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先生、教えて
始まり
その日の放課後、鈴村は宿題だったプリントを出し忘れているのに気が付いた。
もうほとんどの生徒が帰っているので明日でもいいか、と思ったが、よくよく考えてみればこのプリントの締め切りは今日なのだ。

鈴村は仕方なく職員室へと足を進めていく。
プリントを出しに行くのは面倒くさいが、櫻井に会えると考えるとそれも楽しみに変わっていった。

「失礼します」

職員室に入ると窓側の奥にある櫻井のデスクへと真っ直ぐ歩み寄る。
放課後の為か、ほとんどの先生が部活などで出ており、職員室に居たのは櫻井一人だけだった。

「櫻井先生」

近づいてみると櫻井はスヤスヤと寝息を立てているではないか。
そのデスクの上にはいつも櫻井が掛けているメガネが置かれていた。

「櫻井…」

初めて見る櫻井の寝顔に鈴村の心臓はドキドキと脈打っている。
人は寝ている時が一番無防備だという。
好きな相手のあどけない寝顔。
それを見て平然でいられる人間なんていないだろう。

鈴村は吸い込まれるように櫻井の唇に自分のそれを重ね合わせた。
暖かなその感触に涙が零れ落ちてくる。
別に悲しいわけじゃない。
でも、それは止まってくれなかった。

「っ、ぅ…」

次々と溢れ出す涙を抑えられずに、重ねていた唇を離す。
途端に堰を切ったように涙が零れ落ちた。

「すず、むら? 何泣いてるんだ?」

「!?」

寝ていると思った櫻井の口から突然そんな言葉が発せられ、鈴村は眼を見開く。

いつから起きていたのか?
キスしたことに気づかれていないか、と鈴村は不安になった。

生徒に――それも男にキスされたなんて知ったら軽蔑されるかもしれない。
恋人になりたいなんて贅沢は言わないから、せめて嫌いにだけはなってほしくなかった。

「お前、なんか言えよ」

「あ、え…と…起きた、んだ」

「あぁ」

鈴村の予想とは裏腹に、櫻井は何事もなかったように接してくる。
どうやらキスしたことには気づいてないようだ、と鈴村は胸を撫で下ろした。

だが、次の瞬間、鈴村は己のしたことを後悔することになる。

「で? お前はなんであんなことしたんだ?」

「え? あんなこと?」

意味が分からない。
あんなこととは一体なんなのか?

まさかとは思ったが、先ほどの不安が再び襲ってくる。

「さっき俺にキスしてただろ」

「なっ!? 気づいて、たんですか?」

「そりゃ、キスしていきなり泣かれりゃな。ってか、お前が職員室に入ってきた時から起きてたしな」

平然と言ってのけたが、櫻井の言葉には鈴村を唖然とさせるだけの力があった。
嫌われる――鈴村の脳裏にそんな考えが浮かんでくる。

「っ、ぅ…ぐっ…ごめ、なさ…」

もうどうしていいか分からなかった。
彼に嫌われたら…自分がおかしくなってしまいそうだ。

「なんで泣くかな。俺は別に怒ってるわけじゃないんだけど?」

「ごめん、なさい…ごめんなさ…」

櫻井が何か言ってるけど、俺の耳には届かなかった。
ただ嫌われえたくない一心で謝り続ける。
櫻井の顔を見るのが怖くて、俯いた顔を上げられなかった。

「ったく、いい加減に泣き止めよ」

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