率直、焦燥、だからこそ、
※『疑心、不信、それでも、』の阿部ver.となっております。
俺は、名前の気持ちを知らない。
「名前ってさ、阿部と仲良いんだな」
クラスの男子達が、名前と話しているのを聞いた。
本当は、すぐに止めたかった。
名前と男子が話しているのを見るだけで、嫌になる自分がいた。
でも、そのまま話を聞いてみたいと思った。
じっとして、名前の答えを待つ。
「うん。でも、家が近所だからってだけ。腐れ縁ってやつ?」
名前の声が聞こえた。
名前は、腐れ縁、なんて思ってやがったのか。
初めて知った事実に、衝撃が走る。
名前とは家が近所で、小さい頃から一緒にいた。
小、中、高と、同じ学校に進んだ。
小学校は登下校一緒だったが、だんだん別々になった。
男として、周りの目が気になり始めたからだ。
高校に入って、俺は野球部に所属し、朝は朝練があって、登校が早い。
放課後は、部活があって、帰宅が遅い。
だから、すれ違うことが多くなった。
それでも、俺は名前とは誰よりも一緒にいたし、誰よりも大切に思ってた。
まだ幼稚園に通っていたとき。
「俺が名前を嫁にしてやる」
そう俺が言えば、名前は驚いたように俺を見た。
「本当に?」
「本当だよ」
「わー、嬉しい!!あたし、隆也のこと、大好き」
名前は、本当に嬉しそうに笑った。
あれから、随分と経った。
俺は、名前を笑顔にさせようといつも必死だった。
あのときのように、笑わせたかった。
だが俺には、からかうしか方法を知らなかった。
どうやら、名前から離れていくうちに、名前を笑顔にする術を忘れてしまったようだった。
ああ、そうか。
俺は気が付いた。
あのときのように、言えば良い。
そしたら、名前はきっと笑ってくれるだろう。
「名前」
「隆也?」
びっくりした様子で、名前が振り返る。
「来い」
「え、ちょ、」
名前の腕を掴み、誰もいなさそうな場所を目指す。
辿り着いた場所は、屋上。
「男子と話したりするの…止めろよ」
「は?」
開口一番、そんなことを言ってしまった。
どうやら俺は、本当に、名前と男子が話していることが耐えられないらしい。
そんな自分に笑いそうになる。
「だから、止めろって」
「何で?」
「お前のことが好きだから」
真っ直ぐ、俺は名前の目を見て、そう言った。
「…はは、あはははは」
「名前?」
急に笑い出した名前を怪訝そうに見つめる。
「嫌だな、もう。冗談キツイって。吐くならもう少し、マシな嘘を吐いてよね」
「嘘じゃねーって」
「いつもみたいに、あたしをからかう気でしょ?もうその手には乗らないから」
「だから…」
違うって。
そう言いたかったのに、名前は行ってしまう。
「じゃ、あたし、そろそろ戻るから。昼休み、もう終わっちゃうし。隆也も早く戻った方が良いよ」
それだけ言って、名前は屋上から去った。
何でだ。
本当のことを言っているのに、名前に信じてもらえねぇ。
名前は、本当に、俺がからかって言ったなんて思ったっていうのか?
「俺は…」
からかうつもりなんてない。
あのときと同じように、嘘偽りなんてなく、真っ直ぐ君に。
「…本気なのに」
くそ、どうしたらわかってもらえるんだ?
end.(2010,8,3)
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