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シルバーチェイン、グリーンアイ・モンスター(polka様へ)※連載とは平行世界の別ヒロインです
『嫉妬は緑の眼をした怪物で、餌食として人の心を弄ぶ(シェークスピア)』











あの日、リゾットは彼女を裏切っていなかった。

それは、ただの任務の一つで、敵対する組織の幹部の情婦から情報を聞き出してから殺す、それだけのものだったのに…。

女を連れる姿を、彼が大切だと、最近気付いてしまった彼女に偶然見られてしまった。

任務中に私情を出すのは厳禁だ。
同じ組織の彼女もそれを知っている。

だから、他人のようにすれ違って、夢中で話すターゲットの肩を抱いて通りすぎた。
すれ違い間際の彼女の表情に、胸が痛くなって、後で必ず謝ろうと思いながら。






…あっという間の出来事だった。

女の身体から現れた繊細に組み合う螺旋状の銀の鎖。

それが女を締め付けたかと思うと、女は声もあげず崩れ落ち、首と手足はごろりと音をたてて、血の色をした砂となって消え去る……………。



悲鳴が混じったように澄んだ、普段心地よさを感じる彼女の声が響く。
空気を切り裂くように。




「………その人に…………触らないでっ!!!」

彼女の能力だった。


「…アマレットッ」
一瞬、任務を台無しにされた事に怒りの眼を浮かべるが、彼女が血の色に輝く鎖を持ちながら、
「……いや…、いやだよ………そんな……っ、


そんな風に笑わないでっ、他の人に、そんな風に触れないで…………ッ!」
と泣きじゃくる姿に、彼女の能力の形の理由を知り、怒りが消える。


彼女が子供のように泣く姿に、動けなくなってしまう。

その瞬間に、リゾットは彼女が触れた自分の身体から、鎖が現れたのを認めた。

ぐすぐすと泣きじゃくり、顔を乱暴に拭う目の前に立つ彼女。
震える手には彼を繋ぐ鎖。



…ああ自分は一番ひどく彼女を傷付けたのだ。
それをリゾットは悟った。


後悔した。
最初の頃に彼女に言った言葉を。

『…お前は俺のものじゃない

…だから俺に縛られるな』



その言葉を。

リゾットは彼女に言った。
身体を重ねた後のベッドの中で。
彼女を抱き締めながら。
…自身の胸に痛みと重みを感じたのを気づかないふりをして。


彼自身は、それを暗殺者という立場上言ったつもりだった。
『縛る』というその言葉が、特に彼女を傷付けると気づかずに。
だから、彼女がそれを別の意味で捉えてしまった。


彼女は組織直属の掃除人の一人だった。
彼女の能力『アリス・イン・チェイン』は、人体を構成するDNAの螺旋を鎖の形にして、彼女だけに触れられるようにする。

その鎖は、解けた場所(細胞の欠損=傷付いた肉体)を繋ぎ直して、傷を癒す事も出来る。


だが、それの本来の使い道は『締め付けによる破壊』。


人体におびただしく絡み付く螺旋の鎖を、彼女がほんの少し力を込めて引っ張れば、締め付けられた人体は、細胞から粉々に砕かれ、血も肉も骨も形を残さず消える。

それは、跡形もなく人間を消滅させる意味。


彼女の能力は、両親を殺した時から生まれた。
束縛、息の出来ない苦しみを与えてきた親に、彼女の生まれた時から苦しめられた。
何をするにも自分の意思は無かった。

服も靴も、遊び相手も、勉強も、食べるものも、話し方も、考え方も、どれもが親の満足のいくものを選ばされて、支配され、親の望む事をさせられた。
ずっと所有、支配という名前の見えない鎖から解放されたかったのに、彼女の力は縛り付けて壊す。皮肉にも。

些細な事からだったのだ。自分の好きなようにさせて欲しいと。

だが、小さな勇気は踏みにじられる。激しく罵倒され、自分を否定され、悲しみに、絶望に陥ったその時、生まれた力は、両親を血の砂に変え、死体すら残さなかった。

その『鎖』のせいで、彼女は何度も、自分が側にいて欲しかったペットの犬も、初めて出来た友達も、恩人も、恋人も、全て失った。

あの頃の彼女は力を上手くコントロール出来なかった。

縛り付ける力は、特に彼女の感情が高ぶった頃に現れた。

両親から忌々しくも受け継いだ、彼女の性『自分だけを見てくれ』が彼女を苦しめる。

醜い支配、小さな嫉妬から始まるそれによって、鎖は彼女の手に絡まる。
絡み、壊し、消える、何もかも。




『…愛してるとも、大好きだとも言ってはいけない。
負担になる、私は縛り付けてしまう。

壊したくない、望んだらいけない………』


ザラザラと指からすり抜ける銀の鎖を、血の光を所々宿したそれを、見て、彼女は決意した。
青みがかった灰色のアリスブルーの髪から覗くエメラルドの瞳を涙で濡らして。
彼女はこうして心に呪縛の鎖をかけた。
嫉妬という怪物を産み出さない為に。






一人で生きていく為に、その力を使い、やがて組織に入った。誰も会っても心を開かず、話す言葉も目線もどこかへ向けて、機械的に作業として、淡々と死体を壊していった。
死体は語らない。
死体は好意も嫌悪も向けない。
だからいい。
いくら感情があっても、死ねば終わりなのだ。そう思うと少し楽になれた…。


正気とは思えない考え。
そう思わないと生きていけなかった。
死ぬ勇気もなかった、意気地無しの自分。









だが、感情は容易く息を吹き返す。
むなしくも。


同じように感情を凍り付かせた、自分と同じ香りをする男…リゾット・ネエロと出逢ってしまった事で。






出逢ったあの日も、すでに事切れた死体と対面するだけかと思っていた。







「お前が掃除人か……、死体はここだ…」

暗闇から現れた闇よりも濃い長身の男。
初めて見た男。

悪魔のようにも、死神にも見えた。
だが、彼女は一目で強く惹き付けられた。
その魂の匂いを、自分と同じように苦しむ孤独を嗅ぎ取って。






「……待って!」


過程も、恥じらいも、躊躇いもどこかへ行ってしまった。

気付けば去ろうとした彼の腕を掴んでいた。
「…………何か?」



捕まれた腕を無感情に見下ろす眼。苛立ちも無く、ただ見下ろすだけ。

冷たく何も映さない眼。


「……………っ、同じ、ですね…。

私と、同じ…………………………何も、誰も、映さない………」


「……………」



腕を離さず、ただ真っ直ぐ彼を見詰めて、声を震わせて、堪えながら答える彼女。

たちまち彼女の瞳から涙が零れる。
同じ気持ちの人間に会えたからなのか、同じなら自分を分かってくれると思っていたからなのか。




「…………お前……」

その濡れて輝く緑の眼に惹き付けられた。

涙を零すその表情がひどくリゾットには美しく見えた。


昔失った感情が、瞬く間に目覚めていく。

彼もまた直感的に、激しい雷が駆け抜けたように、彼女が似た者だと理解した。




「ごめんなさい……………、

今だけ…、貸してください、

お願い……っ」

首をふりながらも、彼女はリゾットの胸に飛び込み、身体を縮こまらせて彼の身体にうずくまる。
たちまち熱い滴で濡れていく衣服。









「……っ!?」


彼女の後頭部を自分の胸に、更に強く押しつける手。
背中に回る腕。
やわらかく、ひどく安堵して、低い体温も泣いて熱くなった自分には気持ちよくて。
囚われてるようで、捕らわれてもいいと思う、彼に抱き締めてもらうのが、ひどく心地好くて。



「………泣くな」

彼女の顔をあげさせて、濡れた頬をぬぐう。

彼の腰に響くテノールも、彼女には何故か優しく聞こえて、今まで抑えていたものを我慢しなくていいと思えて、更に泣いてしまう。

不意に目元を、熱い涙を彼の唇が吸い取り、そのまま唇を奪われる。

見つめる視線、切なく歪む彼の表情。

胸が激しく脈打って痛い。
抱き締めている彼からも早い鼓動が聞こえる。







彼女の心の隅で、カチャリと音がした。


恐怖する。
(縛ったら…………………ダメ…………)
と。



また、彼女に新しい鎖が巻き付いた。

彼女の思い込みの呪縛の鎖が。










それでもリゾットと何かにつけて会うようになった。
交わり合う時もあったり、ただ傍に寄り添うだけの事もあったが、彼女はそれでよかった。


リゾットの銀色の髪からのぞく深い色の瞳が好きになった。無慈悲に死を見つめ、全てが終われば時に悲しげに揺らめいて、己の中の死を見つめる、その複雑に光る瞳を。

最初会った頃はその眼が、怖かった。
同じものを感じて、自分自身を映してるようで。

だが、違う。知ってしまった。

リゾットのその硬く凍った表情は何かのきっかけでほどければ、やわらかな微かな微笑を浮かぶ事を。

「お帰りなさい、会いたかった…っ」
と任務帰りの彼を抱き締めれば、彼はいつだって受け止めてその暖かい笑みをこぼして、ほうと息を吐くと、
「…俺もだ」
と、少し固い髪をゆらめかして肩に顔を埋めてながら小さな声で答えてくれた。




…あの時。

彼と一緒にいる女性を見た、その時。

嫉妬に狂って泣く彼女は冷静さを失ってしまっていた。
普段の彼女ならありえない事なのに。
彼女の処理する『物』の一つだったのに。

いや、わかっていた。
ただ、自分と同じ女であること、
自分と比べて遥かに美しいこと、
死ぬ事も知らずに笑う顔、
演技の為に彼が彼女に向けた笑顔、

それが辛かったのだ。



「リゾット……」

「ん?どうした…」
最初は自分の孤独を埋めてくれてる同族のような気持ちで、傍にいたんだと思う。
それが、だんだん彼に見つめられるだけで、名前を呼んでくれるだけで、何をしても、彼と一緒にいると胸が苦しいのに、嬉しくてたまらなくなった。


「…ううん、なんでもない、の…、名前よびたかっただけ」

それが愛しい気持ちからきていることに気づかないふりをした。

「…そうか」
彼の瞳に少し影がよぎった気がして、ほんのわずかに期待してしまう自分が馬鹿だと思ってしまった。





…彼女は彼を縛りたくなかった。

彼と自分の関係は、互いに口には出さず曖昧なものだったから。

ただ自然と男女間の行為をして、キスも会う度にするようになっていたのに。



言葉には出来なかった。
いつかなくなる、曖昧な関係だと思っていたから。


彼女は恐れていた。縛る事を。
最後には壊してしまうかもしれないと、思い込んで。


彼女の能力が、
アリスが、子供の残忍さが、大事な兎を鎖で縛ってやがて殺してしまうように、自分の彼に対する気持ちは子供じみた独占欲に思えて、認めるのが怖かったからだ。


『俺はお前を縛らない』
その言葉も彼女を縛りつける。
三半規管が、耳の中の貝殻がその言葉を何度も震わせる。


…縛らない、それはリゾット、彼自身も縛るなという意味でないのか。















(貴方が誰かの隣にいるのが…、考えるだけで、こんなに怖い………)



嫉妬に頭がおかしくなりかけて、縛らないのは、彼が自分と離れたがってるからと疑って、泣く日も多かった。
彼に会えなくなると寂しくてたまらなかった。


ただ一人で檻にこもって考えを巡らせて、そして、それが全て馬鹿な事だと思いながらも、自分以外の誰かと彼がいるかもしれないと、どうしても考えてしまった。



仕事に行こうと鏡をとり、涙で濡れた瞳の自分を鏡の向こうで見てしまうとますます辛くなる。

その自分の瞳に。

己の緑の虹彩。
彼はその瞳の口付けて美しいなと言ってくれた。

だが今は、この色が醜く見える。なぜこんな色なのか、自分に心底嫌になる。


緑の眼。
いつか読んだ本で覚えていた言葉。

嫉妬をする言い回し、緑の眼の怪物。
それは正に自分ではないか。






泣きながら鏡を地面に叩きつける。
耳障りな音をさせ、砕け散る鏡に…自分と彼の別れた時を想像してしまう。


「リゾット……リゾット………ッ」

暗闇の中で、すすり泣く声はしばらく続き、割れた鏡は月の光で断片的に光っていた。








………彼女がその鎖を使うのを何度も見てきた。

今も女の末路を見たばかりだ。
だから、自分がこれからどうなるのかは分かる。



死ぬのは怖くなかった。
ただ、彼女を傷付けた償いがしたかった。

だから、彼女の震える手を撫でて

「……やれ。
いいんだ。
…お前の望むように……………」
と言ってやる。
あの緑の眼を見つめて、最後にその眼に自分を見て欲しいと思いながら。

少し寂しそうに笑って。

その表情にうつむいてしまい、泣いていた彼女は、やがて静かに顔を上げる。

リゾットは無意識だったのだが、彼が彼女に微かに笑った顔が、彼女には傷付いたように見えた。


彼女は気付く。

リゾットが時たま口にする、組織への不満を。
いくら命をかけても、信頼されない事を。

彼は信頼されない事が何よりも悔しくて、辛いと思っていたのに。




特に、彼女に。

無意識に彼の中で大きな存在になった彼女に。





「………ごめんなさいっ」

かちゃりと手から鎖は落ちて消えていく。


馬鹿なことをした。
馬鹿な事をした。信じて、あげればよかった。

さめざめと泣きながら、もう、彼の前から自分はいなくなろうと思った。
そして、すぐ死のうと思った。

















「……行くなっ」

走ろうとした腕を取り、強く引き寄せ、覆い被さるように、強く抱き締める。

顔をあげさせ、後頭部に手をまわし己の胸に彼女を押し付ける。

「イヤっ放して!はなして……!!!」
逃げようともがく彼女。
「…………行かないでくれ…」
それをひたすら拒否し強く抱きしめる。
「なんで…………、なんで………っ」

そうするうちに抵抗するのをやめて、力を失い、初めて会った時のように彼の胸にしがみついて、一層大きな声で泣いた。


「…アマレット、聞いてくれないか…」
少し落ち着いてから、彼は出来るだけ優しく彼女に語りかける。

「愛している、お前を…」
心地よかった。
耳元の囁く声、熱く、甘いそれが。
今の抱き締める腕は、逃げようと思えばほどいて逃げられた。
彼は、あえて緩く彼女を、やわらかく抱いていた。


「…嘘……っ」
「事実だ。
お前を今まで大切に思っていた……殺されてもいい程に…」

その淡々としながらも悲しく響く彼の声が辛くて、泣きながらその腕の中に顔を埋める。
同じように思いを言葉にする。
今ならできそうな気がした。



「………私も…同じ………………。ごめんなさい…………っ、貴方を、貴方だけを………っ」
その言葉に彼を想うことを許して欲しいと色を込めて。

だが彼は、首を振って彼女の唇の触れる間近で謝罪を口にする。

「……すまなかった…、俺が悪かった…」
いくら言っても止まらない。

「だって………だって………っ!」


涙をこぼしながら、緑の瞳を揺らめかせて、不安になった彼女は強く抱き付いてくる。
身体のぬくもりが心地好くて、更に強く抱けば彼女は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
涙を流しながらのそれはあまりに悲痛に満ちていた。


「…大好き、なの…っ。
でも、言えなかった……、縛りたくないからっ。

なのに、今貴方を縛って失いそうになって………怖かった……っ。

……お願いだから……嫌いにならないで……!
私…っ、貴、方
に…嫌われたら生きて……………………っっ!?

う……、ん………………っ」
彼の熱い舌が言葉を奪う。熱の籠った視線が貫くよう見つめる。

泣かせたくなかった。

こんなにまで泣かせてしまったのは自分のせいだ。

それでもリゾットがアマレットに抱く感情は、愛情だけだ。彼女が大事だった。

何かに怯えるような目付きに守りたいと思うようになった。

何もしてなくても共にいるだけで良かった。

彼女が幸せそうに目を閉じて肩にもたれかかれば、いつだって抱き寄せて口付けていた。

おかえりと、彼女の元へ訪れる度に暖かく迎える彼女を目にするのが密かに楽しみだった。

彼女が笑ってる姿はいつも美しいと思った。
そうしたもの以外も全てが愛しかった。
日々、彼女への愛情が深みを増して底が尽きないのに、不器用で言葉に出来ないばかりに、彼女を悩ませてしまった。
ひたすら後悔した。
「お前を嫌う訳がないだろう……。
…………お前は、自己完結しすぎるんだ…………」
少し怒っているようなリゾットの様子にアマレットは信じられない気持ちでいた。

「…嫌いに、ならないの…?」

「……ああ。
お前だからだが…。
むしろ反対だ。



すまない…、

…………俺は臆病だった……。

言葉にした瞬間にお前を失う気がして。
だが、俺はお前の望む感情を持っているんだ…」

彼は欲に濡れた眼で見つめて囁く。

「……俺は愚かだった……まだあの時、俺はお前への感情に気付いていなかった。
大切なんだ…、お前といる時間が。
お前が笑った時が。
俺の腕の中にいる時が。


泣かないで欲しい…。お前が泣くのは、辛い…。



俺はお前を縛らない………。
それは俺が死んだら、すぐに俺を忘れて生きて欲しいからだ。




だが、俺自身は、お前の物だ…………」

そう、低く熱い声で言葉にすると、アマレットの手を取り、その手を己の胸に触れさせる。
脈打つ感覚。
「貴方が…私の…………?」
「ああ、眼も骨も肉も心臓も全て………お前の物だ」
アマレットの顎をつかみ自分に向けさせ、視線を真っ直ぐ見つめる。

濡れた頬に熱い舌を這わせて涙を口に含む。その涙は苦かったのに、甘い味がした。
「お前以外の女はいらない…」
首を強く吸いながら髪に指を絡める。

「………っ」

「何も見るものか、お前以外の女はただの物だ……、血の詰まった皮の袋だ………」

腰に腕を伸ばし、引き寄せ耳元を熱く口付ける。

「…お前が、いればいい…………


いて、欲しいんだ………」

「リゾット…」

「こうしても…………、いや、ただ隣にいてくれるだけでも……………、いい……。
いいんだ……。
何もいらない……、お前がいれば………っ、それで……」
「……リゾット…………ッ」
「だから怯えるな………。望む限り、俺は出来る限りの事はする…受け止められる…………」
「………リゾット………」

…そうして再び、彼女の息を塞いで、離すまいと強くかき抱いた。




「っ……………っ…………、ごめんな、さい………」

「もう、謝るな…辛くなる」

「優しいね……、貴方はずっと………。
いつも欲しいもの以上のものをくれる………、ありがとう…っ……」

そう言って、泣きながらでも、やっと笑顔になったアマレットをリゾットは柔らかく微笑むと、両手で顔を包み唇に口付けてから、耳元で囁く。
「…一緒に、暮らすか」
見開く彼女に、ふっと笑うと彼は言う。返事はいつでも構わないと。
とっくに答えは決まっていた、だけど、信じられない気持ちに、彼女は真っ赤になって座り込みそうになったので、リゾットは微笑みながら彼女の身体を受け止めた。

「…今、気付いたが、お前のは束縛じゃない……。

甘えたいだけだ………。

馬鹿だな……俺は……。もっと早く気付けばよかった……」

「え……?」

「そうだ、お前はもっと甘えていい…………。俺がいる限り………俺はお前を受け止める…」

彼の腕の中、そのやわらかな檻は心地いい。
こんな縛りなら、アマレットはずっと彼に囚われていたかった。








彼が彼女のものだと言ったように、彼女も彼を縛るようになった。

だが、彼女を縛るのは鎖ではない。
それはなめらかで柔らかな白銀色のリボンだった。

彼の言葉が、彼女を大切に抱くその腕が、その数を増やし、逃げる気も、疑う気持ちもやわらかく奪ってしまうだろう。

リゾットを縛る鎖も、形を変えるのも遠い未来ではない。

彼らを縛るのは、互いへ繋ぐ信頼に変わる、すぐに、容易く。








…そうして緑の眼の怪物は、知らない間に彼女の心から消え去るだろう。


















『Silver Chains & Green-Eyed Monster.』




































【管理人うなぎより】
今回の話は『黄昏Concert』さんとの相互リンク記念に書かせてもらったものです。
ヒロインの嫉妬から始まる切ない甘い話…………とリクエストを頂いたんですが、ちょっとどころでないとんちんかんな内容になりました。

とりあえず、ヒロインは臆病すぎで、リーダーは何も言わなすぎだっただけなんです。

ヒロインのスタンドの元ネタは縛る=鎖繋がりでアレを選んだんですが、メロディーも歌詞も相当重たく暗いので(Notガーリー!)、聴くとしたら少しご注意です。

お待たせしてしまってすみませんでした、polka様!

こんなボケナスですが、これからも仲良くしていただけると嬉しいです。
m(_ _)m



2013.10.13(日)

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