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ギミー・シェルター(イルーゾォ)
鏡のイルーゾォ。

彼は、手足が細く風が吹いたら倒れそうな頼りなさげな姿をしているが、大変頼りになる青年だ。


彼は東洋系のイタリア人のせいか、随分若く見られがちだが、実際の年はホルマジオやリゾットと大して変わらず、比較的大人しい性格ながらも、暗殺も事務もよく出来た。
(彼がチームに来る前は若造のくせにと舐められることも少なくなかった)


彼の能力『マン・イン・ザ・ミラー』は汎用性が広く、大変活躍していた。

目撃者0の静かな暗殺、気付かれずに行える諜報活動、死体の運搬や隠蔽、スタンド能力での実際の戦闘訓練の場の提供、またチーム全員で行う作戦時の完璧な防御要員として。


リーダーのリゾットからも
「お前がいるおかげで、随分助かってるんだ。
感謝する。
お前がいたから、俺達も怪我をする回数が減ったんだ…」
と言われる程だった。

そう信頼されるのがイルーゾォにとっては何より誇らしくて嬉しい事だった。

確かに最初配属された頃は、致死率が高くチーム内は殺伐してすぐリーダーに使い捨てられると、元同僚から哀れみと蔑みを込めて言われたせいで絶望的な気持ちでいた。

ところが実際いくら危険な眼にあっても、このほぼ無表情だが情のあるリーダーについていく事も、同じスタンド使いで気のおけない、酒を飲んで騒げる仲間がいるこのチームにいれて、彼は本当によかったと心底思っていた。



















「『ホワイトアルバム!!ジェントリーーーー・ウィーーープス!!!!!!』
てめぇら全員蜂の巣だぁあああああああ!!!!!!!!」


「フフッははははははーーッははははは!!!!!!!!!
クソ雑魚どもが!!なめやがって!!
そんなしみったれた装備で!そんな人数で!オレ達に勝てると思ったか!!能無し屑のクソ共がッッ!!!!」

「オレも!オレも手伝うーー!
ギアッチョ、ちょっと氷作っておくれよ!
プロシュートのジジイ!!そのマシンガン借りるぜぇええええ!」









「やばい!!プロシュートが………グレフルを出しながら、手榴弾とロケットランチャーを使いだしたぞ!!

容赦しなさすぎだろ!!イルーゾォーー!!オレも入れてくれーーーッ!!殺されちまうぅうううー!!!!」

「うわぁああああっ!!爆発オチかよーーー!!!!!!また!建物が崩壊だぁああああああああああ」

「…………ハァ。
(……やりすぎだろ……お前達………)」




コンコン。


「あ…お前らか。ほら、来いよ」

「(ニヤリッ)」
「(ニヤ)」

「おいおい、あん中怪我ひとつ、焦げ一つないなんて、スッゲーな。お前ら」

「グッ(←親指立てる)」
「ふふふんッ(ソルべを見ながら微笑む)」

「ああ……ソルべが守ってくれたのね。
よかったなぁあ、ジェラートさんよー」

「…………。(やっぱりデキてるよなぁ、この二人……)」












…たとえ、こんな事が珍しくなくても。




















ある日差しの眩しい日のこと。

イルーゾォが任務後アジトで仮眠を取った後、顔を洗って髪を結び直してから、玄関前の大きな鏡の前で身支度をしていた時のこと。


今日は実に爽やかな天気だ、いい一日になるかと思っていた。







「…イルーゾォ君、助けてーー!」
背後からパタパタと足音を響かせて、アマーロが情けない声を出しながら走り寄ってきた。


「どうしたんだ?
泣きそうになってよ」

そう問いかけるイルーゾォに、アマーロはブンブン頭を振りながら、彼の背後に隠れて叫ぶ。

「お願い!かくまって!鏡の中にいれてェーーっ!

お兄ちゃんのお気に入りのスーツにコーヒーかけちゃって………………、





お兄ちゃんカンカンなの!!」






「……なッ。




なんだってぇええええぇええええーー!」



彼の肝はありえない速度で、急激に、急降下で冷えまくった。









なぜならば、アマーロの兄、プロシュート。

彼は、豹のようなしなやかな手足にスーツを完璧に着こなし、
やわらかく純金を思わせる丁寧に結い上げた髪、
愛の言葉を口にすれば道行く女性の五人はため息をついて気絶する低く甘い声に、
金の扇を思わせる睫毛の下には菫色の宝石のような瞳を持ち、その視線は常に色香を放つ、実に美しい青年だ。
色男と呼ぶにふさわしい男だった。


だが、その華やかな姿とは裏腹に、彼は非常に乱暴者だった。

あの敵味方関係なく全てを平等に老いさらばえさせる凶悪な『ザ・グレイト・フルデッド』というスタンド。

さらにスタンドがなくても本人も充分過ぎる程強かった。


怒り狂って壁を殴れば、コンクリートだろうが煉瓦だろうが、殴った形に後が残り、そのヒビは天井まで走った。

親指と人差し指だけで大きなコインも一気にねじ曲げたし、素手で林檎を握りつぶす事など彼には朝飯前だった。

逃げるターゲットを追いかけて、地を蹴りながら飛び上がって繰り出した痛恨の蹴りは、背骨と共に命を粉砕した。

あらゆる銃器を使いこなし、その場の色んな家具や物を武器にして、相手をボコボコのタコ殴りにした。

任務時、いくら相手が無装備であろうとも、頭をぶん殴ってから、全身マシンガンでボロ切れの方がましな程穴だらけにして、残りを手榴弾でぶっ飛ばし、更にその残りを数メートルの穴に深く埋めて煉瓦で埋め尽くすと、火をつけて燃やしまくる……………それくらいに徹底的に行なった。

1くらえば50はやり返し、更に三倍はおまけの反撃をして、相手が生きるのを後悔するような思いをさせた。

町のゴロツキが気に入らなくて、彼等相手に行なった腕相撲五十人抜きの時は、テーブルに瓶を叩き割ってガラスまみれの中、顔色ひとつ変えずに全員に勝ったという逸話がある程だった。(このうち、彼が老人に化けてる時親しくしてた近所の老婆に、暴力をふるって金を奪ったタトゥーまみれの少年だけは腕の骨をバキバキに砕いて、腕を引きちぎったらしい)


そんな存在自体が無茶苦茶で凶暴な男だ。

それを相手に、この場で直接相手にするなんて、体術の自信もないイルーゾォにはとうてい無理な話だった。

このままアマーロを置いて鏡に飛び込む選択肢もある。それならプロシュートの怒りをくらわなくて済むからだ。

だが、彼は涙目でふるえるアマーロを見ても、そんな考えはなかった。


(…はぁ。後が怖ぇけど仕方ないな…………。)


イルーゾォはアマーロと仲がよかった。

それはアマーロが年上の彼を『イルーゾォ君』と呼んでも許してるように。


『イルーゾォ君………、リーダーさんが怒ってるのかなぁ。
何か不機嫌にみえるの…』

『違ぇよ。ありゃ、眠いだけだ。
リーダー、3日連続ギアッチョの始末書書いてて完徹してたみたいだぜ。
紅茶入れてやって、アイピローを用意したら膝枕してやったらどうだ?喜ぶんじゃないか』

『え……っ、膝枕!
いい……かも………!…………ああっ、でも恥ずかしい!
だから、紅茶とアイピローはやってみる…』

彼はアマーロのリゾットへの恋の相談をよく聞いてアドバイスをしてたし、ファンタジーでメルヘンな某高校生が言ってたようなその能力からしても、ロマンチックな物が好きで、彼女と話が合ったのだ。


ちなみにこの相談の後、アマーロは膝枕はしなかったが、リゾットは彼女の気遣いに嬉しそうな様子を見せた後フラフラしながら彼女の腰に巻き付いて、気持ち良さそうに眠ったらしく、アマーロもリゾットの髪の毛を撫でながら一緒にソファーで眠ってしまったらしい。

その後二人で目を覚ました時に
「悪いな、ありがとう……アマーロ」
と少し掠れた低い声でお礼を言われたらしく、死ぬほど心臓に悪かったと本人は言っていた。


とにかく、イルーゾォはアマーロを友達や妹のように可愛いと思っていたのだ。

















「『…マン・イン・ザ・ミラー!!
アマーロを鏡の中へ許可する!』」


だから、イルーゾォは冷たい鏡の面に軽く触れると、己のスタンドの名を呼んだ。

その触れた面は水面のようになると銀色に輝いて波打ち、鏡の世界の向こうから彼のスタンドがボウッと姿を現し、アマーロの手を取って、鏡の中へ誘う。


そうしてイルーゾォはアマーロをかくまってあげた。







まもなく訪れるだろう恐怖の男に心臓をバクバクさせながら。






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