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BL小説
◆いっそこの気持ちを諦められたら/光謙



「ごめんな…」





その一言で俺の片思いは終わった…。














「謙也先輩、今日は調子悪いっすね」



部活での練習試合終了後、財前が謙也にそう言う。
練習に集中出来ていないというかんじで、いつもの元気もないように財前は感じた。


「あー…ちょっとな…」

「……」


謙也の不調の原因を聞こうと思ったとこに、部長である白石がやってくる。


「謙也」

「…っ!」


白石が謙也に声をかけた瞬間、謙也はビクっと反応する。


(なんや今の…?)


その反応に財前は違和感を感じた。


「なんやさっきの練習試合いつもと違ったやんか謙也。どないしたん?」

「……べつに」

「謙也?」

「…いや、なんでもあらへん。ちょっと今日は調子悪いだけや……」


心配せんでええ、と付け加える。


「そうか。調子悪いんやったら早めに帰ってもええからな?全国大会近いんやし、無理はするんやないで」

「わかっとる…」


謙也はさっきから白石の顔を一度も見ないで、ずっとうつむいていた。


「謙也。昨日のことはさっさと忘れてしまうんや」

「…なっ、そない言われても簡単にはいかへんやろ!」

「なら、せめて頭を切り替えろ。部活中は練習に集中するんや」

「………」


(昨日、なんかあったんやな部長と)

白石と謙也のやりとりを見ていて、財前はそう思った。
いつもの謙也らしくない。


「財前」


白石に呼ばれる。


「なんすか?」

「謙也思ったよりも調子悪そうや。今日の部活はもうええから一緒に帰ってやってくれへんか?」

「俺が?」

「あぁ。頼んだで」

「……」


謙也を一度見てみるがうつむいたままで何も言わない。
部長に言われたならば仕方ない。
こんな状態ではこのまま練習に参加していてもあまり意味はないだろう。


「…わかりました」


財前はそう返事した。













「先輩。謙也先輩」

「なんや…?」


部活を早めに切り上げて謙也と財前は学校を出た。

学校を出てからも謙也は無言で、財前は耐えきれずに前を歩く謙也に声をかけた。


「白石部長と昨日、なにがあったんすか?」

「…お前、単刀直入やな」


その言い方で、白石となにかあったのだと財前は確信した。


「謙也先輩がおかしかったからですわ。いつもと違って部活やってても心ここにあらずってかんじやし」

「……」

「白石部長に話しかけられた時なんてかなりビビってましたやん」

「………っ」


謙也の歩みが止まる。


「先輩…部長となにがあった―」





「財前に関係ないやろっ!?」




「……!」




財前に背を向けた状態で、謙也は大声で怒鳴った。

こんなふうに謙也が怒鳴るところを見たことがない財前は驚き、足を止めた。


「謙也先輩…?」

「………っ」

「…泣いてるん?」

「…泣いて、なんか…ないわ…っ」


(泣いてるやんか…)


財前からは謙也の顔は見えないが、声で明らかに泣いているとわかった。

白石と謙也。
昨日二人の間でなにかしらあって、今日は謙也の元気がない。


(こんな状態の先輩なんて見たことないし…部長になんか言われたんか…?)


はぁ、とため息をついて財前は謙也に近付く。


「先輩、こっち向いて下さい」

「いや…や…」

「なぁ謙也先輩。俺じゃ先輩の力になれませんか」

「……なん」

「俺、謙也先輩のことが好きなんや。だから、先輩になにかあったんなら力になりたいと思うてる」


泣き声が止まったのがわかった。
多分、というより確実に、財前の今の言葉を聞いて謙也は固まっている。


(なんや、勢いで言うてしもたな)

告白してしった本人は案外冷静で、少しばかり考える。

目の前に居る謙也先輩が好き。

いつからなのかは財前自身、曖昧だが自覚してからというものずっと想い続けてきた。

ただ、この気持ちを口に出すなんて一度もないものだと思っていた。

だって、目の前に居る想い人は白石に惚れていたから。

白石と一緒に居る謙也は本当に楽しそうで。
自分の入る余地などないと思っていた。
いっそのこと、諦めた方が良いのではないかと考えたこともあった。

けれど、諦めきれない自分がいて。
何かするわけでもなく、ずっと只想い続けていた。




「それ、ほんまに言うてんのか…?」

「こんな時に嘘なんか言わん。ほんまです」

「…………」


財前は謙也の前に行き向かい合う。
どうやら少しは泣きやんだみたいだった。


「で、何があったんすか」

「……」

「告らせておいて、何も話さんなんて言わんですよね?」

「ちょ、ちょっと待て、それはお前が勝手に…」

「で?」

「……」

「……」


根負けした謙也が大きくため息をつく。


「…言うてしまうとやな…フラれたんや、白石に」

「フラれた…?」

「そうや」


部活に集中出来なかった理由はこれか。

まさかこの人が部長にフラれるなんて思ってもいなかった。


「てか、先輩に告白する勇気なんてあったんすね。ずっと部長のこと見てるだけやと思ってましたわ」

「俺だってな、やる時はやる…って、もしかしてお前知ってたんか!?」

「はい、知ってました。謙也先輩が白石部長に惚れてるって」

「そんな淡々と言うなあほっ!!」

「俺は、そんな謙也先輩に惚れてるんですけどね」

「…う、いや、あのな財前。お前のこと嫌いやないけど…あぁ、なんて言えばいいのかわからへん!」


謙也は何を言えばいいかわからず、言葉に詰まる。


「嫌い、じゃないんすね?俺のこと」

「? 当たり前やろ。可愛い後輩や」

「……」


白石が好きな謙也は、その白石にフラれ。

財前が好きな謙也は、自分のことを嫌いではないと言う。


(俺…もしかして諦めなくてもええんか?)


「なぁ、謙也先輩」

「なんや?」

「俺と、付き合いませんか」

「……は?」


この気持ちを諦めようと思ったこともあった。

けれどこれはチャンスではないだろうか。


「俺のこと嫌いじゃないって言いましたよね?部長にはフラれたんやし、いっそのこと可愛い後輩と仲良うするのはどうです?」



俺が謙也先輩を諦めなくても…。





「俺のこと、好きになってくれませんか…?」














END.

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あきゅろす。
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