ギミー・シェルター2(イルーゾォ)
カツ…………カツ…………カツ…………カツ…………。
鋭い爪先の磨かれた靴の音が、異常によく響き渡り近寄ってくる。
「ふあぁああ…………………っ!もう………ダメ……っ!
お兄ちゃんに殺される………っ」
アマーロは涙目になり、激しく震える。
「おい、しっかり…しろっ。
大丈夫…だって!
死には………しな……いはず………、多分な………ッ」
その背中を撫でながら、イルーゾォも携帯のバイブさながらに激しく震え上がっていた。
アマーロもイルーゾォも、死刑宣告は多分こんな気持ちになって受けるんだろうなと実感していた。
「……シュガーーーァアア、マグノリアァ?
あ?逃げるとはな…………。
素直に謝りゃよかったのにな。
敵前逃亡たぁ男らしくねぇなぁ。
まぁオメーは女の子だけどよ、そこは関係ねぇよなぁああ」
現れた。
爽やかな光の下、軽く着崩したワイシャツ姿に、色気を漂わせる天使のような美しい姿と、地の底から響く地獄の番犬も尻尾を丸めて逃げ出しかねない程のドスの効いた声を発しながら怒りに俯いて。
「わからねぇのか?
オレがよ、何もスーツが汚れちまった事に怒ってるんじゃねぇって。
あんな所に置いておいたオレが不用心だったし、こぼしたコーヒーはオレの為にわざわざ淹れてくれたもんだしなぁ…。
…素直に謝らなかったのにオレは怒ってんだ!!!!!!
見つからないようにごまかそうとしたオメーにオレは怒ってんだぜ!!!!!!
ミスは早く報告しねぇと戦いの場では命取りになるかもしれねぇ!!
ミスを隠そうとする根性じゃ、いざという時に覚悟が出来ねぇ!!!!!!
こんな些細な事からだがな、オレは分かって欲しかったんだ!!!!!!
なのにテメーは逃げやがって!!
この意気地無しがッッ!!」
そう雷のように吠えるプロシュートは、手にしたスーツを床に叩き付けると、鏡のすぐ横の壁をドスドス蹴りつけながら更に怒鳴った。
「どこにいるか分かってるんだ……!!!!
出てこいよ!!!!!!
今ならケツキック2発で済ませてやる!!!!!!
出てこなきゃ30秒毎にテメーのケツキックは5発ずつ増えていくんだぜ!!」
その鬼のような形相にアマーロとイルーゾォは手を取り合いながら飛び上がり、
「ひぇえええーーー!!!!」
と情けなく叫んだ。
「な……何がケツキック二発だ!
あんな怪力馬鹿に蹴られたら、腫れ上がってしばらく椅子に座れなくなっちまうに決まってる!!!!」
「うわぁああああっ、ごめんなさぁあああい!!!!!!
もうダメだぁああああああああああ!!!!!!」
パニックに陥る鏡の世界。マン・イン・ザ・ミラーまでが頭を抱えて震えまくっている。
(…………ハッ!!
びびってる場合じゃねえ!!)
あり得ない程に泣きじゃくりながら背中に抱きつくアマーロにイルーゾォは、何とかパニック状態から一時脱出した。
「…大丈夫。
オレが何とか話をつけてみるよ………。
ちょっと待っててな」
「うぅう〜……、イルーゾォ君、死なないで〜。
ごめんねぇえ、あたしのせいで…ッッ!!」
「だ……大丈夫。
多分、おそらく、きっと、大丈夫だ…………………な……?」
そうしてイルーゾォは鏡の面に触れると力を調節し、自分の姿だけをプロシュートが見えるように、姿を表した。
「…よお、色男。
やっぱりテメーが現れやがったか……」
肉食獸の舌舐めずりを思わせる様子で妖艶と笑うプロシュートに、イルーゾォの背筋がギアッチョの攻撃より素早く凍りつく。
「(や、ヤバイ…!!オレにも怒ってる)
よぉ…、プロシュート。アンタのが一億倍いい男だって。
あのよ…、アマーロの事、なんだけど、さ……」
声も内心もガタガタ震えながら、イルーゾォは言葉を紡ぐ。
なぜならプロシュートの言う
「よぉ色男」
とは、相手の顔面をボコボコにして腫れ上がらせる時の前置きの言葉だからだ。
「あのさ………、ちょっとお前厳しすぎだ。
アマーロも今あり得ないぐらいびびってるし、反省してるみたいだぜ。
ケツキックなんて……女の子なのにかわいそうだろ。
説教は仕方ないけど、それだけは許してやってくれよ……」
自分の顔面の心配をしながらも、そうプロシュートに言ってみる。
それを聞いたプロシュートはハンと鼻で笑いながら、鏡に片手をペタッとつけ、顔を近づけながら低く呻くように答えた。
「……本当なら、あのビビりの逃げる手助けしたテメーも地獄に叩き落としてやりてぇがな………。
オメーは巻き込まれた……、事故みてえなもんだ…。
アマーロもオレにはしにくい相談をオメーにしてるみてぇだし、オレのいない時にオメーはヤツの相手もしてくれてるよな。だから、テメーはいいヤツだ。
許してやるよ…………。
だがなぁ!うちの教育方針に口を出さないでもらおう!!!!!!
テメーにゃ関係ねぇことだ!!
それにヤツのケツはしょっちゅうオレがブッ叩いてるから丈夫になってる!!
ケツキック二発程度じゃ壊れやしねぇーー!
余計なお世話はテメー自身の命取りだぜ!
…このクソひきこもり野郎!!!!
分かったら、さっさとヤツを鏡から引っ張りだすんだな!!!!
オレは気が短いからよ!!許してやるって気が変わるかもしれねぇんだぜ!!」
そのあまりに無茶苦茶で傍若無人な物の言い方にも、ひきこもりという秘かに図星な言葉にも、アマーロの避けられないケツキックの運命にも、そのどれもがイルーゾォをカチンときさせた。
「な………お前!!
もういい加減にしろ!!!!!!
クソとか使って!」
そして絶対安全な鏡の自分のテリトリーにいたのも手伝って、イルーゾォはプロシュートに対しては珍しく強気になって怒鳴り出した。
「…オレ、前から思っていたけど、お前言葉使いが汚すぎだろ!!クソ野郎とか地獄に落ちろとか!!
女の子育てるのにそりゃないだろ!!
そんなヤツに教育方針云々語られたくねぇよ!!
たまには優しく諭すように話してやるのも大事なんじゃないか!!!!
それに、いつもお前偉そうにしてるけどよ!!!!!!
実際、オレがスタンド使えば、お前はオレに何も出来ないくせに!!!!
その気になれば、お前の寝首もかけるんだ!!
調子にのるのもいい加減にしやがれぇええええ!!!!!!!!」
そして、たっぷり落ちる恐ろしい程の沈黙。
(や……ヤバイ。
調子にのりすぎたのはオレ………だった!!?)
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そうかよ…。
そりゃオメーの言い分も間違っちゃいねぇかもな……。
……つい熱くなるとやたら口が悪くなっちまうんだよな…………オレの悪い癖だ。
まぁ血に餓えた野郎が女の子育てるにゃ、限界な部分もあるのかもな…………………」
憂いに満ちたように青紫の瞳を陰らずプロシュート。
そして彼は鏡から背を向けると、モデルのウォーキングのような歩みで足早にその場を去ってしまった。
その滅多に見れない表情と事態にイルーゾォはまさかの奇跡を考えた。
(………………え!!
もしや!あのプロシュートが!
考え直してくれたのかっ!!?)
(すごいよイルーゾォ君……っ!!)
ほっと二人と一人のスタンドは息をつく。
イルーゾォもアマーロもわずかな希望を感じたように思えた。
だが、それは単なる思い違いだった事に彼は気づく。
あの少し悲しそうな顔は演技だったのだ。
「じゃあ、これからどうしようか?アマーロ。
プロシュートが任務に行くまで時間がまだあるから、外へジェラートでも一緒に食いにいくか?」
「うん…。そうしようかな」
ーバサッ!!!!!!
急に鏡に覆い被さる黒い布。
ビリッビリビリビリ。ビリィイィイーーー!!
バツンバツンバツン!!ダンダンダンダン!!ダンダン!!
続いてガムテープをムリヤリ引っ張り出す音と、引きちぎったそれを叩き込むように貼り付ける音。
異様にパワーがこもっていて、鏡の中にいる二人は地震が起きたかのような揺れに再び震え上がった。
続くドカンという音、恐らく念には念を入れて、クローゼットを引きずり出してきたのだろう。
「ま……まさか!
あの野郎!!この鏡を防ぎやがったのか!!
様子が見れねぇじゃねえか!!
じゃあ、他の部屋の…バスルームの鏡から脱出して………………………」
「…念のためにな、
アジト中の鏡は全部ひっくり返すかグルグル巻きにしてやった……このアジトの鏡から出られねぇからオレのこれからする事は止められねぇし、たとえ別のどっかの鏡から逃げたとしてもよ、オメーが戻った時にゃすでに手遅れになっちまってて、オメーはショックのあまり指を噛み千切ることになるんだぜ………」
怒りを隅々まで滲ませながら、布越しの向こうからプロシュートは、重低音の音楽のような声色で囁く。
「な…っ、これからする事ってなんだよ!!意味わかんねぇよ!!答えろーーッ!!」
そう頭を真っ白にしながら、確かにどの鏡の出口も塞がれてるのを確認し、イルーゾォは絶望感に襲われる。
ククッ、そんな大した事じゃねぇ。拷問にくらべりゃ遥かに優しい事だ、とプロシュートは極悪な笑い声を響かせる。
「イルーゾォ、今日のオメーはすげえな。
お姫様を守る騎士(ナイト)気取りか……お美しいなぁ。泣けてくるぜ。ロマンチックな事だ。
オメー好きだよなぁ、そういうのがよ。
かくいうオレもなァ、こー見えてロマンチックなもんも可愛いものも好きだ……。
そうじゃなきゃ、こんな可愛い妹をここまで育てやしねぇだろうよ。
男はロマンを求めるし、女っつーのはきれいなもんにもロマンにも目を輝かせるからなぁ。
じゃあな、その鏡の中のロマンチストさんに、うす汚ぇ言葉遣いのオレがたっぷり浪漫込めて謎をかけてやるぜ。耳かっぽじってよく聞きな」
(まずい……………まずい…………!!何か、ガチで怒らせたッ…………!!)
その予感は確かに気のせいではなかった。
紙をゴソゴソさせ何かを取り出したようなプロシュートは、それを鏡の前に置く。
ゴトンというボトルのような音。
黒布のせいで何が起きてるが全く分からないが、果てしなく嫌な予感がした。
そして不意に響く、プロシュートの声。
極上の酒のような響き、聞いた女性は腰を砕いて倒れ込む威力確実の甘い声。
「『…さけはくちより入り
こひはまなこよりす
老い果て死なむ前(さき)に
得さとらむ事これのみ
盃をくちにかつ触れ
君を見て嘆かふ我ぞ……』
コルヴィーナ、ロンディエッラ、ヴェローナ北部、アーモンドの香り、ロミオとジュリエット……………お前なら分かるよな? 」
次に聞こえたのは、さらさらと鎖の音とカチカチという規則的な音。
「『いとしい女(ひと)は裸体だった、しかも、私の心を知り抜いて、
音高く鳴る宝石だけを身につけていた。
その絢爛豪華なよそおいの、誇らしげな姿と言えば
幸福の絶頂にあるモールの女奴隷を思わせた。
ゆらめきながらそれが鋭い嘲るような響きを立てると、
金銀細工と宝石の この輝きわたる世界を前に
うっとりと心を奪われ、狂おしいほどに私は愛する
それら 音と光がまじり合っているものたちを…』
蝶、蝙蝠、美女の横顔、蛋白石(オパール) 、銀の鎖、19世紀、アールヌーヴォー……………何だろうな?
」
「『(マントの抜い取りを)飾るのは真珠ではなく、すべて私の涙』
『私はひそかに秘密の花を摘む』
『謙譲はスミレの美徳』
『過ぎ去りし苦しみの葉』
『好かれようと気にかける
それは私の気がかり』
『よどんだ暗がりから逃げ出せ』
『私は世界が水面より出で生じ、海から離れて貝の化石が横たわるのを見た』
キンセンカ、菫、縞メノウの質感、ランと蜘蛛、失恋した詩人の涙……。
あぁ、ここまで言えば分かるよな?ん?オメー、あん時必死だったからな…」
「まさか………………………!!!!まさか嘘だろ!!!!
うわぁああああ!!
それ、全部!オレの大事なもんだよなぁああーー!!
ナターレ用に取っておいたワイン!!
アンティークの時計!!
あとアレ!お前とオークションに行った時に苦労して競り落としたガレの花瓶のミニサイズレプリカだろーーッ!!!!」
一気に噴き出す涙と脂汗。
そうだ、今プロシュートが滑らかな発音と美しい声で唱えたイェイツの『酒ほがひ』やボードレールの『悪の華』のそれらの詩は、アンティークが好きで美術館にもよく行くイルーゾォが大事にしている物の暗示だったのだ。
最後に唱えた言葉はガレの花瓶の『物言うガラス』シリーズの作品にそれぞれ書かれているもので、それまでの暗唱を聞いてまさかと思った彼もそれで確信した。
このガレの花瓶、レプリカとはいえ当時と同じ方法で忠実に作られており、非常に美しくてアマーロも目を輝かせて眺めていた、そして、決して安くないものだったのだ。
「そうだ、クソ野郎。
オメーの大事な大事な大事なコレクションだ………、オレにとっちゃあどうでもいいもんだがなぁ、酒以外ッ!」
ーキュポンッ。
栓を開ける無慈悲な音。
続いて、ゴキュゴキュと中の深紅の液体を飲み干すプロシュートの喉の音。
「……ぷはっ。
んだよ、思ったより旨くねぇな」
………カランッ。
「うわぁあああああああああァアア!!お前!!飲んだな!!
よくも!よくも!!
うぅう酷い!!酷すぎるーーーッ!!」
もうイルーゾォの涙腺は完全に崩壊した。
ひどいひどいあんまりだと、某柱の男を思わせるばりに泣きじゃくった。
「おいおい、まだ終わっちゃいねぇんだ」
それに追い討ちをかけるように、ズリズリわざと聞かせる重いものを引きずる音。
「今度の襲撃に備えてよ、オレァそこのホームセンターで買ってきたんだ。
でっかいハンマーをな。どんな鉄板も凹ませられるように、ヘルメット被ってるヤツの脳天叩き割れるように、いいヤツ選んでよ……、結構高かったんだぜ。」
それはつまり、残りの物の運命を示唆する言葉だった。
「あとよ、本気出しゃオレは何も出来ないっつーてたよな。
笑わせてくれるぜ……………持続力Dのくせに……ッ。
鏡が無きゃ、すぐヘタレるくせに…。
よし、決めた…。
このまま強情張る気ならな、オメーの能力が解除された瞬間に、この前漫画読んで覚えた殺人技叩き込んでやるよ…………。オレはしつこいからよ、逃げても必ず!追い詰めて決めてやる……っ。
さあ、どれがいい!!!!!!
『地獄の断頭台』!!!!
『タワーブリッジ』!!!!
『パロスペシャル』!!!!
好きなヤツを選びなッッ!!!!!!!!!!
特別サービスで全部!!って選択肢もあるんだぜ!!!!
じっくりたっぷり決めてやる!!!!
…さあ………、まだ頑張る気か。
あ?今ならまだ間に合うかもしれねぇなぁ?お優しいイルーゾォさんよぉ…」
「うぅ………ちっ、畜生ぅ…………!!
アンタ、ひでぇ!!
もぅ人間じゃねぇよ!!
オレたち仲間だろ!!
情けっつーのはねぇのかよぉお………」
「ねえなァアア!!!!!!!!!!そんなもんッ!!!!」
どんどん深みに陥る絶望感。
もうイルーゾォはどうしたらいいか、しばらく頭が真っ白になってしまった。
「うぇえっ!イルーゾォ君!!ごめんね…………ごめんなさいっ。
ごめんなさい!!」
その時、アマーロが更に大声をあげて泣くのをイルーゾォは聞いた。
「う…………、行かなく……ちゃ………………怖っ、…………うぁあああ怖いよーーーーッ!!」
イルーゾォを見て、自分が出ようとするも、それでもアマーロは怖くてたまらなかったのだ。
行かなくちゃ。
でも怖い。
行かないと、自分をかばうイルーゾォにもっと迷惑をかけてしまう。
でも、外のプロシュートのブチ切れぶりに何をされるか分からない…どうしよう………もしかしたら尻を百叩きされた後、本気を出して拳骨をされ耳から脳ミソが飛び出すかもしれない。もしや、イルーゾォと一緒に殺人技の実験台にされるかもしれない。
そんなあり得ない恐怖のビジョンも思い浮かぶ。
そのアマーロの気持ちが、イルーゾォはその様子を見て瞬時に理解した。
「う…………ぐすっ……………っ!?」
頭を撫でる手。
だくだく泣きながらも、その眼は強く光っていた。
「…泣くなよ。気にすんなって……。またお金を貯めて買うからさ……」
そうしてイルーゾォはだらしなく流れた自分の涙をぬぐい鼻をすすりながら覚悟を決めた。
(アマーロ、君と話してると、どんな酷い任務後でも罪悪感も忘れられて、和まされるんだ。
だから、ささやかでもその礼をするぜ…)
震える声でプロシュートに向かって叫ぶ。
「うぅう………っ、ちくしょおぉ………もういくらでもぶっ壊しちまっていい!!!!
やれよ!!!!!!
やればいいだろ!!!!
やっちまえよ!!!!
だから!!
せめてアマーロがお前に謝る覚悟決める時間くらい!
せめて与えてくれよぉ………!!!!
いいだろっ!!!!!
頼むぅううう〜〜〜!!!!!!」
叫ぶと言っても、それはそれは情けない声で喚くというのに近かった。
だが、それでもイルーゾォの覚悟が、たとえ自分の大事なものを壊されてもアマーロを守ろうとする気迫を、プロシュートは感じ取った。
フウッと吐かれるプロシュートのため息と、フフッと笑う声。
「はん!情けねぇツラですぐ泣くくせに、やる事は完璧にこなすし、譲らねぇもんは譲らねぇよなオメーは!!!!
…だからオメーは頼りになる、最高にいい男だ。オレはそんなオメーが好きだぜ」
そうして、緊張感は一気に解放された。
「じゃあ、オメーに免じて十五分待ってやるよ。
覚悟を決める時間をな」
そう言うと、クローゼットをどかす音と黒布のテープを剥がす音が聞こえて、バサッと布をはためかせながら現れた普段の表情に戻ったプロシュートが、二人の視界に入った。
その様子にひとまず最悪の事態は逃れたとイルーゾォは一息ついた。
「おい、シュガーマグノリア」
鏡に見えるイルーゾォとアマーロを目にしたプロシュートは、アマーロを指差しながらこう言った。
「『…お前は、短刀の一突きのように、泣き声立てる俺の心臓に食いこんだ。
お前は、魔物の一団のような力強さで、やって来た、狂おしく身構えて、
恥辱にまみれたわが精神をお前の寝床と領土にするために。
…恥知らずめ、俺がお前から逃れられないのは囚人が鎖につながれたよう』
オレの可愛い吸血鬼。ちゃんとそのヘタレに礼を言うんだぜ…。
あとな、
もし15分経っても来なかったら、
……オレはテメーを公開処刑された方がマシなくらい恥ずかしい目に合わせてやる!!
もちろん15分経過後は30秒ごとにケツキックは増える!!
分かったな!!返事は!!!!」
「…………ッ、はっハイッ!!!!」
「よぉし、いい子だ……………」
……漸く嵐は去っていった………………………。
「とは言っても………………なかなか、難しいよなぁ………」
静かな鏡の世界で、イルーゾォはハァとため息をつく。
まだ彼の胸にはアマーロがしがみついて、
「頑張らなきゃ……………、でも……………、うぅ………、早くいかなきゃ…………ああ、時間がない………」
とぐずぐず悩んでいるのだ。
そのヘタレぶりだからこそ、イルーゾォはアマーロを尚更他人のように思えないのだろう。
可愛い妹のようなアマーロ。
とりあえず、怒りが一旦おさまった今のプロシュートの元へ謝罪しに行くのが一番だと判断した。
「なぁ、分かるよ………。
覚悟ってそう簡単に決まらないよな。
ましてや、お前の兄貴はあんなとんでもないヤツだし…。
本当、大変だよなぁ…………」
背中を撫でてやる、安心させるよう。
「でもさ」
一字一字はっきりと言葉にして、アマーロに語りかける。
「お前、リーダーのお嫁さんになりたいんだろ?
ギャングの、最も危険な仕事の、殺し屋の。
リーダーはある意味プロシュートより凶暴なヤツだし………………。
まぁお前が大好きっていうんなら大丈夫だとは思うけどさ。
とにかく、
リーダーのお嫁さんになりたいんなら、これぐらいの、プロシュートの説教くらう覚悟くらい持てるんじゃないか?
そうだろ?」
その言葉に、アマーロはハッとしたような顔で、バッとイルーゾォの胸から顔を上げた。
「……うん。
そうだよね………。
そうだよっ!
あたし、リーダーさんのお嫁さんになりたい!!
それに比べたら…………………、
分かった!!
行ってくる!!
じゃあ、外へまたお願いっ!!
ありがとう!!!!」
その立ち直りの早さに、
(アマーロには、リーダーって言葉が一番効くんだな)
とイルーゾォは笑いつつも、その手を掴んで、二人は一緒に鏡の外へ出た。
「あ、アマーロ。説教多分一時間くらいだろ?
そしたら、またオレの部屋に来いよ」
「…?わかった」
「あ、オレの酒瓶………。
せっかく大事にしてたのに………うぅっ……………ん!!?
アレ!封が開けられてないじゃないかよ…………………。
あ、この空き瓶…………………。
なんだ………、ミネラルウォーターだったんだな、さっきアイツ飲んだの。
はぁ………よかった。他のも無事そうだ……」
そしてきっかり一時間後、自分の仮眠部屋で例の瓶と時計をしまうのに丈夫な鍵つき金庫を買おうとイルーゾォがパソコンをチェックしていると、アマーロが帰ってきた。
またぐずぐず泣きながら。
「うぅ……………………痛かった。
でも、お兄ちゃんケツキック一回にしてくれたよ………………」
それに苦笑いしながらもイルーゾォは頭をガシガシ撫でてやった。
「ようしエライ!!よく頑張った!!
じゃあ、ご褒美がいるな。
オレの部屋来いって言ったのも、そうしようかと思ったからなんだ」
「……ご褒美?」
「ああ、お前はきっと喜ぶぜ」
そしてイルーゾォが机から取り出したのは、美しい金細工と螺鈿の装飾の鏡。
これも彼お気に入りの鏡の一つだった。
「これから任務が終わったリーダーを迎えに行く手筈なんだ。
さっき連絡が来てさ、全部終わったから待ってるって。
だからよ、一緒にリーダー迎えに行ってやって、三人で飯を食いにいこうぜ」
「………ホント!!!!リーダーさんに会えるの!!
やったぁああああ!!!!イルーゾォ君ありがとう!!!!大好き!」
強く抱きつかれ、沢山のキスを頬に受ける。
前半は主にプロシュートのせいで死ぬほど恐ろしい目にあったが、アマーロの笑顔を見たら、今日はそんなに悪い一日じゃなかったなとイルーゾォはそう思えた。
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という訳で、アンケート3位のイルーゾォ夢………でした。
でもごめんなさい。
彼のヘタレとびびる様子を出そうと出した兄貴がかなりでばってましたね。申し訳ない。
そして私は兄貴をどうしたいんだ?
今回のタイトルは、ローリングストーンズの名曲『ギミーシェルター』。
『シェルター!!シェルターはどこだ!!?』ってノリで聴いてる格好いい曲です。
あの叫びまくるサビはカラオケじゃとてもとても歌えない内容ですが。
あと、雰囲気というよりシェルター=イルーゾォというだけで、これを選びました。
あと兄貴が最後夢主に言ってるのは『悪の華』の『吸血鬼』って詩です。
自分は何があっても見捨てられないくらい夢主を愛してるんだという意味で捉えて下さい。
それでは、アンケートご協力とコメント下さったお二方ありがとうございました!
前回のリーダー夢『Sweetness』で言うの忘れてました…。
というより、先日思ったんですが、それぞれのキャラに、リーダーやイルーゾォにコメントや投票をして下さった方は、お礼によかったら差し上げます。
それでは、ご協力と応援ありがとうございました!!
2013.8.17(土)
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