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スイートネス
酷い風邪をひいてしまった。

たまたまその様子に気付いたペッシは、すぐアマーロの身体を慌てて持ち上げてベッドに運んでから、プロシュートを呼んでくれた。

プロシュートは直ぐ様現れると、アマーロに大量の毛布を叩き込むように重ねながら薬を飲ませると、トイレ以外は一歩たりともベッドから出るなと額にキスをしながら言いつけて、再び任務に出かけていった。

家に帰る前にイルーゾォは、アマーロが退屈じゃないように自分が愛用してるラジオと一緒に雑誌を置いてってくれた。

ホルマジオは簡単なもんだがと言って、卵を落としたパン入りのオニオンスープを食べさせてくれた。

メローネは
「寂しいだろ?
オレが添い寝してあげる」
と両手をガバッと広げて突進しそうになった。
気持ちだけもらっておいた。

ベッドに飛び込む寸前のメローネを足をひっかけて阻止したギアッチョは、ホワイトアルバムで氷を作り額に冷やしてくれた。

そして、しばらくするとまたズカズカ足音を響かせながら、やって来て、
「これぐらいなら、貧弱なお前でも食えるだろ」
と、苺にレモンに葡萄と色んな果物の氷をぶっきらぼうに差し出してくれた。



そうした後、頭がぼうっとして何度も眠っては目が覚めて、また眠ってと繰り返すうちに、夕方近くになっていた。

気分は少し楽になっていたが、何だかとても寂しくて、ベッドの中でポロポロと涙が出てしまった。





(リーダーさん……………………っ)

熱に浮かされた頭に浮かぶのは、大好きな人。

任務でいない時も感じているが、身体の弱った今はなおさら寂しさを感じる。
無事に帰ってきてくれるか、心配も一層つのる。


(大丈夫かな…………、リーダーさん………)


金色の髪からのぞく自分だけに見せてくれる優しい眼差しも、
困ったように笑うくせも、
痛くないよう少し遠慮したように抱き締めてくれる腕の中も、
羽のように軽い額へ落とすものも、腰が砕けそうになるくらい情熱的に落とすキスも、今はいつも以上に全部恋しくて、たまらなかった。






(リーダーさん……………リーダーさん、



会いたいなぁ…………)





天井の丸い灯りが涙でかすむ、ハアハア苦しく息をはきながら、右手を天井に向けて、心の中で名前を呼ぶ。

(…リゾット……………)
















「アマーロ」



アマーロの伸ばした手は、横から伸びた不器用だけど優しい手がベッドへ戻した。

そして、頭をさらりと撫でる感触。
金髪からのぞく、やわらかな碧玉の眼。






「リーダーさん…………っ」

なんて嬉しいタイミングなんだろう。

ああ、どうしてこの人はいつもいて欲しい時に側にいてくれるんだろう。


「大丈夫か…、辛そうだな。氷を変えてこよう」

部屋を出てこうとしたリゾットのコートの裾をアマーロは強くにぎったまま止める。


「ううん………っ!どこもいかないで。今は、ここにいて」

今日だって立て続けの任務で疲れてるだろうに、間をぬって自分に会いに来てくれたリゾットがとても嬉しかった。





「もう……大丈夫っ。……すぐ、元気になれる……っ」

そう言って、アマーロは花のような笑顔を浮かべた。



















「眠れるか?
俺が任務に行くまで側にいようか?」


「…本当に?」

頬を薔薇色に染めて、彼女は笑う。
硝子瓶の内側からローズクォーツの火が灯るように。

手を握って欲しいと、タオルケットからそっとその細い手を出してきたので、痛くないように握ってやる。


燃えるように熱い。

リゾットの体温の低い冷たい手を気持ちいいといって、アマーロは目を潤ませながら笑っていた。


「幸せ…っ。
ありがとう………………。

私、リーダーさんがいてくれれば元気になれる………っ」


何と答えればわからなかったから、眉を少し寄せて困ったように笑う。
それにアマーロはフフッとくすぐったそうに笑った。


「…ちゃんと薬は飲んだか」

「うん、お兄ちゃんが鼻をつまんでムリヤリ押し込んできたの。苦かったぁ…」

「アイツらしいな。
だが、なら良くなる。もう寝るといい」

「あの、もうちょっと話がしたい…です…」

「無理をするんじゃない。

…長い任務だが終わったら俺も休みだから、どこか行くか」

「…ほんとっ。嬉しい…!」

やがて、その長い睫毛が紅色の瞳を少しずつおおいかくし、うとうと気持ち良さそうに微睡みだした。

今夜はきっといい夢が見れると言いながら。


自分が来るまではあんなに苦しそうだったのに、これは少しは自惚れてもいいのかと思ってしまう。





「リーダーさん…」

「…どうした?」


ゆっくり眠りに誘われながらも、その花のような唇で彼女は小さく呟く。



「ううん、呼びたかっただけ…。
幸せだなぁ……って。







リーダーさん、

……リーダーさん、











リゾット…………。









貴方が、好き。

大好き………。




お願い。

こうやって手を握っていて…。私が…、おばあちゃんになっても。

一緒に、いて………………」





ただひたすら告げる彼への想い。

彼女が向ける愛情は、その姿と同じで、愚かなほど無垢で、ほのかに甘い。


心地よく響く甘い声。
絹色の肌に薔薇色の頬。
雪色の睫毛が飾る紅玉の瞳。
怒っても泣いても笑っても、全てが綺麗で可愛らしくて。

そこにいるだけで、その場がフワッとやわらかな甘い空気に変わる。

その寝具にふわりと散らばる純白の髪は、マグノリアの散った花びらを思う。
白鳥の翼。
砂糖菓子の甘さ。どうたとえても、たとえきれない。
それほどまでに彼女は、非現実的に、その白い肌と共に、幻めいた美しさを持っている。

けど、それでいて、今この握りしめた手からは感じるのは、ただ一つ生の温もり。人形ではない生きる強さを感じさせる。


(お帰りなさい…!
怪我はない?
よかったぁ…、ちゃんと帰ってきて)

温かなその華奢な身体で抱き締めてくれる。いつだって。

(あのね、みんなたまたま揃ってるの。
一緒にご飯食べよう!)

どれだけ冷えきった心でいても、彼女が抱き締めてくれただけで全て溶かされて、ああ俺は幸せだとリゾットは何度思った事だろう。

(リーダーさん、好き。大好き)

そして元気になって目が覚めれば、またあの美しい真紅の瞳が自分に笑いかけてくれる。


「もう寝るね………………。
お仕事、気をつけて」

それでも、また自分が帰るまでは、今しばらく、目覚めないで欲しかった。


「…あとね、聞いて……。

いつも…言ってるけど………」

最後にその眼に映したのが彼の姿だから。





「……貴方を、愛してる…………ずっと……。

だから帰ってきてね………」



…そして彼女は、夢の世界に落ちていった。










「……………」

外から見ても、本当に誰も気付かれない程度だが、リゾットは顔が熱くなるのを感じた。

(……ガキか…ッ、俺は)

自分はウブなティーンエイジではない。とっくにいい大人で、それなりに経験を積んできたのに。

何度言われても、その好意の言葉に慣れず、くすぐったい気持ちになる。

彼女の純粋な愛情は眩しすぎるが、あまりにも心地好い。


…どうしたものか、彼女がどうしようもなく一層愛おしい。

自分はこんなに無条件に想いを注がれていいのだろうか。
何もしてないのに。

自分は彼女のように純粋ではないのに。

時々彼女は自分だけのものだと、腕の中に閉じ込めてしまいたくなるのに。

何回も身体の隅々まで口付けながら傷痕をつけ、何十回もお前は俺のものだ愛してるんだ誰も見るなと言葉にしながら、その身体を強引に繋げて奪い、汚して貪って、自分のものにしたい。
俺だけを見ろと噛みつき、欲望を発散させながら。
そう思う事もあるのに。
その狂気じみた独占欲も、彼女の笑顔を見ると牙を抜かれたように力を失ってしまう。
たとえ、組み伏したとしても彼女は全て受け入れるのを彼は知らないが。
「貴方がそう望むなら、貴方の孤独が満たされるなら」
と身を乗り出して、拙いキスで彼女は答えるだろう。
それも彼だから、彼故に。











「早くよくなれ…、アマァーロ」


身体をかがめ、眠りにおちた彼女の頬に優しく口付けながら囁きかける。






「また笑ってくれないか…元気になったら」


握り合った手を自分の額にあてて、小さな声で呟くと、リゾットは目を閉じた。








「それから、






















……俺も、叶うなら、お前の側にいたい……」




囁く声はひどく熱くて甘い。

そして、想いを込めてせめてとばかりに、彼はその唇にやわらかくキスを落とした。

(愛してるんだ)
と言葉を吸い込ませながら。





















































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アンケート二位のリーダーの番外編です。
最初兄貴に二倍以上抜かれてたのに、最近少しずつ票が増えて大分迫ってきました。
ああ、よかった。一応リーダー相手だし。

この話というか、二人がくっついてる感じの話の時間は大体夢主16歳くらいです。
青年と少女って最高。
あとイタリアじゃ愛さえありゃ大丈夫だと年の差婚も珍しくもないって聞いたので、よかったです。

夢主とリーダーは『風立ちぬ』の堀越夫婦みたいに静かながらも燃えるものがある関係にしたいもんです。

では、コメントを残した方、またアンケートにリーダーを入れた方へ、ご協力ありがとうございました!



2013.8.14(水)

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