[携帯モード] [URL送信]
Innamorato In Japan 4
「プロシュートさん、いいんですよ!
寒いから先に車へお行きになって!」

大量のおにぎり、肉じゃが、卵焼き、からあげ、浅漬け、果物、その他こまごました副菜のぎっちり入った、大きな重箱がいくつも。
それが桃子が組の皆に持っていくお弁当だった。
いつもならカートに乗せて台所から車まで
桃子が運んでいるのだが、今日は違う。
プロシュートがグラグラした足元の桃子を見かねて、軽々と重箱を担ぎ上げて肩に乗せて車まで運んでいた。
この細腕があんな重い物を持ち、更に全くぐらつきもなく軽やかに歩くバランスの良さに桃子は驚いてばかりだった。
そもそもプロシュートが見た目の優男のわりに力が強いのは天性の戦闘力と、妹を守る為に16歳の頃からトレーニングを欠かさなかったのと、






ーードカーン!!!


『ディ・モールトォ!
悪の組織のアジトの破壊!
ディ・モールトいいぜ!崩壊するアジトから脱出するオレらったらマジでアクション映画だッ!!』
『ひぇえーー!!!
爆発してるよォオッ!
兄貴ィイイイ!』

『うるせえ!テメエら!!
舌噛んじまうから黙ってろ!!』

アジトが敵組織やターゲットの雇った刺客に襲われたり、任務でヘマしたー主にペッシや、スタンド能力に調子にのりすぎて油断したイルーゾォやメローネを脇に抱えたり担ぎ上げて逃げることも珍しくないからでもある。
ちなみに戦闘力と身体能力は普通のギャングより少し高い程度のホルマジオは慎重な性格と、急に逃げなくてはならない時にはリトル・フィートで縮んで誰かのポケットに入るので案外無事である。
リゾットとギアッチョは言うまでもない。
自分より体重があり大柄なペッシをしょっちゅう肩に担ぎ上げてるせいで、プロシュートはペッシがチームに加入後は前より腕力もフォローする力も格段に上がったものである。
いつも妹を小脇に抱えて逃げたり、マンモーニを担ぎ上げたりおんぶして走り回るのに比べたら、こんな重箱は彼にとって何ということもない。


「いいから、オメーが先に乗ってろ。
ったく、しょうもねえ手下たちだな…女にこんな荷物を運ばせてやがったのか」

「私が勝手にやってるんですよ。皆、本当におじさんとお爺ちゃんにしごかれて仕事してるからクタクタで…。
せめて昼休みくらいゆっくりして元気出してもらいたくてしてるんですっ」

この組の彼らのシノギは主に土建と祭りの時期はテキ屋もやることである。
普通この二つは一緒にやるものではないのだが、桃子の祖父桜仁郎と祖母の小夏(こなつ)の別の組同士の政略結婚だった為である。
都内の建築関係に関わっているが、特に春雨を始めとした桃子に近しい組の若衆が主に行なっているのは寺や神社の他、古い歴史的な建物の修繕や施工で、今行なっているのはある財閥の創始者がかつて住んでた贅沢な日本家屋だ。
そのガタイや脳筋に見える彼らだが仕事は繊細で丁寧であり、カタギではないものの、取引先からは彼らの仕事ぶりが喜ばれている。

そうプロシュートの横で言うも、彼は全く気にしない様子であっという間に重箱を全部車に詰め込んでしまった。

「それでは参りましょうか。
あ、ありがとうございます」

「Prego(どういたしまして)」

車に乗り込もうとした桃子に丁度いいタイミングで車のドアを開けるプロシュートに、桃子は流石外国の方は本当に手慣れているわと軽く感動したものだ。
金髪碧眼ボンキュボンの胸元ガバー脚線美ピカーな美女のエスコートをして、なんかこうセレブのパーティー会場にアルファロメオから美女と降り立ち、レッドカーペットを威風堂々と歩く姿が簡単に想像出来てしまうくらいに。



その時だ。









「おやっさん、お帰りなさいませ!!」


「…おう、今、戻ったぜ」


黒いベンツから降りたった桃子の祖父にして組長の桜仁郎が帰ってきたのは。

「…お爺ちゃんが帰ってきたわ。

プロシュートさん、私出かけてくるって声かけて参りますので、少々お待ち下さいね」

「ああ」

だが桃子は知らなかった。
まさか、この数分後にあんな事態が起こるなんてことは。









「…おう、今、戻ったぜ」

草薙桜仁郎はいつも通りの厳しくしかめた様な顔でベンツから降りた。
彼は小柄な男だったが、その眼光は鋭く、鍛え上げられた体躯はゆっくりとした動きながらも威圧感があり、長年磨き抜かれた迫力の持ち主だった。

(…相当やるな、この爺さん)

プロシュートは遠目ながらも桃子の祖父を一目見て算段する。
この男は老いてはいるが立派な虎だ。少なくともイタリアのそこら辺のプロシュートが戦ってきたスタンド使いよりも遥か高みの位置にあるのだと。
その顔に幾月もの日々に刻まれた皺、額に今も生々しく残る三日月型の傷跡、一歩一歩の歩みの無駄のなさ、何より桃子にも気性の片鱗が見えてた黒曜石の鋭い瞳は完璧に磨き抜かれていて、彼が相当な数の修羅場を潜って来たと分かる。
もし、この老人がプロシュート達のターゲットとなったのなら、相当な下準備と数多の犠牲を覚悟しなければならないだろう。
プロシュートはそう判断した。




「お爺ちゃん、お帰りなさいっ」

「おう、帰ったぜ」

桃子はそんな祖父の元へ行くと、手荷物を預かりながら、にこやかに出迎えた。
そんな今の桃子の今日の出で立ちは、アイボリーに臙脂色の小花模様が散りばめられたウール着物に鳥と黄色い薔薇柄の描かれた水色の帯と薔薇色の帯紐。その上に赤いストールを肩にかけて、髪型は両サイドに編み込みがされたお団子である。

やわらかく微笑む孫娘の姿に、桜仁郎はコイツも随分立派になったと口の端を僅かに上げた。
今は亡き息子にも女房にも両方の良い所を受け継いだ、子供の頃から仕込んだ剣術も才能があって良かった。
これならどこに出しても恥ずかしくない娘だろうと。
…ただ、桃子の心残りさえなくなればの話だが。
これは彼女自身が納得して乗り越えるしかない。
桜仁郎は見守るしか出来ない。
時々陰りを見せる孫娘の黒い瞳の奥がいつか変わるまで。


「いかがでしたか?絵ハガキ教室のご旅行は?」

「ああ、なかなか良い所だった。
いい景観ばかりでよぉ。
俺も仲間の奴らも行く場所ことごとくInspirationがガンガンに湧いてきてな。
これが一番上手く描けたやつでよ…」

「ふふっ、楽しんで描いたのが伝わってきますね」

桃子は祖父が懐から出した祖父の描いた絵葉書をニコニコ笑って受け取った。
さながら組同士の血生臭い抗争から生きて帰ったように見える雰囲気の桜仁郎だが、実際はただの近所の公民館でやってる絵手紙教室の仲間達と共に写生旅行という名の温泉旅館毎晩飲み会から帰ってきたところだった。

これまでの組の仕事は殆ど娘の梅子の旦那の櫛名田組に引き継いでる最中で、今のほぼ引退してるに近い桜仁郎は今は前から熱望してた絵葉書教室やカラオケに通う日々を送っている。

桃子は、組の仕事があるのに自分を引き取ってくれた祖父がやっと桃子がもうすぐ大学を卒業することで、彼の肩の荷が下りて良かったと思っている。
だから、五十年前の戦前にせっかくフランスやイタリアへ絵画の勉強をしに行ったのに、ほとんど成長が見られない桜仁郎が描いた絵葉書でも、その楽しんで描いた空気が分かるので、何を描いてるかは身内の彼女も梅子も全く分からないながらも、祖父の絵をみるのは好きだった。


「おやっさん、この温泉饅頭うまく描けてやすねえ!うまそうだ」

「テメエ馬鹿野郎、それは旅館のおかみだ」

「しっ、失礼しやしたァア!!」

(お、女将さんだったんですね…この絵)

桃子は直接この絵の感想を言わなくて良かったとホッとした。









『いいか、桃子。
そう簡単に男を信用しちゃあならねえぞ。
甘い顔と優しい言葉の裏側にゃどんな汚ねえもんがあるか分からねえんだ。
すぐに勢いで飛びついちゃあならねえ。
最後まで見極めろ。
だが、惚れたならとことん貫け。
後悔しねえようにな。
お前の操はその時までは取っておくんだ。
いつかお前が、何もかも投げ出していいとイカレちまう男に出逢うまで。

だからな、そう簡単に近づかせるな。
ベタベタ気安く触る野郎はナンパもんだ、ろくな奴じゃねえ。
そう簡単に接吻を許すんじゃあねえぞ。

もしどうしようもなくなったら、命を断て。
お前の誇りと操を守る為にな…』

草薙桜仁郎はそう桃子に言い聞かせてきた。それまで彼女の周りを自分の組の男で守らせていた。
桃子は素直に言うことを聞いた。
年頃になって、もし桃子に心を決めた男が現れないのなら、誰か良い男と見合いをさせるのも考えの一つになっていた。

この22年、桃子は全く男の影を感じさせなかった。
近づく男にハレンチと叫んで全く寄せ付けようとしなかったから。
これなら当分は安心だろうと、桜仁郎は思っていた。











「!!?

桃子…」


「…え?
はい?」



「あの車の前にいる、金髪のメリケン野郎は…



…何なんだ?」


「え?あの…ちょっと昨日ひょんなことからお知り合いになった方で…これから帰られるところなんです」


車の前に立つスラリとした姿の男。
美女よりも美しい顔。
整った姿。
何よりも獣を思わせる鋭い空気…



五十年前と同じ、あのイタリア絵画に描かれる苛烈ながらも輝くばかりの熾天使ミカエルを思わせるその男…。


桜仁郎が、
プロシュートを目にするまでは。







ーーガクッ!


「お爺ちゃん!!
大丈夫ですかっ」

桜仁郎はプロシュートの姿を目にしたとたん、急に体勢を崩して倒れこみ地面に片足をついてしまった。桃子は慌てて駆け寄りその身体を支える。


「どうしたの!お爺ちゃん!
もしかしてまた具合悪くなったの!?」

「………」

桃子がそう心配そうに声をかけるのにも無言の桜仁郎は急にハアハアと息を荒げていたが、一息つくと、ようやく獣が唸るような低い声で、こう呟く。











「…ヴェローチェ …」




彼の五十年前に知り合った男の名を。



「え?」


「Veroche Il malto

ヴェローチェ ・イルモルト(早すぎる死者)

…テメエ、地獄から舞い戻りやがったか…」

そう呟き、片膝をついた桜仁郎は、いつのまにか手にしていた日本刀を強く握り、
柄に右手を滑らせ、
立てた片足に渾身の力を込めて立ち上がり、
そして。











「…『ヴェローチェ・イルモルトォオ!!』



テメエッ!
この野郎!!!生きてやがったのか!!
しかも、いつの間に若返りやがったんだァアァアァアーーーーー!!」





一気に間合いを詰めて、プロシュートに向かって日本刀を振りかざして斬りかかってきたのである!








































H.31.4.8
カエルの孫はカエル。
なかなか、兄貴と彼女が日本のデートにいくまで辿り着かないっ。
今回の設定も色々間違ってる点が多々ありますのでご了承下さい。

[*前へ][次へ#]

17/40ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!