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ストレンジ・カインド・オブ・ガールー心配する少女、世話焼きの男
(……なんだろう、コレ…!)

アマーロの胸は高鳴っていた、痛い程に。

それがリゾットへの恋だと知るのは、ほんの少し先になるので、この時の彼女は戸惑うばかりだった。

心臓がうるさいと感じたのも、胸が痛いのに同時に心地よい気持ちになるのも、生まれて初めての経験だった。


真っ赤になって激しくうつ向き、熱くなった顔をハタハタと手であおぎながら、混乱する。

(なんだろ…、怖かったんじゃない、びっくりしたんじゃない………、あ、でも、笑ってくれたのは…びっくりした……!
すごく素敵………ううん、素敵に決まってる!
だって、とても綺麗な顔してるんだもん。お兄ちゃんとは違ったカッコ良さで、雰囲気に影があって!でもそれが素敵っ。

じゃなくって……………っ、でも何なの?
わかんないっ!あたし、わかんないっ!)

頬に手をあてて、キャーと小さな声で口にする。

気のせい、気のせいだと自分なりにヒートした気持ちを落ち着かせて再び顔をあげると、リゾットは手の甲で自分の目じりを静かにぬぐう所だった。

(あ……、綺麗………)

瞳が、流した涙で淡い色から美しい翠色に変わっている。
その翠は若葉を思わせて、どことなく彼にやわらかさと暖かみを与えていて、印象が少し変わった。


リゾットはアマーロに、頭を下げてきた。改めて謝罪させてくれと言って。



「……あの時は、すまなかった…。

お前をひどく怖がらせて、何回も泣かせてしまった…。


許してくれと言うつもりはない……、俺はそれだけの事をした」

そしてその瞳を僅かに揺らすと、アマーロから顔をそらし、呟くように彼は続ける。

「それから………、



感謝する……、俺を庇って………………、命を救ってくれた事に……。

すまない。
傷の手当から寝床の提供まで……何から何まで寛大な処置に…………」


知らない人間から見れば、厳しくしかめた顔に見えたかもしれない。

だが、アマーロはそれが彼が元々の不器用な性分と長年の経験から強制的に鍛えられたせいだと知ってしまっていた。

だから先程リゾットが自分にかけてくれたタオルケットを手にとると、彼を見上げて再びかけ直す。


ニッコリと笑いかけて。

もう怖くないのだと、わかってもらえるように。




「ううん、大丈夫。
気にしないで。ちょっと貴方は疲れ過ぎてたんだよ…、それだけ」




彼は黙り込む。



(何故、そう簡単に言えるんだ……)

そう戸惑って。


僻み、蔑み、優越感、嗜虐の笑みを向けられたリゾットにとって、アマーロの笑顔は明るくてあまりに混じりけがなくて、どう答えればいいかわからなかった。


ただ自分は苦手な笑顔だと思った。



「元気になるまで、ゆっくりうちにいてね…」

アマーロはリゾットに少しはにかみながら微笑む。

胸がチクリと痛む。
これ以上ここにいてはいけない気がした。


「駄目だ………、そういう訳にはいかない」

その優しさが、怖かった。
だから拒否した。



「今は大して手持ちもないが、金は必ず払う……。
すぐ出ていく。

俺のコートはどこにある?」

あの男もまだ始末をしていない。
今すぐにでも、行かねばならない。



「…イヤ!!

なに言ってるの!!
お金なんかいらないよ!!」

また彼は一人になろうとしてるのだ。それが嫌でアマーロはリゾットの右腕を掴んで、激しく拒否した。

それにリゾットは怒りをかすかに帯びた眼でアマーロを見やる。


「馬鹿な事を言うな……………。

お前は、警戒心が無さすぎる。
後の事態も考えていない。
…まだ、先程の奴等の残党や同盟を組む他組織がいる。

俺をここに置けば、奴等は嗅ぎ付けるかもしれない」

その目線に怯んだ。

確かにそれは恐ろしい事だ。
アマーロはあの時の死体の山と血の香りを思い出した。
恐怖、苦しみに崩れた恐ろしい顔で誰もが死んでいて、大量の銃器が散らばっていた。
たった一人で現れた彼の為に、そこまでの人数で。

記憶も見たから分かっていた。
憎しみを浴びて生きていたのだ。
再び、あれだけの何十人もの人数が彼を狙うのもありえなくなかったのだ。

彼の言葉は事実だろう。


それでも……、アマーロは強く彼を見つめ返した。
唇を噛み締めて。




「…馬鹿でもいい!!

けど、危なくてもっ、あたし貴方を一人にしたくない!!

ダメだよ!まだ完全に怪我が治ってないんだから!お兄ちゃんだって手加減してなかったんだから!
ボロボロなんだよ!休まなきゃ!!そのまま、また任務……お仕事に行ったら今度こそ死んじゃう!!

うちにいて!
迷惑じゃない!!

貴方が死んじゃったら寂しいよっ!!
行かないで!!

また一人で!我慢したら、いつか本当に壊れちゃうッッ!!




ー貴方は、もっと誰かに頼らないとダメだよ!!!」





その言葉に一瞬硬直する。






『…何で全部背負いこもうとするんだよ!!
こんな激務一人で出来るわけねぇだろ!!
何か出来る事あるだろうが!!!!

オレは、お前の頼りにはならねぇのかよ………っ!』



そう記憶から引き出された男の叫ぶ声が、強く、頭に響いてきた。


あの時、ホルマジオという男は、リゾットの胸ぐらを掴み、怒鳴っていた。
彼は本気で怒っていた。
リゾットを心配していた故に。





チームに配属された頃のホルマジオは、無謀にも果敢にも、愚かにも、リゾットの不意をついてリトルフィートで切りかかろうとした。


だが長年修羅場をくぐり抜けてきたリゾットは、小さくなったホルマジオの殺気を感じとり、射程距離10m全てにメタリカを一気に発動させた。

口から剃刀を吐き、苦しそうに血を吐きながらも、ホルマジオはなお直接勝負すると姿を表す。


群体型スタンドのリゾットには、リトルフィートと直接戦うのは不利だった。

だが、それだけだ。
間合いにリトルフィートが飛び込むより速く彼は動いた。
ナイフをホルマジオの首の真横に威嚇して飛ばす。
それを皮切りに、何十本も投げかけたナイフをメタリカで操りながら、ホルマジオがスタンド本体で必死に防ぐ間に姿を消して後ろから忍び寄り、ナイフを頸動脈間近に光らせた。



『参ったぜ…………………やっぱアンタ強ぇなぁ…………。でも、何もしねえままなのも嫌だったからよぉ…。

ここに来た時点で、オレぁもう死んだような身だからな。


さぁ、好きにしな。
覚悟は出来ている…』


『……馬鹿な事を言うな。
貴様は殺す価値もないッッ』


頬を殴り付けた。
思い知らせる為に。


『貴様は愚かだ!!
二度と……!状況を把握せずに闘いを挑むな……っ。
覚悟は、最初から死のうとして持つものじゃないっ。
生きる為に持つもので、こんな事に持つもんじゃねぇんだ!

他とは違う……ッ。
此処はそんなに甘くはない』


殴られたホルマジオは口から血を流しながらも、呆然とリゾットを見つめていた。









そして、リゾットにニヘラと笑いかけたのだ。



『……アンタ…………………、そうかぁ………。





噂はあてにならねぇんだな。




すまねぇ……、リーダー。



オレはどうやらアンタを誤解してたらしい』


『…馬鹿か貴様は。何を勘違いしている』


『いぃーやッッそうだねッ!
アンタはいいヤツだ!!そうに違いねぇ!!』

…何も言えなかった。
その笑みにどうやって応えればいいか分からなかった。







以来、ホルマジオはリゾットのオフィス兼自宅に姿を現すと、
『よぉリーダー!
ご機嫌か?いい天気だよなぁ』
と屈託もなく笑いながら挨拶をしたり、リゾットが任務でいない間には、いくら行っても終わる事のない程の大量の指令書や報告書を、リゾットが取りかかりやすいように、こっそりと整理をした。
余計な事をするなと言っても、彼は、紙くずだらけでうっとおしかったんだよとニヤニヤするだけだった。

やけによく話しかけてきた。
親しげな様子に、リゾットは内心戸惑いながらも、表面では何も表情に現さなかった。




……故に、ホルマジオに任務を行かす事はなかった。
その分、自分が動けばいいと思っていた。

過酷で捕まれば死より苦しむ拷問も珍しくない暗殺。

あんな人のいい彼に、リゾットは死んで欲しくなかったのだ。








『頼り、だと…?



ハ…ッ、役立たずのスタンドの貴様にか?
黙ってろ…、勝手に何もするな。
目障りだ。余計な世話だ。
貴様に出来るのはゴミ掃除だけだ……』

あの時。

リゾットは任務から戻り、誰も見てないと思って玄関前で崩れ落ちて、息を激しく切らしていたのを、ホルマジオが見つけた事がきっかけだった。

無理をするなと、己の肩を貸しリゾットを支えようとしたが、リゾットはそれを拒んだ。
構うな、一人で立てると。


それにホルマジオは怒鳴ってきたのだ。もっと頼れと。

だがリゾットは服を掴む手をきつく振り払い、彼を突き飛ばし、そう冷たく言葉を吐き捨ててしまったのだ。

その真意は口に出さずに。
恨まれても仕方ないと思っていた。


その何者をも拒むリゾットの表情に、ホルマジオは悔しそうに言う。


『そうかい…………………っ、ああ、分かったよ……………。
アンタの好きにしな。


しょうがねぇよな。

オレはそのつもりだったが………、





オメェにとっちゃ、オレはまだ、アンタの仲間になってねえんだな………………っ』



そう言った彼は、ひどく傷付いたように見えた。












それを思い出し、リゾットはわずかに顔を曇らせた。
アマーロはそっと彼の手に自分の手を重ねて、心配そうに見上げる。


「…どうしたの?」

「いや……、何でも、ない」

何でもないはずがなかったから、フルフル首を振り、もう一度しっかりとリゾットを見つめた。


「あの…話………くらいなら聞けるよ?話すだけで気が楽になるよ。



ね、ちょっとだけ…………でも……」


何故だか彼女の瞳に見つめられると、リゾットは何も隠し事が出来ない気がした。


「……………。





一昨日……。

お前と同じ事を言ったヤツがいた。

そいつは酷くお節介な男で、やけに話しかけたり、一々俺の体調がどうとかと、やたら世話を焼こうとしてきた。

ヤツには少々悪い趣味があったが、俺はこんな人の良いヤツが何故ここに来たか分からなかった………。

だが、俺は拒否した……酷い言葉を、言ったんだ…………。役立たずだと言って。



役立たずなんて実際違う………。
そんな訳あるものか…。

どんな能力にもくだらないもの等ないと俺は思っている。

どう使うかが大事なんだ。
アイツは優秀だ。

物事によく気付き、自分のスタンドをよく理解し、最大限活用しようとしている。






ただ………、



アイツが、いいヤツ…だと思ったんだろうな…。




死んで…欲しくなかったんだ…。












…今思えば、アイツに屈辱を与えた。最初から出来る訳ないと決め付けて。



俺は、信じてやればよかった……」







「そう……」

アマーロはそれに耳を傾けると、安心させるよう少し元気な明るい声で彼に言う。


「大丈夫だよ…っ!

ちゃんと謝れば、その人は許してくれるよ…。
きっとその人は、貴方が好きだから怒ってくれたんだよ…。だから、笑って許してくれる。

あ、もしダメだったら、また肩を貸すからね!
いつでもいいよ!」

自分の肩をポンポン叩く少女。


「…そう思うか?」

「そうだよ!」

どこからそんな自信がくるか分からなかった。

彼女はあまりにお人好しすぎると思いながらもリゾットは、アマーロに言われると、なぜかホルマジオが本当に自分を許してくれるような気がして、

「……もしそうなったら、また貸してくれ」と小さく返す。




…少しだけ、自分に心を開いてくれた。

それがアマーロには嬉しくてたまらなくなった。


それから溶けた氷嚢を拾い、

「ちょっと待ってて。代えの氷と痛み止め取ってくるから。
帰っちゃダメだからね!






帰らないで……、

お願いだから……」
と振り返りながら言う。
僅かに涙を目尻に浮かべて。


そんなアマーロの言葉を彼は断る気がしなかった。

だから、リゾットは無言で頷くと、アマーロは花が開くようにまた笑って部屋から出ていった。


…苦手だと思うが、同時にリゾットは彼女の笑う顔に悪い気がしなかった。












…そして、彼は表情をガラッと変える。
アマーロがいなくなった事で。

刃の視線を向け、有無を言わない様子で鋭く言葉を向ける。


「出てこい……………、見ていたんだろう」
と。





その声にカーテンの影からすっと現れた男。
つい数時間前まで、本気で殺し合った男。

普通なら誰も気付かない見事な気配の消し方だった。

彼はアマーロがいつまでもリゾットから離れなかったので、彼女を守る為、またリゾットの様子を観察する為そこにいたのだ。


「…まぁ解るよな。オメェ程の使い手なら。
そうじゃねえとしょうもねえが」


…その男、プロシュートはカツカツとリゾットの元へ近寄ると、読めない表情のまま見下ろしてくる。

「それにしても、今までのアイツのやりとり見る限りじゃあ、オレの勘は間違っちゃいなかったか…。

やっぱりテメエは只のクソ野郎じゃなかったな」

そうしてニッと浮かべるクセのある笑み。
だが、リゾットには悪意があるように思えなかった。

「……理解出来ない。
何故、貴様は俺を殺さなかった…。
その首、その顔の…報復はしないのか?」

プロシュートは首をかしげる。
「あん?最初は殺そうとしたぜ。

オメェの身体をミキサーかけたみてえにグズグズの肉片にしてから、海に流す予定だったんだ。






だがよ、オレのこの世で一番愛しいチビ天使がオメェをかばっちまったからなぁ……。
オレはアイツを悲しませたくねぇからよ」


わずかに細める眼。
そのやわらかさに、リゾットは彼があの少女を大切にしてると再び理解した。





「とはいえ、万が一って場合もあるからな。





…いいか、よく聞け」

そのやわらかさが瞬時に殺意に染まる。


素早くリゾットの右腕を掴み、骨が軋む程にプロシュートは力を込め、鋭く睨む。




「…誓え。


今後、
一切、
どんな理由にせよ、アイツを……アマーロを、傷付けない、殺さないと………………………。

アイツはオレの命だ。
この世で一番愛しているんだ………。
失った瞬間にオレの生きる理由は無くなる。
アイツが生きる為に必要ならば、全て…オレ自身の命を捨てても後悔しねぇ。




もし今ここで拒むのならば、今後誓いを破るのならば、


オレは…………どんな手を使ってもテメェを追い詰め、今度こそ必ず殺す…………、生きたまま火炙りにしてな……その前に最高に苦しめてやる…………。


今テメエの磁力で抵抗しようとしても無駄だぜ。あの時のテメエの様子から射程距離は大体分かったからな。

土から刃物を出しても、オレにまたハサミをお見舞いするのもクソくだんねぇ選択だ……………、なぜならオメェは…もう逃げられねえ。理由は企業秘密だがな。
さぁ、どうする?
誓うか?それとも第2ラウンドといくか?」

その強い眼光、殺意は本物だった。
だがリゾットは無感動に見つめ、捕まれた腕にも抵抗をしようともしなかった。


「…愚問だな。もう…あの子は狙わない。彼女には恩が出来た。

断る理由もない、争う気も今の俺にはない。

……誓おう。


だが、信じられないなら…」

リゾットは左の手をプロシュートに差し出すと、腕を返し、その手の平を見せる。


「…警戒するな、攻撃する気はない」

そこから呻き声が聞こえると、一直線に手の平から血がしたたり、ジャキジャキという音と共に小さなナイフが現れた。

血に濡れ、銀色に光る刃。己の血液から、あえて作り出した。


「今、これで俺を殺せばいい……」

その10cm程の刃をプロシュートに差し出すと、彼は自分の人差し指でスウッと己の首をカッ切る動作をする。

プロシュートはナイフを取りながらも、リゾットの何も感情のない瞳と、その行動に激しく顔をしかめた。

「ったく、クソ極端な野郎だな。

誓うんなら、オレは何もしないぜ。その様子だと嘘をついてるようにゃ見えねぇしな。

まぁ、このナイフは少し借りるとするか。
攻撃じゃねぇ理由でな………」

そうして、プロシュートはそれを左手に持つと、その刃を己の右の親指に押しつける。
傷が生まれ、ぷっくりと血の滴が滴るその指をリゾットに向け、彼は続ける。


「己の血にかけて、誓うんだ。

誇りをかけた……、破れば死を意味する…な」

差し返される刃を受け取り、リゾットも同じように傷をつけ、
「…誓おう」
と親指を同じように差し出す。


そして二人は互いの傷付いた指をグッと押し付け合い、人間の尊厳をかけて誓いを交わした。

…破れば破滅を約束された、重い誓いを。


「……という訳で、よろしくとしようか、リゾットさんよ」
指の血を嘗め、浮かべる人の悪い笑み。
何か驚かせようと企むような。

「どういう意味だ…………」


プロシュートの黒さの混じった笑みにも、リゾットは警戒する気になれなかった。

それは、彼の美しく笑った顔がどことなくあの少女に似ていたからだろう。



「そりゃあ、挨拶しねえとなんねぇだろうよ。オレの上司になるヤツにはよぉ。




…プロシュートだ。
偽名はあるが、名字はとうの昔に捨てちまった。

初対面がタイマンとはとんだもんだったが、まぁ、よろしく頼むぜ」

「………お前が、そうだったのか…………」

僅かに眼を見開くリゾット。


「腕の立つ人間がくると聞いたが………確かに貴様は強かった。

あの拳は利いた…、火をつけた貴様のイカれぶりにも驚いた。とんでもないヤツだな貴様は……。


確かに……、あの顔合わせは最悪だった…」



「まぁ、お互い水に流そうとしようじゃねえか。


ああ、それとテメエがさっき言ってた残党云々だが、問題ねぇ。
オレを舐めてもらっちゃ困る。絶対気付かれるものか。


とりあえず、あの場でコソコソしてた野郎なら、即始末させてもらった事だしな…………足はついちゃいねぇ。大方、オメェ関係だろ?」




「……………。



お前は変わり者だ。
あの子と同じだな…」

「そうか?
そりゃあ誉め言葉と受け取っておくぜ。」





そして、ようやくお互いが醸し出す重々しい空気が消える。

その時、ドアが開きタイミングよくアマーロが帰ってきた。

プロシュートとリゾットのやりとりは少し時間がかかったが、アマーロはリゾットの為に、簡単なスープとパンを用意したり、新しい包帯や、退屈しないように兄の読んでる新聞を出したり、様々なものを引っ張りだしていたのだ。

「なんだよ、オメェ。そんないっぺんに持ってこなくてもいいもんだろ?」


大量の荷物でフラフラする彼女に、プロシュートは呆れながらもドアを開けてやり、荷物のいくつかを取って運ぶのを手伝ってやった。


「だって………、なるべく離れたくなかったんだもん」

頬を膨らませてアマーロはリゾットを見やる。

「よかったなぁ、リゾットさんよ。
随分なつかれてるじゃねえか。

コイツはすげぇ人見知りするんだぜ」

プロシュートはククッと笑い、リゾットの肩をバンバン叩く。

まだ怪我をしてる身だったので、それが正直、少々、かなり、結構彼には痛かったが、特にそれについては何も言わなかった。


「まぁ、休暇だと思うんだな。
テメエがある程度よくなるまで、いてもらうぜ。
逃げようとしたら、オレはテメエの完治期間をもっと伸ばしてやるよ」

「あの、ごめんなさい。

お兄ちゃん、いつもこうだけど、悪気はないの…」


やはり変だ。
こんなお人好しの兄妹など見たことがなかった。


それでも、二人には悪い気がしなかった。

だからリゾットは、しばらく無言になりながらも、ようやく


「………すまない。世話になる」
とだけ口にする。


アマーロがパアッと表情を明るくすると、プロシュートはほんのり(すでにこの時から)嫌な予感がしたが、その時は気にしないようにした。


それからアマーロの頭をポンポン叩いて
「コイツにスープを飲ませてやれ。
新婚さんみてぇにな」
と言い、彼女の顔をさらに真っ赤にさせる。

リゾットにも傲岸不遜な様子で指をさし

「…おい、リゾット。
断るんじゃねぇぞ。

そしたらその瞬間、オメェの給持係はその可愛い天使じゃなくて、関節技が好きな血に餓えた野郎に変わるからな」

と、意地悪く笑いかけるとタバコを吸ってくると片手をあげて部屋を出ていった。





















そしてプロシュートはカツカツと外へ出ると、誰にも見えない場所で、ちらっと己のワイシャツの胸ポケットを見やる。






「おいおい、オッサン。オメェ、泣いてんのかよ?」
と声をかける。


すると、プロシュートの胸ポケットから頭を覗かせたのは、刈り込み頭が特徴的なマッチ棒サイズに今は縮んでる男…ホルマジオだった。





「…へへっ。
オレぁ、涙もろくてな。

まぁオレ達の秘密にしてくれや」
と顔をガシガシ乱暴にこすりながら、彼はニヤリッとプロシュートに笑いかける。


それにプロシュートはズボンのポケットから取り出した煙草に火をつけながら
「…あんなまどるっこしい野郎だが、アイツはいいヤツらしいしな……。

いいヤツが上司っつーのは運がいいよな。
オレの前のヤツはろくなもんじゃなかったもんだから、ありがたいこった。


まぁオレ達で出来るだけ支えてやろうぜ」
と笑いかけ、煙草を口にくわえると、一息美味しそうに吸った。

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あきゅろす。
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