[携帯モード] [URL送信]

小説
メリークリスマス ☆





 12月23日───。

 クリスマスの2日前、機動六課の元メンバーらを集めてクリスマスパーティーをしようということになったことで準備が進められているこの日、ようやく仕事に区切りがついたヴィレイサーはアリサと共に手伝いをしていた。


「ここらへん、か?」

「ううん。もうちょっと、奥なんだけど……あ、そこ」

「分かった」

「じゃあ、お願いね」

「あぁ。けど……」

「分かっているわよ。なるべく早く、済ませるから」


 やがてアリサが動きだし、ヴィレイサーはじっと彼女が終えるのを待つ。


「アリサ……」

「なに?」

「…早く退いてくれ」

「も、もうちょっとだから……! まさかと思うけど、重いとか言わないわよね?」

「いや、言わないって」


 アリサは今、クリスマスツリーの上方に飾り付けを行っていた。それも、ヴィレイサーの背中を台座の代わりにして。


「…はい、終わり」

「ん」


 ゆっくりとアリサが下りると、ヴィレイサーは溜め息を零しながら立ち上がる。


「何で俺が踏み台にならなきゃいけなかったんだ……」

「脚立はみんな使っているんだからしょうがないでしょ。こんなことで魔法を使うのも考え物なんだし」

「まぁ、な」


 正論を返されてしまい、ヴィレイサーはそれ以上愚痴を言わずにアリサと並んでクリスマスツリーを眺めた。はやてが機動六課在籍時代に購入したものらしく、その大きさは中々のものだ。それだけに飾り付けや収納が大変だと、誰もがぼやいていたのは言うまでもない。


「それより……その、あたし本当に重たくなかった?」

「あぁ。別に気を遣って言ったわけじゃないから」

「それなら、いいんだけど……」

「…ほら、重たくない」

「きゃっ!?」


 ヴィレイサーが気遣って重たくないと言ったのではないかと思っているアリサを見て、彼はいきなりお姫様抱っこして抱えた。


「ちょっ、離しなさいよ!」

「はいはい」


 すぐに顔を真っ赤にして下ろしてほしいと言うアリサ。どうせ他の者も飾り付けで忙しいのだから、目に留まることもないだろう──そう思っていたヴィレイサーだったが、むすっとした表情で後方を指差したアリサに従って振り返ると、そこにはレオンとなのはがにやにやと笑っていた。


「お前ら、この忙しい時にイチャイチャするなよ」

「別にしたくてしたわけじゃないけどな」

「アリサちゃんだって、本当は抱っこされて嬉しかったんじゃないの?」

「…レオンにお姫様抱っこされていなくて寂しいからって、ひがまないの」


 言葉を交わす4人。その様子を離れたところで見ていたフェイトは関わりたくないからと踵を返すのであった。


「そうだ。はやてちゃんから、買い出し用のメモを渡してくれって」

「はいよ」


 なのはから件のメモを受け取り、そこに書かれてあるものを見ていく。大して重たい物はないようなので、早速行くことに。


「まぁ、これくらいの量なら俺だけで平気だろ」

「そう? それじゃあ、悪いけどお願いしようかしら」

「あぁ。行ってくる」

「あ、待って」


 ロングコートを羽織ったヴィレイサーを送り出すかと思いきや、アリサは慌てて自分がいつも愛用しているマフラーを持ってきては彼の首に丁寧に巻き付けていく。


「はい、OK」

「ん、ありがとうな」

「気を付けてね」

「あぁ」


 ヴィレイサーを見送り、改めて手伝うことはないかとなのはらに向き直ったアリサだったが、件の2人が苦笑いしているのを見て首を傾げる。


「なに?」

「いや……ヴィレイサーについていなくていいのか?」

「ヴィレくん、寂しいんじゃないかな〜?」

「まさか。そんな子供じゃないんだから」

「…まぁ、この時期だとナンパされるかもな」

「だね。ヴィレくん、流されやすそうだし……大丈夫かな?」


 アリサに対して背を向けて歩き出した2人。好き勝手言われて腹が立つと思いきや、それよりも前にヴィレイサーのことが気がかりになってきた。すぐにはやてとフェイトに断りを入れて余所行きの格好になる。なのはにも言おうかと思ったが、からかわれるのが目に見えているので止めた。


「…アリサちゃん、行った?」

「うん。なのはとレオンのお陰で、ね」

「さて、後はどうなるか……俺らも早々に終わらせて、追いかけるか」

「だね」


 にやりと笑うなのは達。フェイトは少し苦笑い気味ではあるが、楽しそうなのは表情を見ればよく分かる。実は以前、アリサが言っていたことをみんなで話し合った結果、今回の1件を画策したのだが、うまくいくかどうかは分からない。多少なりとも協力者は多いが、その分墓穴を掘ってしまう可能性もあるのだ。ばれるかもしれない──そんな心配と、それ以上の期待を抱きながら、彼女たちは装飾を急いだ。





◆◇◆◇◆





 一方のアリサは、すぐ追いかけたこともあって人込みにまぎれてしまう前にヴィレイサーを見つけることができた。


「ヴィレイサー!」

「あれ、アリサ? どうした?」

「あー、えっと……や、やっぱり、あたしも一緒に行こうかなって」

「ふーん? まぁ、それはそれでありがたいけど。
 ほら、マフラー返すよ」

「え? だ、大丈夫よ」

「いいから」


 首に巻こうとしてくるヴィレイサーの手をやんわり押し返したが、彼は強引に巻いた。何度かアリサに巻き方を教えてもらったので、不恰好になることもなく、綺麗に巻けたと思う。


「で、本当はどうして来たんだ?」

「うっ……ばれちゃった?」

「まぁ、これでも彼氏だからな」


 若干照れているようで、気恥ずかしそうに頬を掻きながら彼氏だと言ってくれた。それが凄く嬉しくて、アリサは笑みをこぼす。彼は自分に自信をもたないことが多い。だからもっと自覚し、自信を付けて欲しい何度思ったことか。


「な、なんだよ?」

「ううん。そっか、彼氏かぁ」

「…あまりからかわないでくれ」

「ふふっ、すぐ拗ねちゃうもんね〜」

「アリサにだけは言われたくない」

「あ、あたしは拗ねたりしないわよ!」

「いや、しているから。もう少し素直になってくれてもいいだろ?」


 不意に行く手を阻むようにヴィレイサーの手が目の前に出された。じっと見詰められ、アリサは戸惑って彼から視線を外してしまう。それを赦さぬとでも言うように、ヴィレイサーは彼女の顎に指をそっとかけて自分の方へ向かせる。

 視線と視線とが重なり合い、アリサはますます顔を赤らめていく。付き合いたての頃は、寧ろ2人してすぐに赤面しているほどだったのに、ヴィレイサーはいつの間にやら大人びてきた。それが羨ましくもあり、なんだか寂しくもあるが、別に嫌だとは思っていない。


「…まぁ、とりあえず買い物に行くか」

「そ、そうね」


 それでいて、肝心なところでヘタレなのは相変わらずだった。今だってキスをしようとしたのかもしれないが、人の視線を気にして何もできずに終わったのだろう。


(もしキスされていたら……引っ叩いていたかも)


 ちなみに親しい友人たちの前でキスをされた後にヴィレイサーのことを引っ叩いてしまうのは最早当たり前の光景だったりする。もし外でしていたら、通報される可能性もなきにしもあらずと言ったところだ。


「アリサ、行くぞ?」

「あ、うん」


 呼ばれて、慌てて駆け寄ったその時だった。


「あの、すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」


 スーツにコートを羽織った男性に呼び止められ、2人は何事かと振り返る。見ると、その男性は1枚のチラシと名刺を差し出しながら頭を垂れた。


「私、ブライダルの企画担当をしておりまして……つかぬことをお聞きしますが、お二人は恋人同士で間違いありませんか?」

「えぇ」

「それは良かった。実は弊社で新しく企画している、ホワイトウェディングの写真モデルを引き受けてくださる方を探しておりまして……もしよろしければ、ご参加くださいませんか?」

「ウェディング……」


 その単語に魅力を感じたのか、アリサが食いついた。名刺にある企業を検索してみたところ、実在しているようだ。だからと言って、彼がそこの職員とは限らないが。


(ここのところ俺は忙しくて一緒にいる時間がなかったし、いつもクリスマスパーティーの装飾を頑張ってくれていたもんな。少しくらい、息抜きするのもありだな)


 はやてに町を散策してから帰るとメールを手早く送り、彼の話を受けることに。


「いいの?」

「いいも悪いも、アリサは着てみたいんだろ?」

「べ、別にあたしは……」

「…それに、俺もアリサがドレスを着たところ、見てみたいし……」

「そ、そっか」


 また互いの顔が赤くなってしまう。それに気づいていないようで、男性は2人を連れだって件の会社へと道案内してくれた。からかわれたりしないのは非常にありがたい──そう思ってしまうのは、日ごろレオンらにからかわれているからに違いない。


「こちらです。ドレスは何着がございますが、その前に企画の説明をしてもよろしいでしょうか?」

「お願いします」


 既に興味津々のようで、アリサは熱心にその説明に耳を傾けていた。それは果たして結婚に興味があるのか、はたまたこういった企画に興味があるのか。どちらか気にしているのは、やはりアリサのことを心底愛しているからなのだろう。自惚れはしないが、彼女に夢中になっているのだと思うと少しばかり照れてしまう。


「冬に行うと、どうしても寒さなどの欠点が出てきます。
 そこで、暖房を利かせた専用の部屋の天井を透明にすることで夜空を見上げたり、人口の雪を降らせたりしようかと」

「なるほど」

「もちろん、普段との違いがかなりあるので実際に行えるようになるまでまだまだ時間を要してしまうのですが、テストケースとして取り入れようと思っております。
 今回は、そのテストケースに志願してくださる方々の募集に使う写真の撮影を行いたいのです」

「…だってさ」

「ん? あ、あぁ、なるほど。
 写真撮影ってことだし、受けてみるか。アリサも、それでいいよな?」

「えぇ、もちろん」

「ありがとうございます。それでは、女性には別のスタッフを……あぁ、君」

「はい」


 傍を通りかかった女性スタッフを呼び止め、アリサを彼女に任せるとヴィレイサーは別室へ通された。そこで採寸を受け、少しサイズの大きめのタキシードを渡される。


「では、そちらにお着替えください」

「はい」


 渡されたタキシードをまじまじと見、なんとなく着ているところを想像する。


(似合わなさすぎるだろ……)


 絶対にアリサも同じ感想を持つに違いない。だが、着ないわけにいかないのでとりあえず袖を通していく。流石に男性は特に選ぶこともないうえに着るのが楽だ。着替えを終えたことを職員に伝えてから、ヴィレイサーはのんびりとアリサが来るのを待った。

 その頃アリサは、案内された部屋でずっと思案顔になっていた。見せられたドレスはどれも魅力的で、自分には勿体ない気がしてならない。


(ヴィレイサーに選んでもらおうかしら)


 そう思いつつも、相談せずにドレスを着た姿を見て驚いてもらいたい気持ちもある。やはり自分で選ぼう──そう決めて、1着ずつ丁寧に触れては色合いを確認していく。どれも白一色に見えるが、少し青みがかっていたり色の濃さが違ったりと様々なものがある。


(うーん……やっぱり、赤がいいかな?)


 普段、自分が纏っているバリアジャケットの色を思い起こし、赤いドレスを探す。赤は目を引く色だけあって、すぐに見つかった。鮮やかなワインレッドで彩られた綺麗なドレスは、素材も高級なのか肌触りが良い。


(んー……でも、定番の白も捨てがたいわね)


 結局、数十分が経過しても決められそうになかった。ヴィレイサーに念話で謝ったが、じっくり決めてくれと言われてしまった。これではますます時間がかかってしまう。


「失礼します」


 またしばらく頭を抱えていると、アリサのことを案内してくれた女性の職員が入ってきた。


「すみません、中々決まらなくて……」

「大事なことですから、多少時間がかかっても不思議ではありませんよ」


 嫌な顔をせず、柔和な笑みを見せてくれた彼女に安堵すると同時に、ふと違和感を覚えた。


(あれ? なんか、どこかで見たような……?)


 見慣れた笑顔だった気がするのだが、肝心の誰なのかが思い出せない。きっと他人の空似だろう──そう思っていると、彼女がドレスの選別を手伝うと言ってくれた。ありがたい申し出に、アリサは二つ返事でお願いすることに。

「では、こちらのワインレッドのドレスでよろしいですね?」

「はい」


 スリーサイズなどは先に済ませてある。彼女に従い、ドレスを身につけていく。


「彼氏の方とは、もうご婚約を?」

「いえ、まだ付き合い始めて半年も経っていないので……」

「まだ、こういった話はしてらっしゃらないのですね」

「はい」


 試着を進めていく間の世間話と言った形で弾んでいく会話。職員が聞き上手なだけあって、アリサは遠慮することもなく話していった。


「アリサさんは、やはり彼を伴侶としたいですか?」

「ま、まぁ、できることなら」

「ふふっ、早く叶うといいですね」

「あ、ありがとうございます」


 職員にまでそう言われることになろうとは──アリサは頬を赤らめつつ、ちらりと彼女の表情を窺う。落ち着きの中に気品と優しさを備えた、正しく淑女と呼ぶに相応しい表情だった。そんな顔を崩さない、心優しい人物に、アリサは心当たりがある。


「まさか……あの、もしかして……!」


 真偽を問おうとした矢先、扉が開かれた。


「アリサ、そろそろ終わるって聞いたんだが……」

「ヴィレイサー……ぷっ」

「開口一番笑う奴があるか!」


 入ってきたタキシード姿のヴィレイサーに、思わず失笑してしまった。果たして彼の予想通り、アリサは彼の姿に違和感しかないのかお腹を抱えて笑っている。


「そこまで笑うのかよ、お姫様」

「も、もう、人前でそうやって呼ぶのはダメだって言ったでしょ」


 いきなりお姫様と言われ、試着しているドレスと同じように赤くなるアリサ。だが、やがてあることに気づいてむすっとした表情になる。


「そういうヴィレイサーこそ、何か言うことはないの?」

「え? あー、まぁ……凄く、綺麗だよ」

「よろしい」


 嬉しそうに微笑する彼女を見て、ヴィレイサーは照れくさそうに頬を掻く。胸から上は肌を覆う布はなく、肩と二の腕が露出している。綺麗な柔肌が、ドレス以上に目を引いているのを分かっているのかいないのか、アリサはヴィレイサーに抱きついた。


「それでは、写真撮影に参りましょう」


 案内されたのは同じ建物に備えられた、専用の撮影スペース。既に準備は整っているらしく、人工雪が降っていた。


「思っていたより、寒くないわね」

「あぁ」

「それに、天井は……プロジェクションマッピングかしら? 星座が綺麗」

「あぁ」

「……人の話、聞いているの?」

「あ、当たり前だろ?」

「嘘。鼻の下が伸びているわよ」

「…気のせいだ」

「そこで目を泳がせなかったら信じたんだけど、残念」


 アリサのドレス姿に見とれていたせいで、話が頭に入ってこなかった。


「わ、悪かったよ」

「ふーんだ」


 見とれてもらうのも悪くないが、やはり話を聞いていてくれないとむっとしてしまう。また剥れてしまったアリサを宥めようと後ろから優しく抱き締める。


「アリサ、悪かった」

「…すぐこんなことして……どうせ他の女の子にも同じことするんでしょ」

「しないって。アリサにしかしないから」

「どうだかね」


 未だに剥れたままで、中々機嫌をよくしてくれない。どうしたらいいのか──戸惑っていると、カシャッとシャッター音が響いた。


「「え?」」


 いきなり撮られたことに驚く2人に対し、撮影を行った女性は相変わらずにこやかな笑みを浮かべている。


「失礼。シャッターチャンスだと思ったもので」

「い、いえ。大丈夫です」


 今は撮影に集中しようと決め、適当な場所に並んだ。シャッターが切られる度に、次第に緊張がほぐれていく。ヴィレイサーもそっと肩に手を置いてきたが、気になることもなく撮影は続いた。


「それでは……最後に、アリサさんを抱えて頂けますか?」

「えっ!?」

「…分かりました」

「ちょ、ちょっと……きゃっ!?」


 ドレスを着た状態で抱えろと言うことは、当然ながらお姫様抱っこをするしかない。その指示に戸惑う暇もなく、ヴィレイサーがあっさりと了承してしまう。


「お、重たい?」

「残念ながら」


 思っていた以上にドレスが重たい。アリサを慌ててヴィレイサーの首に腕を回し、少しでも一ヵ所にかかる負担を減らす。


「助かる」


 やがてしっかりとアリサを支える余裕ができたところで、改めて写真におさめられていく。その間、やはり恥ずかしそうに顔を赤くするアリサにつられて、ヴィレイサーも頬を朱に染める。


「…はい、終わりました」


 程なくして、女性が終わりを告げた。ほっとした際に力が抜けきらないように注意しながら、静かにアリサを下ろす。


「とてもいい写真が撮れました」


 まるで自分のことのように笑顔を見せる職員に、しかしアリサは何故か訝しく思っているようで、彼女のことをじっと見ていた。そして唐突に「あっ」と声を上げたかと思えば、わなわなと肩を震わせ始めた。


「アリサ?」

「ど、どこかで見覚えがあると思ったら……あんた、すずかでしょ!」

「え……?」


 突如出た、友人の名前。アリサに指摘されてヴィレイサーも件の女性をまじまじと見るが、確かにその笑顔にはすずかを彷彿とさせるものがある。


「あはは、ばれちゃった」


 そして彼女も、苦笑い気味に言うと変身魔法を解除して本来の姿に戻った。その姿は、確かに月村すずかその人だった。


「どうしてすずかがここにいるのよ! そもそも何で写真撮っているの!?
 それより変身魔法が使えるってどういうことなのよー!」

「ア、アリサちゃん、落ち着いて! いくら私でも説明しきれないから」

「落ち着けるはずないでしょうが!」


 すっかりご乱心の状態になったアリサを、すずかと一緒に宥めつつ、ヴィレイサーは溜め息をこぼした。


「……つまり、この撮影企画自体、俺たちのためにセッティングされたものだと言うことか」

「う、うん。私はアリサちゃんのためになると思って協力したんだけど……」

「何が協力よ。楽しんでいたじゃない」

「うん、まぁね♪」


 あっけらかんと肯定されてしまった。こういった時に発揮されるすずかの度胸がかなり羨ましい。


「ところで……この計画にはレオンも参加していると思うんだが、殴っていいか?」

「それは私が預かることじゃないから、どうぞ」

「おい!」


 またもやあっさりと許可してしまったすずかに、物陰に潜んでいたレオンが慌てて出てきた。


「やっぱりいやがったな……流石に怒るぞ」

「いいじゃないか、素晴らしい写真が撮れたんだから」

「お前が素晴らしいとか言うと寒々しいから止めろ」

「散々だな……」


 酷い言われようだが、同じ目に遭ったら、間違いなく似たようなリアクションになるので強く言えなかった。


「で? そもそもどういう経緯があってこうなったんだ?」

「まぁ、長くなるから移動しようぜ」


 レオンに促され、それぞれここを出る支度を進めていく。それから、なのはとはやての2人とも合流し、近くの喫茶店へ。道中、女性陣が必死にアリサを宥めているところを見ると、発案者はレオンではないようだ。もし彼が考えたのなら、一緒になって謝っているに違いない。


「さて、改めて今回の件を話すわけだが……なのは、発案者なんだから説明よろしく」

「ふぇ!? わ、私が? うー……じ、実はね」


 なのはの話を纏めるとこうだ。

 過去にコルトとスバル、そしてブルズとティアナの4人がタキシードとウェディングドレスの試着、並びに写真撮影を行ったことがあるらしく、アリサがそれを羨んだことから、今回の1件を企画したらしい。そこでコルトたちの写真を撮ってくださった企業に頼み込み、さらにはカメラに詳しいと言うことですずかを呼んだとのこと。ちなみにすずかが変身魔法を使えたのは、一時的にレイジングハートを使えるようにしたからだそうだ。


「ったく……だからってこんな大掛かりなことをするのかよ」

「だ、だって、せっかくなら楽しい方がいいって、レオンくんとはやてちゃんが言うから……」

「面白いから乗っただけだろ!」


 憤慨するヴィレイサーの気持ちも分からなくもない。レオンだって、もし同じことをされたら間違いなく怒ることだろう。確かに弄りたい気もあったが、今回はあくまでアリサの希望を優先させた結果だ。


「そう言うなって。アリサと一緒に写真が撮れて嬉しかっただろ?」

「…ノーコメント」

「それ、言っているのと同じだからな」


 ちなみに写真が出来上がるのは2日後らしい。とんだクリスマスプレゼントになりそうだ。





◆◇◆◇◆





 そして2日後の12月25日、クリスマス───。

 隊舎で開かれているクリスマスパーティーを抜けて、ヴィレイサーとアリサは夜道を歩いていく。最初はヴィレイサーだけで行こうかと思ったのだが、やはり1人でいるのは嫌なのかアリサがついてきてくれた。


「寒い……」

「ねー。でも、こう寒いと……ぎゅっとしても、暑苦しくないでしょ?」

「…まぁ、な」


 アリサの方からヴィレイサーの腕に抱き着くと、彼は頬を赤くしつつ同意した。アリサがつまずいてしまわないよう、彼女が歩きやすい歩調にする。それに気づいたアリサは、ぐっとヴィレイサーへと近づくと、耳元で「ありがとう」と囁き、その頬に口付けした。


「…アリサ」

「え? あ、ちょっと……ここじゃ、ダメ」

「あれだけじゃあ不服なのは、お前だってわかっているだろ」


 道行く人の邪魔にならないよう人通りの少ない歩道の端へアリサを連れて行くヴィレイサー。だが、彼が望むことに気付いたアリサは、壁に背を預けられても顔をそむけてしまう。もともと恥ずかしがりな所があるだけに、外で唇を重ねることは絶対に拒まれる。


「だ、だけど、外は……!」

「…なら、帰ってからならいいのか?」

「そ、それは……」


 できれば口付けをしたい──それはアリサも同じ気持ちだったりするのだが、それを言うと絶対にこの場で畳み掛けられるので口を噤んだ。


「……抱き締める、だけなら」

「ん」


 妥協案としてそれを示すと、ヴィレイサーはすぐさまアリサをぎゅっと抱き締めた。パーティーなどでレオンとなのはが親しくしていたのを見て、甘えたくなったのかもしれない。


「アリサ……好きだ」

「うん、あたしも」


 だが、何も羨んでいたのは彼だけではない。アリサだって彼に甘えたくて仕方がなかった。恥ずかしさを我慢さえすればなのはのように積極的に出られるはずなのに、どうしてもそうすることができない。


「…行くか」

「そうね」


 クリスマスなので多くのカップルがいるが、流石にずっと抱き締めあっていると視線が集まりそうなので、2人はしばらくして身体を放す。そして今度こそ写真を受け取るために夜道を歩いていった。

 やがて件のブライダル会社に到着すると、受付で用件を伝える。写真を用意するのでしばらく店内を見ていて欲しいとのこと。


「色々あるのね」

「だな」


 指輪が多く陳列されているショーケースやらパンフレットやらを次々と見ていくアリサ。その眼には確かに羨望の色が出ており、ヴィレイサーはどこか落ち着かない気持ちになっていく。もしかしたら、自分の願望がそう見させているのかもしれないが。


「お待たせいたしました」


 やがて写真が入った封筒を持ってきた店員に呼ばれ、アリサが中に入っていた写真を見詰める。その顔には、確かに嬉しさが見て取れる。


「…うん、そろそろ戻ろ」

「んー……」


 アリサの帰宅を促す言葉に、しかしヴィレイサーは悩んだ。このまま帰るのも、なんだか気が引ける。それにせっかくここまで来たのだ。ならば───。


「アリサ」

「何?」

「その、何と言うか……せっかくだし、少し見ていかないか?」

「えっ……そ、それって、つまり……?」

「まぁ、察してくれ」

「…もう、肝心な時にヘタレなんだから」

「うるさい」


 呆れ気味に溜め息を零すアリサだったが、その表情は明るく、頬は赤みを帯びている。それ以上に自分は赤くなっているのだろうと自覚しつつ、ヴィレイサーは誤魔化すようにそっぽを向いた。


「でも、あたしとしては……見ていくだけなんて、嫌かな」

「……お前だって、素直じゃないだろ」

「誰かさんが素直じゃないせいで、こうなっちゃったの」


 アリサも顔を赤らめており、ヴィレイサーから視線をそらしてしまう。その可愛さに思わず抱き締めたくなるが、流石に店内でそんなことはできない。


「…とりあえず、選ぶか」

「そう、ね」


 2人には、飾った言葉などいらない。胸に抱き、変わることのない気持ちがあるのだから。










◆──────────◆

:あとがき
イツキ先生とのコラボで書かせて頂きましたクリスマス小話、如何だったでしょうか?

アリサとヴィレイサー、互いに素直になれないところがありますが、周囲の後押しもあって最後ではまた少し進展できたのではないかなぁと思います。

まぁ、最終的には恥ずかしくなって何も買えずに帰ってきたんだろうと思っていたり(笑)

フェイトに対してはからかう一面が強いヴィレイサーですが、アリサが相手ではやり過ぎると剥れてしまうのでからかいすぎず、だけどまったくからかわないわけではない……そこの匙加減が難しかったりします。

次の更新はやはりvividになります。小話も、しばらくネタ切れのようなので……。
では、次回の更新もお楽しみに。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!