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チェリッシュ(リゾット+イルーゾォ、メローネ、ペッシ)
アマーロにとって、一番待ち遠しくて嬉しい知らせ。
それはリゾットが帰ってくる時。


「…明日の夕方には戻れそうだ」

そう受話器ごしに、アマーロの耳に染み渡るリゾットの声。

大好きな人のそれ。
例えても例え足りない。


ビター・チョコレートのほのかな甘さとヴェルヴェットの触り心地。

霧雨の降った後の、柔らかな緑の森の薫り。

何にあてはめても。好きなもの、素敵なもの、どんなものも。

アマーロはいつだって、彼の声を聞いただけで蕩ける程幸せになれた。

「嬉しいっ!
じゃあ、待ってる。リーダーさん、気を付けてね」

水蜜桃のように頬を染めて、そう返す。

『早く帰ってきて』
『早く顔が見たい』
『たくさんキスをして』

そんな想いもこめて。


「ああ。




…お前に早く会いたいな」

滅多に聞けない彼の自分への気持ちに、つい嬉しくなる。

だからアマーロは更に受話器に頬をつけて、自分なりにとびきりの気持ちを声にこめる。

「!
うん……うんっ、私も。

貴方に会いたい…っ。
会いたいよっ。



大好き…大好き、リーダーさん」
彼の照れくさそうに笑う声が聞こえて、ついアマーロも笑う。

受話器を置いて、ウフフと笑うアマーロの頭を、たまたま帰ってきたホルマジオはポンポンと撫でて通りすぎた。









「じゃあリーダーは明日の夕方に帰るのか?」

アジトに来たイルーゾォは、仮眠部屋のシーツを取り込むアマーロを手伝いながらそう言う。

アマーロは何故か一緒に干されてたメローネのどこを隠してるか謎のパンツを見て、ウワッという顔をしながらも、すぐ笑顔にイルーゾォに顔を向けた。

「うん、そうなの!さあ頑張るぞ!
忙しいなぁ〜!
リーダーさん、帰る前に掃除しなきゃ!いっぱい美味しいもの作らなきゃ!
あああ、どうしよう。
何を作ればいいかなぁ…ッ」

「アマーロはホントリーダーの事になると頭いっぱいだよな。

じゃ、オレも手伝う。さっき報告書書き終わった所なんだ」

「!
いいの?疲れてるのに、ありがとうっ。」

「いいんだよ。何たって、こんな可愛い妹みたいなアマーロの為なら、オレは何でもするよ」

ワシワシ頭を撫でるイルーゾォの手。
綺麗な指。
大好きな鏡や、綺麗な絵やキラキラした硝子を手入れするのが似合う指。
いつだって彼は、リゾットへの恋の相談に親身に乗ってくれて、アマーロにとってプロシュートに次いで、お兄さんのように彼になついていた。

「あ、あのね、イルーゾォ君」

「ん?
何か他に買う物があったのか?」

買い出しに出ようとしたイルーゾォの背に、アマーロが声をかける。
それにどうしたんだと振り返る。



「いつもありがとう!

…あのね、私イルーゾォ君も、…大好き!すっごく大好きだからね!」

見れば顔を真っ赤にして笑う彼女。


「アマーロ。





…うん、オレも大好きだぜお前のことを、さ」

今更ながら、この真っ直ぐな少女の言葉に目を少し見開く。

そしてイルーゾォはやわらかく笑った。

彼も、彼女がいる事で、どれだけ以前より笑うようになったんだろう。






その後、アマーロは、大好きなリゾットの為に一日中家の掃除をして忙しく働き回った。



だらしなく落ちたペッシのパンツをせわしなく拾い、ギアッチョの壊したものを一生懸命ゴミ袋につめて、ホルマジオの猫の食べ残しの散らばったドライフードを掃除機で吸い取って。

『素敵なお嫁さんは、家事がバッチリ出来なくちゃ』
いつも、そう頑張って、リゾットの事を時々思い出して、ほんの少しポーッとしながら。

なんて楽しい時間なのだろう。
もうすぐ会えると分かっただけで。
まるでピクニックの前日に、リュックにどんなお弁当を持つか、どのお菓子を詰めようかワクワクする子供みたいに。


また無事に帰ってきてくれる、自分のもとに。
さっきの声を聞いて、元気だと分かって、嬉しかった。


(きっとクタクタに疲れてるわ。

だから、とびきりの笑顔で迎えなきゃ)

そう想って。







「はーん、そっかァ。

リーダー帰ってくるんだね」

その少し悪戯っぽく笑う声に、木製のテーブルを磨いた手を止めて顔を挙げる。
(力一杯やってたので、その表面にきれいに彼女の顔が映るまでになっていた)


「や!アマーロ。
今日も美人さんだな。

じゃあ、ついでにこのハンサムなオレの事も歓迎してくれよ」

蜂蜜ブロンドにエメラルドグリーンの眼をキラキラさせて笑う、顔だけはとびっきり素敵な青年。

ベイビィフェイスの子供を足元にくっつかせて、任務から帰ったばかりのメローネが入口に寄りかかって、そうニッコリ笑った。


「もちろん!
おかえりーっ、メローネッ」

それにイタリア人の挨拶、ハグして頬をキスする。
それを意外にもメローネにもする。




「…隙あり!!

メロンのメロンチェッーーーーーーク!!

さあ今日の君はどれだけ大きくなっ






「そうはさせない!」




グハッ!!」


指をワシワシ動かしながら、某風のフンドシ魔人より素早くアマーロの胸に伸びる両腕。

その瞬間に、兄より三日三晩かけて叩き込まれたカウンターパンチが炸裂し、吹っ飛ぶメロン。


…まぁ、週に一回はこの流れが起きるが。


「ぐ…っ、ベネ、めっちゃ…いい………………。

また拳の威力……………上がったね…………(バタリ)」

メローネが来て以来、アマーロは兄貴の強制レッスン・体術編を特に熱心に受けている。

おかげで彼女は並大抵のメローネのセクハラにも耐えられる強いハートを持つようになっていた。

(兄貴は完璧な死体の始末の仕方も教えてやると最近言うようになったので、それも受けようか考え中である)




「ああッ!!?すごい鼻血!
床が汚れちゃった!!」

仕事が増えちゃったと慌てて床をふき、一応かわいそうだからとメローネの鼻にティッシュをつめて、ソファに寝かせてやる。







「………アマーロ」

「えっと、…なに?」



「オレの部屋に通販で頼んだ勝負ランジェリーがあるZE☆
お前のヤツ、他のは捨てたから!使いたまえ!使ったらかわいそうな私(わたくし)に是非寄付を!」

「バカーーーーーーッ!!」

再び飛ぶ拳。
メローネは今度こそ気絶する事になった。







…ザクザクザクザク。
たんたんたん。



「ホント、アマーロはリーダーが好きだよなぁ〜」

その翌日。
アマーロは台所でペッシを捕まえて、晩御飯の準備をしながら二人で話をしていた。

「だって、リーダーさん……優しいし、とってもカッコいいじゃないッ。
私、見つめられるだけで、お腹いっぱいになりそうになるもん」

恋する瞳。
ペッシが野菜を切りながらちらりと横を見れば、その色は虹色のキラキラと星でいっぱいだった。

おそらく、多分また彼女の脳内妄想劇場が始まってるのだ。



こんな感じに。



(リゾット………ッ!)

(……アマーロッ!!会いたかった!
アマーロッ、俺の愛!!)

どこだか知らないが、何か海的な場所で再会する二人。

なんでだか知らないが、タキシードを着てバラの花を持つリゾット。

アマーロはなんてロマンチックなの!と感激して泣きじゃくる。
そんな彼女はピンクのフワフワしたドレスに、どう見ても海には不向きな白いピンヒールをはく。

互いの名を呼びながら走りあって強く抱き合う瞬間に、バッシャーンと立つ海のしぶき。
チームの皆は、
『よかったなぁ………また会えて……グスッ』
とハンカチに目をあてたり、パチパチ祝福したり。
その背後に花火が打ち上がって、流れ星までバンバン流れるやら。



…こんな妄想が、本気でアマーロの脳内では流れる!

口に出すと、ロマンチストで乙男(オトメン)なイルーゾォ以外はドン引きするので、あまりしないが、以前ペッシは一度その妄想劇場を聞いて、腹筋が爆発しそうになった。
(偶然居合わせた兄貴が凄まじい顔で睨み付けてきたので、相当苦しみながら我慢した。
が、兄貴は
『しゃらくせえッッ!!』
と結局その日、ペッシの釣竿十本をまとめて叩き折り、壁に穴を開け、リゾットの腹に出会い頭に拳をぶちこんでいた)

ペッシはそれに少しあきれながらも、そこまで好かれてるリゾットを羨ましく思った。

「いいよなー、オレもアマーロみたいに一生懸命待ってくれる彼女がいたらよー。

ハァ…オレ、ブサイクだからなァ。ちっともナンパが上手くいかねぇんだ」

凹むパイナップル。
自慢のパイナップルヘアー、兄貴いわく『クソだせぇ髪型』は心なしかヘニョンとなっていた。


「ペッシ君、君はハートで勝負だって!

それにペッシ君は、変にカッコつけようとするから、ボロが出るってお兄ちゃんが言ってたよ」

そのパイナップル頭に慌ててフォローするも、
「なんなら、私が一緒に
『ペッシ君はすごく優しいんです。
お友達になってください』
って言うよ!」
とあまりフォローになってないような事を言う。

それにペッシはヘへッと、
「女の子に手伝ってもらっちゃ、情けねーよ。
でも、ありがとな」
と言って、サラダボウルに切ったオレンジと玉ねぎを丁寧に並べる。

あとは塩をザクザクかけて、それで終わり。
甘さとしょっぱさが妙にクセになるシチリアのオレンジのサラダは、それで完成。

「じゃあ、時間的にそろそろだから、並べるね!
ペッシ君は部屋のみんな呼んできて」

「おーう!
あ、オレの釣った魚は一番真ん中に置いてくれよな!」

「分かってるッ、ペッシ君のお手柄だもんねッ」

そうして、食卓の上はアマーロが腕によりをかけたご馳走が並ぶ。


白と赤がまぶしいカプレーゼ。

えびのレモンマリネ。

ペッシの釣った魚の香草パン粉オーブン焼き。

子牛肉に生ハムを巻いてソテーした、肉汁たっぷりのサルティン・ボッカ・アッラ・ロマーナ。

こんがり焼いたムール貝。

サクサクの牛肉のカツレツ。

えびとアーモンドペーストのパスタ。

マグロのカラスミパスタ。

つぶしたトマトと溶き卵が絡まったソースを、バケットですくって食べるシチリアの晩御飯の定番クックルクー。
(意味は『コケコッコー』らしい)

たっぷりのリコッタクリームの詰まったカンノーロ。

よく冷やしたズコット。

鉢いっぱいのティラミス。
『私をひきあげて』を意味するそれ。
アマーロが特に得意なそのデザートは、落ち込んでても、一口食べればほっぺが落ちる程おいしくて、たちまち元気になる。

それに沢山冷蔵庫で冷やしたお酒も、数を数え直して。
メンバーそれぞれのお気に入りのグラスを出して、並べて。










「…旨そうな匂いがするな」

「おかえり!うん、がんばったよ!」

プロシュートが帰ってきたのを迎えて、互いにハグをする。
兄はニコニコするアマーロに片目を細めニッと笑うと、アマーロへのバーチチョコと花を渡し、リゾットの好きな酒を渡した。



「あれ?お兄ちゃん、お出かけ?」

いつもならリビングでメンバーの挨拶をしに入るのに、今日の彼は自分とアマーロの部屋に入って、サッパリしたスーツに着替えると再び外へ出ようとした。

「ああ、連絡しなくて悪かった。
…まぁヤボ用だ。
オレの分はギアッチョの野郎にでもやっとけ。リゾットの後に帰るんだろ?
どうせアイツの事だ、またろくに食ってねーからな。

ペッシにはやるなよ」

「うん、ペッシ君、最近お腹ポテポテになったもんね。
いってらっしゃい」

片手をあげて出かけるプロシュート。

すれ違い様に、ふわりと漂う香水。

少しクセのある花の薫り。
確か花の名前は……サクラ。

(そっか、デートなんだね)

それにアマーロはちょっと嬉しくなって、早く紹介して欲しいなと思いながら手をふって見送る。
自然と頬が緩んでいた。


リビングでもワイワイがやがや声が聞こえてくる。
イルーゾォに頼んだから、リゾットが帰るまでは料理は無事に守られるだろう。


扉の側のアンティークのお気に入りの椅子に座り、膝に量肘をつき、目の前の掛け時計をにらめっこして待つ。






(リーダーさん…、リーダーさん)

こんなにも時計の針が進むのにもどかしい気持ちになった事はない、リゾットを待つ時以上に。

会えない時に、思い出す彼はいつだってアマーロの中で大切な記憶に輝いている。



一目で好きになった、あの時の綺麗な涙と優しい笑み。

傷付いた彼を追いかけた時、振り返った彼の泣きそうになった顔。

寂しくなって会いに行けば嫌な顔をせずに迎えて、長い時間じっくり話を聞いて、アドバイスをしてくれた事。

想いが通じあった時、
「…もう何も言うな」
と言われ、きつく抱き締められて口付けられた夜の事。

情熱的な瞳に見つめられて、胸が焦がれる程痛かった。
痛くて、それでも甘い痛みだった。

アマーロが勇気を出して手を出した時に、握り返して、頬にキスをしてくれた時。

休日にバイクに乗せてもらって、後ろからリゾットを抱き締めた時のガッシリした身体にドキドキする事も。

リゾットの綺麗な顔。どことなく厳しく物憂げな顔をしながらも、時に見せてくれる表情。

日に透ける淡い色の髪も、

気分によってフローライトにも、ペリドットにも、天青石にも、時には銀色に変わる瞳。

アマーロの脳裏のリゾットの姿は、キラキラとしていて。

でも、実際会ったら実物は、もっと彼女にはキラキラして見えていて。


会えない時間は長くて、もどかしい気持ちになる。

一緒にじっくりいられる時間もなかなかない。




それでも、アマーロはロミオとジュリエットみたいに、彼女の初めての、最後の恋も愛も、悲劇的に終わらす気はなかった。

『生きてる間は楽しく過ごそう』
それが彼女のモットーなのだから。

リゾットの側にいる限り、彼にもそう思ってもらえるよう頑張る。

それも彼女の願いのひとつ。

















…ガチャ。



「ただいま」


扉が開く。
黒いコートをまとい、ゆっくりと開いて姿を現す彼。

少し目をショボショボしながらも、アマーロを目にして、すぐに目付きが暖かくなったのに気付く。



「…リーダーさん!!


リゾット!

私の愛しい人!!」




愛しさのあまり、つい勢いよく抱き着く。

それに少しふらつきながら、リゾットはアマーロを抱き返す。


「リーダーさん………ッ、会いたかった」


腕の中に、涙ぐんでギュッと再び自分の胸に顔を埋める彼女。


「…アマーロ」




ああ、また帰ってこれた。


そう思えば、彼女の名を呼んでいた。

いつものように大げさにも見えるが、本気で嬉し泣きする彼女はなかなか顔を上げようとしない。

可愛らしいが、困ったヤツだ。


そう苦笑すると、リゾットは顔を上げさせて彼女に口付ける。

一瞬おどろいても、何回もキスをするうちに、首に腕を回して抱き着くアマーロ。







そして、いい加減腹が減ったとイルーゾォが顔を真っ赤にしながら呼びに来るまで、二人はしばらくそうして抱き合って、チョコレートやココアに生クリームを混ぜたよりも甘い甘い時間を過ごしていた。






















































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【ミニあとがき】

麺がのびる!?と今更気づいたり。

ヒロインが作った食べ物はシチリア料理本と、古本屋で買った100円の旅行エッセイを参考にさせていただきました。




2013.11.28.


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あきゅろす。
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