◇想い馳せる/財前光
いつかお前に言われた言葉。
「前から貴方のことが好きでした」
あの時、俺は突然のことに驚いてまともに返事すら言えず、上手く喋れなかった。
それぐらいその子からの告白は意外なものだった。
同じクラスの名字名前。
性格はおとなしく成績優秀で学級委員をやっていて、ちょっとした女子の憧れの存在でもある。
同じクラスと言えど、そんなに親しいわけでもなく、俺にとっては只のクラスメイト。
…その時まではそのはずだった。
「突然ごめんなさい。どうしても財前くんに伝えたくなってしまって」
名字は俺を見てはっきりと告げた。
「…」
「あ、今のは気にしないで。気にしないでって言うのもおかしいかもしれないけれど、財前くんには私の気持ちを知っていてほしかっただけだから。返事はいらないの」
(名字の目ってこんなに綺麗やったっけ…)
今まで特に意識なんてした事がなく、改めて目の前に居る彼女を見ているとそんな事を思った。
まっすぐ視線を逸らさない瞳。
その瞳が何故だが綺麗だと。
「そんなふうにじーっと見られると何か照れるね」
「あ…そない見てた?」
「うん、見てた。じーって」
可笑しくなったのか彼女は笑う。
「財前くん、これまで通り只のクラスメイトで構わないから」
「…ええの?一応告白やろこれって」
「一応じゃなくてちゃんとした告白のつもりよ?そうね…強いて言うなら、少しは私の事気にかけてくれると嬉しいかな」
「……」
「じゃあ、私は帰るから。また明日」
彼女はそう言って帰って行った。
告白された事は何度もある。
けれどこちらの返事が要らないというのは初めてで。
何より名字が俺を好きだなんて知りもしなかった。
(なんや、不思議な気分やな…)
そして翌日。
「おはよう財前くん」
いつも通りに接してくる名字に呆気にとられ。
「…あぁ、はよ」
曖昧な挨拶しか返せなかった。
思えば、告白されてから意識し始めていたのかもしれない。
3年生になりクラスが別になってからというもの、名字のことを考えてばかりいた。
そんな矢先、名字とばったり出くわした。
「あ…」
「あれ、財前くん。久しぶり」
「……」
久しぶりに会って、実感する。
(…俺は名字のことを)
「なぁ、名字」
「なぁに?」
「俺、お前のこと好きや」
「え、財前くん…?」
突然のことに驚く名字。
「前にお前は気持ちだけ知っててくれればええって言うてたけど、今はどうや…?」
「…そっか」
「……」
「正直言うと意外…。まさか財前くんが私のこと好きになってくれるなんて」
「名字…」
「ありがとう財前くん」
そう照れながら言った名字を、俺は抱きしめた。
[*前へ]
[戻る]
無料HPエムペ!