臆病。6 気付いたら涙が伝っていて、溢れ出したそれはもう止められなくて。 素直になっちゃいけないなんて、そんなこじつけ…私は馬鹿だ。 「名前…」 無意識って恐い。こんな私が雲雀に抱き着いてる。 シャツが濡れちゃうよ、早く離れなきゃ。 「言って、全部」 …吐き出して その言葉に呼吸が止まった。 吐き出す…そうか、私の気持ちを全て……今なら…きっと、大丈夫。 「私は…雲雀が」 言ってしまえ。たった一言、たった二文字だ。恐がらないで、大丈夫、随分前から想ってたことでしょ。 「…雲雀の事が… す き 。」 言えた。 やっと、素直に。 今まで一度も言った事なかった。こんなに近くにいて、それを迷惑ぶりながら、心では当たり前だって思ってたから。 私は全然女の子っぽくない。かといって、女の子らしくしようとは思わない。 そんな私が雲雀を好きだなんて恥ずかしくて考えられなくて、時には気持ち悪いとさえ思った。 でも一緒にいると…何だか幸せな気分になれる。自分から離れることは出来なかった。 そうして今日まで私らしく、がさつで強気で遠慮のない人間をやってきた。恋愛に対しての臆病も、ずっとついて回っていたけれど…きっと今、その一歩を踏み出せたんだ。 「名前」 名を呼ばれたかと思うと頭に温もりを感じる。 「よく言えたね」 優しく撫でるその手はあんなにも荒々しく草食動物を狩るのに、今はその激しさの欠片も見せない。 ああ…また涙が… 全然止まってくれないや。 「君が頑張ってくれたから、今度はこっちが返さなくちゃね」 「…?」 すると雲雀は今まで見せた事もない優しげな笑みを作って。 「君と比べて敵うものなんてこの世に存在しないよ」 「…ひば、」 「強がりで素直じゃない所も、コーヒーを煎れるのが下手な所も、数学に泣かされる所も、僕を全く恐れない癖に恋にはどうしても臆病な所も…、君を構成する全てを含めて僕は君に好意を感じてる」 雲雀はそっと私の髪に触れると指を絡め、耳にかけた。そしてそのまま淡く囁く。 「ずっと言ってあげたかったよ…"本当は、好きな癖に"ってね」 嗚呼、全部お見通しだ。 やっぱりこの人には敵わないな。 多分今耳まで赤い。 どうしようもなく恥ずかしくて、私は俯いた。 「こっちはキスまでしてるのに、本当に時間が掛かったね」 「……」 追撃をくらいながら空気に溶けてしまいたいと真面目に思う。 そんな私の頬を包む彼がクスリと笑って。 「愛し過ぎて、消化不良を起こしそうだ」 何も言葉を出せない私の口に自身のそれを重ね、雲雀は。 「僕も幸せだよ…名前」 最後にそれだけ言うと深く甘く口付けた。 END. 後書き→ ← → [戻る] |