓶をその場に落として感無量になった。

罪の意識などは不思議と1つも無かった。

達成感と感動。倦怠感と疲労。

へへっ…へへへ…あとはこいつを処理するだけ。

あの穴に落とそう。場所も分かってる。

レナを監禁している牢屋の先に大きく深い穴がある。

あそこにコイツを落としてやろう。

確かここには車椅子型の拘束台もあったはず。

どこだっけ…

あちこちを探し回るとすぐにそれは見つかった。

コイツをとりあえずそれに乗せて、すぐに拘束する。

まずは階段から。持ち上げるのは無理だから強引に車椅子を押して降りる。

その為に拘束した。

早めに死体を処理しておかないと。

階段を降りると早歩きで穴へと直行する。

「魅ぃちゃん…!?」

…レナか。

「大丈夫。もう死んでるから」

車椅子の向きを変えて婆っちゃの遺体を見せてやる。

「あぁぁぁッ…!」

ちらっと横目でレナを見ると、血まみれの両手を口元にあててショックと吐き気に襲われていたようだった。

まぁ、普通だね。

「レナぁ!あんたも変な気を起こせばこうなるかもしれないからね!ははは!」

少しくらい脅しをかけたっていいだろう。
私のものなんだから、この程度の強迫は許されていい。

さて。

穴への入り口を開けると見落とし易く設計された大きな穴が私を迎えた。

「じゃあね、地獄で罪を償いな」

車椅子を地獄へと通じる穴へ。
突き落とした。
婆っちゃはすぐに暗闇に姿を消し、居なくなった。

はぁっ…!

最高の気分。今日は最高の気分!

私の最大の敵。婆っちゃを消した!

ひひっ、ひひひひ…!

これで鬼だ!私も本当の鬼になったぞ!
見ろ!これが園崎魅音!
現世に蘇った鬼だぁぁ!

はははははは!

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