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小説
たわいない日常 ☆












 それはひょんなことから始まった。

 執務官としての仕事から戻ったフェイトはなのはと共に休憩スペースでのんびりしていた。本来であれば教導隊に所属する彼女と仕事をする機会は少ないのだが、今日は助力と言う形で一緒に仕事をこなしてきたのだ。


「弱い魔法生物で良かったね」

「本当にね」


 倒してきた魔法生物はリミッターを解除せずともたやすく倒すことができた。ただ、敵意を感じると姿を消してしまうためなのはと共に長距離砲で仕留めた。


「ところでフェイトちゃん」

「うん?」

「最近、ヴィレくんとはどう?」

「えっ!? どうって……普通だよ」

「普通、か……私、ずっと心配なことがあるんだ」

「何?」

「ヴィレくん、ちゃんとフェイトちゃんのことを幸せにしているのかなぁって」

「……へ?」

「だって、ヴィレくんはつっけんどんだし、口下手だし……フェイトちゃんの恋人に似つかわしくないんじゃないかなぁって」

「そんなこと……ある、けど」


 なのはの言葉を否定しようと思ったが、確かに彼女の言う通りである。だがそれも魅力の内だ。


「レオンくんみたいに優しい人の方がいいと思うんだけどなぁ」

「確かにレオンは優しいけど……ちょっと、甘やかし過ぎじゃないかな?」

「そこがいいの! 毎日撫でてくれるし、抱き締めてくれるし、それに……!」

「それに?」

「キ、キスもしてくれるよ。流石にみんなの目があるから毎日じゃないけど」

「……私は毎日ヴィレイサーとしているよ」

「嘘!?」

「本当だよ」

「……でもフェイトちゃんからはあまりしていないんでしょ?」

「ま、まぁね。恥ずかしいし……ごめん、本題に戻ろう」

「そ、そうだね」


 随分と赤裸々な話になりそうだったため、咳払いして場の空気を変える。


「ヴィレイサーだって優しいし、大丈夫だよ」

「うーん、それでも心配だなぁ……そうだ。試しに入れ替わった振りをしようよ」

「え?」

「私とフェイトちゃんの身体が入れ替わった振りをして、相手の接し方を体験してみよう」

「い、いいのかな、そんなことして……」

「簡単にはばれないよ、きっと」

「まぁ、ちょっとだけなら」


 押しに弱いフェイトは、なのはの提案をあっさりと受け入れた。

 2人は早速はやてに許可を求めると、彼女は面白そうだからと二つ返事でそれを認めてくれた。また、事情を話しておいた方がいいのではないかと言うことで、各フォワード陣にも説明をしておくことに。


「事情を知ったら、お二人とも怒るんじゃ……」

「まぁ、入れ替わったと知りながら何かしらしようとしたら、ネタばらしすればいいんじゃないか?」


 心配そうにするコルトに対し、ブルズはさも楽しそうな笑みを浮かべている。


「モニタリングしたいところやけど、それは流石にアカンから、後で報告を頼むな〜」

「はぁい♪」

「うん、分かった」


 はやてらに話し終えると、2人は仕事から戻ってくるであろうヴィレイサーとレオンが戻ってくるのを待った。





◆◇◆◇◆





 10分後───。

 戻ってきたレオンとヴィレイサーは、ブルズから伝えられた虚偽の報告に目を丸くした。


「お、おかえりなさい、レオン……くん」

「おかえり、ヴィレく──ヴィ、ヴィレイサー」


 呼び方でいきなりつまずきそうになったが、2人とも気付かなかったようだ。


「命に別状はないと聞いたが……」

「それは間違いないよ〜。ただ、元に戻るまで混乱は避けたいから、レオンくん達がしっかり見といてあげてな」

「あぁ」

「了解だ」


 一先ず部屋に戻るために、レオンはフェイトの手を取ろうとして、しかし慌てて引っ込めた。


「ど、どうしたの?」

「いや、繋いでいいものか迷って、な」

「レオン…くんが、迷うなら無理しない方がいいよ。きっとあっちも同じだろうから」

「それもそうだな。おい、ヴィレイサー」

「ん?」

「中身が入れ入れ替わっているからと言って、変なことはするなよ?」

「するか! お前こそ、分かっているんだろうな?」

「当たり前だ」


 それだけ言い残し、レオンはフェイトと並んで歩いていく。そんな姿を見送り、ヴィレイサーもなのはと共に歩き出した。


「それにしても、中身が入れ替わるなんて思いもしないな」

「ねー。私たちもびっくりだったよ」

「どこからどう見てもなのはにしか見えないな」

「中身はちゃんとフェイトだよ?」

「そう言われても、な」


 頭を掻くヴィレイサーに対し、フェイトと身体が入れ替わった振りをしたなのはは後ろ手に腕を組んで考え込む。


(もう少し心配してくれたっていいのになぁ)


 態度に出にくいことは分かっているが、やはり気になってしまう。ヴィレイサーはフェイトの恋人に見合うか、なのははますます目を光らせるのだった。

 やがて部屋に到着すると、座っているように言われたのでソファーに着席する。


「何か飲みたいものとかあるか?」

「えっと……とりあえず、温かい物ならなんでも」

「分かった。じゃあ、ココアにでもするか」

「うん」


 ボロを出してしまわないよう注意しつつ、部屋の中を見回す。自分とレオンの部屋には多くの写真があるものの、それに比べるとヴィレイサーとフェイトが一緒に写っている写真は数が少ない印象を受ける。


(ヴィレくん、写真写りが悪いとか言ってばかりだもんね)


 しかし何も自分のことを基準に考えることはないだろうと思い直し、出されたココアを一口飲んでほっと息を零す。対してヴィレイサーはと言うと、隣に座るどころか離れたベッドに腰掛けた。


(むぅ……私の容姿だからか、あんまり接してこないなぁ。
 それとも、もしかしてこれが普通なのかな!?)

「…何だ?」


 思わずじっと見ていると、その視線に気が付いてヴィレイサーが訝しむようにこちらを見てきた。


「う、ううん。ただ……ちょっと不安だから、傍に居て欲しいなぁって」

「それは分かるんだが……流石になのはの姿だからな」

「そ、そうだよね」

「悪いな」

「ううん。普段のように接したいなぁと思っただけだから」

「ん? 普段も大して変わらないんじゃないか?」

「え……そ、そうだったね、ちょっと混乱しちゃってて」

「ふーん?」


 ヴィレイサーは不思議そうな顔をしたが、特に気にすることもなくベッドに腰掛けて本を開き始めた。それを横目に、なのはは内心溜め息を零す。


(やっぱり普段からあんまりスキンシップないのかなぁ……)


 レオンに甘えたい欲求からか、なのははこてんとソファーに寝転んだ。

 一方、同じ頃───。

 フェイトはレオンと共に部屋に戻り、同じようにソファーに座らされていた。もっとも、こちらは対面にレオンが座っているため、なのはのように寂しさを感じることはない──と思いきや、ばれないかどうか気にしているせいでがちがちに緊張してしまっていた。


(ど、どうしよう……ばれたらヴィレイサーに怒られるよね)


 それも、レオンにではなくヴィレイサーに怒られることは間違いないと思いこんでいるようだ。もちろんレオンも怒るかもしれないが、そちらはなのはがなんとか宥めてくれるだろうからまだ大丈夫だろう。


「ほら、ホットミルク」

「う、うん、ありがとう」

「それにしても入れ替わるなんてなぁ……まぁ、一時的に夢が叶ったと考えればいい方なのかも名」

「え、夢?」

「なんだ、覚えていないのか? フェイトの肌が綺麗で羨ましいとか、スタイルが良くていいなぁってよく言っていたじゃないか」

「あ、あー……そ、そうだったね」


 なのはにそんなに羨ましく思われていたとは知らず、照れてしまう。


(でも、スタイルのことまでレオンに話さなくても……恥ずかしいよ!)


 同性ならまだしも、相手は異性だ。レオンならばなのはのことを褒めるだろうが、それでも恥ずかしくて仕方がない。


「今日は俺がヴィヴィオの面倒を見るよ」

「う、うん。ごめんね、任せきりにしちゃって」

「けど毎日頑張っているんだから、たまにはいっぱい甘えてくれていいって。
 まぁ、なのははいつも充分甘えているかもしれないけどな」

「そ、そうだね」


 レオンの言葉に、フェイトは少し考え込む。自分も甘えたい気持ちは抱えているが、なのはは少し甘え過ぎな気がする。それに応じるレオンも、甘やかし過ぎに感じてしまう。


(うーん……ちょっと落ち着かないかも)


 その後も心配故なのか、色々と話題を出してくるレオン。フェイトはぼろを出してしまわないよう細心の注意を払いながらなんとか会話を続けた。





◆◇◆◇◆





「それじゃあ、ちょっとフェイトちゃんと話してくるね」

「おう」


 程なくして、今後どうしようか話し合ってくると偽ってフェイトは部屋を出ていく。それを見送り、レオンは溜め息を零した。


「うーん……なんか、引っかかるなぁ」


 もし自分の考えている通りだとしたら──レオンはヴィレイサーへと通信を繋いだ。


「よう、今いいか?」

《いいけど……何だ、お前は知らなかったのか》

「その反応を見るに、どうやらお前も1枚噛んでいたわけじゃないのか」

《飲み物を出して、ようやく分かったよ……あいつら、何やってんだ》

「さぁな。まぁフェイトも一緒になっているってことは、どうせお前のせいだろ」

《ぐっ……》


 レオンの言葉に、ヴィレイサーは何も言い返せなかった。


《ともかく、とっとと辞めさせるか》

「だな」


 2人は通信を終えると部屋を出て、それぞれなのはとフェイトを探すことに。程なくして見つけるとすぐに合流し、2人から事情を聞くべく溜め息交じりに声をかけた。


「で? 何でわざわざ入れ替わったなんて嘘を言ったんだ?」

「うぅ……お互いに、恋人が相応しいかどうか気になっちゃって」

「それで、つい……」

「やれやれ」

「まったく……」

「で、でも、どうして分かったの?」

「口調は気を付けていたのに」

「それは……利き手だ」

「なのはは左利き、フェイトは右利きだろ? 飲み物を出した時に気が付いたんだよ」

「同じく」


 すっかり失念していたのか、なのはとフェイトは顔を見合わせて肩を落とすのだった。


「でも……ヴィレくんはフェイトちゃんのこと、もっと構ってあげた方がいいよ!」

「レオンは、少しなのはのことを甘やかしすぎじゃないかな?」

「むぅ……」

「それは……」


 2人の指摘に反論できず黙り込んでしまうレオンとヴィレイサー。しばらく恋人の友人から改善点をくどくどと言い渡される破目になってしまったのは言うまでもない。










◆──────────◆

:あとがき
なのはが心配するように、ヴィレイサーは基本的にはフェイトに対してつっけんどんな姿勢を崩すことはありません。
そのせいで色々と心配されるフェイトですが、当人はあまり気にしていない模様(笑)

それでもレオンくんと同じように、見るべきところはしっかりと見ていますし、フェイトもそのことに気付いているからこそ安心できているのだと思います。


次回もコラボを更新します。お楽しみに。






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