そのをとこ、むかしとかはらず。 「あれ?名前ちゃん?」 呼ばれて振り返れば、懐かしい初恋の人。 「…銀時?」 「おう。すげー久しぶりじゃね?何年振り?」 「あの戦い以来だから…本当に久しぶりね」 本当に懐かしい。 あの戦いが終わった後、銀時は行方を眩ました。 だから、全く連絡が取れなくて、会うことも出来なかった。 けれど、こうしてまた、会えるなんて。 「なぁ、名前ちゃんはこれからどっか行くの?」 そう言われても、ただ町をぶらぶらしてただけだ。 これから行く所なんて…。 私が返事に困っていると、銀時は言う。 「此処で立ち話もなんだし、甘味処にでも行かね?」 銀時の申し出に、断る理由は無かった。 随分と顔つきが変わったな…。 甘味処へ一緒に歩きながら、銀時を見上げた。 私が恋していた、“白夜叉”と呼ばれた男は、こんなにだらしない感じだっただろうか。 「名前ちゃん。今、失礼なこと考えてただろ」 「え!?否…別に…」 慌てて首を振ると、銀時が私の顔を覗き込んだ。 「相変わらず嘘が下手だなー」 顔つきは随分と変わったのに、その台詞は昔と変わらない。 同じことを、昔にも言われたのを思い出す。 それに、私の呼び方も、昔と変わってない。 銀時は、必ず、私の名前に“ちゃん”を付けた。 まるで私のことを、妹としか見てません、というように。 呼ばれる度に、少し傷付いていた胸が、また痛んだ。 「…」 黙ってしまった私に、銀時はヘラリと笑った。 「いいから言ってみ?銀ちゃんは怒んねーから」 「…魚が死んだような目」 「は?」 「魚が死んだような目、してるな…って思って」 昔と違って。 昔は、もう少し、しっかりしていた目をしていた気がする。 確かに昔も、だらしなかったといえば、だらしなかったけど。 「ったくよー、揃いも揃って、んなこと言いやがって」 「ごめん」 「良いの、良いの。名前ちゃんのこと怒ってねーから」 「でも」 「良いか、よく聞けよ?こんな目だってな、いつかは輝くんだから」 銀時は自分の目を指差して、口を尖らせた。 「そりゃあもう、キラッキラに輝くよ?ビームも出ちゃうよ?」 「あはははは、何それ」 「本当だって」 思わず笑ってしまった。 何年振りだろう、こんなに笑ったのは。 あの戦いが終わった後、死んでいった仲間達を思い出しては、涙する日々だったから…。 もしかして、気付いていたのだろうか。 そういえば、銀時は昔から、私の気持ちを読んだかのように行動していた。 私が泣きそうな時は、黙って傍に居てくれたり、沈んでいる時には笑わしてくれた。 やっぱり、昔と変わってない…。 「危ない!」 「え?」 後ろから声がして、思わず振り返れば、私に突っ込んでくるバイクが見えた。 轢かれる、そう思って、体を固くして目を瞑った。 ガシャン! 大きな音がしたけど、私の体に衝撃は無かった。 恐る恐る目を開ければ、私の前に立ちふさがる大きな背中が見えた。 風で棚引く銀髪。 右手には振り切ったであろう木刀。 「ぎ、銀時…」 「大丈夫か?」 そう言って振り返った銀時の目は、昔と変わらず輝いていて。 嗚呼、この目だ。 仲間を守る、そう決めた真っ直ぐな瞳は、昔となんら変わってない。 私の好きな、銀時の目だ。 「ちょ、おい、大丈夫か?名前!!」 肩を掴まれ、ぶんぶん振られた。 いつのまにか、銀時の目付きは、魚が死んだような目に変わっていた。 「あ、大丈夫…うん。ごめん。ありがとう」 「誤るか御礼言うか、どっちかにしろよなー。おい、運転手さんも大丈夫?」 「あ、すみません。そちらこそ大丈夫ですか?」 見れば、バイクはばらばらだった。 でも、バイクを運転してた人は傷1つ無い。 銀時の剣の腕も、相変わらず凄いらしい。 「おーい、名前ちゃん。甘味処行くぞー。置いてっちまうぞー」 「あ、待って、銀時」 慌てて銀時と並ぶ。 「ねぇ銀時。もう、呼び捨てで呼んでくれないの?」 「あー?何言ってんだ。俺は呼んでねーぞ、1回も」 「嘘吐き。1回呼んだじゃない」 本当は、昔のままだったんだね、銀時。 私が好きだった、銀時のままだったんだ。 end.(2010,8,5) [*前へ][次へ#] [戻る] |