[携帯モード] [URL送信]
強情

気付けば朝だった。

詩音の部屋の天井があって、私の真横には下着姿の詩音が寝てて。

そうだ、あれから何かある度に私は詩音を犯して悦んでたんだっけ。

風呂に入っても、歯磨きをしてても、詩音が料理を作ってても。

そんなのお構いなしに私は詩音を犯した。

それは就寝直前でも。

「おはよう、詩音。」

詩音の微笑ましい寝顔に一言だけ伝えてその髪を撫でてやれば私は着替えを始める。

着替えが済んだら顔を洗って、歯磨きを済ませて、髪を解いてから詩音の部屋を出る。

朝飯を頂きたいところだったけれど、ここから雛見沢分校へ行くとなると時間がかかる。

詩音をわざわざ起こすこともない。

だからこのまま学校へ行こう。



―――学校に着くと私は机に顔を伏せた。

少し早めに着きすぎたらしくてレナや圭ちゃん、沙都子に梨花ちゃんもまだ来てないみたいだった…。



「魅音、授業始まるぞ」

「ほぇ?」

圭ちゃんに肩を叩かれて顔をあげると知恵先生がたった今教室に入ってきたところだった。

私はよく働かない頭を叩き直して

「きりーつ!きょーつけ!れーい!ちゃくせーき!」

といつもの適当な号令をかけた。

半分、眠りかけていたらしい。

意識の狭間で教室が少し騒がしくなってきたな、などと思っていた程度だったので授業が始まる寸前だとは分からなかった。

「魅音…たるんでるぞ?二日酔いかー?」

圭ちゃんが冷やかしてくる。

「やっぱりウィスキーと焼酎をチャンプルするのはまずかったかねー」

「…マジかよ」

「あはは!冗談だよ」

久しぶりにこんなやり取りをした気がして、息抜きになった気がした。



放課後になるとやはり少しだけ眠気が強くなってきた。

夜遅くまで詩音を苛めたのが災いしたか…それでも後悔はしない。

レナは今日も休みなので部活は無し。

最近部活をやっていないのでレナが元気になったら久しぶりにやりたいな、なんて思っていたら共に帰っている圭ちゃんに突然聞かれた。

「レナは…どうだった?」

あぁ…そうだ。圭ちゃんには何も言ってなかったっけ。

「どうにか大丈夫そうだったよ。来週には来れるんじゃない?」

下手にごまかしたくないので詳しくは言わず、それだけ言っておいた。

「そうか…しかしあれはショックだったな…」

圭ちゃんには会いたくないって言ってたから…そのことだろうか。

「仕方ないさ。女の子には色々あるんだよ。」

こんな台詞は私らしくないな…と思ったが意外とすんなり出てきた台詞だった。

「そうだな…考え過ぎだよな。」

「圭ちゃんには悪かったって伝えておいて…って言ってたよ」

「本当か?良かった。」

そんな会話をのんびり交わしているといつの間にか分かれ道。

「あ…あのさ」

と圭ちゃん。

「なぁに?」

「今日もレナの所…行ってやってくれないか?」

…そうだね。圭ちゃんも心配なんだろうし、私もレナに会っておきたい。

「わかった。圭ちゃんは来ないの?」

…って、あんな風に言われたんだからやっぱり行き辛いだろう。

案の定圭ちゃんは首を横に振った。

「そっか。じゃあまた明日レナの様子を伝えるよ。」

圭ちゃんは相変わらず心配そうな表情で頷いた。

「ん…じゃあな魅音。レナのこと頼んだぞ」

「任せなっ。またね、圭ちゃん。」

話してる内に圭ちゃんの家の前に着いて、圭ちゃんはレナを任せると告げて帰宅した。





ピンポーン

呼び鈴を鳴らす。足音は聞こえなかったがドアがゆっくりと開いた。

そこには力無い笑みを見せたレナが居て、そのまま手招きしつつ私を迎え入れてくれた。

「来てくれて嬉しい」

静かに私に告げるレナの声色はやはり弱々しくて。

「レナが元気になるまで毎日来るつもりだよ」

レナを喜ばせるためにそう言ってやるとレナは一息置いて

「ありがとう魅ぃちゃん。」

とだけ呟いた。

レナの部屋に入るとまず目に入ったのが果物ナイフだった。

何に使ったのか気になったが…レナが私の視線に気付いて苦し紛れに苦笑したのでだいたいの想像はついた。

「…やめなよ。自分で傷つけるなんて。」

「…ごめんね。」

レナは自らの手首を握りしめて小さく息を漏らしつつ謝る。

それを見て私は黙って頭を撫でてあげた。

「詩音にはお仕置きしたから」

レナがビクッと身体を震わせて視線を落とし、口を僅かに動かして

「そのこと…なんだけど…」

と意味深に囁く。

「…何?」

なかなか続きを話し出そうとしないのでそのキッカケを与えるべく私はとりあえず聞き返してみた。




「レナは…魅ぃちゃんを諦めることにするね。」

「…どうして」

どうして。どうして?どうして!?

私はせっかく自分の気持ちと過ちに気付いたからこれからはレナを抱き締めて、癒やして、愛したいって思ってるのに…どうしてそんな事を…!?

「詩ぃちゃんがレナをこんなにしたのも元はといえばレナのせい。そういう意味では自業自得。」

「そんな…私が悪いの…だからレナは私を愛してていいんだよ…!」

レナは自分を責めないでいい!黙って私を愛しててりゃいいんだよ…!なのに…そんな…!

「ううん、レナが悪いの。ここまでやらなきゃ詩ぃちゃんは気が済まなかった。つまりそれくらい傷ついたってこと。レナが詩ぃちゃんを傷つけた。レナが詩ぃちゃんと魅ぃちゃんの邪魔をした。」

「違う…!違うんだよレナぁ…!」

レナは私の言葉に耳を貸さずそのまま続ける。

「魅ぃちゃんは詩ぃちゃんだけを愛してあげて。詩ぃちゃんは凄く苦しくて寂しいんだよ?だからずっと…詩ぃちゃんだけの側に居てあげて欲しいかな…。かな。」

レナ、あんたソレ…自分にも当てはまること…分かって言ってるんでしょ。

自分を傷つけた女の事をそんな風に思えるレナは本当に優しくて、愛しくて。

天秤にかけるワケでは無いが、それは詩音には無い優しさで、魅力。

だからこそこの子を愛した。だからこそこの子の事が欲しいと思った。

「そんなの…レナはどうなるのさ…!」


「だから、レナは魅ぃちゃんを諦める。もう愛さない。」
























嫌だ





















嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!















「嫌だよぉぉぉぉ…!」

愛してよレナぁ…!私はやっとレナに素直になれたんだよ…?素直に愛してるって言えたんだよぉ…?なのにレナはもう愛してくれないの…?

「魅ぃちゃん…分かって。レナだって…本当は魅ぃちゃんと恋してたいよ。だけどもう決めたの。レナは魅ぃちゃんを愛するのを止める。」


…私の気持ちはどうなるの?
私ももうレナを愛しちゃいけないワケ…!?
詩音も好き!レナも好きなの!
好きなんだよ…どうしようも無いんだよぉぉぉ…!









なんだ。

答えは既に知ってたんじゃないか。


「レナはさぁ。」

「えっ…うん…。」

「目の前にチョコレートがあったらどうする?」

「えー…食べると思うかな…かな…?」

レナはよく意味が分かってない様子で首を傾げつつ私の顔を覗きこむ。

「じゃあ、目の前に2つチョコレートがあったらどうする?」

「お腹が空いてたら…食べちゃうかも。」

「…私も。」

暫くの沈黙。レナは何を言ってるんだろうと頭の中にはてなを浮かべているのだろう。

「じゃあじゃあ、1つチョコレートを食べたらお腹いっぱいになるだろうからって理由でどっちかのチョコレートを捨てろって言われたら?」

レナはようやく私の言いたい事を理解したのか、辛そうな表情で低く呟く。

「捨てなきゃいけないのなら…仕方ないよ…」

そっか。でも私は…

「私はそれでも2つとも食べるね。」

そう。2つとも。

食べたいんだから仕方ない。

どうしてもどうしても

その両方のチョコレートが食べたい。

私だけの甘い甘い、チョコレート。

両方…私のものにしたい。


いや、するんだ。


だって私の背中はそう言ってくれた。

背中の鬼は私にそれが正しいと教えてくれたんだ。

私は今から鬼になる。

腹を空かせた鬼になって喰いたいものを全て喰らう。

無理矢理にでも。

「魅ぃちゃん…お願い…我が儘言わないで…」

「……………………」

私は暫く無言で考え事をして、何も言わずに立ち上がりそのままレナの部屋を出る。

「魅ぃちゃん…待って…」

「うるさい!」

私を引き止めるレナの手をぶんっと振り払って怒鳴る。

うん、問題ない。

「魅ぃ…ちゃんッ…」

少し心が痛むけれど甘い甘いチョコレートは目の前にあるんだから。

その代償がこの痛みならば大したことない。

何も告げずに階段を降り、レナの家を後にした。

「…簡単なことだったんだね。」

「…そうだよ。」

「私…もう…戻らないから」

「それでいいんだよ」

私の背中にぴったりとくっついてくる鬼と会話を交わしながら来た道を戻り始めた。

今夜は会合があるんだっけ。今夜くらいは私も行っておかないと婆っちゃに怒られるかな。

家には戻らずそのまま古手神社の方へ向かい、今夜は会合に出ておくことにした。

明日からは忙しくなるから面倒は片付けておいた方がいい。

婆っちゃには向こうに着いてから連絡しよう。




…そうしよう。

[*前へ][次へ#]

14/20ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!