それは、堕落への甘美なる誘い…。 気が付いたらベッドの上に横たわっていた。 眩暈がするほどの喉の渇きに、耐えられなかった。 刻が経つにつれ酷くなる血への渇望は、俺の精神をも凌駕しようとしていた。 後幾年、人を襲わずに済むのだろうか? 後幾月、人で在ることが出来るのだろうか? 後幾日、俺は俺で居られるのだろうか? 「…目が覚めましたか。」 「……古泉。」 耳を打つテノールが、いつもより低い気がする。 見慣れた琥珀色の瞳は怒っているようにも見えた。 「何故、我慢していたんです?」 怒りを抑えた声に恐怖するよりも、頬に掛けられた手の温かさに安堵する。 目前にあるいつもは穏やかな瞳は珍しく静かな激情を湛えていた。 「別に、我慢していたワケじゃない。本能に任せて血を求めたくなかっただけだ。」 「それを我慢って言うんですよ。」 そう…お前は怒るけれど。 我慢しなければ、抑えなければ、俺はすぐに獣と化してしまうだろう。 そんなこと、耐えられない。 だから少しでも闇から離れる。…否、離れようとする。 実際は闇から逃れることなど、出来はしなくとも。 「お願いですから…倒れるまで、自分を抑えないでください・・・っ。」 頬に置かれた古泉の指が俺の耳を、首筋を、ゆっくりと撫で上げてゆく。 「例え、血を求むことで闇へ堕ちたとしても、僕が必ず、闇の中から、引きずり出します。」 其の、猫を愛撫するかの動きが気持ち良くて、 其の、切なく絞り出された声が心地良くて、俺は目を閉じた。 目を閉じれば確かな渇望が理性を越え、溢れ出づる。 「血が、飲みたい…。」 欲求を口にすれば、古泉は満足気に笑んで首筋を晒した。 其の白く綺麗な肌に誘われ、俺はゆっくりと其処へ口付けた。 それは、堕落への甘美なる誘い…。 昔書いたオリジナルを口調だけ変えて古キョンに変換してみた。 文の書き方が今と違う。ていうか恥ずかしい・・・。 |