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3 ソード・スリンガーー暗殺者邂逅
バタフライ・エフェクトーある場所の蝶の羽ばたきが、世界の裏側で嵐を起こすように。




いつものように。

お兄ちゃんと朝のカフェオレと一緒にバーチチョコレートを食べて、
チョコの中に入った愛のメッセージの紙
『心の奥に誰もが秘めている宝物。
それを見つけられるのはキスだけさ………』
とか
『君は僕のハチミツ 君は僕のバター そして僕の永遠の輝きさ……』
と自分がひいたのを、私はなんてロマンチックなのと感激しながら、お兄ちゃんは大爆笑しながら、お互いに冗談混じりに読みあった事とか。

ベランダの私が育てていた花にお水をあげてた時ちいさな芋虫を見つけて叫んだ事とか、

UVクリームをうっかり眼に入れてしまって慌てて眼と顔を洗ってたら、お兄ちゃんがタオルを投げてくれた事とか、

私はいつもみたいにお爺さんの姿に変身したお兄ちゃんの後ろをくっつきながら、学校へ途中まで送ってもらった事とか。






あの日、どんな些細な出来事でも、何か一つでも違っていたら、私は、貴方に会えなかっただろうか?







お兄ちゃんが、仕事が早く終わると教えてくれた事、

それなら待ち合わせして一緒に帰ろうと私がお兄ちゃんにお願いした事、

家を出る時、買ってもらった新しい靴をはいてった事、

その夜やるサッカーの試合ばかりを考えてた担任の先生が、うっかり転んで宿題のノートを廊下にばらまいてしまった事、

ちょうど居合わせたから拾って渡した事も、

いつも君は頑張ってると誉められて、ちょっとした話をした事も、

帰ろうとしたら、靴の紐がなかなかキレイに結べなくて時間がかかった事、

やっと結び終わったら、クラスのいじめッ子達にバッタリ会って、髪の毛を引っ張られて、日除け用のサングラスを馬鹿にされた事も、

悔しくて、けど言葉が出なくて、お兄ちゃんみたいに許せないものに反撃する覚悟もなくて、

ただ唇を噛み締めて、悔しくて悔しくて走って外へ飛び出した事も、


涙が出るのが恥ずかしくて、
みっともなくて、

いつも帰り道ですれ違う買い物帰りのおばさんや、散歩をするおじさん達に声をかけてもらっても、無視して、ひたすら走ったのも、
誰にも会いたくなくて、
どこか誰もいない所……そうだ町外れの、古い教会へ行こう、少し泣いて気持ちが落ち着いたらお兄ちゃんの待つ場所に行こう…と思った事も。その教会が、老朽化が進み歴史的価値もないから取り壊される予定だった事も、そんな出来事も全て。


















そして、私は貴方に出逢った。























「…………子供、か…………」










目が離せなかった。


一目見た時、危うくて美しい人だと思った。
まるで傷付いた狼のようで。

影を纏ったような漆黒のロングコート。
鍛えぬかれた体格。
銀色の髪。
男の人らしく端正な顔立ち。
鋭い光を放つ瞳。





貴方は血に塗れて、暗い瞳を獣のように光らせ、息を切らせていた。





足元には数えきれない沢山の死んだ人達。

この世界で一番苦しい死に方をしたような表情。

あるのは血と沈黙だけ。

夕闇が広がりつつあった灰色の教会、暗く輝く朽ちたステンドグラス、古びた十字架の下(もと)でみるその光景は、ひどく背徳的で。

凄く…怖かった。
















私は無意識に叫んでいた。


自分が出す金切り声がひどく煩いと、叫びながらどこか冷えた考えも頭にあった。

警察に連絡しなきゃ。
まだ誰か生きてるかもしれない。
なら救急車も呼ばなくちゃ。
誰がこんなに殺したの?
この人が殺したの?
銃も刃物も至るところに散らばっている、何が起きていたの?





混乱してグチャグチャに駆け巡る頭の中、
「あたしはこの人に殺されるんだわ」
そう心の声が言った。


ーそうだ、人殺しの現場を見たんだ。
顔も見てしまった。
ああ、きっとあたしは殺される………!







その途端足の震えが止まらなくなって、私はその場にしゃがみこんでしまった。










(足音がする。

近付いてくる……っ。
何も出来ない。
来ないで…っ。
お願いだから…………!)






石の像みたいに動けなかった。

爪が食い込む程に拳を痛く握りしめて、私はこれから起きる出来事を想像して、強すぎるくらい両目をつむった。




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