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Innamorato in Japan 3
※オリキャラと捏造設定注意。


ーそれは今から50年以上前。










『…テメエには壊滅的に才能はねえが、
まあオメーの絵、
俺は嫌いじゃあねえぜ、Gambe corte ガンビ・コルテ(短足野郎)。
人間が描いたもんに一応見えるじゃあねえか、え?』

『テメェ!!
…こんのもやし野郎のイタ公がッ!』

俺は画家になるのだ。
万能の天才レオナルドダヴィンチ、最後の審判ミケランジェロ、美しき聖母子像ラファエロ、華麗なる春の女神ボッティチェリ、眠れる美の女神ジョルジーネ、聖愛と俗愛ティツィアーノ、無機質の美ブロンツィーノ、そして彼の尊敬する暗闇の中を眩しく照らし出す光の画家カラヴァッジォのように。
そう無謀な志を抱き、若き日の草薙桜仁郎は胸を踊らせ、彼が敬愛したオールドマスターが生きた地イタリアへと渡欧した。
その矢先の出来事だった。


『何だこの絵…。
馬か?
ああ…、これは女なのか。
ハッ!こんな奇妙な絵は見たことねぇぜ。
これもある意味才能だよな』

桜仁郎が我ながらいつもより上手く描けたと思った絵をピラッとつまみ、ヒラヒラさせながら憎たらしく笑う男と出会ったのは。

あの審美眼に優れた銀色の眼、淡い銀色の髪。
9の数字をかたどった銀色のスカーフリングに洒落たスーツ、高級品と一目で分かる靴。
手にしたローズウッド製の杖。
生まれつき病弱だと分かる真っ白な顔色ながら、その意地悪く微笑んだ顔でさえも端正で美しい。
遠く離れたイタリアの地。
若き日の桜仁郎は、一目見て思った。

『この俺の会心の出来を侮辱しやがったなああ!』

この野郎はいけすかねぇ、俺は極東のアジア人だから馬鹿にされてるのだ、喧嘩を売ってるならば買うしかねえ、と。
そう思うや否や、鼻緒をガッチリ掴んだ脱いだばかりの下駄で、桜仁郎はその男に殴りかかった。

『テメェ返せェエ!!俺の絵ェエエエーーーーッ!!!』

『ハンッ!馬鹿な東洋の黄色い猿が…ッ!』


美術商にして、贋作師…その家業はマフィア。
その美しき獣ヴェローチェ・イルモルトに。

最初は殴り合い、やがて互いに向かい合って、自身の精神力を具現化して闘った。
二人の力は互角で、互いのスタンド能力は偶然にも互いに打ち消しあうもので中々勝負がつかなかった。
だが、それも。






『グッ…



クソッ!
こんな時…にッ…』

『おいっ!どうしたんだよ!!!
血ィ吐いてるじゃあねえかッ!
オメエ大丈夫かぁアアアアアアーーッ?!』

この闘いはヴェローチェが急に体調を崩してひっくり返るまで続けられたのだ。

『クソっ!病院ッ!病院はどこだぁああーー!!!』
桜仁郎は苦しげに息を吐くその男を、小柄ながらも鍛えた身体で背中におぶって、病院を探して走り回った。

『…テメェ…馬鹿か。
何を…してやがるんだ…ッ。
テメェと…はぁはあ…っ、殴り合ってた野郎によ…っ』

『目の前でぶっ倒れた病人見捨てるヤツがいるかぁ!?
辛いんだろッ、いいから!黙ってやがれ!!』

『……。

この近くに…俺の家がある…そこに連れてってくれるか?姉が、心得てる…それで大丈夫だ…』

それがこの血の気の多い絵心のない日本人と、皮肉屋で伊達男のイタリア人の出会いだった。








「プロシュートさん。
スーツのクリーニング終わるまで、ちょうど着れそうな服があったので、これをお召しになって下さいね」

桃子は、先ほど用意したスカーフリングのことでモヤモヤしながらも、プロシュートの元へ祖父の親友が贈った服をハンガーにかけて持っていった。

「Grazie、悪いな。
借りるぜ」

「あの、着替え終わったらお声をかけて下さいね。
私、春雨呼んできて車を出してもらいに頼んできますから。
すぐ戻りますので。

皆の仕事場はすぐ近くなんです。
お弁当渡したら、貴方のお泊まり先にお送りしますので、よろしいですか?」

「ああ、それでいい。
しかし、こんな服があるとはな…随分仕立てがいいもんに見えるが…オートクチュールか。


!?

お前…これは…っ」

「え?
な、なんですか?プロシュートさんまで?」

プロシュートは受け取った服のスカーフで光る銀色のスカーフリングを見た途端、目を見開く。












『さあ、これはお前のものだ』





(これは、

ノーヴェ、か…?)



同じだ。
同じ形だ。











『ジジイ、何だよ?この変な形の』


『…Bambino バンビーノ(小僧)。
それはな、9(Nove ノーヴェ)だ』


これは自分の知ってるものだと。
あのスカーフリングと同じ形のペンダントをプロシュートは身につけているのだ。

しかし、

「…いや、まさかな…。
こんな所で」

「?なんでしょうね。
あ、じゃあ、私ちょっと行ってきますね」





「…」


一人残された部屋で思う。
たまたまだ、偶然だろうか。
何故ならば、ここはイタリアからあまりにも遠く離れている。
この日本で、目にするとは夢にも思わなかったのだ。


プロシュートはとにかくとして、桃子から受け取ってたその服を身につけ出した。



(……おかしいな)


妙にサイズがぴったりだ。
裾の丈も、肩幅も。

灰色のワイシャツ、ベージュのジャケット。
コチニールレッドのスラックス。
上質な絹のオールドローズのスカーフ。

そして銀色の、スカーフリング。

プロシュートは自分の持っているネックレスとそれを手に持ち、眉を寄せて睨みつけた。









『なぁなあ、聞いていいかい?プロシュート兄ィ。
オレ前々から思ってたけど、兄ィのいつもしてるそのペンダント変わってやすね。
いや、イカしてるって意味だけどさァ!
一体どうして、そんな形をしているんだい?』

以前エスプレッソを飲むのにヒーヒーしていたペッシが、何かの話のおりに、プロシュートのペンダントについて聞いてきたことがある。
プロシュートはそれを武器としても使っていた。
時には外して、紐で相手の首を締めたり、18金で出来てるという持つとかなりの重みのある金色のペンダントヘッドを相手に突き刺したり殴り飛ばしたり、それは充分な存在感があったのだ。














ーーザバァアアッ!!







『…ぷはっ!!

ハァハァッ!!ゲホッゲホッ!


ハァ…ッ、ハア!ハアッ!




テメエ!!クソジジイ!!』


紺碧の海中から、光り輝く太陽の下へ幼いプロシュートはようやく首を出して、スタンドを使って、そばに浮かんでいた船のへりを掴んで勢いよく中に飛び込んだ。

『…おお、思ったより早かったあじゃあねえか』

『ふざけんなァッ!!』

プロシュートが駆け寄った船の中。
そこにはリクライニングのビーチチェアに身を横たえ、日傘の下で優雅にタバコを蒸す銀髪の老人がいて、プロシュートを目にしてニヤッと笑った。




『テメェ!よくもオレを殺そうとしやがったな!!

くらえっ!!今すぐテメェを骨にして墓場へ送ってやる!!グレイトフルデッドッ!!』

あれは、子供の頃、手足を縛られたまま船から海に放り投げられて生きて帰ってこいと言われて、怒りながら死ぬ気で帰ってきて、突き落とした本人に掴みかかろうとした時だった。



『Friend of the Devil(悪魔の友)よ…』

老人が目を閉じたまま、その言葉を口にした途端に掴みかかろうとしたグレイトフルデッドは強制的にその姿を消す。
老人の背後に現れた地下墓地カタコンベに並ぶミイラのような黒い骸骨、金色の霧と共にその姿を一瞬だけ見せて、かき消える。


『まあ。そう怒るな…、それに私にお前のスタンドが効く訳ないだろう?何百回も試したじゃあないか。

殺すつもりは最初からねえんだ。
駄目そうなら助けるつもりだったよ、そんで次回は滝の中へ放り込んでやる予定だった。
良かったな、やらなくて済んで。

まあ、お前なら生還すると信じていたさ、Bambino バンビーノ(小僧)』

『このッ、ゼェゼェ…ハアッハアッ!

クッソ…ヴェローチェ ・イルモルト!!じじいッ!!!
畜生!テメェ!いつかブッ殺すッ!!』

船の床に拳を叩きつけて怒るプロシュートに老人は
眉間に皺をよせ、
『おいおい、ブッ殺すって言葉は使うんじゃあねえぜ、Bambino。

…ブッ殺したなら使ってもいい』
低く唸るような声に気落とされて、思わず老人の鋭い銀色の眼光から目をそらしてしまう。


(また分からなかった…ッ、畜生!
ジジイのあのスタンドは一体なんなんだっ)

悔しさに唇を噛み締めながらも、力の差を感じて、とにかくやっと吸えた空気を思う存分味わう。

びしょ濡れで潮の香りにまみれて、海の風で肌がヒリヒリしていたのを青年になったプロシュートは今も鮮明に覚えている。
あれを貰ったのは、まだヒヨコと同レベルの子供で、確か9歳の頃だったか。

『さあ、キリストがヨハネから洗礼を受けたように、お前も水の流れに身を沈めて洗礼を受けた。
受け取れ。
今日から、これはお前のものだ…』

あのいつもニヒルに笑う憎たらしい老いた男は、出来るだけたくさん空気を吸おうとゼイゼイ息を吸うプロシュートの首に、ひんやりした銀の紐と金色のペンダントヘッドのゆれるネックレスを、まるで戴冠式で王冠を授けるかの様に芝居掛かった様子で恭しく引っかけた。


『…これがジジイの言ってたご褒美か?
ジジイ、何だよ?この変な形の』

『…Bambino バンビーノ(小僧)。
それはな、9(Nove ノーヴェ)。

私の家で先祖代々かかげてきた生きる目標だ。
お前もこれからの指針とするのだ、この私の教育を受けているのだからな』

『ノーヴェ?(9)
なんで、1じゃあないんだよ。
1番を目指せってのがわかりやすいだろ?』

『そんな単純なものじゃあないんだ、馬鹿者。
Noveには意味がある。

父と子と聖霊の三位一体、割ることのできない最初の奇数3。
その3に更に3を掛けた偉大なる数字がNove。

それはキリストの磔刑の時刻、午前9時。

9、それは逆さまになれば6となる。
それは黙示録の獣の数字666、暴君ネロを示す。
時として残酷な獣とならねばならない時もあるのだ、生きていく為ならば。

聖邪、明と暗、白と黒、良心と悪意の両面性、それがNove。
すなわち人間のことだ。

Nove、それは完全なる数字10の手前。
意味は、ほぼ完全。
それに1つ足せば完全なる数10(Diechi ディエチ)
になれる。
人はな…探さねばならないのだよ、自分にとっての1を』

老人、長い月日のさまよう日々を経て、いつしかパッショーネの幹部になった男ヴェローチェ・イルモルトは、目の前の己の秘蔵っ子にその由来を語りきかせていた。
この強く、脆い、少年の頃の自分とほぼ瓜二つの姿をした少年に。
聞かせねばならない、少年がこれからも続くマフィアの人生を生きていく為の心の支えとなるようにと。

『なあ、Bambino。
覚えておけ。
私達はこのエンブレムを授かった時から、自分にとっての1とは何かを求めるよう運命づけられたのだ。

なあに、1ったって数じゃあないんだ。
例えだ例え。
それが自分の欠けた物を満たしてくれる存在ならば、人だって、物だって、なんだったらペットだっていいんだ』

『オレの…1(Uno ウーノ)?

オレだったらメリケンサックかなァ。
あれさえありゃあ、こぶし守って相手のツラつぶせるし』

そうさらりと言う見た目はブーグローのキューピッドのように愛らしい美少年に、オメーはわかっちゃあいねえなBambinoと老人は言った。

『まあゆっくり探せばいいさ。
お前はまだまだ尻の青いガキだからな』

『オレをいつまでもガキ扱いするんじゃねえ!
すぐ見つけてやらぁ!
そう言ってるジジイは見つけたのかよッ』

老人は、そんなふくれて怒る、ほんの子供のプロシュートが早く早く大人になりたいと背伸びする様子のチグハグさがおかしくて涙が出るくらい声に出して笑い、そしてこう言った。

『当たり前だ。
私はもう見つかったぞ…。




俺の1はな…、今俺の目の前にいる、クソ生意気な青い眼の、天使よりも可愛い、ジャジャ馬のクソガキだ。

プロシュート。
さあ、お前にとっての『1』は何であろうな?』

頭をワシワシ撫でて、目を細めて笑いかける老人。
両親にも一族にも良い感情も期待もしなかったプロシュートは、なぜかこの親代わりとなって教育するこの男が言う言葉なら間違いないなと不思議と思えたものだ。

『…ッ!?

クソッタレ!!
オレはオメーなんか大嫌いだッ!!』

滅茶苦茶なやり方が時々あっても、彼は自分を愛してくれた。
それが幼いプロシュートには嬉しかった。
くすぐったくて、言葉にはしなかったが。










『プロシュート』


『兄貴ィ!!』







『お兄ちゃん!!』




















ーー何が彼にとっての『1』なのだろう。









『私はお前が大好きだよ。
私にとっての1だ、愛する子よ。

お前は私の家族だ…プロシュート』






ネックレスのNoveは、プロシュートにあの時の老人の言葉を語りかけている。

今ならば思える、あの時の幼い自分にとって欠けていた1は老人だったのだと。

それが後にプロシュートにとって天使と思える愛しい妹となったのだと。


そして今は、






『リーダーさーん!!』


また分からなくなってしまった。



欠けた場所に埋まったものは、一度剥がれ落ちてしまえば以前より大きな空白となり、プロシュートにいつしか再び寒さを与えていた。

物心ついた頃から寒さが大嫌いだった。
生家は寒い地域だった。
雪の降りしきる暗い空、凍えるような夜。
期待された子だったが誰も彼自身を本当の意味で愛してはくれなかった。
欲しい時に誰もそばに居てくれなかった。
他人に期待してはならない。
生きる為に一人で何とかするしかない。
ヴェローチェの元に行くまで、子供のプロシュートはどれだけ心細い思いをしてきたのだろう。

その寒さを彼は今も感じていた。



寒さは、辛い記憶と弱かった子供の自分が共に訪れる…。






(ヴェローチェ…


クソジジイ…。オレはもう分からねえんだ。
アイツがオレの元から去っちまったら、どうなっちまうのかを。

オレはノーヴェだ、今も。
今も寒くてたまらねえんだ。
教えてくれ…)



自分のネックレスとスカーフリングを見つめるプロシュートの目は遠い。
まさか、遠い日本の地で彼の事を思い出すとは思えなかった。
今手にしたノーヴェのネックレスに触れる彼の手は、冷たかった。









そんな時だ。


「…プロシュートさん、お着替え終わりましたか?」

扉を控えめにコンコン叩いて、
桃子がやって来たのは。


「ああ、大丈夫だ」

ネックレスを密かにしまい、プロシュートは答える。それは見られてない。


「よかった、サイズも合ってるみたい…。
お似合いですよ、素敵ですね。

あ、プロシュートさん…。

あの…」

桃子が何か言いたい事があると、おずおずとプロシュートの前に近づく。

「ん?なんだよ」





ーーそう見下ろした彼の頬に、華奢な手が優しく、そっと、触れた。





「!」


思いもよらなかった。
彼女から触れてくるなんて。
昨日はあんなに近づいただけで怒ったのに。




「冷たいわ…。


顔色悪いですね…。
大丈夫、ですか…?

私のマフラーお貸ししましょうか」

自分の姿が映るまで近づいた彼女の澄んだ黒い瞳。
控えめな優しい声が耳にやわらかく響いて、心地良い。

そう心配そうに…それは、本当に心の底から、まだ会って間もない男なのに、気にかけてくれる言葉。


『美しい人…、
私あなたを愛してしまったみたい。
触ってみて、この心臓の鼓動を…ほら』

これまで出会った人間とは違う。
下心もないのだ。
彼女は。

ただ、目の前の男が心配で、何とかしたいと思っているだけで。
風邪をひいたか、熱がないか触れてきただけで。

お人好しの…馬鹿なくらいに。




「あ!

ごめんなさいっ、いきなり馴れ馴れしいですね…!」

そう慌てて手を引っ込めた桃子の様子に、プロシュートは目を細めた。

ああ、なんて可愛らしいのだろう。





「嫌じゃあないぜ、オメーになら」
と言って微笑む。
その瞳は美しい藍方石(アウイン)のやわらかな色彩に変わっていた。


「そ…それなら、よかった…。

では行きましょう!」

自分が思わずしてしまった事に顔を真っ赤にして背を向ける彼女。
プロシュートは、その後ろをゆっくり歩いてついていく。






『冷たいわ…』








…彼女が触れてくれた頬が熱かった。






(この女といると寒さを忘れちまうらしい…。


ハッ!
このオレがよ、情けねえな…)


薄々気付く感情に、彼は自嘲する。










『人生は死ぬまで愛に生きるべきだ…』


ヴェローチェがよく口にしていた言葉が呼び起こされる。

彼の目の前を歩く黒髪から、あの花の香りがした。
華奢な小さな体を、できるなら今すぐにでもかき抱いてしまいたかった。
もしも彼女を抱きしめられたら、彼女がそれを許してくれたら…彼女の温もりをもっと感じていられたら。

彼女がお詫びとして、この休暇の間に、自分の側にいてくれるのが嬉しいと思えた。


完全に認めたら、戻れないのを分かっていた。







(桃子)








…出来るだけ、傍にいたい。

彼が少しずつ、彼女に恋をしているのを。















H.31.3.14
スローペースと捏造設定だらけ。
兄貴を教育した爺様と桜仁郎はスタンド使いです。爺様のスタンドの元ネタは兄貴と同じグレフル。ヴェローチェ爺さんの姿は、じい様姿の兄貴、若い頃は兄貴の色違いの見た目でご想像下さい。

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