眠るきみに秘密の愛を 「すみません。遅れました。」 掃除当番のため少し遅れて文芸部室に入れると、涼宮さんが帰り支度をしているところだった。 「あ、古泉くん。丁度良いところに来てくれたわね。」 「どうかしたんですか?」 「私たち、今日は3人で放課後デートするからもう帰るんだけど。」 ちらりと視線を動かした先を辿れば、机に突っ伏してなんとも気持ち良さそうに眠る彼。 それだけで彼女の言わんとしていることが分かってしまった。 「承知しました。彼が起きるまで僕が残っていましょう。」 「さっすが副団長! よく言いたいことが分かったわね。」 「いえいえ。」 彼女の思考のトレースが癖になってしまっている僕としては、これくらい造作もない。 折角気持ち良さそうに寝ているから起こすのは忍びない。けれど、このままにして目が覚めた時の彼の心情を思うと置いていくのも、。ということだろう。 「あ、でも帰りたくなったら叩き起こしちゃって良いからね。」 「いえ。今日はバイトもないですし、気長に待ってますよ。」 「そお? じゃー悪いけどお願いね。」 また明日ね! といつものように太陽のような明るさでまだ完璧に支度の整っていない朝比奈さんを引きずって行く。今日も平和だなぁ。 定位置、つまり寝ている彼の正面は中々のポジションだろう。 横を向いている寝顔がばっちり見えるし、手を軽く伸ばすだけで触れることも出来る。 寝ている彼に触れるなんて、僕に出来るとも思えないけれど、。 眺めるだけならいくらでも。役得とばかりに可愛い彼の寝顔を見ていると、いけない気持ちが湧き上がってくる。 今なら許されるだろうか。いや、いつでも許されないだろうけれど。 先程の「寝ている彼に触れるなんて…」なんていう気持ちは何処へ行ってしまったのだろう。 無防備な彼に触れたいという欲求ばかりが募る。 理性がバレなければ良いという誘惑に負けてしまう。負けても良いのではないだろうか、。 ここは誰も居ない文芸部室で。窓も扉も締め切っていて。訪れる人なんていない。今なら誰にも見られない、。 ゆっくりと、彼の耳元に唇を寄せて。 いつも清潔そうな彼の匂い。それだけで泣きたくなってしまう。 「貴方が、」 ー愛しいんです…。 |