[携帯モード] [URL送信]
拍手『入道雲』


「おい、そこのサボリ」


屯所から少し離れた丘の上で、声をかけられた。
振り返らなくても分かる。
声の主は、土方十四郎。
“鬼の副長”と恐れられる、私の上司である人物。


「サボってません。空見てるんです」
「それは立派なサボリだろ」
「あー、空が真っ青だなー」
「話そらすな」


本当に、真っ青だった。
空の端に、もこもこと真っ白な入道雲がある以外は。
夏だな…と、しみじみ思っていると。


「おい、自分の世界に勝手に入ってんじゃねぇ」
「邪魔しないで下さいよ。今、入道雲見て、夏だなーって思ってたところなんですから」
「そんな暇あんなら仕事しろ仕事」
「でも、凄いと思いません?こんな広い真っ青な空に、真っ白な入道雲って」


私はもっと空を感じたくて、両手を広げた。


「夏って感じだな」
「あー、恋したい」
「話飛びすぎだろ」


呆れて土方さんが突っ込む。
でも、私の頭では、夏と恋は繋がっているんです。


「夏の恋がしたいってやつですよ。あの入道雲みたいに、もこもこーっと積もっていく、みたいな。真っ白で爽やかな」
「あ、そ」
「うわ、興味無さ気ですね」


あまりのそっけなさに、思わず笑った。
まぁ、そりゃそうだろう。
土方さんにとって、私はただの部下。
部下が恋しようが、恋しまいが、関係無いに決まってる。


「…ま、貰い手が無かったら貰ってやるよ」


土方さんは、ふっと煙草の煙を吐き出した。
いつもと変わらぬように。


「何言ってんですか、土方さん。暑さのせいで頭イカれちまったんですかい?」
「総悟の真似すんな。お前のほうがイカれてるように見えるぞ」


もこもこもこ、入道雲のように。
私の恋心は積もっていく。



公開(2010,8,6〜2010,9,30)



[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!