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two-passenger cycling

チリンチリン。


勇人の自転車のベルが鳴る。
良い音だなぁ、なんて耳を澄ませながら、勇人の背中に更にしがみつく。


「あのさぁ、名前」
「なぁに、勇人?」
「あんまりしがみつかれると、運転しにくいんだけど」
「あぁ、ごめんごめん」


そう言いながら、腕の力を抜く。
少し、寂しい。



辺りは夕暮れ。
いつも勇人は部活の練習があるけど、今日はお休み。
というか、テスト週間なのだ。
お互い部活も無いので、一緒に帰ることにした。


すると勇人が、


「なんだったら一緒に自転車に乗る?」


なんて言い出したから、自転車の2人乗りをすることになったわけ。


あたしが後ろで、勇人が前で。
夕焼けの日に染まって、自転車の2人乗りなんて。
何かの青春ドラマのワンシーンみたい。



「夕焼け綺麗」
「そ?」
「勇人も見てごらんよ」
「あのね、見れるわけないでしょ。俺、運転してるんだから」
「あ、そっか。ごめんごめん」


笑いながら、勇人と会話する。
見えるのは背中だけで、いつもとは少し違う感じがする。
いつもの、あの、心癒される笑顔が見られないのは残念。


なんて思ってたら。


「どしたの、名前?」
「ちょ、前!!前っ!!」


自転車が思いっきりバランスを崩す。
でもすぐに元に戻る。


「あー、びっくりした。急に振り向かないでよ」
「あはは、ごめんごめん」


そう、勇人がこっちを振り向いたのだ。
運転者が後を見たら、バランスを崩すに決まってる。
でもこけなかったのは、勇人の運動神経が良いから…だと思う。


「大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがと」


気遣ってくれる勇人に、やっぱり優しいな、なんて思ったり。


「なんか、寂しそうだったから。思わず見ちゃった」


クスッと笑って言う勇人。
今、勇人があたしを見てなくて良かったと思う。
多分、顔が赤くなってる。


やっぱり、勇人は優しい。
そして、あたしのことをわかってくれる。


思わずまた、勇人の腰に回している腕の力を強めた。
今度は、勇人は何も言わなかった。



end.
(2010,1,31)



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