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Innamorato In Japan5
※ねつ造設定とオリキャラ多目。





















『ぐぁあ…うぐぐっ…クソっ…

なんなんだありゃ…っ』


『ああ。
オメー、生きてやがったか…』

セピア色の記憶。
桜仁郎がヴェローチェと出くわしてから、そう時が経ってない頃。
薄闇の中、立てかけられた数多くのキャンパス。
贅沢なテーブルに無造作ながらも、奇妙に調和が取れたように並べられた彫刻、陶磁器、グラス、おびただしい数のアンティークジュエリー。
アレキサンダー大王時代の短剣。
アリストテレスの胸像。
古代の鏡。
ボルジア家ゆかりの品。
世界地図、天球儀。
描きかけのイーゼル。
絵の具箱、筆、様々な種類の紙、数百年前の無名の画家の価値の低い絵。

ボヘミアングラスの深いガーネットの輝きに似た夕陽が部屋の隅にさしこむ中、銀髪に銀色の目をした天使のように美しい青年は口の端に笑みを浮かべていた。心底あきれた様子で。


『ったく、ベタベタ触るなって俺の忠告を無視しやがって自業自得だ。そんな目にあったのは。
まあ良かったじゃあねえか。
オメエは運が良かった』

ヴェローチェは淡々と足元に転がる男にそう言った。




『…テメエ、グッ!

痛えな畜生…

何なんだよコイツァア…ッ!

この頭の矢はよォオーーー!!!』

額のど真ん中に矢が突き刺さった血塗れの桜仁郎に向かって。
桜仁郎はヴェローチェの仕事場である地下のアトリエを訪れていたのだ。


『うお!!すげぇ!
なんで、この絵がッ!?
コイツはこの前盗まれたんじゃあなかったかあ!

こいつ…もしやエルグレコ?!
こっちのはタッチからしてベラスケスかッ!!
何で門外不出の画家がっ!こんな所にあるはずねえだろッ!
どういうことだよ!』
『企業秘密だ』
そして、ヴェローチェの商売道具でもある数々の美術品を間近に目にして興奮して見て回るうちに、とある一本の弓矢を見つけて、何気なく手に取ってしまったのだ。
『なんだコイツァ。
弓矢?ずいぶんボロいな。




…っうぉお!!!』

ただ触れただけだった。
それなのに、弓矢は勝手に生きてるかのように突然鋭い矢先を向けてきて、気付けば桜仁郎は頭に衝撃を受けて、床に体を叩きつけられた。
頭をほとばしる気の狂いそうな痛みに手をやると、彼の頭にあの矢が深々と突き刺さっていたのだ。

普通なら致命傷となるだろう。
だが、しかし桜仁郎は生きていて、騒ぎに気づいてやって来たヴェローチェは至極平静に淡々とこう言ってのけた。


『その矢はある遺跡から盗掘されたものだ。
…とは言っても、盗み出したソイツは生きちゃいなかったが。発見された時、男の心臓はその矢に貫かれて生き絶えていたんだ。
元々その遺跡は大いなる呪いに満ちた地だと地元の人間は恐れ戦いて一歩たりとも近寄らなかった、墓泥棒さえ避ける地だったんだ。
これを盗んだ奴は、言い伝えを信じない外国から来た考古学者くずれだったらしい。


それから、そいつぁ、何人もの酔狂なコレクター、物好きな金持ちの間に渡り歩いてきた。
珍しいものだったからな、その矢の形はどの王朝の武器にも当てはまらなかった。その矢に使われてる石もこの世の鉱物のどれにも当てはまらずに、バカな奴らの欲と好奇心を煽ったんだ。
だが、そんな奴らは全て死んだ。
その矢に目玉、頭、首、心臓を貫かれてな。

呪いだ、手にした者は命を落とすとも言われていたか。

この俺の元に来るまでは。
訳あり品ばかり扱う美術商のこの俺に。



チリエージォ、オメエは運が良かったんだぜ。
選ばれた…

いや、

『合格』したんだ。
俺と同じように。
お互い、死に損ないって奴だ。

…よっと』


ズブシャア!

『ウグアッ!
いでぇえええェエエッーー!!!』

仰向けになっていた桜仁郎の胸に左足を置き、ヴェローチェは桜仁郎の頭に刺さった矢を強引に引き抜いた。
乱暴な手つきで。
飛び上がって騒ぐ桜仁郎に顔をしかめて、それは指の棘をぬいてやるような態度で頭に刺さった矢を引っこ抜いたのである。

『うえっ!テメエ本当に血の気の多い野郎だな。
きったねえな。

見ろ、俺の服も床も汚しやがって。
クリーニング代は後で請求するからな。
床はあとで掃除しとけよ。
俺は虚弱体質で肉体労働は大嫌いなんだ』


『このモヤシ野郎!!
テメエ!!人が死にかけてるってえのに!!なんつー乱暴な真似をぉお!!
何しやがるんだっ!


死んじまったらどうすんだよ!!

そんな適当に抜きやがって!俺の大事な脳味噌が飛び散っちまったらどうすんだよっ!
こんなに血が出ちまって!!














…ん?血?


こんなに、血?


え?




おい?

は?

嘘だろっ。
止まってやがるぜッ血ィイイイッ!!』

桜仁郎は何が起きたか分からずに、いつのまにか血の止まった額に手をやり、自分が普通に生きている事に衝撃を受けた。


『はあ…いまいち分かっちゃいねぇようだな、ド低脳が。


おい、見えるか?
俺の隣にいるやつが』

『は?オメエの隣…?





うわぁああああ!!!なんじゃこりゃあ!
骸骨か!!
化け物ォオオオーーッ!!』

『ったく、失礼な奴だ。
化け物じゃねえ、
Friend of the Devil(悪魔の友)って名前があるんだ。
俺の一族じゃdonatello ドナテロ(神の贈り物)と呼ばれているがな。時々俺の一族からそういう力を持つヤツが現れたんだ。

オメエ、俺と殴り合った時に薄っすら何か出してただろうが。アレのことだ。
オメエはあの時は見えちゃいなかったようだがな…。
簡単に言えば、守護天使みたいなもんだ。
オメエの命を守ってくれるぜ。

まあ、人によっちゃ悪霊に取り憑かれたというヤツもいたが…


俺にとっちゃあ悪魔だったってだけだ。
オメエにとっちゃ、どっちだろうな?
鬼が出るか蛇が出るか…。
見てみろ、オメエの隣のそいつを』

『あ?なっ、隣ィイ?見ろだ?

隣ったって何もいるわ、け…






うわぁああァアアーーーーッッ!!誰だオメエはァアア!!』


『うるせえ!!黄色い猿がッ!
いちいち騒ぐんじゃあねえ!!!』



今思い返せば、あのヴェローチェがドナテロと呼んでいた能力は、知り合いのイギリス人の不動産王いわく『スタンド』と言われるものだったのだろう。
あの弓矢は、それまで桜仁郎がうっすら体質だと思ってた不思議な力を一層はっきり強力にさせた。
そのスタンドのおかげで、桜仁郎はヴェローチェと親友になってからの波乱に満ちたイタリアの日々も、あの激しい戦火の時代も乗り越えて来れたのだ。

あの桜仁郎を傷付けた弓矢は、今は何の運命のいたずらかヴェローチェのアトリエから姿を消し、何十年後たった今となって、ヴェローチェが所属する組織パッショーネのポルポという彼曰くロクデナシの元に現れた。
問いただしてもポルポはとぼけていたが、あれはどう見ても自分の下にあった弓矢に間違い無いとヴェローチェは言っていた。
あの矢でポルポは自分の戦力を増やそうと、組織の入団希望者にいつしか矢を使うようになったのもヴェローチェは苦々しく思っていた。
あれはそういう為に使う物じゃないと。
だが、それもいつか因果は奴に巡り来る事だと言っていた。

『…俺と同じようにな。

悪魔の友は俺をこの世に留まらせやがった。
俺は早死にするよう一族からこんな名前つけられたのによ、思った以上に長生きしちまったんだ、チリエージォ。
人生はうまくいかねえな。

tardina タルディーナ…俺の大好きな数少ない良い人間は皆、神に気に入れられて連れていかれちまったのに…』

戦後、酒の席でそうヴェローチェは皮肉を浮かべた笑みで言っていた。

『チリエージォ、オメエは俺より長生きしてくれよ』

ヴェローチェは美しい男だった。
こんな強烈な美貌と存在感の持ち主は、これから先、彼以外に桜仁郎は出会わないだろうと思ったまでに。

だが違った。












『チリエージォ』










50年以上経った今、老いた桜仁郎の前に、あの初めて会った時と変わらぬ姿で、
病気で死んだ筈の男が、
彼の家に、桜仁郎の孫娘と一緒にいたのだ。



(ーーヴェローチェ…)



その瞬間、桜仁郎は疾風った。
愛用の日本刀の鞘に手をかけて。

















「…『ヴェローチェ・イルモルトォオ!!』



テメエッ!
この野郎!!!生きてやがったのか!!
しかも、いつの間に若返りやがったんだァアァアァアーーーーー!!」


歓喜の叫びと共に。
獣が強敵に挑む時の恐ろしい笑顔で。


ーーガキィイン!!!

常人なら何が起きたか分からずに頭をカチ割られていただろう、桜仁郎の重い一撃は、プロシュートのグレイトフルデッドの腕で受け止められた。

「ったく何なんだよ!!
桃子!
このジイさんといい、オメーといい、
日本じゃあ初対面の人間に刀で斬りかかるのが挨拶がわりなのかッ!!」

プロシュートは桜仁郎の老人とは思えない刀の速さに驚き呆れた様子だった。
桃子に以前斬りかかられた経験のおかげで、どういう攻撃をするかある程度は理解していたが、桃子よりも遥かに目の前の日本人の男の力は強かった。

「違いますっ、プロシュートさん!
へんなのは私とおじいちゃんだけ!!
誤解しないでェ!おじいちゃんもやめてェエ!!」

桃子の言葉に桜仁郎はぴくりと反応する。

「プロシュート…、だと?



おめえ…

ヴェローチェ、じゃあねえのか?」

桃子はその問いに強く肯定する。
ヴェローチェと言う名で、彼女は理解した。
祖父はプロシュートを親友と間違えてるのだと。
親友が病気で亡くなった時の、涙を流さなかったが意気消沈した様子を見ていただけに。


「おじいちゃん!違いますッ!

この方はプロシュートさん!
ヴェローチェさんじゃあありません!
別人なの!!!」

プロシュートも目の前の男の口にした男の名に戸惑いを隠せなかった。
自分を教育したあの老人は別の通称で呼ばれていただけに。

「ジイさん、何でオメー、あのジジイの名を知ってやがる!ジジイのその本名を知るのは、この世に今じゃあオレしかいない筈だがッ」

桜仁郎は目を見開いて、刀身ごしに見える目の前の親友にそっくりの男の顔をその時ようやくマジマジと眺めた。

彫りの深い顔立ち、形のいい唇。
鋭い野獣のような雰囲気。


だが、眼だけは親友とは違っていた。

意志の強い眼光。
深いサファイアの色彩。
あの金色の長い睫毛に飾られた輝くばかりの大粒の宝石の瞳は…













『ヴェローチェ、また倒れたの。
あら、あなたがヴェローチェを運んでくれたのね、素敵な東洋の方…。
感謝します』




『チリエージォ。

私たちの国の言葉で桜っていうの。
そう呼んでもいい?
私たち、そしたらもっと親しくなれると思うから』




あのイタリアで出会った女性と同じ…。

















「Tardina タルディーナ…」

桜仁郎は思わず口にしてしまった。




彼女にそっくりだった。
イタリアでの日々に苦い思い出を残した彼女に。


そして理解した、親友にそっくりな姿の、あの女性と同じ眼をした、目の前の男が誰なのかを。


「そうかァ…オメエがアイツが言ってたヤツだったのかァ」



『チリエージォ、聞いてくれ。
私に孫みてえなガキが出来たんだ!

そいつはよ、何の運命の悪戯か、私にそっくりで…だが眼だけはTardinaと同じなんだ』

普段は冷めたような態度しかとらないヴェローチェが、久々に桜仁郎と会った時に喜びを隠せなかった様子はよく覚えている。
ヴェローチェは言った。
自分はこの虚弱体質故に子供を持つ事を諦めていたのに、神は老いた自分に恵みをくれた。
自分に生きる理由をくれたのだと、熱を籠めた口調で言っていたのだ。

『なあ、チリエージォ。
オメエはきっと成長したソイツを見たら、若い頃の私と見間違えちまうだろうな。
このメディチ家のロザリオに賭けてもいい。
それくらい似ているんだ』


(賭けはオメエの勝ちだな…ヴェローチェ、スケコマシジジイ…)


桜仁郎はようやく刀をひいて鞘に収めた。

「悪かったな、あんまりオメエがあの野郎にそっくりだったからよ。
…ああ、そうか。
日本語じゃあ何言ってるか分からねえか。




『Ciao bello チャオ ベッロ(よお、色男),
Benvenuto in Giappone. ベンヴェヌート・イン・ジャッポーネ(よく来たな、日本へ)』」

「ジイさん、オメー、イタリア語が話せるのか…」

「ああ、そうだ。
昔ちっと住んでた事があってよ。
教えてもらったんだよ。
ヴェローチェとその身内に。
ちぃっとおかしな言い回しがあるが、目をつぶってやってくれ。

そうかぁ…。
オメーがそうだったのかぁ。

オメーの事は、よく手紙や話で聞いていたぜ。

ヴェローチェ、
つまりオメーの大叔父からな」


突然、そのザ・日本のヤクザの風貌の老人が口にした流暢なイタリア語。
そして、自分を教育したあの男が自分の血縁だったと知らされた事。

「…そうか、薄々前からそう思っちゃいたが。
やはりそうだったんだな…」


それはプロシュートにとって、日本刀で桃子に斬りかかられた次ぐらいに驚かせられた出来事だった。

「おじいちゃん…

あの…大丈夫、ですか?」

桃子は、祖父の喜びの顔が落胆し俯いた姿に心配になり、おずおずとそう聞く。
だが、それは杞憂だった。

桜仁郎はバッと顔を上げると、こう叫んだのだ。







「『よく来たなぁああ!!
ヴェローチェもどきッ!!

俺は歓迎する!

親友の身内はすなわち俺の身内ッ。
家族も同然!!
俺ァ決めたぞ!
オメーはたった今から俺の家の大事な客人だ!!!』
いいかぁ!
桃子!
この男は丁重におもてなしするんだッ!!」

「!?
え!
あ、はっ、はい…っ!」


桃子はとっさにそう返事したが、プロシュートが日本にいる間そう祖父からも命じられてしまっては、ますますこの状況が大変なことになったとすぐに気付いてしまった。

「プロシュートさん…」

桃子はおずおずとプロシュートの隣に行き、彼が祖父が切りかかったことと今の申し出に戸惑っているんじゃないかと心配になった。

しかし、プロシュートは桃子が思ったのとは違う反応をしていた。










「身内…。


……家族、か」


そう不思議そうに、プロシュートはその桜仁郎が言った言葉に頭を金槌で叩かれたような、なんとも言えない表情を浮かべていたのだ。



(どうして、そんな顔をするの…?)



桃子は、まだ、いやプロシュート自身もその時はまだ知らなかったのだった。
その言葉と、感情に。



















H.31.5.3
若い頃のヴェローチェと桜仁郎はからくりサーカスのギイと鳴海っぽいイメージ。

転職してから久々、やっと少し進められました。
長かったけど、これでやっと兄貴と日本人ヒロインは日本デート出来るまでになったかしら。
仕事変わってから、前より更新少なめになってしまいましたが、応援してくださってるのが励みになってます。ありがとうございます。



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あきゅろす。
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