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プリンセス・オブ・フォーリン 1
「日本の女はヤマトナデシコなんだッ!

つまり大人しくて男にひたすら尽くすんだッ。強引に迫れば絶対断らないらしいッ!!」

かつてそう拳を握って熱く語ったのは、あの胸くそ悪い蜂蜜ブロンドの変態男だったか。


また彼は
「日本の女ってよ、外人ときたら、すぐヤラせてくれるんだぜ!」
と彼らしいゲス発言をしていた記憶もある。

そのヘドが出そうな理由で、一時期、
『相手を理解する事が恋に落ちる事じゃあないか!』
と変態という名のメローネが、アジトで色々と日本についての講釈うんぬんをたれてた時期のこと。


リゾットは『シュリケン』と『マキビシ』は便利そうだ、是非任務に使ってみたいものだと興味を持っていた。

ペッシは、魚を生で食べる、特にオスシを食べてみたいと言っていた。

ギアッチョは、『ネホリハホリ』という日本の言い回しが、彼の大嫌いな言葉の一つ
『藁の中の針を探すようなもの』
を思い出し、怒り狂いテレビをブッ壊した。

ホルマジオは日本の女は大人しいという話に、
「イタリアの女っつーのは気が強ぇもんな。オレもつい昨日に平手打ちを食らったばかりだぜェ」
とカラカラ笑っていた。

イルーゾォは、
「フジサンとモミジを生で見てえな…綺麗だろうなァ」
と言っていた。
また彼は好きな画家クリムトの黄金に輝く絵は、日本画から影響を受けたんだと熱弁しだした。
(イルーゾォは美術の話になるとつい熱くなるのだ)

ソルベとジェラートは、メローネが一番熱弁してた『シジュウハッテ』の話をメンバーの中でひどく熱心に、セイザをして聞いていた。
「ねえ……ソルベ」
「何だ…ジェラート」
「僕、マツバクズシが………気になるなァ」
と互いの膝をさらりと触り、ぞっとする言葉を囁きながら。
(その光景を他メンバーは努めて見ないフリをしたもんだ)


プロシュートにとって印象に残っていたものは着物だった。

彼は身嗜みを誰よりも気遣い、潜入任務時等で変装もする機会も多く、場に沿った服装に人一倍意識が強かったのもあったからだ。

そんなある日自分の女に着せるんだと、メローネがアジトに着物を持ってきた事があった、その時の様子をよく覚えている。

『オダイカンサマごっこ』をしてみたいと、メローネはイラッとくる笑顔でそれらを見せてきたのだ。

やり方は女に着物を着せて、男はその帯を思いきり
『ヨイデハナイカー』と言ってグルグル回してて剥いていき、その時裸になる女は『あ〜れ〜〜!』
と叫ぶのがルールだと、そうドヤ顔で語りながら、色とりどりの着物を広げていたのだ。

サーモンピンクにオレンジ。
シルバーとビビッドイエロー。
エメラルドグリーンとウルトラバイオレット。
ブラック・アンド・ゴールド。
その目にも痛くなる極彩色。

その中を泳ぐ、巨大なハイビスカス、毒々しい蝶、『フジサン』『ゲイシャ』『ナス』その他諸々。それらの色々強烈な模様が踊り狂う、布の洪水。


妹は面白いね綺麗だねとニコニコしていた。

それに気をよくしたメローネは、
『はい、あげる♪』
と真っ赤な飴玉そっくりの硝子のぶら下がったカンザシという髪飾りを彼女にあげていた。
そのカンザシは妹が今でも大切にジュエルボックスにしまって、時々髪に挿してたりする。

(とはいえ、この時、妹はメローネに『オダイカンサマごっこ』やろうぜと言われたので、当然妹と共にダブルアッパーをお見舞いしてやった)

それに反してプロシュートは、足元がつかないくらい並べられた着物を見て、こんな趣味の悪い民族衣装を日本人は着るのかと顔をしかめていたのだ。







…だが、ある瞬間から、具体的にはたった今現在からプロシュートは己のその考えを改めた。



日本の着物は、この上なく美しく繊細な衣装、だと。












事の始まりは、リゾットから言い渡された珍しい任務だった。



『…裏切り者の標的が日本まで逃亡した。

奴と、奴への逃亡に手を貸した関係者…奴の貿易会社の構成員等と、以前より親交のあった日本のマフィア『暴力団』のある一組織を、一斉に始末するようにとだ。

この来年の初めに、奴等は東京近郊で大掛かりなパーティーを開く。

その場に集まる者は、全て我が組織の敵だと見なし、その数百人を、その会場で一気に、かつ苦しませながら皆殺しにしろと上の意向だ。


『暴力団』が関わってる事と、会場の位置や日時の情報は確かな筋から来てるが、その前に念の為、現地でお前が洗いざらい関係者を調査し直してから挑んで欲しい。
任務に漏れがあっては、また何癖をつけられるからな。

…出来るな?お前になら』


『…誰に向かって言ってやがるんだ…?
オレがお前の期待に背いた事があったかよ?ねえよな。

お望み通り、全員朽ち果てさせてやるよ』

『…だよな。ああ、任せた…。それと、日本へは三週間程前に向かってくれないか?』

『あ?三週間?
一週間ありゃ余裕で調べ出せるが、長すぎねえか?
まだ始末する奴がいるのかよ』

『いいや、違う。
これは俺の個人的な考えからだ。

お前にこの任務を任せたのは、長期休暇を取って欲しいのもあるんだ。
まだ今年は取ってないだろ?

情報収集だけじゃ味気ないしな。

たまには遠く離れた地で、ペッシ達の教育も俺のサポートも何も考えずにゆっくり休んでくれ。

滞在時の旅費は俺が出す。
お前にはいつも感謝している…、俺なりの礼だ』








『お兄ちゃん!任せて!あたし、リーダーさんと皆のご飯頑張って作るから!』

『兄貴ィィィ!オレ、兄貴がいなくてもがんばるから!心配しないでくれよな!ちゃんと脱いだパンツは片付けるから!』

『クッソー、羨ましい!オレが行きたいよ!仕方ないから、可愛い子がいたら連絡先を聞いておいてくれ!お前なら余裕だろ!!?
おしとやかでエロい子!勿論胸はでっけーのだぜ!』

『まぁ、ゆっくり羽を伸ばしてこいや。
土産はあっちの強い酒頼んだぜェ!』

『ジジイ!オレはペッシとメローネの野郎よりいい食い物買ってこいよ!』

『頼む。プロシュート。カノウ派の展覧会があっちのウエノって所でやってる筈なんだ。
目録と複製画買ってきてくれ!金はちゃんと出すから』

「「………パタパタ(←プロシュートに向かって、彼らなりに見送って手を振るソルジェラ)」」

メンバー各々からそんな事を言われ、イタリアを後にする。









(ったく…!野郎共!勝手に土産リスト作りやがって!!
どれだけ大荷物になると思ってやがるんだ!クソ!!


それにしても…日本か。
もっとメローネやイルーゾォ辺りの行きたがってる奴等に行かせりゃいいのによ。

オレは別に日本には大して興味ねえが………。

いや、大方予想は出来てる。
日本人はバカに真面目で、争いを嫌うらしいからな。

何かにつけてブチ切れたオレが殴りかかってトラブルを起こさないようにとか…、まぁそんな所だろう。

あの野郎…ッ、人を何だと思ってやがる)

飛行機の中で、瞳を閉じてそう考えていたプロシュートは、こめかみを指でトントン叩き、怒りを紛らわせていた。

そして、リゾットの目論見はあながち間違ってなかったりする。







そうした経緯で日本へやって来たのだが、先ほどの着物への考えを改めたのも、そうした事から繋がっている。

到着してから、すぐ彼はその足を、標的の滞在先へ向けた。
標的の現在の様子を把握する為に。

その場所は帝国ホテル、日本でも最上級のもてなしの精神で外国人にも絶賛される場所。


そこに何の偶然か、標的の部屋の位置、脱出経路、護衛の数を確認し、ホテルを出ようとしたその時。

エレベーターから下りて、外へ出ようとしたプロシュートの目に入ったのは、正面入口に止まったタクシー一台。

その扉が開き、薄紫の訪問着を着た50代の女性と、彼女の後ろから現れた紅い着物の若い女性。

タクシーの運転手に深々礼をすると、二人は入口に並んだボーイ達に挨拶され、しずしずと歩く。


(…………ッ!?)

初老の女性がロビーに向かい、若い女性がエレベーター近くの椅子に座ろうと歩いてきて、だんだん顔がはっきり見えた事で、プロシュートはあることに気づき、目を見開いた。





紅い着物の若い女性が、

あの日本人の…桃子と名乗った彼女だった事に。


そして俯きがちだった桃子もようやくプロシュートに気づき、彼女も彼と同じように驚きの表情を隠せなかった。







「あ、貴方は……!!?」



口を両手で押さえて絶句する彼女。
自分を知っているという驚きの表情に、あの夢はただの夢でなかったと思い知る。





「……お前ッ」


足早に彼女の前に立ち、見下ろし、自分から目を反らす彼女を見つめる。






(あの時はよくも逃げやがったな)

(もう一回あの剣技を見せろ)

(教えろ、サムライはいるのか)


そう色々言いたい事があったのに、プロシュートはそれを言葉に出来ずに、彼女を見つめていた。





…釘付けになっていたのだ。
桃子の着物姿に。




紅色の地に、色鮮やかな鴛鴦(おしどり)の夫婦が泳ぎ、降り注ぐ牡丹雪の振袖。
翡翠色の帯。
白菊の帯留めと銀色の繊細な結び紐。

あの黒く艶やかな髪は、真珠の髪飾りと鼈甲の櫛によって丁寧に結い上げられ、うなじは白く清らかに赤の着物に映える。


夢で逢った時より、念入りな化粧で彩られた顔。
雪を思わせる白い肌も、恥ずかしげに伏せられた黒曜石の瞳も、珊瑚のやわらかな光沢の唇も、この前とは別人のようで。

いや、見た目だけでない。

なにか彼女には清楚ながら光り輝く何かがあって…………。





彼女の姿を見て一目で。














(………美しいな)






彼は言葉を失って、見惚れてしまった。











気付けば、無意識に桃子の手を取ると、彼女を連れてズカズカと外へ向かって歩き出していた。




「『…来いっ』」

「…えっ?え!?
何語?」

「……チッ。
(そうか、あの時と違って夢じゃねえからな。イタリア語が分かる訳ねえよな)


『…Come on!Follow Me!
(いいから、ついて来い)』」

「(あっ…、英語)、あ、あのッ、引っ張らないで!



プ……Please!

…Please,Slowly!

『…ゆっくり!

ゆっくり歩いて!お願い!着物は動きにくいんです。今の私はそんなに早く歩けません!』」

彼が話した英国式の美しい発音の英語に気づき、桃子も何とか英語で言葉を返す。
なぜ話せるかと言われれば、桃子のバイト先の神社は外国人にも人気のある場所が関係する。
桃子は訪れた彼等に近辺の観光スポットの案内をしたり、神社の由来を説明できるようにと、日常的に英語で彼等と会話をしていたのである。



「『すまねえな、気付かなかった』」


その言葉と共に、ガッチリと腰と膝裏をホールドされ、突如上がる視界。
目の前にはあの美麗な彼の顔。


「って………キャッ!!?
な…!え………!!?
ちょっと!ちょっとやめてください!」
すぐ何が起きたかに理解する。

桃子は、一見すると王子様のような外国人から(ただし中身はヤクザ)、生まれて初めてのお姫様抱っこをされていた。

再びあの時と同じパニックになり、バシバシ肩を叩いて下ろして欲しいと訴える。


なのに彼は、まるっきり無視をし
「『…あまり騒ぐと、その口塞ぐぜ』」
と妙に腰に響く声で言って、あの時と同じくらい顔を近づけきたのだ。
あと数センチでキスの届く位置まで。


「(ひ…人さらい!
ハレンチ!!犯罪者!!離しやがれってぇんだ!バカーーーーーー!!なにこの人!最低!!)」
そう心で騒ぎながら、少し動いただけで唇が触れあってしまいそうなので、桃子は何も言えず、睨み付けるだけしか出来なかった。

その慌てる桃子に、プロシュートはおかしくてククッと意地悪く笑った。





「(三週間、いい退屈しのぎが出来たな)」
そう思いながら。

そう桃子が知ったら、全力で逃げ出しそうな事を考えながら。

こんな風に理由もなく女を自分の側に置くなんて、普段の彼ならあり得ない事を自身でも気付かずに。



「ちょっと!貴方!!そこの人!!その子をどこに連れてく気なんですか!!
警察を呼びます……



…………よ?」

「………」

そう言って桃子を追おうとしたあの叔母は、振り返ったプロシュートの姿を見て一気に固まる。

「な…!………あら……………まぁ……………」
顔を真っ赤にしてプロシュートをガン見する叔母に桃子はガクッと頭を下げる。


更にプロシュートが
「『すみません、彼女をお借りします』」
と低く甘い声から紡ぐ英語と、桃子を指差し外を指し示す仕草と、猫かぶりの爽やかな笑顔に、
「う………素敵な方…………ッ」
と、頼みの綱であった叔母はヘナヘナと腰を抜かして、その場に座り込んでしまったのだ。

もっと信じられない事に、彼が未だ抱き上げられたままでいる桃子をやわらかい目付きで見つめると、
「『会いたかった、愛しい人』」
と言って、彼女の頬にキスを落としたのだ。
ご丁寧にもリップ音を響かせて。

勿論、悪意がこもっている。



「な…………な……………ななななななっ!!?
(キスッ!!?
ほっぺにチューー!!?)」
それに頭が真っ白になり、死にそうな気分になる桃子。

気絶をしそうな程の羞恥心に襲われたが、かろうじて助けを求めようと
「お…叔母さん!助けてーー」
必死に訴えた。

だが、無駄だった。

夢見る瞳で叔母は言うのだ。

「…桃子ちゃん。
何だ…、そんな素敵な恋人がいるなら言ってくれればよかったじゃない。
叔母さん反対しないのに………。

彼と貴方なら、きっと、すごくすごく可愛い子供が出来るわよ」
と。


そして、この外国人が着物姿の女性を抱き上げながら、誘拐する光景はある意味非常に凄まじかった。

だが、プロシュートのあまりのキラキラぶりと、お姫様抱っこから歩く姿のあまりに絵になる自然さに、その場の誰もが映画のようだと固まり、動けやしなかったのだ。

よって誰も桃子を助ける者は現れなかった。












「何勘違いしてるんですかーー!!



あーーー、私まだ頬肉のシチュー食べてないのにーー!!」




「(腹減ったな。
何を食いにいくか…)」







そして、その場には、桃子の切実な叫びが空しく響くだけだった。

こうして、桃子とプロシュートは現実で再び出逢ったのだった。


…まさか、暇つぶしと好奇心で連れ出した桃子を、近い未来に彼がどうしようもなく惚れてしまうなんて、この時はプロシュート自身も全く想像出来なかった。






























→To Be Continued?


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カオス!!
ツッコミ所満載。

当初はお見合いシーン書こうと思ったんですが、兄貴をすぐヒロインに会わせたかったので、やっぱりやめました。

という訳で『バイオレットヒル』は、傍若無人なうちの兄貴が、任務まで暇なので日本人ヒロインと一緒に過ごす話。

で、多分これから兄貴とヒロインは築地へGoだったり、そうじゃなかったり。

兄貴は銀座や六本木も似合うけど、浅草や品川の立呑屋で飲んべえと飲んだくれてる方が好きそうなイメージ。

兄貴は最初ヒロインを見た時から、無意識に気に入ってたんですが、これからどんどん彼女を好きに……なるのか?
出来ればそうする予定。

あとヒロインは化粧すると美人になりますが、普段はあっさり顔。
これも一応理由があって、人間って自分の顔と真逆の顔を好きになりやすいって話を聞いた事があるからです。
兄貴はバリバリきらきら顔ですから。


あと章タイトルを微妙に付け足してみました。
美しき生命って所からアレなんですが、コールドプレイが何となくこの二人のイメージなんです。
『プリンセス・オブ・チャイナ』(←チャイナだけど)と『バイオレット・ヒル』辺りの曲。

あとはミューズの『マ/ッド/ネス(狂/おしい/愛)』も



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