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シュガー・マグノリアー偉大なる死と無垢の木蓮
「シュガーマグノリア。
お前は、オレの命だ」








イタリアンギャング、プロシュートには妹がいる。

名前はアマーロ。
年はプロシュートより13歳も下で、兄とは正反対に争い事が苦手だった。

大きな瞳を飾る睫毛は音をたてそうに長く、二人が並ぶと確かに兄妹の繋がりを感じた。


プロシュートは、アマーロにとって兄であり、母であり、父だった。
二人は常に一緒だった。
両親はすでにこの世にいないらしい。
ぶっ殺したんだと彼はかつて言った。

それがアマーロには本当かどうか分からない。
ブラックジョークが好きな彼の悪い冗談かもしれないし、有言実行の性格を思えばそうじゃないかもしれない。

本当だとしても、アマーロはあまり何も思わなかった。
冷たいかもしれないが、そうなのだ。


両親の顔も記憶もなく、自分を苦労しながら育ててくれたのは他ならないプロシュートだったのだから。

何より
「…奴等が、気にいらなかったからな」
と言った時の、唇を歪め、冷たく呟いた、その表情を彼女は信じていた。


あの顔は、アマーロが何か酷い目にあった時にしか見せない。
























「麺はすするんじゃあねえぜッ!!」
プロシュートは厳しかった。


アマーロが夕飯の娼婦風スパゲティをうっかりすすって食べれば、即座にアマーロの脳天に拳骨が落ちた。
いわく、いい女は美しく食事をしろと。



「うぅ…ごめんなさい」

プロシュートの拳骨は彼女にとって目から星が飛ぶほどだ。

もっとも、以前アマーロを突き飛ばしたひったくりを捕まえようと、バールのテーブルを真っ二つにして殴りかかった時と比べれば、相当な手加減をしてくれてるのは分かるが。

年上、特に老人に敬語を使えとよく言っていた。



「オラッ!背筋ッ!!」

「…!はいぃッッッッ!」


姿勢をよくして胸をはってろと、背中をバシバシ叩かれていた。


「うぇえええん………!あたしは悪くないよぉー!」

「ゴタゴタ言うんじゃねぇッ!オレはお前のためを思ってやってるんだッ!
成長しろアマァーロ!」

悪い事をすれば、アマーロがいくら泣きつこうとも問答無用にお尻を叩いてきた。




プロシュートは気にかけてきた。アマーロを。
誰よりも妹を愛してきた。

アマーロを『シュガーマグノリア』と呼び、鞭のように厳しくしつけたかと思えば、色とりどりの飴の様な愛情を降り注いだ。

風邪をひけば額を合わせて、ずっと側にいてくれた。
どんなに疲れていても、アマーロとの時間を何より大事にした。

いつも女性に困ってない様子なのに、バレンタインには
「一番の恋人はお前だぜ」
と真っ先にアマーロと一緒に過ごした。

仕事が終わって帰れば頬擦りをし、たくさんのキスを落とした。




アマーロが声を押し殺して泣いてると
「オラ、どうした?オレのバンビーナ」
と抱きよせ、話を最後まで聞いてくれた。































「…泣くんじゃないぜ、シュガーマグノリア」

「だって…学校のみんな、あたしが不気味だって………悪魔みたいだって……」

自身の見た目が原因で体を震わせて泣きじゃくるアマーロをプロシュートは気にかけてきた。

そんな時はプロシュートはただ肩を抱き寄せて、背中をさすってやっていた。



アマーロはプロシュートと同じく整った顔立ちの少女だった。

だが、色素の全くない生まれついての真っ白な髪、メラニン不足で毛細血管の色が直接にじみ出た、血の色をした真紅の瞳。

視力が弱く、またサングラス無しでは光を見れない自分の眼を、日の光の下でただれかねない脆弱な自分の肌を彼女は恥ずかしく思い、人目を気にし、その性格は引っ込み思案になっていったのだ。






「馬鹿だなぁ…。虫一匹殺せないオメェが悪魔な訳ねぇだろ。

夕陽みたいで美しいじゃねぇか、お前の眼。
お前の髪は、お前の好きな木蓮の花と一緒だろ?ん?」

「でも…………」

















「クッソうだうだ言ってんじゃねぇ!
このマンモーナがッ!
泣いてばかりじゃナメられるだけだぜ!!

いいや泣いても構わねぇ!だが、同時に顔面に拳をぶちこまねぇとなぁ!!

オレが ガキの頃から愛用してるメリケンサックを貸してやるッ!


そいつ等にたっぷり地獄を見せてきなッ!
あと使ったらちゃんと洗って返すんだぜ!!」


「うぅ…………うわわわわわわっ!重たッ!トゲついてるぅコレ!?


もう!お兄ちゃんは極端過ぎるよッ!」


「シュガーマグノリア。

ぶん殴ると心の中で思ったのなら、その行動はすでに終わってるんだぜ。

まぁ殴る時はなぁ、その後の覚悟もなくちゃならねーんだがな。


(…やっと涙が引っ込みやがったか)」




























アマーロは乱暴者ながらもそんなプロシュートが大好きだった。
彼が彼女を愛してくれるように、彼女も彼がとても大事だった。




















「…なぁシュガーマグノリア。(無垢で愛しい木蓮の花)」







プロシュートはアマーロに何度でも言いきかせた。





「お前はオレの命だ。

お前がいたから、オレは人間でいられたんだ。
誇りを持って生きてきた。

お前は弱虫に見えてかなり図太くて強い女だ。
お人好しですぐ騙される単純馬鹿野郎だが、オレより遥かに上等な魂を持ってる。

オメーはやれば出来るんだよ。このオレの身内だからな。


怯えるな。
自分に誇りを持て。
やられたらやりかえせ。
譲れないもんは何がなんでも譲るな。
やると決めたら、覚悟を持て。
相手の喉元に食らい付くように、そうやって生きていくんだ」


「……あたし…お兄ちゃんみたいになれるかなぁ…」

「ああ、間違いねえ。
もっとチビだった頃から、オレはお前を見てきたからな」

「………うっ。お兄ちゃん…………ッ!」

「はぁあ…………、まだまだ先は長そうだがなぁ。

仕方ねぇな。
オラ、思いきり泣いてスッキリしろ」










アマーロは知らなかった。

涙で見えない視界と、自分の泣きじゃくる声と、強く抱き締められてたせいで分からなかった。





























「…ずっと、見ていられないかもしれないからな………」










そう呟く兄の表情を。











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あきゅろす。
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