君が居てくれるなら そんなに阿部がいいのか、と尋ねたくなかった日はない。 けど、『友達』として、ずっと相談にのってた俺に、そんな権利なくて。 名前がにこにこして話すこと全て、阿部のことばかりだった。 「今日ね、阿部くんとたまたま校門前で鉢合わせして、おはようって言ったら、おっすって返してくれたの!!」 楽しそうに話す名前。 俺は、べったりと笑顔の仮面を貼り付ける。 「へー、良かったじゃん。阿部、結構めんどくさがりなのに、名前に挨拶返したってことは、実は名前のこと気にしてるんじゃない?」 「え、そーかな。そーだったらいいけど」 「告白しちゃえばー?」 軽はずみで言ったけど、本心じゃない。 そんなことしてほしくない。 だってもしも万が一、阿部が名前の告白を受け入れれば、名前にとって『相談役』である俺は要らなくなる。 そしたら俺は、名前とこうやって話すことも出来なくなるかもしれない。 俺の告白の提案を、名前は曖昧な笑みを浮かべて聞いていた。 その日は突然だった。 名前が阿部に告白して、阿部はその告白を受け入れたのだ。 きっと、名前は一生懸命に告白したんだろう。 さすがの阿部も、心が打たれたのかもしれない。 ぱったり、俺と名前は話さなくなった。 否、話せなくなった。 阿部が名前を独占してるから。 ある雨の日。 その日の雨のように、静かに、名前は雨に濡れながら泣いていた。 傘を差して近付いた。 思わず緩んでしまう口を引き締め、神妙な顔をして聞いた。 「…どうしたの、名前?ずぶ濡れだよ?」 傘を名前に差す。 そこでやっと、名前は俯いていた顔を上げた。 名前の顔は、体と同じくらい、ずぶ濡れだった。 「さ、栄口くん…。あのね、あ、阿部くんが…、知らない、女の子と…」 つっかえつっかえ話そうとする名前に、優しくキスをした。 これまでずっと想ってきたことを伝えるように、そっと。 「話さなくていいから。大丈夫だよ」 「…栄口…くん…?」 「俺は、名前のことがずっと好きだよ。俺は絶対、こんな所で名前を泣かせない。傷付けない。ずっと一緒に居たんだから。名前のこと、誰よりもわかってるつもりだよ」 名前を見つめる。 名前の瞳には、俺しか映らなくなった。 そう。 この時を、ずっと、待ってた。 ねぇ知ってる? 失恋した後ってさ、落としやすいんだって。 end.(2010,07,13) [*前へ][次へ#] [戻る] |