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ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー・ハートブレイカー(プロシュート)
「よぉ、お疲れさん〜」

「………よぉ」


任務後、軽く自宅で一杯ひっかけた後、ぶらぶらとアジトへやってきたホルマジオは、居間で大量の酒瓶をごろごろ転がしながら、紫煙にまみれてるプロシュートを目にした。

リゾットの自宅兼アジト据え置きの三人がけソファーの背もたれから上半身をだらしなく落とし、
「……クソッタレッッ」
と時々漏らしながら、煙草の燃えカスや酒瓶を放り投げている。

「あぁあ〜?」

様子をみようと近寄れば、あの女性よりも美しい顔は相変わらずだったものの、目は爬虫類のようにギラギラと光が宿り、胸元の開いたシャツにはおそらく他人のものと思われる血がこびりつき、煙をスパスパはきながら、すっかり酔っている様子である。

それでも、気だるげで酒気混じりにより普段以上に色気のある姿が妙にサマになっていて、コイツは何をやってもカッケーな、色男は得するもんだなと、ホルマジオはある意味感心したものだ。


プロシュートはホルマジオにしかめ面をし、くわえていた煙草を火がついてるのを構わずに、ペッと絨毯へ吐き出した。

床に火がつくだろ!と文句を言いながらも、それを片付けながら、ホルマジオはよいしょと押し、彼の身体をソファーへきちんと座らせる。
そして、冷たくしておいたミネラルウォーターに薄切りのレモンを浮かべたコップを、プロシュートに手渡す。

「んだよ、シケたツラしてんじゃねぇかよぉ色男。何かあったのか?」

そう聞いてみれば、堰を切ったように喋りだすプロシュート。

酔っているせいか、いつもよりよく喋った。



「……………クソッ。オレは、今史上最悪の気分だぜッ。
クレープを注文した時に頼んだチリペッパーのソースを、店の野郎が間違えやがって入れやがったイチゴのソースで食っちまった時と同じくらい胸糞悪いぜ。

しかもよ、野菜と肉はそのまんまでソースはほぼ隠されてたのにオレァ悪意を感じた。


野郎、ウェイトレスにラブコール送ってやがって惚けてやがったんだ。

そりゃよ、イタリア男として女口説くのは悪いとは思わねぇ。

だが、それはそれ!!コレはコレじゃねぇか!!飯はキッチリ作ってもらわねぇとなッ!!
オレはターゲットの監視が思ったより長くなっちまって、餓死しかねねぇくらい腹が減ってたんだぜッ!

オレの隣の席の老夫婦には、塩のかけすぎで白い山になってクソしょっぱくなった焼き魚まで出しやがるしよ!!
爺さんが声をかけてもロクに聞いてやしなかった。
塩分取りすぎで殺す気か!!遠回しに死ぬっつーてんのか!!
年上なめてんのかクソ野郎!とオレは怒ったぜ!

勿論、即、ヤツの頭をひっ掴んで口にその出来損ないクレープをぶちこんでから、トレーで脳天を叩き割ってやったがよ。
肘鉄と頭突きのセットでな。

ついでに、ヤツご執心のウェイトレスも持ち帰ってやった。
じゃねぇと、オレの怒りはおさまらなかったからな。
可愛い女だったぜ。














………あぁ、何を言ってんだ。

まぁ、アレだ………。



…………妹の野郎がな…………、

あのイカ墨粥のボケ茄子クソのリゾットの野郎に…………………………ッ、







………ダアァッッ!クソ!!


惚れちまったらしいんだ!!!!
恋しちゃったとかよッ、抜かしやがって!!

あぁ!!
何でよりによってアイツなんだよ!!!!」






怒り狂うプロシュートの脳裏に、その時の記憶がまじまじと思い起こされる。



アマーロが、玄関前に小さなアンティークの椅子を持ってきて座り、リゾットの帰る予定の時間には、おかえりなさいを言う為に欠かさず待っている姿。

リゾットはそれを目にするといつも穏やかな声で、ただいまと言いアマーロを抱き締める。

それを楽しみにしてるようにも見えた。

(ちなみにプロシュートの時も、必ず一番に迎えてくれるが、なぜか今回は何も壊さなかったか?無関係の人を殴らなかったかと心配してくるので、少々、いや、かなり、相当に腹が立っていたりする)



ある日のこと、風邪をひきかけてる時に、毛布にくるまりながら待っていたのには、プロシュートは彼女を本気で馬鹿だと思った。


なので、その場で彼女に注意すると、アマーロは少し悲しそうな顔をした。

「だって、リゾットって、仮眠してる皆に気を使って、こっそり帰るでしょ…。
そんなの寂しい…。
リゾット、特に辛くて大変そうな仕事にすすんで自分から行ってる気がするし。

きっとクタクタになってるし、仕事やったなって充実じゃなくて、いつも悲しい気持ちで帰ると思うの。

だから、せめておかえりって挨拶だけしたくて……」

だんだんと聞こえなくなる程の小さな声。

今はまだ帰らないリゾットを思ってるのか、目は湖水に蝶が羽ばたくのを見るように夢みる瞳になっていた。


それに嫌な予感がしながらも、プロシュートは聞かずにいられなかった。

こういうのはハッキリしたいのが彼の性分だからだ。



「おいおいおい…………っ。おいおいおいおいおいおい………ッッ。




以前から薄々思ってたがよぉ。

オメー………まさか、愛しちまってるのか?あの野郎に」

その問いに対して、アマーロはハッとした顔をすると、ポツポツ答えた。





「……よく分からないけど、リゾットの事を考えるとね……。胸がすごく苦しいのに、何だか心地好くて、あったかい気持ちになるの。

抱き締めてほしいなって…思う。
ずっと一緒にいたいなぁなんて、いつも思う……」

「……そうかよ」

頬を薔薇色に染めたその顔は、まさに恋する乙女状態だった。


「恋しちゃった?……のかな…」


そうだ間違いない。
これは完全にそうだとプロシュートは確信した。












「あぁ〜、そういう訳かァ……」

あきれながらも、ホルマジオは納得した。

ソファーの煙草のゴミをどかすと、自分もプロシュートの隣に座り、水をぐびぐび飲んで喉を潤す。

「オメーはほんっとッに、妹関係には目の色を変えるよなぁ。
まぁ、わかるけどよ。
しょおがねぇよな。
まだまだ見ておきたい年ごろだもんなァ」



ホルマジオも思い出す。

アマーロのはにかんだような笑顔を。

「ホルさん、ホルさん!」
と言いながら、裾をひっぱって話しかけてくる彼女に、いつだって笑みがこぼれてしまう事を。


「オレはよ……、何もアマーロが嫁に行くのを嫌って訳じゃねぇ。
そりゃあ、結婚しますって紹介されたら、妹の意思を尊重するさ。

相手の野郎を三十発ぶん殴ったら、後は笑って祝福してやる。



……カタギ限定の話だけどなッッ!!!!

オレが言うのもおかしいが!

ギャングに惚れてどうする!!
将来は蜂の巣にされるか、ボロ切れのように弄ばれて死ぬかもしれねぇんだぞ!!
よりによって、このチームの!あの野郎に!」


「まぁ……、確かに、オレァ、ある意味お前の意見に賛成だわ。
カタギならカタギとして生きるのがいいよな。


オメーも大変だな。

アイツは一回決めたら意地でも曲げねぇからなぁ」


「……ああ、そうだ。
もう遅せーんだよ。
ヤツがあの朴念仁に惚れちまったら、テコでも曲げねぇだろ。いくら説得してもな。
分かってんだよ、オレはよ。

だから、今こうしてヤケクソに酒をあおってたんだ…………………」
































「お兄ちゃん、ただいまー」


ちょうどその時、噂の本人が帰ってきた。


「……今帰った」

「リーダーさんと途中で会ったから、一緒に帰ってきたよ」

しかも間が悪い事にリゾットも連れて。


空気が瞬時に殺気に染まったのを、ホルマジオはマズイと気付いたが遅かった。











「テメェ………勝負だ、この野郎…………」

「は?何を言ってるんだ………、ッ!?」

嫌な予感がし、とっさに避けるリゾットの真横を踊るソファーの影。

ドカンと衝撃音と壁のひび割れる音にソファーの足がポッキリ折れる音。

ドアのすぐ側にそれはぶつかり、壁はパラパラと破片が溢れ落ち、棚からは様々なものがバラバラと落ち、壊れる音が虚しく響いていった。

ソファーは三人分サイズの筈だが、酔っても、むしろ酔った事でリミッターの外れた彼の見た目に反した無茶な力は健在らしい。




「いいから殺り合うぞ!!!!オラァ!!!!」

投げたままの姿で手をリゾットをバカにするかのように、くいくいと挑発するプロシュート。


その姿と、周りを見渡したリゾットの眼に、瞬時に絶対零度の刃の光が零れた。



「貴様……………………ッ、よくも………こんな………また、やりやがって…………………………………」


あまりの居間の惨状に、普段はプロシュートの行為にもある程度我慢をしている彼も流石に怒りだそうとした。

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あきゅろす。
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