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マイ・ファニー・バレンタイン(暗チ)
「…………………」
1月某日。

リゾットは自宅兼アジトのリビングにかかったカレンダーの前に立っていた。
無言のまま腕を組んで。
傍目からすれば怖い顔で。

その睨み付けるだけで標的が凍り付く、実際はそんなつもりがない視線の先の日付は……2月14日。


日付にぐるりと描かれたピンクのハート。
更にオレンジや赤ペンで小さなハート、デフォルメされたメタリカや矢印が、その回りを大乱舞している。

その蛍光ピンクの囲まれた14日。

それは、この味気ないカレンダーの2月の、どの日にちより激しく自己主張していた。

(……来月の予定を書き込もうとしたが…、先客がいたな。

そして、こんな書き込みをするのはただ一人しかいない……)



そうして、彼は静かに後ろを向く。

そこはメンバーの数+一人分揃えられた椅子とソファー。

と、女の子が一人。








…きらきらきらきら……っ!




振り返った彼の目に映ったもの。

それは瞳をこれでもかと輝かせ、何か言う事あるでしょと笑顔で、頬杖をつくアマーロがいた。



ほぼ、この少女と出会ってから毎年の光景。
そしてリゾットは、少女の期待に応えるべく口を開き、少女は期待にキラキラ瞳を輝かせた。









「アマーロ。
来月の14日、時間はあるか?」

「…もちろん!
リーダーさんの為なら!たっぷり!」

「分かった。
なら、どこか行きたい場所はあるか?」

激しく何度も頷き、出した週刊誌。
そこのリストランテ特集の一つに、アマーロは指差す。

「あのね、最近話題のリストランテ…行きたいの!

凄いシェフがいてね、その人の料理食べると元気になるんだって!
ね、そこ行こう!」



こうして二人は約束した。

はしゃぎ跳び跳ねるアマーロを見て、ホッコリする気持ちになるリゾット。

彼はその日の為に死ぬ気で仕事を片付けねばと誓い、来月までの暗殺計画の時間配分をスーパーコンピューター並みに脳内処理をはじめた。














瞬く間に2月になり、それは13日の前日のこと。


「リーダーさん、頭巾にアイロンかけたよ」

「ああ、いつもすまない…。ありがとう」

「うん、いいよ。ね、気をつけてね。
無事に帰ってきてね」

そう言ってアマーロが差し出した頭巾を受け取り、被ったリゾットはそのまま玄関へ行くかと思えば、そうではなかった。


「アマーロ。
一日早いが…。
これを着ていくといい。

『Buon San Valentino』」

リゾットがそっと差し出した大きめの紙袋。

その中には、上品なワンピースドレスが包まれていた。
それは紅い薔薇の色、彼女がいつしか好きになっていた色。


「これを買った時にな…
『娘さんに買うんですか?』
って店の女から言われたんだ…。
正直、少し、恥ずかしかったし、傷付いた。

だが、アマーロならきっと似合うと思った。
…着てくれるか?」

「うんっ…!
リーダーさん…!私、嬉しいっ!

うん、うんっ!
これ着てくよ!凄く好きよ!こういうの!
ありがとう!大好き!」















その後、アマーロは、食後の大量の皿をジャブジャブ洗いながら、シャボン玉をフワフワさせ鼻歌をする勢いでご機嫌だった。


(今日はバレンティーノ〜♪
リーダーさんとお食事〜♪二人っきりで〜♪♪♪)



アマーロ、すでに幸せいっぱいのバレンティーノ。


ただ、いくら恋人たちの日とはいえ、
この恐怖のヒットマン、絶対殺すマン、狙われたら百パーセント地獄猛直下の、腕利きぞろいの暗殺チームは、この日はかなり忙しいのだった。

言うならば、
『マイ・ブラッディー・バレンタイン』もしくは『ブレット・フォー・マイ・バレンタイン』か。

恋人とデート中の標的は、プレゼント選びにデレデレしてたり、何かと隙だらけで、狙うには絶好の日なのだ。

なので毎年この時期が近付くと、指令は立て続けに舞い降りてくる。
『リア充爆発させろ』
とたまに妙なメッセージも混ざってくるが、噂によればボスによるものか。

なのでメンバーは口を揃えて文句を垂れつつ、彼等の恋人と過ごす為、または恋人のいない怒りをぶつける為(主にクルクルパーマ男か鏡ラヴァーのお下げ男)か普段の倍以上に、迅速にえげつなく任務にとりかかっていた。

それでも彼らは忙しい中でも、アマーロの事は忘れてなかった。









「よ!アマーロ」

「ホルさんおかえりー!すごい火薬の臭いだね〜」

「ああっ、こりゃ殺り方を指定されてな。
『爆発させろ、リア充爆破!マジ爆破』
って、大量のプラスチック爆弾とダイナマイトを送られたんだわ」

「良かったね、火傷しなくて。
でもちょっと焦げた臭いがするから服は変えた方がいいよ。

それにしても早かったね!任務終了一番乗りだよホルさん。
これからデート?」

「まあな。今のアイツァ、時間に特にうるさい女でよ。
1分遅れただけで麺棒で殴りかかってくんだわ。
…と、ほれ。嬢ちゃん。
『Buon San Valentino』」

「あっ、ウサギのマフラーだ!
可愛いっ!レース着いてる!オシャレ!」

「オメー寒がりだからなァ。
首があったけーと全然違うんだぜ。
っと、やべーな。もう行かねぇと」

「ありがとう!
貴方にも『Buon San Valentino』」

「おー、あんがとよ。
おう、そうだ。
それは『五番目』のプレゼントだからな」




「え?五番目?
ホルさん二番目に私にプレゼントくれたよ」

「へっへっへ…まぁ、五番目なんだよ。
またなっ」










「『Buon San Valentino』、アマーロ!
『四番目』のプレゼントな。
琥珀の、一応コーパルじゃない本物のペンダント。

ドイツの任務の時にたまたま見つけたんだよ(※ドイツは有名な鉱物ショップの街がある)」

「うわぁ細かい!
大昔のロマンだよね…っ、美味しそう!あめ玉みたいッ」

「ははっ、食うなよー。なんか琥珀って火をつけると甘い匂いがするらしいけどな」

「ねぇ四番目ってなに?」

「ああ、まぁ、後でわかるだろ」

「そっか。
じゃあ、もう一つ。
イルーゾォ君、服真っ赤なのに、なんでスッキリした顔なの?」

「そりゃあ、……なぁ。
まぁ、察してくれよ。テレビつけても、『アモーレ!ミ・アモーレ!』連発しまくりなシーンを目にした独り身の切なさと苛立ちをさ。

って分かんないか。
ううっ、アマーロはリーダーと過ごすんだもんな…」

「イルーゾォ君…、なんかゴメン」





「アマーロッ!
愛しのハァアアニー!オレからの愛を受け取ってくれ!もう…三日三晩ぐっすり寝て考えたんだ!
三番目のプレゼント!」

「あ、ありがと。よく寝るって大事だよね。

うーん何だろ?ペラペラして………………

え?……ツイスターゲーム?
なんで?」


「そりゃあよ!君とオレがこれでくんづほぐれずで………それはもうシックスティー・ナインの体勢もやりかね…いや、もうムラムラするかなって…オレの頭に君のオパーイがのっかったり、太もも密着とか…挟まれたりとか…やっべ鼻血出てきた……ってイタァ!昇竜拳いたぁぁあああ!」

「バカァアア!もう!どうしてポンポンセクハラばっかりするの!
シックスティー・ナインって何だかわかんないけど、どうせエッチな言葉でしょ!」

「はぁはぁ………っ。いい……、超ベネ。
そりゃあ私(わたくし)がアマーロのレンガ叩き割る生ハム兄貴伝承の鉄拳と、激しい罵りが欲しいからに決まってるじゃあーりませんか………ッ。

って、まぁオレとやるのも大歓迎だけど。一応、考えたんだぜ。




リーダーとやれば、距離縮まるんじゃね☆とか」

「……!!!!?

いい……かもっ。
ありがとう!」


「いやいやいや!メロン!アマーロ、そりゃダメだ!
リーダー、脳内処理オーバーヒートしてひっくり返るっつーか、理性プッツンが目に見えるから!
やめとけ!」

「チッ。
全くこのカタブツ、ヘタレの純情オトメンが…!」











「ああっ!疲れたぜぇえ」

「ギアッチョ、おつかれさま!
今日は一段と真っ赤だねぇ。
はい、どうぞ。

着替えと……ちょっと屈んで……………


うん、汚れ取れたよ!」


「うっ……!ちっ近いんだよ馬鹿!
顔拭くくらい、自分で出来らぁ!

ったく、オメーはあのジジイと同じでお節介だよな!」

「そう?
ふふっ、ギアッチョはほっとけないんだもん………。


…うわっびっくりした!

えっ?花……?
デイジーとスノードロップ?
私に?」

「6番目だこのヤロウ!
……チッ。
オメーには何だかんだ仮があるからよ。

べっ、別に深い意味なんてねぇからな!」

「嬉しい……っ。ありがとっ。
真っ白で可愛いよね、なんかギアッチョみたい……。
大事にする…うれしいなぁ」

「……そっくりって何だよ!大の男がお花そっくりって嬉しくねぇんだよ!クソッ!!!!

もういいよな!用は済んだんだ!

風呂入ってくるッッ!」

「うわぁあ、ギアッチョったら階段上がるの凄い早い…!
(もう…照れ屋さんなんだから)

ありがとーーギアッチョーーー!大好きだよーーー」


「だぁあああああ!だからホイホイ誰にでも大好きっつーんじゃねぇえエエエ!
(花の意味調べんじゃねえぞクソッ!)」
































「ふふっ、いっぱい貰っちゃった…!」
そしてますます嬉しくなった彼女はリゾットのいない間、また家事をして時間を潰す。

(リーダーさん…早く逢いたいなぁ)


皿を洗いながら、彼女はポーっとする。

誰もいない場、特に観たいテレビもない、静か、リーダーさん大好き。
それを全部足すと、つまりはつまり、また妄想の時間になる訳で。











『Buon San Valentino、アマーロ。
俺の愛。俺の愛しい人』

高級リストランテ。
飾りのキャンドルがキラキラと輝き、どこからかヴァイオリンの音色と美しい歌声がロマンチックに響く。

『どうかこれを受け取ってくれないか。
…俺のお前への想いだと思って』

お約束の白いタキシードを着た(現実の彼は黒や灰色の服ばかり着ている)リゾット。
妄想の彼は、アマーロに捧げると白いピアノの前に座り、お手製の曲を披露したばかりである。
ちなみに現実のリゾットは歌は上手いが、ピアノを弾いた事は一切ない。

生演奏に感激し涙ぐむ、普段の自分の数十倍大人っぽくいい女に妄想修正されたアマーロ。
妄想劇場ではいつもの姿だ。

『ええっ、真っ赤な薔薇の花束がこんなに!
花束高いのに……、しかもこんな綺麗な蕾じゃ……っ、リーダーさんっ。私の為に…!リーダーさん…!私、嬉しい!』

『顔が赤いな…、どうした?風邪でもひいたか…』

『ううん……違うの……。カッコよくて優しい大好きなリーダーさんのせいだよ……。
私、リーダーさんのおかげで胸が痛いし熱出しっぱなしで、一年中病気なの…。

そう、恋って名前の病に………』

『アマーロ…。

お前の愛はバーチチョコレートより甘いな…』

『ううん、リーダーさん……。私、貴方のカンノーリみたいなトロトロの甘さに負けちゃう……。お願い、もっと私の心を溶かして……貴方の愛で』

『…眼を閉じろ…アマーロ。
……愛してる、未来永劫に』

『リゾット…………………ッ』











「ちょっ、ちょい戻ってこいよ!
またトリップしてる!」

脳内リゾットとのキスをする所で突然聞こえたペッシの声により、妄想劇場バレンティーノ編をやめたアマーロがハッと現実に帰って振り返る。

そこには、何やら満身創痍全身青アザだらけのペッシがいつも以上にモジモジして立っていた。


「ああっ。ごめん!またボーッとしてたの。

って、あ……ペッシ君……鼻血すごい…お、お疲れさま………。
お尻と顔に貼る湿布ほら、使って…。凄いね、今日は…いつもより。どうしたの?」

「おう、ありがと。
はぁ兄貴ィが今日も絶好調だって事だよ…。

ケツキックも愛の鞭パンチもいつも以上のキレでさ。


しっかし。スゴかったぜ兄貴ィ。
聞いてくれよ!
ターゲットの女たちが兄貴ィの姿目にした途端、全員兄貴ィに
『抱いてぇええええエエエ!色男さん!私を!抱いてぇえエエエーーッ!』
って突進したんだぜ!その後はいつもの女達の大乱闘さ。
ありゃまさに『血のバレンタイン』だ!
すっげー迫力だったぜッ。
オレ女たちに邪魔だって弾き飛ばされまくり踏まれまくりで、ターゲットの心はバキバキにへし折られまくりで凄かったな。

流石、兄貴。すげーよ!
そこに痺れる憧れるだった」

「う……っ。確かに絶好調だね…お兄ちゃん…」

「って!あ、ちげえよ。

用っつーのはさ、あ、あのさ、アマーロ。


ボ………Buon San Valentino!
一番目のプレゼントだ!オメー、髪飾り集めるの好きだろ…。
たまには髪を縛るといいなって思ってさ」

「うわぁ〜、綺麗なリボンッ!こんなに色々!

ペッシ君!ポニーテールとかやってみる!

いつもありがとう………って、あら?」

見た目の割にチキンで小心者だからか、ペッシはアマーロがそれを受け取るのを見た瞬間に、あっという間にその場にいなくなっていた。

「もう、ペッシ君も恥ずかしがり屋さんなんだから……。

さてと、そろそろ着替えようかな……」







そしてアマーロは自分の部屋に戻り、リゾットのくれた服を着替えて身支度を始めた。

だが、そうして悩み出す。



「リストランテ…かぁ。
ちゃんとした格好しなきゃいけないよね…。
ちょっと高級な所って聞いたから。

髪の毛とかどうすれば…、うーん……何がいいんだろ…。

どうしよう私。
何も知らない。


どんなのがいいんだろう…、靴とか何がおかしくないかなぁ………」


ふと萎む気持ち。

服はリゾットがくれたワンピースがあるからいいとして。

せっかくだから、リゾットと並んで恥ずかしくないようになりたい。

それを考えると、ドレスに何を合わせてもしっくりこない気がして、何から何まで気になり、靴下の色まで決められなくなって。

そんな情けない有り様に、アマーロはすっかり途方にくれてしまった。















そんな時。












「何か困ってるようだな。
可愛いシニョリーナは」


「……あ!」






タイミングよく現れるのは、誰といったら言わずもがな…。

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あきゅろす。
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