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Innamorato In Japan6
『男性拒否を克服しなさい!
あの方のお詫びを兼ねて、あなたが東京案内するのよ!!』
『いいかぁ!
桃子!
この男は丁重におもてなしするんだッ!!』

叔母と祖父の言葉が何度も頭によぎり、桃子はフラフラする頭で春雨が運転する車の後部座席に座っていた。

(東京案内ったって、叔母さんもおじいちゃんも言ってたけど…、よ、よく考えたら、これって生まれて初めての『でえと』…!?)

膝の上に置いた手がギュッと力が入るのも知らずに、桃子はチラッとすぐ隣のプロシュートに目をやる。

「なんだ、Gattina(子猫)。
取って食うような一丁前の目付きをしやがって」

きらりとサファイアの目を光らせて、皮肉に笑う彼は朝日の下でも美人だ。

「な!なんでも…ありませんっ」

おそらく普通の女の子なら、彼が隣にいるだけで舞い上がってしまうのだろうが、彼女はただ居心地の悪い思いでいた。

(でも、きっと、一日でプロシュートさんは飽きちゃうに違いないわ。
そう、もっと相応しい綺麗な女の人をいつの間にか連れてきて、さっさといなくなると…いいな)

そんな淡い期待もしていた。




あれから桃子はプロシュートを滞在先へ送る途中で、春雨たちのいる現場へお弁当を届けにいった。

「すいやせんでしたァアア!!」

彼等が桃子の隣にいるプロシュートを見た途端に走り寄って、土煙をあげながら一斉に地面に頭を擦り付けて土下座をする姿は圧巻の一言だった。
「お嬢にもご迷惑をおかけしてっ!」
と号泣しはじめた彼等に、プロシュートからいい加減やめさせろと言われたのもあり、
「皆さん、もういいからっ、頭をあげて!
プロシュートさんも気にしなくていいっておっしゃってますからぁ!」
と必死で言うも、筋肉ダルマの土下座をやめさせるのは一苦労し、なんとか彼等に作業に戻ってもらうと全員どこかしらに包帯をまいたり、傷の手当てをした後と心なしかヨロヨロしながら丸太や重い道具を運ぶ様子を目にした。桃子はきっと梅子叔母さんに相当しぼられたんだわ、可哀想に…と思ってしまった。

それからプロシュートを滞在先のホテルへ送りにいき、彼がホテルの受付の女性を一目で恋に落とす様に驚き、その女性からいきなり、
「なんだこの女!!」
と言わんばかりに睨みつけられて、とんだとばっちりだと桃子は思いながら、ようやくこの嵐のような男と別れると、
「はぁ…。なんだかすごいひとだった…」
と帰りの車中で大きく息をついた。

「ヴェローチェの話を聞かせてくれよ。
とびきりの酒を飲ませてやるからよ」
と桜仁郎はうちに泊まればいいと言ったが、プロシュートは仕事があるからとその申し出に断っていて、桃子はその答えに内心ホッとした。
こんな非日常的な危険な雰囲気をどことなく醸しだす彼を毎日目にすることがあったら、心臓がもたないだろうと思ったから。


「お嬢…」

「なんですか?」

そんな時、運転手をした春雨が桃子におずおずと話しかけてきた。

「こんな事言っちゃあ、また姐さんやおやっさんにどやされちまいそうなんですが」

「大丈夫ですよ…、私口がかたいから仰って下さい」

「俺ァ心配なんです。
お嬢があの男に関わっていくのが。
だって、見た目からしてタラシじゃあねえですか。
しかも、俺らをノシやがったのも思えば、ヤツはカタギじゃあねえ。
お嬢、俺ら、姐さんからああ言われてましたが、お嬢がアイツを案内してる間、どこかしらお近くで見守ってやすから。
お嬢も危ねえと思ったら、すぐ奴から離れて下せえ」

春雨は桃子が幼稚園の頃に、桜仁郎に拾われてやってきた時はほんの二十代の若造だったが、
桃子にとっての兄のような親戚のような頼りになる存在だった。
草薙組の組員は少数だったが、それは桜仁郎が自分で目をかけて連れてきたものが多く、彼等はそれまでは社会のはみ出しものばかりだった。
彼等は桜仁郎に感謝をし、恩義を報いるために、孫娘の桃子を守ろうとしている。
それが過保護のレベルで、辟易することもあるけども、桃子は彼等のことをありがたいと思っていた。

「ありがとう…。私もね、叔母さんにもおじいちゃんにも言われて、正直ちょっと戸惑ってるの。
そう言ってもらえて嬉しいわ。
もし、いざという時があったら、お願いね…」

桃子が微笑んで返す言葉に、春雨の耳は少し赤くなっていた。



(とは言っても、なるべく差し障りないようにしなくちゃ…)

桃子は、神社にやってくる外国人観光客に近くの名所や食べ物の説明をよくしているので、観光案内自体は割と手慣れているつもりだ。
だが、プロシュートは、そんないつも桃子が相手にしているTシャツにジーパン姿に巨大なリュックを背負うような外国人と違う。

あんなお洒落で美しいなら、青山や銀座につれてくなり、六本木のバーに連れて行けば彼は満足するだろうか?

(あの人は、一体何が好きなんだろう?)

次に会う日にちは分からない。
ただ彼が直接桃子に会いに来るとは言っていた。

普通の外国人、いや、カタギにはとうてい見えない男だ。

しかも、


『代わりにテメエの親指四本とお別れしねぇとな…。
知ってるか?足の親指が無くなると、人間ってヤツは立てなくなるらしいぜ?』

あの初対面時の言葉は本気だったに違いない。


もしも桃子が何か彼を怒らせるようなヘマをしでかしてしまったら。
うっかりプロシュートのハイセンスな服に何かをこぼしてしまったり、ハレンチと騒いで殴ってしまったり、何かやらかしてしまったら。

昨日はたまたま、おそらく奇跡的に機嫌が良くなったから桃子と組のみんなは助かったから良かったけれども、今度こそは…。








(きっとおじいちゃんの元に、私は海に沈めたって意味でお魚が届けられて!
私はコンクリート詰めで東京湾に沈められるんだわ…!!)

桃子は、初対面時も、春雨たちを赤子の手をひねるような扱いで殴り飛ばしまくったプロシュートの姿を思い出して、頭をかかえたくなってしまった。

(…上手くいきっこない!
きっと上手くいかないわッ!)

どうしてこうなったんだろう。
昨日の朝までは夢にも思わなかった。

そんな桃子は、その後自宅に戻って、桜仁郎と春雨たちの夕食の仕込みをしながら、ああでもないこうでもないと悩むことになる。

それが無駄な心配なのだというのを、まだ彼女は知らない。







『ハッ!!
ハレンチィイイイ!!
プロシュートさんっ!なんてマッサージされてるんですかァアアーー!いや、それマッサージじゃあないわッ!!エッチなマッサージィイイイ!!』

ちょっと、少し、ほんのり驚かされるくらいで。


まさか彼女は当時、夢には思わなかった。



日本刀で二回も切りかかった自分なのに、なぜかそんな自分は全く飽きられなくて、数年後には彼が病める時も健やかなる時も側にいたいと言ってきたことも。






















H.31.5.27
今回もあまり話が進まなかった。
体力が追いつかなくて更新遅くなってますが、ちょっとずつ進めていきますね。
映画孤狼の血をみて、やりたい場面があるので、いずれか兄貴滞在時にやらせてみたい。












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あきゅろす。
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