疑心、不信、それでも、 あたしは、隆也の気持ちを知らない。 「阿部くんって、格好良いよねー」 「…そう?」 「そうだよー。もう、アンタは昔から一緒にいるからわかんないのよ」 この贅沢者めっと、笑われる。 確かに、隆也とは家が近所で、小さい頃から一緒にいた。 小、中、高と、同じ学校に進んだ。 小学校は登下校一緒だったけど、だんだん別々になった。 高校に入って、隆也は野球部に所属し、朝は朝練があって、登校が早い。 放課後は、部活があって、帰宅が遅い。 だから、すれ違うことが多くなった。 でも、誰よりも一緒だったことは確か。 「確かに、隆也とは一緒だったことが多かったけど」 「羨ましー。ね、阿部くんって、好きな子とかいるのかな?」 「え?」 「名前なら知ってるんじゃない?」 「ううん、知らない」 隆也の好きな人、か。 小さい頃は、 「俺が名前を嫁にしてやる」 なんて言ってくれてたけど、あれは小さい頃だし。 今となっては、隆也は、あたしとたまに顔を合わせただけで、あたしをからかうだけだ。 今更小さい頃の話をすれば、 「まだ、んなこと言ってんのかよ」 とか言って、バカにされるに決まってるな…。 「名前ってさ、阿部と仲良いんだな」 友達と話しているところに、クラスの男子達が話しかけてきた。 「うん。でも、家が近所だからってだけ。腐れ縁ってやつ?」 「へー、そうなんだ」 「今となっちゃ、バカにされっぱなしでさー…」 そんな他愛のない話をしていると、あたしの後ろに人の気配がした。 「名前」 「隆也?」 びっくりして振り返ると、噂の隆也が立っていた。 「来い」 「え、ちょ、」 腕を掴まれ、連れて行かれる。 今まで一緒に話していた友達や、クラスの男子達が呆然とこっちを見ているのが見えた。 辿り着いた場所は、屋上だった。 ああ、もう昼休みも終わっちゃうのに…そう思った矢先。 「男子と話したりするの…止めろよ」 「は?」 あたしは隆也の言葉にびっくりして、それしか言えなかった。 「だから、止めろって」 「何で?」 「お前のことが好きだから」 真っ直ぐ、隆也はあたしの目を見て、そう言った。 「…はは、あはははは」 「名前?」 「嫌だな、もう。冗談キツイって。吐くならもう少し、マシな嘘を吐いてよね」 「嘘じゃねーって」 「いつもみたいに、あたしをからかう気でしょ?もうその手には乗らないから」 「だから…」 「じゃ、あたし、そろそろ戻るから。昼休み、もう終わっちゃうし。隆也も早く戻った方が良いよ」 それだけ言って、逃げるように、あたしは屋上から去った。 嘘だ。 隆也があたしのことを好きなはずがない。 だって、いつもあたしのことをからかってるじゃないか。 中学生になったぐらいから、隆也はあたしから離れていった。 あんまり会わなくなったし、話さなくなった。 バレンタインのチョコレートや、告白の手紙を沢山貰っているところも、隆也が格好良いという女の子達評判も、散々見たし、散々聞いた。 隆也は、モテる。 そんな隆也が、あたしのことなんか好きなはずがない。 あたしのこと好きだとか言って、また、からかうつもりなんだ。 それでも、嘘じゃなかったら良いのに、なんて思う自分がいた。 end.(2010,8,2) [次へ#] [戻る] |