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愛故に。


「古泉・・・。」


彼の、同世代の中でも低めな声が僕の名前を呼ぶ。
彼の声は不思議だ。決して甘くはないはずなのに、いやに耳に馴染むというか、しっくりくるというか、もっと声を聞いていたくなる。そんな人を惹きつけるような声だと思う。

惚れた欲目だと言われればそれまでですけど。


「邪魔だから狭い台所じゃなくてリビングで待ってろ。」


冷たい目に冷たい声。世の中にはこれがいいなんて特殊な趣味な人もいるけれど、生憎僕はそんな性癖は持っていない。
どちらかというとサディストのようで、どうせなら繕えないほどに泣かせたい。
彼はマゾではないけれど、とても順応力の高い人だからいじめ抜けばきっと、「もっともっと」と求めてくれるだろう。
優しいから、僕がホントにお願いしたら聞いてくれるだろう。・・・・・・・・・一度本気で調教してみようか。


「おい。聞いてるのか?」

「聞いてますよ。僕もリビングで寛ぎたい気持ちもあるのですが、少しでも貴方の傍に居たいので。」

「うざい。」


切り捨てるかの物言いににこり、笑みを向ければ彼は諦めたかのように小さく息を吐いて料理を再開した。あ、エプロンのリボンが縦結びになってる。



「今日のごはんは何ですか?」


黒のシンプルなエプロンはそのシックさが彼によく似合う。
勿論、純白だろうがフリルだろうがタータンだろうが、彼には何でも似合うだろうけど。
今度割烹着を着てもらおうかな。 着てくれないだろうな。


「ほうれん草のおひたし、豆腐とねぎの御味御付け、きんぴらごぼう、たらのホイル焼き、いかと里芋の煮物、白米。」


和食としてスタンダートなものから調理法が不明なもの(僕が一切家事出来ないせいもありますが)まで、彼はほんとに何でも作れる。
高校生でこれだけ料理が出来るのなら、いつでもお嫁にいけるでしょう。誰にも渡す気はありませんが。むしろ僕が貰いますが。


「キョンくん。」


僕よりも幾分か華奢な体を後ろから抱きしめればびくりと反応。
目が「何の用だ。邪魔すんな。うざい。」と言っている気がするけれど無視。
少し屈んで彼の肩口に顔を埋めれば、ふわんと香る石鹸の匂い。
僕の家のお風呂を使ったから、当然匂いも僕と同じなのに、彼から香るというだけでそれは特別。


「危ないからあんま動くなよ。」


優しい彼からくっつき許可を貰い益々堪能。にこりにこり、勝手に顔が緩む。



「ねぇ、キョンくん。」


ごめんなさい。


「・・・なんだ。」


優しい貴方を利用して。


「大好きですよ?」


優しすぎるから僕の好意を受け入れて自分を殺すハメになった貴方。
それを知っていて自分のために貴方を殺し続ける卑怯な僕。
独りよがりな愛情の押し付け。嗚呼・・・なんて最低な関係なのだろう。


「大好きですよ。」


それでも何より執着する貴方を逃がさないように、今日も言葉で君を縛る。

愛故に。

免罪符にもならない言い訳を盾にして。


「俺も、すき、だ・・・。」




嗚呼・・・。



なんて貴方は、優しいのだろう。
なんて貴方は、可哀相なのだろう。









古泉はキョンは優しいから自分と付き合ってる思ってる。だから「好き」といい続ければ付き合って貰えると思ってる。それは倖せだけど、不意に罪悪感に囚われる。
キョンはほんとに古泉が好き。ある意味すれ違い?

説明しないと分からないって。






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