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レット・イット・ダイ-何故死のうとするのか
少女アマーロは、助けたかった。
かけがえのない者達を。

自分は常に助けを受けてばかりだと痛感していた。
自分は恩を返したいと願っていた。


アマーロは急いだ。

一刻も早く救う為に。

それが困難な未来だと分かっていても、足を止める気は少しもなかった。

助かって欲しかった。

















「ホルさんッ、

イルーゾォ君ッ、

ペッシ君ッ、

メローネッ、

ギアッチョ……ッ!」



涙がほとばしり、風を切って走る彼女の頬を流れ落ちて、遥か先に溢れていく。

自分では知らずに、彼等の名を呼んでいた。


最悪の事態が、彼女の頭によぎる。

アマーロのたった一人の家族の、血濡れの姿が。


…小さい頃、寒い夜に心細くなったら毛布でグルグル巻きにしながら寄り添って眠ってくれた。

見た目をバカにされて泣いてたら、殴り返せ堂々と胸をはれと叱咤しながら慰めてくれた。

身体が辛くて堪えてたら、もっとオレに甘えろと抱き締めてくれた。

きつく光るサファイアの眼と黄金の髪が眩しかった、美しく強かった兄。
たった一人きりの家族。




「…プロシュート……………………………………、





お兄ちゃあぁん………ッ!いやぁぁああああぁ!お兄ちゃあぁん!!」



アマーロは『死』に譲りたくなかった。

兄を。

自分を家族同然と見なしてくれたチームのメンバーたちを。

自分は彼らと生きていなければ生きる意味がないのだ。




…そして、何より生きて欲しかったのだ。








彼に。













「…リゾット」




小さく名を呼ぶ。

大切な、大切な、彼の名を。






いつだって呼べば、かすかに笑って振り返ってくれた。













「………リゾットォお……ッ!
いやっ、貴方を失いたくない」


身を引き裂かれる思いに泣き崩れてしまった。


どうしても、彼を、アマーロは、助けたかった。

何故、彼は再び己が傷付く道を選ぶのだ。

まだ彼を幸せにしてないのに。


これまで失ってきた生き方を取り戻すように生きて欲しいのに。

あんな悲しい眼を、もうしないでほしい。

いつかのように心から笑ってほしいのに…。


忘れられない記憶、初めて会った頃。

ー黒いコート、銀色の髪、鉄の眼。
血だまりと死体の山。
影に重なる長身。
傷だらけの身体。
血の臭い。
彼の強い腕の中、腕に痕が残る程抱き締められた。
刃物の鋭さで射抜く視線。
一瞬だけ見せた泣きそうな顔。

淡々と響く、低く優しい声。

それが全て懐かしかった。












『すまない。怖がらせてしまって…』

『仲間を助けたい。
力を……貸してくれないか?』

『俺は地獄へ行く。
だが、お前みたいな悪魔が迎えにくるなら悪くないだろう』

『…お前の眼も髪の色も、好きだ、とても。とても、綺麗だ』











『…信頼したんだ、お前は……。
だから俺も全力を尽くそう…』












「馬鹿馬鹿馬鹿ッ!
麻薬も縄張りも!組織の頂点も!そんなの、栄光じゃない!……貴方が欲しいのは、本当は、別のものなのに………!」













リゾットは少女にとって命に等しかった。
側にいるだけでも、胸があたたかくなり幸せだった。

不器用で、優しい彼が大好きだった。

彼のかすかな笑顔を見れれば、自然と胸が高鳴っていた。


またバイクに乗せて欲しかった。

一緒にアジトで夕食の準備をしたかった。

兄にやいやい言われながら、彼の隣に座ってテレビを観たかった。

朝の訓練でギアッチョと戦う彼をハラハラしながら応援したかった。


傷付いたら真っ先に自分が飛び込んで手当てをしたかった。

見えない重荷を背負う背中を抱き締めてあげたかった。

悪夢にうなされる彼の手をこっそり握ってあげたかった。













…彼を愛している。

今も変わりなく。焦がれる程に。

彼が自分を愛してると言ってくれなくていい。
それはおこがましい事だ。
今は生きてさえくれれば……、ただそれだけでよかった。












『…ならば、やれ。
裏切り者に祝福を』
背後から現れた少女の分身は囁く。

彼女のスタンドは、2×4(ツー・バイ・フォー)。
それは宙を浮かぶ上半身だけの女性。その身体は十字にも×の形にも見える物質が互いに組みあって形なされている。

両目は覆い隠され、後頭部からは触手が蠢き、見た目から悪魔と一時期言われた少女にとって、その姿は皮肉とも言える。

だが、彼女は分身を、己の力を信じていた。








「わかってる、わかってるよ。
やるべきことは…」
涙をぬぐった少女は頷き、右手に眼をやる。そこには今分身の身体に見られるのと同じ十字形の痣がある。
痣が脈打つ。

出来る筈だ。
自分の能力なら。

大切な兄を、愛している男を、友人を、恩人を救える。

そう信じ立ち上がった。

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あきゅろす。
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