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レイニング・ブラッド『流血にまみれて』※グロ注意
『リゾットさん!

貴方が…大好き!大好きなのっ』



どうしてアマーロが、自分を好いてくれたのか分からなかった。



『ねぇリゾットさん。これから、お散歩しようっ。
あのね、すぐ近くに美味しいジェラート屋さんがあるの。
冷たいアイスにチョコレートシロップがかかって、チョコが冷えて固まったヤツ。
イチゴ味もピスタチオ味も美味しいの!
寒い時に食べるのもイキなんだよ!
あ、お兄ちゃんに内緒にしてね。
いつもあたしが食べ過ぎて子豚になるぞって言うんだもん。
けど、貴方にもあそこのジェラート食べてほしいの!
リゾットさん甘いもの好きだよね。
見ててわかるよ!
だから絶対保証する!笑っちゃうくらい美味しいんだからっ』

どうして自分に笑いかけてくれるのか、分からなかった。



『リゾットさーん!これ読んでえ!』

『…俺に?』

『うん、リゾットさんに読んでほしいの』

『?分かった。
そこに座ってろ。




『…誰が風を見たでしょう

僕もあなたも見やしない

けれど木の葉をふるわせて
風は通り抜けていく

誰が風を見たでしょう

あなたも僕も見やしない

けれど樹立が頭をさげて

風は通りすぎていく』

…これで、いいか?』

『…はうっ、ステキ…!リゾットさん、すごくいいっ。

貴方って夜闇の涼しい風みたいに綺麗な声してるんだもん。
だから読んで欲しかったの!ありがとうっ』

眼には見えない風が木の葉に揺れて、そこにある事を知るように。

彼女の笑顔を向けられる度に、見えない感情をそこに知る。


『ねぇ、シチリアの話を聞かせて?
あたしね、いつか行ってみたいなぁ。

貴方があたしの眼に似てるって言ってた、シチリアの夕焼けが見たいの』

その感情を抱いてはならない。
頼むから、好きだと言わないで欲しい。

『さみしくない……。
…あったかい……ッ、あたし、さみしくない………ありがと……』


嬉しいと思ってしまう。
それだけはならないのに。

それでも…、恐れながらも、心の底では望んでしまう。

再び負った傷口を抉る時が来てしまえば、その近い時に、痛みがかつてより一層酷くなるのを知りながらも。



『あたし今起きて、リゾットさんがいてくれたのがね……………、

すごく嬉しかったの…。
起きて、一番初めに貴方が見れたのが………嬉しかった』


それはリゾット自身もそうだった。
悪夢に自身を傷付け暗い部屋で目覚めた、ほんの前の日々が、嘘のように。

同じ感情を、目覚めて彼女を眼にした時に、抱いてしまったように。


…あんなにも幸福を感じた事がなかった。

眼には見えない感情が、さざ波となり、心を溶かし、こんなにも強く歓喜に揺さぶられるなんて、知らなかった。


『行かないでね…』


…いけない。
そう思ってはならない。

自分が幸せだと思うなんて。





『嫌だ!絶対嫌だ!

さっき言ったよね!!?側にいてくれるって!
行かないで!!』


泣きじゃくって離れまいとした、アマーロを思い出し、鈍く広がる痛み。

それはリゾット自身が、これから先の…自身の未来を思った事で。

これから起こす自身の行いに、彼女は怯えて…、思い知ると、理解していたからだ。


(…アマーロ。

俺は、お前に好かれる人間じゃない…………

これから、すぐ分かる…)


赤黒く濡れた腕。
下ろしたナイフの先をぽとりぽとりと血液が滴り落ちていく。

足元に散らばる、大勢の人間。
何故自分は今死ななければならないんだと、歪む男の顔。
泣いて苦しんだ子供の顔。
信じられないという女の絶望の顔。
それが幾つも自分に向けて恨みがましく見ている気がした。


(俺は、お前が思うような人間じゃない…。

優しいんじゃない。エゴなんだ)


自分は『人殺し』なのだ。

人を殺さねばならない。生きる為ならば。他人を踏みにじってでも。

自身を割り切れず、それでも苦しみ、これまでを憎み、これからも憎み続け、そして殺し続ける、そんな己を永久に許さない。
生きていく限り。
死んだ先でも。

(お前のスタンドが言っていたように…、



俺は『許されざる者』だ…、たとえ地獄へ落ちても)


血のついたナイフを分解して新しい物を構築し、その刃に力を込めて親指を押し当てる。

鉄の臭いが鼻につく。
赤黒い血から覗く銀の刃に反射して己の眼が映される。


(俺は、



生きていてはいけないんだ。
今、分かった…)



獣の眼。
狂気を焦がれる、その眼。

悲しみで刹那曇る視線。
それが目線を正面へ戻して、敵を見据えると、闇を象る瞳と変化した。







(…やらねばならない。



それからだ)

かたく、決意して。




赤黒い染みでまだらになった元の白い廊下に蠢く、生きていた者達。
彼等は声無き声を出して、苦痛と悲痛の表情で何もない空中を見る。

リゾットは自分がいる事を知らせ、彼等にわざと靴音を響かせる。


「…さあ来い」

暗い廊下の奥から、黒いコートを揺らしリゾットは静かに彼等に姿を見せた。



「お前達の探した男は此処にいる」



言葉の終わらないうちに、彼等はリゾットを目指す。

その身体を喰らい、血を貪る為に。

泣きながら。

男女、老人、赤子、子供が嗚咽と金切り声の混ざった叫びを発しながら猛スピードで走って襲ってくる。

射程距離十メートル。
指が一本入った瞬間に発動した。

「『メタリカ』」

重く呟くリゾットの背後。
取り巻くように現れた何十本もの刃の輪。
死者達へ向ける右手を合図に、空気を切り裂く鋭い音。
彼の造り出した大量のメスとナイフが翔け走る。

ードス!ドスドスドスドスドスダダダダダダダッ!!!!

死者達の『心臓』におびただしく突き刺さる刃。
それは磁力の反発による威力で深く刺さり、そう簡単には抜けない。

抜こうと頭をグラグラ揺らしながら、死者等は柄に手をかける。


だが、刃は肉を切り裂きながら無理矢理向きを変え、一瞬にして彼等の指を薙ぎ落とす。

「痛イ痛イ痛イ!!!!」
「ヤメテクレ!!!!
ヨシテクレ!!!?体ガ勝手ニ動クンダ!!」
「アアア!!ギャアアアアアア!!」

ばらばらと散らばる数百本の人間の指と手首。

苦痛の悲鳴をあげて、死者たちの背後からドロリとそれは姿を現す。

憑依し死者を動かしていたサイコパシー・レッド達が。

それを眼にしたリゾットは、感情を失った表情と反対して、無言の『怒り』を発する。
激しい『怒り』を。



(俺の、俺のせいだッッ)



敵への怒り。

何より自分への怒り。



(あの時俺がアイツを殺せば、彼等は、今、こんな事にならなかった。
死んでなお苦しまなくて済んだんだ)



黒い炎に似た感情を内にし、凍った表情を出し、足を踏み出した一瞬、苦しみに顔を歪める。





(俺を恨め。


俺を、憎め…ッ)





サイコパシーレッドの吐き出す肉を最小の動きで避け、無くなった指を拾おうとする一人の死者の、足を蹴りつけて体勢を崩す。

直ぐ様、死者の喉元に両手に携えたナイフを、左右から突き刺し食い込ませると一直線にかき斬る。



(そして死んでいけ)


己の力と磁力の引き寄せる力…刃にはメタリカを忍ばせた己の血をつけてある…を合わせて倍増した力は、骨さえも瞬時に切り落とす威力を持つ。

ゴトリと落ちる首。
落下と同時に背後に浮かばせていたナイフを額に突き立て、脳を破壊する。

背後の死者が腕を伸ばすのをしゃがんで避ける。

同時に身体を一回転させ足首や腕を切り落とし、次々に同じように首を切り落としていく。

グルリと囲まれる。
腕が襲いかかる。

背にした壁を蹴りつけ、攻撃を飛んで避けながら前方の一人を倒すと、戦闘不能になった死者に向けて、己の拳を胸に引き寄せる仕草をする。

死者に突き刺さった刃は、再びリゾットの元に戻り、その周囲に浮かぶ。

鈍く赤黒く血を滴らせた刃の盾。

リゾットが死者たちの胴体を真横に腕を薙ぐ仕草をすれば、何百の刃が同じ軌道に乗る。

頭上に掲げた右手を足元へ振り落とす仕草をすれば、降り注ぐ刃の雨。

殺戮と死を撒き散らす剣の舞踏。

それらは彼と全く同じように動き、皮を破り、肉を裂いて、骨を割り、徐々に身体を細切れにしていく。

その一連の動きにより、うめき声と共に同時に倒れる肉体。
死者達は地に肉を散らばせて、真の意味で死を迎える。
地に顔をつけた彼等の唇に肉蝿が止まる。死臭を何よりも早く嗅ぎ付ける蟲達はやがて卵を産み付け、死者は幼虫の肉の揺りかごとなるだろう。

大量の死骸。
その中をただ一人の死者が佇む。



「いやぁ………いやぁっ!!!!!」

宿主の少女の悲鳴と共に一匹のサイコパシー・レッドが残される。
いや、正確には残さざるを得なかった。
近距離パワー型でないリゾットは、直接それを破壊出来ない故に。

心臓を狙ったのは、、死者を増やす元になるサイコパシーレッドの『核』と、『核』が産み出す『分身』のサイコパシーレッドの区別をつける為だ。

『分身』は宿主を破壊すれば自然消滅する。
逆に『核』は離れて新たに憑依するだけだ。

『核』は何があっても心臓部分を守る。
心臓を破壊したからといって倒せる訳ではない。
ただ嫌がり怒りが増すだけだが。

スタンド発動の光が一瞬だけ赤く光りながら、現に、それのみが今も身体を地面に伏せて刃から心臓を守っていた。

人間の魂は脳でなく、心臓…心にあると信じる本体の影響なのか、『核』は心臓に住み着き、宿主を操る。

『核』はリゾットが直接対峙して勝てる相手ではない。

素手の人間が霊体に触れられないように。
リゾットは、分身を破壊した後に『本体を殺す』しか核を倒す方法がないのだ。


それがリゾットに向かってくる。

正面に見据えながら、リゾットは側にあった扉を開け、中へ入ると扉を閉じた。

サイコパシーレッドも追い、同じく扉をこじ開け、中へ侵入する。

だが、姿を透明化した気配を消したリゾットを、それが見つける事は出来なかった。

『ドコダ、

ド、コ、に、イ、ル!!!!』

赤い男があらぬ方向を行き当たりに物をひっくり返し、リゾットを探すのを眼にし、後退りしながら、部屋から出る。




(『核』以外は、倒したか。
次は上だ…)

そうして、リゾットは二階へ続く暗い階段へ姿を消した。

まだ終わらない殺戮と、久々に味わう人間の肉の感触に、ナイフを握った腕が痺れる幻覚を感じながら。





















彼は異常者だった。
その名を出す事をマフィアにすら忌まわしがられ、呼ばれる事は滅多に無かった。
あのチョコラータと並び評されるまでに、その行動は異常を極めた。

男は高まりきった恐怖からの断末魔が大好きだった。

異常性愛者だった。
彼は、顔の皮を剥ぎ筋肉に包まれた目玉が飛び出した瞬間に、オーガニズムを迎えていた。

暗殺者になった一時期は、それが自分には天職に思えて、最高の気分でいた。

任務に赴く時に、いかに無惨に標的をいたぶるかを考え、殺した相手の指、耳、目玉、舌、乳首、指、陰茎、心臓…、身体の中で最も気に入った部分を、錆びた缶に詰めて、休日にはそれを煮込んで最後まで啜った。
相手の身体を喰う事で、その相手を真の意味で理解し支配した気になると、奇妙な信仰を抱いて。

慢性的な人手不足と結果を残すのが第一だと、任務で決定的な組織の存続に関わるミスをしなければいいと、リゾットは彼に注意を促すが、ある程度までは目をつぶっていた。

だが、意味もなく任務を共にした味方を殺す事は別だった。

理由はない。
ただ、何が起きたか分からず驚いた顔がいかに間抜けで笑えるか見たかったからだ。彼はズル賢く自分が仲間を殺した事を巧妙に、証拠も残さず、任務で死んでしまったんだと容易に嘘をついていた。
こんな行為が許される筈がない。
男は腕が立ったが、あまりにも行為が異常過ぎた。あまりにも己の欲に従い過ぎた。


故にリゾットは、ある機会をきっかけに彼を徹底的に痛め付けた。


『…殺しはしない。どんな形であっても、お前のこれまで命をかけた成果を、俺は評価しているからだ。

だが、これが最終警告だと思い知れ。
次は、無い』

彼に全身を破壊され、急所を潰され、傲りとくだらないプライドを打ち砕かれた。

彼はリゾットを深く恨み続け、そして誓った。
必ず最高潮の絶望を味あわせてから、殺してやろうと。



































だが、叶わなかった。







『…何を、してやがるんだ? 一体テメエは『誰の』写真を撮ってやがる?







…テメエは、その子に何をする気だ?』

組織より命じられた致死率の高い任務。
リゾットがミスをする瞬間を狙って、彼は今か今かと待っていた。
カメラを構え、いくつも撮る写真。

目撃者の少女が思わぬ事にスタンド使いだった。

彼女に手をかけようとしたリゾットは、少女の力により腕を深く切り裂かれ、地面に大量の血を吐く。

あれだけ傷付けば、少女は逃げ出し、リゾットは任務を失敗した事になる。

一般人であろう少女。
警察にパッショーネの息がかかった者がいる故に、目撃した内容は握りつぶし、彼女の命を消すのは決定されてる。

それだけならば。

だが、彼が用意したおびただしい偽の証拠と共に、おめおめと少女を逃がしてしまった写真を提出すれば、どうなるか?
リゾットの破滅は、約束されたようなものだった。
重い罰。
粛正を。
自分も必ずその処刑の列に加わり、己の能力で、リゾットにありとあらゆる苦しみを味わわせようと企んでいた。
顔を割り、足を潰し、目に針を刺し、刃の道を裸足であるかせ、焼きごてをあて、生きたまま獣に腕を食らわせ、喉に熱い硝子の破片を押し込み、恥辱にまみれたその顔に自分の小便と大便を擦り付け…と様々な事を考えていた。


そのままならば。


だが、少女を、アマーロを撮った事が間違いだったのだ。




少女の怯えた顔写真。
それを手にとると、急に頭をもたげた嗜虐心。

『さぞかし、自分好みのいい悲鳴をあげるだろうな』
と、彼が狙いを定めて、その後を考え、舌なめずりをした瞬間だった。









…後頭部に突き付けられた、冷たい銃口の感触。

牙を剥こうと構えられたデザートイーグル。
咄嗟に己のスタンドを出し、殴りかかろうとしたが、それより早く襲撃者の手が、軽く彼の肩に乗せられた。
まるで挨拶をするかのように。


スーツに包まれた、しなやかな肉食獣の腕。

現れた血玉髄(ブラッドストーン)の眼光がぎらつく怪物の腕。

体が乾いていく。崩れる体に、事態に恐怖し、彼は潰れた蛙のごとき悲鳴をあげた。

突然両眼に走る衝撃。
直後、気の狂いそうな痛みによって、自分の眼が潰された事を知る。


『色んなクソ野郎もド変態も異常者も殺人狂もオレらの組織にいる…それについてとやかく言う気はねぇ。 そいつ等が必要な時があるからな。

だが、テメエの間違いは、『その子』を目にしたからだ。


テメエの事はよく知ってる…。


だからこそ…生かしちゃおけねぇ』










…直後、聞いた、乾いた銃声を。











(まだ…まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!!!?
何も終わってないのに!!!!)
そう絶望して。

何も出来ずに、頭を銃弾でぶちまけられ、脳髄が血とぐちゃぐちゃに掻き回したものを地に惨めに垂らして、命を奪われて地に伏す。

それしか出来なかった。

























たどり着いた二階。


歩けばピチャリピチャリと水音がする………白より赤が占める廊下。

天井に設置されたスプリンクラーが作動している。
火事でも無いのに。


降り注ぐ液体は生暖かく生臭い。
赤く…人間から絞られたばかりの、新鮮な女の血。

リゾットを恐怖させる為の手段にして、ステルスを封じる理由。

リゾットが二階へ上がった時に、すでに院内全ての床を並々と殺した犠牲者の…特に女の血で満たしていた。

歩めば嫌でも床に跡が残り、血の臭いは死体共の興奮を煽る。


その言葉と共に、廊下の奥の暗闇からザッザッザと足音をさせて数十人の死体が現れる。










(本体は、アイツは、何処にいる…)










死者達へ攻撃しながらも、リゾットは周囲への注意を向けていた。


ひっかかるのだ。

何故、あの男がいないのだと。

何故、姿を現さないのだと。

あの戸に打ち付けられた手紙を眼にした時に気付いた事もある。







必ずヤツには何かあると警戒しながら。



























…そんな彼の様子を、『彼』はほくそ笑み、観察していた。























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敵はクソ野郎にしようと色々書いたんですが、読んだ自分が胸糞悪くなったので大分削りました。

グロくしたいけど、まだ温いですね。
そして終わらなそう。
次の章は何としても冬の間に出したいので頑張ります。

グレフルの眼をブラッドストーンの色にしたのは単なる趣味。
血玉髄は、緑に赤のポツポツが散らばる水晶の仲間。
文章に鉱物をむやみに入れたくなります。







2013.12.22




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あきゅろす。
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