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キスの日 1

ここはムーンレイカーのガレージ。
ビーグルの加速を調整するためにタケルは今日もここでスパナを握り締めていた。
遅いな...あいつら。
先ほどまでカズマやビスも共にいたが、タケルの腹が盛大な音を立てたので二人は買出しに行ってしまった。
別に二人で行くことないじゃん...。
実際のところカズマは食料の調達、ビスはこのスクラップ場にもない部品を調達するために出て行ったのだが...。一人置いていかれたと拗ねるようにタケルは頬を膨らませながら目の前にあるビスをガンガン叩いていた。

ガンガンガン...。

ビーグルの下に入り込み先ほどからタケルはビスから言われた場所を念入りにチェックしている。
『帰ってくるまでにチェックが終わってなきゃ終わるまで食べさせないからな!』
普段は気の弱いビスだったがマシンのことになると頭に血が上りやすい。買出しに行く前にしつこく念押しされたため、タケルはふてくされながらもとりあえず出来るところまではと手を休めずにビーグルと向き合っていた。

「タケル」

ガレージに響く金属音に混じって自分を呼ぶ声が聞こえた気がする。タケルはきょろきょろしながら回りに声の主を探して視線を彷徨わせた。
聞こえたのはカズマやビスの声じゃない。
それだけはわかったが、実際にそれが誰なのか特定することは出来なくて。
タケルがビーグルの下であたりを見渡していると足元の方に見慣れた白い革靴とえんじ色の裾が見えた。

「なんだ、タイラか」

床を蹴ってタケルは台車ごとビーグルの下から抜け出す。
が、勢いをつけすぎたせいで抜け出した後も台車は止まらず。台車を止めようと足を横へ出したと同時にタケルは腕を掴まれ無理やり上体を起こされた。

「おわ!」
「あぶねえな」

腕だけを引き上げられたせいで体勢的にはかなりキツイ。掴まれたままの腕も痛くてタケルはタイラを睨み付けた。

「離せよ!」

タイラは振りほどくように腕を振るタケルに名残惜しそうにその手を離した。
そんなタイラの様子にも気づかず、タケルは不機嫌そのものな顔をして壁にぶつかった台車の元へと歩いていく。
そしてそれをビーグルの近くまで持ってくると、やっとタイラと対峙した。

「なんだよ」
「あ?」
「用があるから来たんだろ?」

特に用事なんてない。
タケルのコトが気になったから来ただけ。
でも、さも邪魔だと言うようにタイラを正面から睨みつけてくるタケルにそんなことを言えるはずもなく。
タイラは何も言わず目の前にあるタケルの顔をじっと見つめ返した。
お互いを見つめ合うカタチになって、まっすぐ見つめてくるタケルに胸が苦しくて息も出来ない。
そんな感覚に我慢できなくなったタイラはバレないようにそっと視線を逸らした。




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