◆繋いだ手/忍足侑士
ああ、もう…。
なんで私がこんなことを…。
今私は、先生に頼まれた仕事を1人教室でやっている。
しかも放課後…。
先生が忙しいらしいから、ちょうど近くにいた私にプリントの整理を頼んできた。
頼まれたら断れないんだよね私って…。
はあ…。
友達は用事があるって帰っちゃし…。
やっぱ1人で頑張るしかないな。
「よし!気合い入れて終わらせるぞー!」
一時間後。
「終わった〜!」
頑張ったな私!
って、もう6時近いじゃん!
外もだんだん暗くなってきてるって…あれ…?
教室の後ろの席に座ってるのって…。
「忍足くん?」
「お。もしかしてプリント整理終わったんか?」
「あ、うん。終わったけど…」
私がプリント整理始めた時は、教室には私以外誰もいなかった…。
ということは、私が仕事をやっている時に教室に入って来たってこと?
気づかなかった…。
「忍足くん、なにしてたの?部活は?」
「今日は部活はないんや。せやからサロンで読書してたんやけど、教室に忘れもんしてな。取りに来たら、名字さんがいたというわけや」
「で、忘れ物はあったの?」
「あったで」
「あったなら、なんで帰らなかったの?」
「名字さんがおったから」
「はい…?」
「俺は名字さんを待っとったんやで」
待ってたって…手伝ってくれてもいいじゃんか忍足くん…。
そしたら、早く終わったのに。
忍足くん、ケチだな…。
「それで、待ってたってどういうこと?」
「暗い道を女の子1人で帰るなんて危ないやんか。せやから、名字さんを待っとったんや」
「あの、忍足くん。きみが仕事を手伝ってくれてたなら、こんな時間にはならなかったと思うんだけど」
「まあ、そう言われればそうやろうけど。仕事しよる名字さんが一生懸命でかわいくてなあ」
「あ、あのね…」
忍足くんてば、なに言ってるのよ…。
「じゃあ私、このプリントを先生に渡しに行くから」
「そのプリントの量やと、1人では大変やろ?今度は俺も手伝うから、さっき手伝わんかったのは許してな?」
「え、いいよ。忍足くん」
「ええからええから」
そう言って、忍足くんはプリントの半分以上も持ってくれて、私は運ぶのが楽だった。
先生にプリントも渡したし、後は帰るだけ。
「ほな名字さん。帰ろうか」
「え?忍足くん、私の家とは逆方向でしょ?家」
「そうやけど、さっき言うたやろ?暗い道を女の子1人で帰るなんて危ないやんかって。せやから、俺が送って行く」
「ええ!?いいってべつに!」
「名字さんは気にせんでええて。俺が送って行きたいだけやから」
「…え?」
「ほな、帰るで。はよ帰らんと、もっと暗くなるやんか。名字さんかわいいから、変なやつに襲われるかもしれへんやろ?」
「いや、さすがにそれはないと思う…」
忍足くんって、心配性かな…?
「名字さん」
「え、手?」
「危ないから手繋いで帰ろうや」
忍足くんって、ほんと何考えてんだろ…。
ただのクラスメイトなのに。
手繋いで帰るなんて…。
「もしかして嫌か?名字さん」
「え?嫌じゃないけど…」
「じゃ、繋ごうな」
忍足くんが私の手を握る。
なんだろう。
不思議と嫌じゃない…。
むしろ安心する…。
「どうかしたか?」
「ううん。なんでもないよ」
忍足くんと手繋いでるの、ちょっと嬉しいかも。
「ありがとね、忍足くん」
「いや、べつにええで。もし、またこんな時間に帰ることがあったら俺が送って行ってやるから、言うてな?」
「ありがと忍足くん」
繋いだ手が暖かい。
忍足くん、今日はありがとう。
END
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