[携帯モード] [URL送信]
狂気

レナは今日、学校には来なかった。

知恵先生の言い方からすると今日は学校を休む、という感じだった。

レナは中途半端とか…そういうものがあまり好きそうじゃない。

だから休むと決めたら休むと告げるんだろう。もし具合が良くなったら行ってみます…とかそういうのはきっと許せなかったんだろう。

圭ちゃん達は心配だとか見舞いに行こうだとか言ってるけれど、私はやはりそんな気にはなれない。

レナも昨日、私にあそこまで言われたのだから顔を合わせるのも苦しいだろう。

だから学校休んだわけだし。

「魅音は…お見舞い…行けるか?」

その聞き方から察すれば私は今元気の無さそうな様子をしているのだろうか。

「おっ…おじさんは…」

ちょっとだけ迷う。
ここで断れば仲間達に違和感や心配を与えてしまう。
だけどやっぱり私だってレナなんかの顔は暫く見たくない。

「魅ぃは具合が悪いのです。今日はとりあえず休ませてあげましょうなのですよ?にぱー☆」

一時迷っていると梨花ちゃんが気を使ってくれた。

「あぁー…ごめんね皆。具合悪い奴が具合悪い奴の見舞いに行っても気を使わせちゃうだけだし…」

「そうか…残念だな。魅音も早く元気にならないとな。今日は魅音の分までレナに元気をわけてくるから安心しろよ。」

梨花ちゃんのお陰で出来る限りの自然体で誘いを断れた。
この子も見かけによらずしっかりしているタイプで…というよりは時折全てを見抜いているかのような目をしたりするのでちょっと怖かったりもする。

今の助太刀も気を使ってやったのか、あるいはやはり全てを見抜いているのか…そんな思いをも産んでしまう不思議で鋭い巫女。

その梨花ちゃんの柔らかな微笑みに軽くありがとうと礼を言っては私は早々に家に帰ることにした。

私の不調とレナの欠席によって部活は当然中止。

途中までは圭ちゃん達と一緒に何となく話をしながらぼんやりと歩いて、分かれ道に着けば「レナに宜しく言っておいて」とだけ伝えて早めにさよならをした。








――――喧しいな。

ジリリリーン…ジリリリーン…

…電話か。婆っちゃは…今日は会合だったっけ。まだ帰ってないみたい。

いつの間にこんなところで寝てたんだろうか。ほんの少しだけしか寝てないように感じたけれど1時間近くは寝てたんだな。

なんて思いながらだるさを纏った体を起こす。

布団も敷かずに横になっていたもんだから背中や肘なんかが少し痛い。

僅かにふらつきながら小走りで廊下を進み、喧しさの元凶である電話機の前に立てばすぐに受話器を取る。

「もしもし、園崎です。」

「魅音か?いきなりの電話で…すまん。」

何の用事だろうか。レナの具合の報告だとかそういうものか…?

「圭ちゃん?うーん…問題無いよ。安眠してたのを起こされただけだから。」

「凄く皮肉っぽいぞソレ。…まぁ、少しは元気になったみたいだな。」

冗談を言えるくらいにはなったから…だろうか。正直、言おうと思えばいつだって言えるのだけど。

「お陰様でね。それより用事は何?何かあった?」

「あ…それなんだけど…レナは…そっちに居ないよな?」


…?

「…へ?それどうゆう…」

「それが…今朝レナが診療所に行ったきりまだ帰ってきてないんだって…」


…は?


「何言ってんのさ圭ちゃん…それ、本当…?」

「本当だって!レナの親父さんが診療所にも連絡したらしいんだけど…今日レナは一度も来てないって…」


…それは…もしや私のせいだったりする…よね…

思わずあそこまで言ったけれどよく考えればあんなにレナを追い詰める必要は無かったんじゃないか…?

しかしレナは嘘をついてまで私と詩音を離そうとしたんだ…容赦なんてできっこない。

じゃあ誰が悪い?






…レナだよ。


「どこに行ったかなんてのは検討つく?」

「ゴミ山や古手神社とかは俺達で一応見回ったけど…居なかった。」

一体どこに行ったんだろう。

流石に心配で不安を感じた。

でもどこか安心感にも似ていて…え?
安心感?

それは背中の鬼が導き出した感情だった。

そう。安心した。

レナという私と詩音を危機に晒しかねない脅威が姿を消したということに安心した。

待て。

姿を消した?

つまり誰にもその行動を見られていない…?


待て待て待て。


今が一番脅威になりかねないんじゃないか…!?

「詩音…!」

「ん?詩音…が?」

「あぁぁいやいやなんでもない!とりあえず思いあたるところに連絡してみるよ!それじゃあ後で!」

「お…おう…じゃあ俺はもう一度外を探してみ」

ガチャン


思わず出したその名前を無かったことにしてとりあえず早急に受話器を置いた。

詩音!詩音ッ!

急いでダイヤルを回すが焦り過ぎたのか一度ミスをした。

荒々しく受話器を置いて即行で受話器を再度持ち上げてはダイヤルを確実に回す。


…呼び出し音が長く感じられる。

五回程鳴ったところだろうか…

早く出て…声を聞かせて…詩音ッ…!

「もしもし、園崎です。」

「詩音!大丈夫!?」

「大丈夫ですけど…どうしちゃったんですか?会ってないと言ってもまだ二日目ですよ?」

「そうじゃなくて!レナに何かされてない!?」

「……………何なんですかお姉。」

…しまった。
あんなイジワルな冗談を言う時点で大丈夫なはずなのにわざわざレナの名前を出してしまった。

暫くは私と詩音の中でタブーにすべき固有名詞だったはずなのに…

こんなに簡単に漏らしてしまった。

ごめんね詩音…機嫌悪くさせちゃったね…私はただ…心配で心配で…

「あ…いや…ごめん…。ちょっと色々あって…」

詩音は暫く黙って聞いており私はその様子に少し怯えながら返事を待つ。

「…何があったんですか」

詩音は声を低くして静かに聞いてくる。

「レナが…行方不明らしくて。」

「本当ですか!?ちゃんと…探したんですか!?」

「うん…ゴミ山や古手神社を隅から隅まで探したらしい。…居なかったって。」

「そう…ですか…」

そしてお互い黙りこむ。

「詩音…」

私は…気になった。

「はい…?」

「レナは…私と詩音が付き合い始めたって…知ってた。」

「…ッ!!」

「それに…それを詩音から聞いたって」

「…そんなことある訳無いじゃないですか」


嫌に冷たい返事。そりゃあそうだよ。レナのあれは嘘、戯言。
それを聞いて詩音が機嫌をよくする訳がない。

…やっぱりこれ以上レナの話はしたくない。

「そっ…そうだね…ごめん…とにかく何かあったらすぐに電話して。私もそうするから。」

受話器越しの詩音の溜め息は疲れと呆れを感じさせる退廃的な印象のものだった。

「…わかりました、そうしますね。それじゃあ…おやすみなさい。」

「あ…うん…おやすみなさい」

ガチャン

ごめんね…詩音…

また詩音を傷つけちゃったかな…

でも良かった。詩音のところにもレナは来てなかった。

詩音に何かしてたら本当にレナなんか*シテシマウトコロダッタ。



まぁそんな事しなくても良かったから事態は良好。

「そうだよね?」

「全くだよ。」

「これからも宜しく頼むよー?」

「はいはい此方こそ。」

あははははは。

コイツと二人で少しの談笑をして、私は風呂に向かった。






「―――もしもし」

「魅音!他のところはどうだったんだ?」

「ダメだったよ。手がかり無し。」

「マジかよ…」

圭ちゃんは疲れた声で溜め息混じりに言葉を吐いた。

「詩音の所にも居ないし…富田くんや岡村くんも知らないってさ。」

「本当に…どこに行っちまったんだよレナ…」

圭ちゃんは一人言のように弱く呟いた。

「万が一…ってことも考えられるし…大石に連絡入れておいた方がいいかもしれないね」

「そんな…鬼隠しだっていうのかよ…」

「………わからない」

「綿流しの祭ってのはまだ先の話だろ…!?」

「そうだね…鬼隠しにしては早すぎる」

そう、早すぎる。
いくらなんでもズレがでることなんて今までは無かった。
これじゃあ祟りとして成立しないんだから鬼隠しとは無関係なはず。

「だよな!?じゃあレナは帰ってくるんだよな!」

「………わからない。」

帰って来なくてもいい。

「なんでだよ!お前、仮にも次期頭首だろ!?そういう情報は何も持ってないのかよ!」

「わからないって」

何を言ってんだい圭ちゃん。知ってたらすぐに行方不明のうちに…

「教えてくれよ!」

「わからない。知らない。何もわからない。」

「…魅音?」

「じゃあ圭ちゃん、もう暫くだけ捜索頑張ってね。私は大石に連絡取ってみる」

「おい…魅音…」

ガチャン

圭ちゃんのあぁいうところはあまり好きではない。
耳障りだった。

それからすぐ興宮警察署に連絡し大石に事態の詳細を話す。
大石はとりあえず深夜まで捜索してみると話した。

「電話ばっかりでちょっと疲れたねー。」
「全くだよ。」

「この前買ったアイスが残ってたはず。それ食べて歯磨きしてすぐに寝ようかなー。」

ほんのちょっとの御歓談を交わしてからその通りにアイスを味わい、歯磨きを済ませ、おやすみと一言だけかけてうつ伏せで就寝した。

[*前へ][次へ#]

10/20ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!