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フ―リッシュ・ハートとダークスター.2(プロシュート+メローネ)
「じゃ、先、失礼するぜ」
「は、はあーい。お疲れさま……」



それから六日後。

開園時間が終わり、スタッフルームからグッチのカバンと荷物を脇にかかえ、スタスタと歩きながらプロシュートはスタッフに挨拶をして帰っていった。





身長180cm程の可愛らしい紫のクマの姿で。

ドアノブに手をかけて、大きさギリギリのドアを上手い事通り抜けて。

そのシュールな姿に、スタッフ室でお喋りに花を咲かせていた女性スタッフ達とオーナーは、未だ戸惑いを隠せない様子で見送る。







「あのぅ、オーナー…」
「何だい?」
「プロシュートさんってどんな人なんですか?一回も顔を見せてくれた事がないんですけどぉ。
すっごい気になってー」
「あー、私もーそう思うぅ!
一昨日、私気になってあがるプロシュートさんを追いかけてみたんだけど!
彼、トイレに入ったらそのまま出てこなくて分からなくなっちゃったの。
出てくる人チェックしてたんだけど〜、なんか掃除のカートひいたお爺ちゃんしか出てこなくってー。
裏窓から逃げたのかなぁって」
「話してる感じだと、なんかゴツい強面のオジサンな気がするのよねぇ」
「あー、言えてるー。確かプロシュートさん、昨日コースターで座席から腕を振り回して暴れてた学生君を引きずり下ろして、ニーハイキックをくらわしてたよね」
「あたしも見たわよ。
女の子の髪の毛ひっぱったり、赤ちゃんにソフトクリームくっつけようとした男の子の襟首捕まえて何かを囁いたら、男の子が泡をふいてひっくり返ったの…」
「休憩室にあの格好のままで煙草を吸ったり水を飲んでたのよ…、どうやってるのかしら」
「あの格好で煙草………!!?
ちょっ、それ後でくわしく聞かせて!

ああ、とにかく。
まあオジサンか…。ああ、そうだね。確かにそうだ。
(言動はオジサン臭いよね)
何でも、彼ね恋人の束縛が強いらしくてね。凄く嫉妬深くてメチャクチャ怖いらしいんだ。
自分以外の女に顔を見せたら家の閉め出し、眼を合わせたら半殺しにされるらしい。

本人はまぁ………………一発屋の○○と、ドラマの…ほらよく開始五分で殺されてる俳優の○○○さんを混ぜた感じかな」

「そんな!かわいそう〜、てかあんな人を押さえ付ける彼女ってどんだけゴリラなわけ?」
「えぇ………〜、○○って微妙…」
「それに嫉妬するって、どんな目してんのぉおお?」
「きっと、その彼女さんには変な妄想でスクリーンがかかってるのよ。恋は盲目ってホントの話だったのね」
「ハハ……………………ははははははは………………。
(大変だ、盛りすぎた……。本当はアラン・ドロンと並んでも見劣りしない凄まじい色男なのに………」

勿論、全て真っ赤な嘘だ。

これはプロシュートが期間内にバイトを無事に終わらせられるように、ダンサーの女子が思ったよりも多い職場で女同士の殴り合いが発生しないように誤魔化してくれと、オーナーに頼んだからだった。


『そんな、バカな。だって、君は確かにカッコいいけど、ちょっとぉ〜自信がありすぎなんじゃないの?』

オーナーの訝しげな視線をチラッと見ながら、プロシュートは、あの後改めて選び直した着ぐるみ・通称『ダークスター』の黒いつぶらな瞳を布で吹いて輝かせたり、ほつれた糸を切って丁寧に縫い直していた。
紫の地に黒の襟、体には白の星と月が散らばる、常に笑顔の可愛らしいクマ。
このデザインも、彼はなかなか気に入っているようだ。

ダークスターの頭をなでなでしながら、淡々とした口調でプロシュートは言う。
『はあ…そうかよ。
オレは事実を言ってるだけなんだがな…。
ここの女達は気が強そうだから、やりかねねえと思うんだが。


別にいいんだぜ。
アンタがK1を生で観るより凄ぇもんが拝みたいってならな。



…動けねぇよう押さえ付けて何十発の往復ビンタくりだしたり、

ばさばさ髪を振り乱しながら引っ掻きまくって、傷でズタズタになって怒りに眼をひん剥いた化物ヅラを拝むことになっちまっても、

取っ組み合いで互いの顔にツバを吐きまくって、手の平をグリグリ押し付けて化粧をグシャグシャにしまくったり、

拳より蹴りを好んで顔と腹を狙ってくるとか、

「ブッ殺すぞ!!クソ緩股女が!!!!」
「テメエこそそうだろうが!!!!マ○ーフ○ッ○ー!!!!!!」
って長い髪をまとめながら叫ぶ姿を見たいんならよ……………………………………………………スゲェ迫力だぜ、ありゃ……………。

この時期に従業員が一気にいなくなるかもしれねぇのによ……。一人でもキツイってのに。
オレも出来るだけ手伝うが…、アンタも過労死するんじゃねえか?』

その時の乱闘を思い出しながら、プロシュートはあの人数ならきっと、このスタッフルームはリアルファイトクラブになるだろうなと思っていた。


彼はモテる。
その華やかな見た目と、乱暴者だが案外さっぱりした性格のおかげで。

その気になって声をかければ楽々と女は落ちるし、何もしなくても移動時に列車に乗れば、たとえ一般席にいたとしてもハイクラスの座席に通され、目の前にシャンパンを注がれ最上級の扱いを受ける程なのだ。

おかげで暗殺で潜入する時も困る事はなかったし、ターゲットが女の時は彼はキスの合間に容易く息の根を止める事も出来た。

ただ、彼が全くそのつもりがなくても、気の強い女同士が居合わせたなら戦いが始まる事も稀ではなかったのだ。


『これは実話だ。

ちなみに2週間前の話で、ナポリのバールの店員二人、ブルネットと赤毛の女で目は茶と緑、年は10代後半から20代で、赤毛の方は右耳に星と薔薇の軟骨ピアスをつけて、ブルネットはややソフィア・ローレンに似てて、オレとは全くの初対面だったんだ。

原因は赤毛が取りにいく注文を、ブルネットが押し退けようとして、どちらが聞きに行くかっつー、クッソくだんねぇもんだった。

嘘だと思うなら、その店教えてやるよ。不自然な位置にポスターが貼られたガラス窓とねじまがったパラソルに妙なハート型に刈り込まれた植木がまだある筈だ』

このバールの時は、野次馬だらけの乱闘を、横目で眺め、コイツらはなかなかパッショーネでも活躍出来るいい素材だと感心しながら、プロシュートは勝手に店のエスプレッソマシンを使い、コーヒーを何杯も飲みまくっていた。

ついでにこの勝敗は、両者クロスパンチによる同士討ちで引き分けに終わった。


『まあ…………正直後味悪ぃから見たくねえんだよ。オレも』


そううんざりしたように語る彼の背からは
『…てめぇオレの顔をバラしてみろ。即エーゲ海の藻屑にしてやる…』
と無言の圧迫感が漂い、彼はやる!と心の中で思ったらすでにやった!という凄みすら感じられた。

『…………分かった、君も大変なんだね。じゃあ他の子達には何とか上手く言っておくよ』
『ああ悪ぃな、頼む』
オーナーもパッショーネの末端にいる筈だが、何故か彼には逆らえる気がせず約束するしかなかった。

…そんな経緯があったりする。















変態の中の変態、メローネは蜂蜜ブロンドに明るいエメラルドグリーンの瞳がきらめく美少年だ。

彼は変態の本性さえ隠せば明るい人懐こい性格と見た目があるおかげで、その16歳という年にして、同じ年から年上の大学生のお姉さんまで派手に遊びまくり、この日も数人の女友達に誘われ、この遊園地にやってきていた。



「メローネぇえ、コーラ買ってきたわよぉー」
「そんなのより、チョコバナナのがいいよね!!
ほらこんな美味しいのよ!!
あ、いやぁ!胸に落ちちゃったぁ!!
メローネとってぇえ?」
「ねぇアタシ、今度観覧車に乗りたいわ。一緒に座りましょ!で、二人きりでいい事するの!!」
「ハァ何言ってんの!!彼は私と一緒に座りたがってるのよ!!」
「はぁ!!?アンタの妄想でしょ!!
てかアンタさっきからメローネにベタベタし過ぎてない!!?
何抜け駆けしようとしてんのよ!!」
「はぁああ!!?
何言ってる訳!!うおっとおしいんですけど!!」
「イタッ!!
テメエ殴りやがったな!!」
「オメェーこそ足踏んでんじゃねぇえよ!!!!この厚化粧女がよ!!!!」
「んだとコラ!!やるのかテメエ!!!!!!!!!!」


勃発する乱闘を横目にやれやれカワイイ奴らめと、額に手をあてフフンと笑うメローネ。

だが、すぐにフーッとため息をついた。
その仕草は非常にうざかったが、女性からすれば麗しくも見えた。




(ああ〜、この子達も可愛いけど、何か物足りないんだよな…………ぶっちゃけ飽きた。だって何でも言うこと聞くからな。
新しい刺激が欲しい……。

なんつーか、もっと違うタイプの女の子…。

もっと若くて、純粋で、うぶな子とか……………






むし……ろ…………小学生ッ!!?)








メローネにとって、自称運命。

完璧に彼以外には、全くありがたくない出逢い。

後に語る。
あれは恋に落ちる瞬間だったと。

















くるくる回るたくさんのシャボン玉、ポップコーンの雨、カラフルなキャンディー、虹色のリボンの背景。
愛らしい少女。












「…うわぁあ!
スッゴく可愛いッッ!!」

パアッと花のような笑顔を咲かせ、力いっぱいクマに抱きつく女の子。
純白の雪のような髪はフワフワとして、華奢な手足、サングラスごしから見える綺麗なこぼれ落ちそうな瞳。

人形を思わせる可愛らしい顔立ち、

小さな真っ赤な唇。



すぐ、
キスを、
したくなるような。




ーずざざざざざざざざざざざざざざざざざざッッッッ!!




「ねぇ君!!

どのキスが好きッッ!!!!?」


「きゃああああああああああ!!!!」




兄に会おうとやってきたアマーロの目の前をカニ走りで迫る金髪の男。

なんという一級のカニ走り。
土埃さえ巻く勢いではないか。
カニ走りの達人の中の達人、カニ走り検定があったら一級も余裕でとれるに違いない、それまでに口をタコの形にして猛スピードで迫ってきた全く初対面の謎の男もといメローネは、アマーロにとってあまりにも衝撃的だった。

手に大きなパソコンを持ち、何かをワメく姿は正に変態。



「あ…………あ…………………っ、やめて、やめてください!!」


アマーロは憧れのリゾットにしてもらった事もない肩を抱かれるという行為にも、恐ろしさのあまり震えまくるしか出来なかった。





ーボムギッッ!!!!

「タコス!!!」


プロシュート直伝の右ストレート以外は。


彼女は日々空いた時間に兄から受ける強制的レッスンによって、いつしか反射的にパンチが飛び出すようになっていたのだ。



『ふぇええん!!
もう疲れたーー!
ご飯食べようよーーーーーーーーーー!』

『駄目だ!まだキレが足りねえ!!
もっと腰を落とせ!!
殺気もまだまだだ!!!
相手の奥歯へし折る勢いでいくんだ!』










だが、この変態には意味のない事。



「うんいい!!
ディ・モールトいいパンチだ!!

君は最高だ!!」


「いやぁあああああああああ助けてぇえーー!!」








興奮した変態の迫る唇。

あわや彼女のセカンドキスが奪われようとしたその時、

(ちなみにファーストキスは、以前色々あってアマーロ自身がリゾットにしたものだったりする)



















ーメメタァッ!!!!!!!!!!






あっという間の出来事に、メローネは気付かなかった。

彼の顎を走る強烈な衝撃。








(すごく、いい………………………ベネ!!)


















「……ボラーレ・ヴィーア!!!!
クソ色情狂がッ」



遠くなる意識の中、空高く飛んでいくメローネが眼にしたのは、少女の前に立ちアッパーカットの形で腕をふりあげた愛らしい紫色のクマだった。






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あきゅろす。
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