[携帯モード] [URL送信]
フーリッシュハートとダークスター3
プロシュート兄貴の天まで届く強烈なアッパーカット。
そうして変態は星となった………筈だった。

















「……トォおおッう!!!」

変態。
それはどこからか取り出したガーターを繋げた手製ロープを木にひっかけ身体を翻し!

パンストで作ったパラシュートによって、華麗に地面に着地するもの!!



残念ながら彼は案外無事だった。

そして口と鼻からダラダラ流れる血をべろりと舐めると、何がおかしいのかいきなり笑い出す。







「フフフフフフ……………。



うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ………!


ハッハッハッハッハッハ!!!

ハーーーーッハッハッハッッ!!!




ホーっホっホっホっホっホッホぉッ!!!



…オレさぁ!
障害があるとスッゲー燃えるんだよねっ!!だってご褒美って苦労した方が美味しいじゃないか!!」



鼻血をブッと噴き出してから、せっせと鼻にティッシュを詰めた変態は腰に手をあて高笑いをする。

この殺人的な人混みのなか、彼のいる場所だけがモーゼの十戒並みに避けられていた。





そう、この変態。並大抵の痴漢よりも悪質で、とてもしつこかった。

その後もアマーロが行く場所、どこへでも彼はいたるところでつきまとい、その度にプロシュートはどこからか飛んで現れては撃退していった。




『お嬢さぁあん!一緒にソフトクリームの舐めあいっこしませんかぁ!』

『テメェが舐めるのは便器の蓋だぁああああああ!!!!!』


『いやん☆急に熱くなってきちゃった。
君のせ い だ ぞ☆
(ババッと全裸)』

『そうか!それは大変なこったッ!!!!水でもブッかぶってろッッ!!!!!』
(園内の池のわざわざ水がない場所に放り投げてから、ジュースカートの水と氷ごとその上にドカンと叩き付ける)


『お腹がすかないかい?
ボクのでよければ………どうぞこれを
(股間からフランクフルトを取り出す)』

『まだ焼けてねぇのがあるようだなッ!!
こりゃえらくお粗末だぜッ!!!』
(股間に向けて、改造した巨大ガスバーナーの火を発射させる)


この他に、シャイニングウィザード、ジャーマンスープレックス、ベルリンの赤い雨、ビッグベンエッジ、OLAP(オラップ)を初め、一回くらっただけで常人なら心を真っ二つにする数々の暴力のフルコースをこの変態はくらってきた。

それでもメローネはへこたれなかった。

アマーロには不幸なことに、この変態には幸運なことに、
ぬいぐるみ着用でフカフカの手足のプロシュート兄貴の殺人技は、普段の威力より格段に劣っていたのも案外元気な理由だ。
…それでも、十分威力はある筈だが。


最後の力を振り絞るフリをしながら
「パンティー………………オラに、パンティをおくれ………」
とフラフラしながら、アマーロのスカートをめくろうと手を伸ばすまでに。
(その手はすぐさまプロシュートの打ち下ろしたゴミ箱によりブッ潰されたが)


何がこの変態にパワーを与えていたのだろう。




「…それは愛ってヤツさッ!!」


違う。ただのスケベ心だ。




さて、この変態。
いかに彼女の子供特有のやわらかい身体に触れるか、あのマショマロのような頬をスリスリしまくるかさくらんぼのような唇にチューをするか、

『あ……ッ、やぁ……っ…!やめて………』

『…やめて?

もっと、だろ?
このおバカさん☆』

とあの可愛らしい顔をゆがませて、身体をなでまわしまくってペロペロ出来るか、どうすればいいか考えまくった。

アゴに指をあて、ウンウン頭を悩ませる。


(とりあえず、あのクマが厄介なんだよな。
まずはアイツに気付かれないようにして、邪魔できないとこ、トイレなんかに連れていければ………フフフフフフフフフフフフ………おっと、これ以上の妄想は失血死しちまうな。気をつけろオレ♪


さぁて、

どうしたものか…………………)



その時、目の前にあるものが横切り、突如変態は閃いた。











(……こ れ だ!)






















ガンガンガン!!
バタン!ガチャ!!
スタッフルームの窓を全て閉め、ドアも完全に鍵をかけ閉じる。

「ハァ………こうすりゃ誰も来れねえだろ。

ブハッ!!
ダアァアぁああああああッ、クソ暑っちぃなオイッ!!」

ダークスターの着ぐるみを外し、はりついた髪を掻き上げて直接吸う空気を味わうプロシュート。

その姿は普段の小綺麗にしてるものと大分違っていた。

頭にはタオルを巻き、普段は綺麗に結ってる髪は邪魔にならないように一つのみつあみにしている。
その服装はと言えば動きやすいように上は白いTシャツ、下は黒いジャージと簡単なものだ。

前髪が下ろされてる姿は、妹のアマーロにはあまり珍しいものではなかったが、チームの誰かがそれを見たら彼は普段より若いと驚いたに違いない。

「…ったく、こんなだらしねえ格好、チームの奴らには見せられねえな。笑われちまう」
そうぼやく姿にアマーロはちょっと苦笑しながらも、小さなカバンから冷やしたタオルを出して汗だらけの顔をふいてやる。

「あともうちょっとだよ。がんばって!
はいジュース!!」

「ああ、グラッツェ…。
買ってきてくれたのか」

「うん、お兄ちゃん人一倍働くし!

コレ可愛いけど、息するのも大変そうだね。
お兄ちゃんじゃなかったら倒れちゃうよ」

「まぁな。
大分慣れてきたが。
おかげで、グレイトフルデッドの持久時間も伸びた気がするぜ。それはありがたいんだが。

何がキツイって重さなんだよな……思ったように動けやしねぇんだ」


誰も想像しないだろう。

可愛らしいクマの正体。
それが、汗だらけで髪がバサバサで、親父臭くスポーツドリンクをガブガブ飲みながらも、動作の全てが色気漂うとんでもない色男だという事を。


頭に巻いたタオルをとり、汗をガシガシ拭きながら、プロシュートは妹の様子をみる。

「…オメェ大丈夫か?

まさか、あんな21禁野郎がいやがるとは、神も思わやしねえよ………。
カップルとガキばっかの場所なのにな……」

忌々しげに殴り付けた拳を見つめ、ギリギリと握りしめる。

さっき『幻の右』もお見舞いすればよかったと軽く後悔しながら。



「う…うん。
大丈夫。
ちょっと、かなり、すごくビックリしたけど、お兄ちゃんがすぐやっつけてくれたから…………」

アマーロは自分の肩を抱いて遠い目をする。
あんな生理的に気持ち悪い、首の後ろから毛虫を放り込まれたようなゾゾッとする気持ちになる人種なんて、このかた会った事がなかったので驚いてばかりだった。


そんな彼女を見て頭を撫でる兄。
はぁああとため息をつき、飲み終わったカップをゴミ箱へ放り投げ、キレイにゴールさせた。


「すまねえな。
本当ならオレが付いててやりたいんだが…………、やけに忙しくてよ…追い払うのが精一杯なんだ…………」

「ううん!気にしないで!

…それよりも聞いて!
私、イルーゾォ君に怒ってるの!だってひどいよ!
ミラーハウスにいったら、そのまま帰ってこないんだよ!
ずっと待ってたのに、探したのに!

無責任だよ!!
リーダーさんからお兄ちゃんの様子を見てほしいって頼まれたのにっ。

あたし、それなら昨日無理言ってでも、ホルさんに連れてってもらえばよかった!

(本当は………リーダーさんと来たかったけど、お兄ちゃん怒るからね……)」


「ハァ!!
んだと…ッ!?





あっのクッソひきこもりの根暗童貞男がァアアアアアアアアッ!!!
女を待たせやがるとはとんだクソ最低野郎がッ!!
人の妹なんだと思ってんだ!!!!

通りでオメェ一人で来るなんておかしいと思ったんだ!!

アマーロ!
明日はヤツの家に襲撃するぞ!付き合え!!
オメーはヤツの鏡全部叩き割るんだッ!
逃げられねぇようタール漬けにしてからな!!

その間に、オレは……ヤツに……生まれてきた事を後悔させなくっちゃあなぁ…………ッ!!」

「うん!!!
今回は手伝うよ!
お兄ちゃん、凶器コレクション貸してね!
あたしホント!怒ったんだからッッ!」

この兄妹。
正反対の性格に見えて、何だかんだやはり兄妹なのであった。


「とりあえず、お兄ちゃんに会えたから、あたし帰ろうかな」

「そうしろ。
あのクソ野郎はまだいるに違いねぇ。

送るぜ。まだ休憩時間が残ってるからな…。
外に出たらオレが金出すから、タクシーに乗って帰るんだ」

「うん、わかった」







ーダンダンダンダン!

「おーい!!開けてくれーーッ!!」


急に聞こえたドアを叩く音。


「はぁ………?
んだよ、ったく………ッ。

おいおい、こちとら休憩中なんだがな…、時間外労働はお断りだぜ」

ドアに寄りかかりながらウンザリした様子で言うプロシュートに、ドア向こうの彼のバイト仲間の大学生が頼む!と必死に叫ぶ。

「その声はプロシュートさんだな!
いいから早く開けてほしいんだ!

アンジェロが……ヒーローショー前に熱中症と、たまりにたまったストレスでノイローゼになって、ぶっ倒れたんだ!」

「はぁああ…、モヤシっ子が。オレより薄い服着てるのにか?

3秒待ってくれ」


そう言って、時間がなかったのでダークスターの頭だけをかぶったプロシュートはドアを開けてやると、青年はそのシュールな姿にウオッと軽く悲鳴を上げた。

「はぁ……おどかさないでくれよ…。
それにしても、プロシュートさんって意外に若いし細いんだな。
首から下見るの初めてだ………」

「んな事どうでもいいだろうが。それにオレは鍛えてもそんなゴツくならねぇんだよ…悲しい事にな。

まあいい。
手伝うぜ、中に入れるぞ。
アマーロ!冷蔵庫から氷とビニール袋を持ってこい!」

「うんっ!わかった!!」

「あの子は誰だい?やけに小さいが。
プロシュートさんの娘?」

「ああ、アイツは妹だ。年が13才はなれてるがな」


「へぇえええ!そうなんだ!!


と!アンジェロを早く休ませないとな!!」


そして大学生とプロシュートは
「どうせ………おれなんか…………おれなんて………っ、ううっ!おれなんかーー」
と顔を真っ赤にしながらブツブツ言うアンジェロという二十代の男を救急車がくるまで熱中症の世話をする事になった。


彼は役者志望でこの遊園地にバイトで勤め、ヒーローショーのヒーロー『処刑人ビアンコ』という役を演じていた。


が、『処刑人ビアンコ』は
『悪いことをした子供はお仕置きされる』
というコンセプトがおかしな方向に暴走した末生まれたキャラである。

『彼』は悪人をあらゆる方法で処刑するというクセのある物騒なキャラで、悪人というのが子供が怖がらないようにと、また処刑する時のえげつなさを倍増させる為、ウサギやクマなどやたら可愛らしい姿をしてる為、

毎回のごとく『処刑人ビアンコ』を演じる人間は子供たちから
『いやぁああ来ないで!!』
『ひどい!最低!大嫌い!!!』
と泣きながら怖がられ、菓子を投げつけられたりヤジを飛ばされまくる運命にある。

アンジェロも、それによりだんだん精神をすり減らした挙げ句にノイローゼになり、更に、夏でも全身真っ赤な皮コートとロングブーツにサングラスに皮手袋のその暑苦しい服装が、彼にダブルパンチを与え、とうとうぶっ倒れてしまったのだ。


おかげで、今日のヒーローショーは中止になったと、オーナーが大損だとぼやいてたと、青年は話した。



「ねぇビアンコって、どうしてビアンコ(白)なのに、赤い服を着てるの?」

ふと疑問がわいたのでアマーロが聞くと、プロシュートは答える。

「ああ、赤いコートは制裁した奴等の血で染まってるんだ。

ビアンコっつーのは、死んだら悪事を白紙にしてやるって意味なんだとよ。
(服を血だらけにするなんて、腕は大した事なさそうだがな……)」

「う………っ、そうなんだ………。
(それって、すごく……聞いたことあるような………………………)」




そして救急車が間もなく着くと連絡を受け、大学生があとはオレに任せてと言ったので、プロシュートはアマーロを予定通りタクシーまで送ってやる事にした。






「うう…………、もっと遊びたかったな。
お兄ちゃん、今度は一緒に行こうね…」

「ああ、そうだな。
オメェの為なら、リゾットの野郎に無理言ってでも休みブン取ってやる」





突然出現したメローネのせいで、アマーロはあまり遊べなかった事に心底ガッカリしていた。
そんなションボリした様子のアマーロを見て、プロシュートも何だか可哀想な気持ちになっていた。








だから、この後の変態の行動も気付くのに一瞬遅くなってしまったのだ。

アマーロが記念に写真を撮りたいと言ったのも、仕方のないことだった。




[*前へ][次へ#]

9/49ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!