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過去と今と未来と(+10)

哲が用意した湯飲みをお盆に乗せて、ここで最も広いであろう和室へ運ぶ。
零さないように、慎重に、慎重に。
10年前、応接室の恭弥の机の上にコーヒー零したときには大目玉喰らったな…。
まぁ10年経てば、私だってお茶くらいは零さずに運べるけど。
襖を開けると、恭弥は着流し姿でなにやら書類を読んでいた。


「恭弥。お茶持ってきたよ」
「そう、ありがとう。こっちに持ってきて」
「わかった」


恭弥の傍に座る。
傍にあった小さなちゃぶ台に湯飲みを置いた。


「何読んでるの?」
「最近見つかった、面白い匣兵器についての資料だよ」
「ふーん」


恭弥は書類を置いて、湯飲みに手を伸ばした。
会話が途切れる。
でも、空気は穏やかだ。
最初はこの空気に慣れなくて、彼が怒ってるんじゃないかって、ひやひやしてた。
そうじゃない。
ただ、恭弥はそんなに喋る方じゃないだけ。
それに気付いてからは、この、ある意味のほほんとした空気が好きになった。
10年の月日の中で、いっぱい恭弥のことを知ったからだと思う。


「ねぇ」
「何?お茶が不味かった?言っとくけど、淹れたの私じゃなくて哲だからね」
「そうじゃないよ。名前が未だにお茶も美味しく淹れられないのは知ってる」
「悪かったね、お茶も美味しく淹れられなくて。そのうち美味しく淹れてみせるんだから」


不貞腐れて、そっぽを向いた。
思えば、10年前も、コーヒーを美味しく淹れるのに苦労したっけ。
でも、最終的には恭弥に褒められるくらい美味しく淹れられるようになった。


「名前」
「何」


そっぽを向いたまま応えた。
すると、恭弥の手が伸びてきて、私の頬を両手で挟んだ。
ぐっと強制的に恭弥の方へ顔を向けられる。
恭弥の顔が目の前だった。


「可愛いね、名前」
「な、」


10年経っても変わらない強くて、切れ長の目。
10年前よりは少し短くなった前髪。
10年前より、はるかに増した色っぽさ。
そんなのを一気に目の前に差し出されたこの状況。
頭が真っ白になるには充分な状況だった。


「名前?」
「きょ、恭弥…、出来れば離れていただけると助かりま」


す、の音は私の口の中で消えた。
甘く口づけした後、恭弥は少し微笑んで言った。


「傍にいてほしい。これからも」
「恭弥…?」
「名前が大事だから」
「あ…当たり前でしょ…!今までだって、ずっと傍に…っ」


私の頬を、涙が伝った。
嬉しくて。
今までそんなこと言われたことなかった。
不安、だった。
ずっと、私が傍にいていいのかって思いながら、恭弥についてきてたから。
泣いている私を引き寄せて、恭弥は私を抱きしめた。


「ありがとう、名前」


少し意地悪くて、少し優しくて。
とても強くて、とても格好良くて。
私にとって、大事な人で。
そんな人とずっと一緒にいられるなら。



end.(2010,10,21)

・・・・・・・・・・
いかかでしたでしょうか…?
朱雀様のリクエスト、“10年後の恭さんで、大人なしっとりとした甘さ”な話になっているでしょうか…?;;
…果てしなく不安です(←
私的には、sweetな甘さを目指しました!
10年前の話も前後しながら、大人になった恭さんの格好良さっていうか、色っぽさっていうか、そういうのを出したつもりです。
こんな夢ですが、喜んでいただければ幸いです。
改めまして、相互とリクエスト有難う御座いました。
これからもよろしくお願いします。



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