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小説
お父さん ☆






「お母さん!」


 前方に、つい1カ月程前に母親として自分を受け入れてくれた人──メイヤを見つけて、リカは彼女に駆け寄る。


「おはよう、お母さん」

「はい。おはようございます、リカちゃん」


 足に抱きついてきたリカの頭を撫でて、メイヤは柔和な笑みを浮かべる。そして、彼女を離させてから身を屈めて同じくらいの目線になる。

 リカは、正式にメイヤの養子となった。それは今から1カ月ほど前のことだ。母の日の概要を知って、とある事件で両親を失ってしまったリカは泣いてしまったのだが、メイヤを姉として、時には母として慕ってきた彼女はその日をメイヤへの感謝を示す人心に決めた。ヴィレイサーの協力もあって、母の日のサプライズは大成功。そしてその翌日、メイヤはリカに自分の養子になることを提案したのだ。

 最初の内こそ戸惑いがちだったリカだが、メイヤは今までと変わらぬ態度で接してくれた。それが緊張をほぐしてくれたのだろう。リカも、次第に母親として慕う様になった。


「あ……お、と──……」


 リカの瞳に、ふとヴィレイサーが写った。少し遠慮がちに口を開いたが、何故かすぐに口籠ってしまった。


「お兄ちゃん!」

「おはよう、リカ」

「うん♪」


 メイヤと同様に、リカはヴィレイサーに頭を撫でられる。それを受けながら、リカは満面の笑みだった。


(リカちゃん、もしかして……)


 が、メイヤはすぐにそれにはまざらずにしばし何か考え事をしていた。


「朝御飯、なにかな〜?」

「好き嫌いしない様にな」


 リカの手を取って、ヴィレイサーは彼女と一緒に食堂へと歩みを進める。


「メイヤ」

「あ、はい」


 呼ばれたので、メイヤは思考を止めて、ヴィレイサーが取っていない側のリカの手を取ってあげた。





◆◇◆◇◆





「美味しいですか、リカちゃん?」

「うん♪」


 ヴィレイサーとメイヤ、そしてリカの3人で食事を取るのはもう当たり前の光景になっていた。彼らの水を差さぬよう、仲間が同席することは滅多にない。


「リカちゃん、じっとしていてください」

「ん」


 口周りが汚れて来たので、メイヤはナプキンを使って優しく拭いてやる。


「メイヤ、もうすっかりお母さんやなぁ」


 それを見て沁々と言うはやてに、アルクはうんうんと頷いている。


「リカちゃんは利発やし、手もかからんやろうな。
 うーむ……私はしっかりお母さんになれるかなぁ?」

「大丈夫さ」


 はやての不安を、アルクがさくっと片付ける。


「はやてならいい母親になれるさ。俺が保証するし、何かあっても俺が一緒だ」

「もう、また私を照れさせるんやから♪」


 そんなことを言いつつ、はやてはとても嬉しそうだ。それを横目で一瞥して、ヴィレイサーは視線をリカに戻す。


「好き嫌いはダメですよ?」

「うぅ〜……だってぇ……」

「まぁ、子供の頃はピーマンの苦味は嫌だよな」


 リカはお皿に残っているピーマンと睨めっこでもしているみたいに、それを凝視する。


「リカ、苦いだけだから食べてごらん」

「ふぇぇ……」


 優しく言ってみるが、リカは中々言うことを聞かない。


「じゃあ、メイヤと一緒に食べてみたらどうだ?」

「え?」

「メイヤも、ピーマンは苦手なんだよ」

「ホント〜?」


 小首を傾げて聞いてきたリカに、しかしメイヤはすぐに答えられない。ヴィレイサーをチラッと見ると、苦笑いしていた。


《メイヤが頑張って食べているのを見たら、リカも食べるんじゃないかと思ってな》

《なるほど》


 意図を知り、メイヤはピーマンを食する。それをじっと見ていたリカはやがて、恐る恐ると言った様子でピーマンを食べた。


「ふにぃ」


 苦味に屈して、リカは顔をしかめる。


「ちゃんと食べられたじゃないか」

「よく出来ました」


 ヴィレイサーとメイヤから褒められて、リカはもう少しだけ苦手なピーマンを食べる。


「リカ」

「んみゅ?」


 しばらくの時間をかけて、リカは料理を食べきった。それを褒めるのをメイヤに任せて、ヴィレイサーはリカの好きなフルーツを持ってくる。


「ほら、あーん」

「あー……ん」


 食べさせてあげると、彼女はパッと笑顔になる。


「美味しいか?」

「うん♪」


 すっかり笑顔になったリカを撫でているヴィレイサーに、メイヤは羨望の眼差しを向ける。いや、正確には【食べさせて貰ったリカに】だ。


「お母さんも、あーん♪」

「え?」


 いきなり言われて驚くメイヤに、リカは満面の笑みでフルーツを差し出している。


「それとも、俺が食べさせてあげようか?」


 そして、ヴィレイサーもまた、メイヤの好きなフルーツを差し出す。


「い、頂きます」


 仄かに頬を赤らめ、メイヤはリカとヴィレイサーが差し出すフルーツを食した。





◆◇◆◇◆





「お母さん」

「はい?」

「お母さんの日があるなら、お父さんの日もあるの?」


 リカの質問に、メイヤは目を瞬く。ヴィレイサーがこの場にいないから聞いてきたのだろう。


「ありますよ」


 リカをそっと抱き締めて、優しく語る。


「リカちゃんは、ヴィレイサーさんにお父さんになって貰いたいんですか?」


 今朝、リカがヴィレイサーを『お父さん』と呼ぼうとしたことを思い出す。


「うん。ダメ?」

「いいえ。決して、そんなことはありませんよ」


 まだ夫婦や結婚とかの知識が皆無なリカにとっては、早くヴィレイサーを父として慕いたいのかもしれない。


(私も、吝かではありませんし)


 内心で、メイヤは頬を緩める。いつかは、ヴィレイサーと伴侶として結ばれたいと願うメイヤは、リカが彼を「お父さん」と呼べば、いい刺激になると考えていた。


「お父さんの日は、もうすぐですよ」


 カレンダーに書かれてある日付の1つに指で触れた。






◆◇◆◇◆





「リインお姉ちゃん」

「どうしたんですか、リカちゃん?」


 駆け寄ってきたリカを出迎え、リインフォースは彼女の対面に座す。


「あのね、もうすぐお父さんの日だから、お兄ちゃんをビックリさせてあげたいの」

「ん、んん?」


 早く言われたこともあるが、リインフォースUは小首を傾げてリカの言ったことを頭の中で反芻する。


「父の日に、ヴィレイサーさんをビックリさせたいんですね?」

「うん!」

「ええ心掛けやな」

「わわっ!? は、はやてちゃん!?」


 感心していたリインフォースの気持ちをそっくりそのまま口にしたはやてに驚くが、彼女はリカの頭を撫でていた。


「ヴィレくんをビックリさせると同時に、喜ばれるプレゼントを教えてあげる」


 悪戯心だけでなく、本心からはやてはリカにあることを教えた。


「リカにできるかな?」

「何事もやってみないと分からないものや。頑張って練習しよ」

「うん♪」


 張り切るリカに、リインフォースとはやては早速サポートを開始した。





◆◇◆◇◆





「もうすぐ父の日だが……何かしてもらえそうか?」

「うーん? 無理じゃね?」


 デスクワークを行いながら聞いてきたアルクに、ヴィレイサーは手を止めずに返す。だが、先程よりもその動きが遅くなっているところを見ると、どうやら気になってはいるようだ。


「自信がないのか、リカの父親になることに?」

「無い」


 断言を1つだけ返し、ヴィレイサーは溜め息を零す。


「俺に務まるとは思えん」

「それがお前の欠点だ。
 何事に対しても諦めがよすぎる。何かにつけて気にしすぎる。自信をまったくと言っていいほど持たない」

「そんな分析はいらん」

「事実だろうに……」

「理解はしているさ」


 作業が終わったのか、ヴィレイサーは立ち上がりながら言った。


「もちろん、リカに父親として慕われた暁には努力するさ」


 踵を返して、ヴィレイサーは部屋から出ていった。





◆◇◆◇◆





「それじゃあ、頑張って料理を作りましょう」

「はぁーい♪」


 メイヤと同様に、子供用のエプロンをつけてリカは調理を始める。刃物はメイヤが扱い、リカには野菜を水洗いしてもらったり、皮を剥いでもらう。母の日以来、リカは普段からも調理を手伝い始めた。お陰ですっかり手際が良くなっている。


「できたー♪」

「はい、とっても上手ですよ」


 満面の笑みで喜ぶリカの頭を撫でて、メイヤは料理の手を進めていく。ヴィレイサーは自分が父の日に謝辞を送られる事に気が付いているのか、部屋には姿を見せなかった。いつもなら来てくれるので、ちょっぴり寂しい気もする。


「お母さん、どうしたの?」

「いいえ、なんでもありませんよ」


 メイヤの機微を目ざとく見つけたリカは心配そうにするが、彼女が笑顔で頭を撫でてくれたので嬉しそうに目を細める。


「さぁ、お父さんのために頑張りましょう」

「うん♪」


 調理は軽快に進み、あっという間に支度が終わった。





◆◇◆◇◆





「お、おと……お兄ちゃん!」


 ヴィレイサーを呼びに来たリカは、また自分が彼を『お父さん』と呼ぼうとしたのに気がついて慌てて言い直した。


「お母さんの部屋に一緒に行こう」

「あぁ」


 差し出された手はとても小さくて、ヴィレイサーはしっかりと握る。が、ふと視線を感じてリカの方を見ると、彼女がじっと見詰めてきていた。歩みを止めて、リカと視線を合わせる。


「どうした?」

「お兄ちゃんは、ずっとリカのお兄ちゃん?」

「さぁ? それはどうかな」


 微笑して、ヴィレイサーはリカの頭に手を置く。優しく撫でると、彼女の艶やかな髪の感触が心地よい。


「リカが望めば、俺はそれを必ず叶えるよ」

「わっ!?」


 抱っこしてあげると、リカはいきなりのことに驚く。だが、すぐに笑顔でヴィレイサーに抱きついた。嬉しそうに満面の笑みを振りまく彼女を見て、ヴィレイサーも頬を緩める。


「リカ」

「なぁに?」

「…いや、なんでもない」

「ふぇ……リカには内緒?」


 名前を呼んでもらえたのに何も話してくれないことが悲しくて、リカは瞳を潤ませる。


「ごめんな、泣かないでくれ、リカ。
 ただ、リカの名前を呼びたかっただけなんだよ」

「どうして?」

「えっと……」


 何故自分の名前を呼びたかったのか、リカにはよく分かっていない様だ。ヴィレイサーは苦笑いしてリカを抱っこしなおす。


「理由は特にないんだけど……強いて言うのなら、リカが可愛かったからかな」

「ホント?」

「あぁ、本当だよ」


 そんなたわいない話をしているうちに、2人はメイヤの部屋まで戻ってきた。


「ヴィレイサーさん」


 嫣然と微笑んで迎えてくれたメイヤに、ヴィレイサーはリカを下ろして歩み寄る。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃん……今日から、リカのお父さんになって」

「…俺で、いいのかな?」

「お兄ちゃんじゃなきゃヤ!」


 リカはヴィレイサーに抱きつき、如何に自分がそれを望んでいるのかを示す。


「お兄ちゃんは、ダメ?」


 心配そうな上目遣い。それは子供らしく、可愛くて愛らしい。ヴィレイサーは頬を緩めて、優しくリカの頭を撫でる。


「そんなことないよ。
 ただ、自信がないんだ。俺が、リカのお父さんになれるのかなって」

「なれるよ。だって、リカが決めたリカのお父さんだもん!」

「そっか。
 それじゃあ、今日から俺はリカのお父さんだ。ずっと、な」

「うん♪」


 顔を綻ばせるリカをもう1度だけ撫でてから、ヴィレイサーはメイヤに向き直る。じっと見詰め合い、視線が絡み合う。


「ヴィレイサーさんは、リカちゃんのお父さんになりましたね」

「あぁ」

「それで、その……私は、リカちゃんのお母さんです」

「あぁ、そうだな」

「だから、あの……」


 仄かにだが、メイヤの頬が赤みを帯びていく。少しだけ恥ずかしそうで、だけどとても嬉々としている。やはり、メイヤは可愛らしい。最上の愛者だ。


「分かっているよ、メイヤ」


 メイヤの手をそっと取ると、ヴィレイサーは歩み寄りながら、同時に彼女のことも引き寄せる。抱き締め、髪を梳く。


「俺達は、リカの両親だ。まだそれは、正式な物じゃないけど……それでも、俺達は夫婦だよ」

「ヴィレイサーさん」


 互いの瞳が揺れる。見詰め合っていると、相手の瞳に自分が映っているのが見える。同じ様な顔つきでいることが嬉しかった。


「う〜……リカもぉ! リカもぎゅってして!」


 2人だけ抱き合っていて、自分があぶれてしまったのが残念なのだろう。リカはぴょんぴょんとその場でジャンプしながらねだる。


「ごめんごめん」


 苦笑いして、ヴィレイサーがすぐに抱っこする。


「お母さん」


 抱っこされたまま、リカはメイヤの手を取った。|家族《・・》3人が愛する人をそっと、優しく抱き締めた。


「ちょっと待っててね」


 メイヤとリカが作ってくれた料理に舌鼓を打ち、それもやがて終わると、リカはもう1つ渡したいものがあると言って物陰に隠れてしまった。


「何でしょうね?」

「まぁ、リカのサプライズだから期待して損はないと思うけど」


 以前の母の日の時も、リカは独断でカーネーションを貰ってきたことがあった。やはり、とても心優しい少女だ。


「お待たせ〜」

「えっ!?」

「な、何で!?」


 程なくしてリカが戻ってきた。しかし、それを目にしてメイヤもヴィレイサーも驚きの声をあげる。


「じゃ〜ん♪ どう?」


 呆ける2人に、リカは小首を傾げて聞いてくる。しかし、どちらも呆然としているだけで感想など述べられない。それはそうだろう。何故なら今のリカの見目は、メイヤと同じぐらいの“女性だから”だ。


「リカ、その格好は……?」


 ようやく、ヴィレイサーが問いを投げる。しかし、リカは感想じゃないのが残念そうだ。


「はやてお姉ちゃんとリインお姉ちゃんに、お父さんを驚かせる方法を聞いたの。そうしたら、『変身魔法で大きくなれば驚いてもらえる』って言われたの」


 リカの見た目は確かに年頃の少女と同じ、10代後半だ。しかし、言動は変わらないのでギャップがあって中々面白いかもしれない。


「とっても可愛いですよ、リカちゃん」

「ホント?」

「あぁ、メイヤの言う通り可愛いよ」

「えへへ。ありがと、お母さん、お父さん♪」


 今のリカはメイヤと同じくらいの背丈なので、母と父の肩に同時に手を置いて抱き締めた。


「あのね、リカ、どうしてもお母さんとお父さんにしてもらいたいことがあるの」

「何ですか?」

「あのね……家族で、一緒にお風呂に入りたいの!」

「…え?」

「それって……俺も含まれているんだよな?」

「うん」


 リカの即答に、ヴィレイサーとメイヤは顔を見合わせる。


「いや、流石にそれは………」


 幾ら娘とは言え、リカは女の子だ。将来にこんな話が思い出されては堪ったものではない。戸惑うヴィレイサーの様子を見て、リカは表情を曇らせる。


「お母さん、ダメ?」


 ならばと、リカはメイヤに許可を取ろうとする。


「私は、一緒に入ってもいいと思いますよ」

「えっ!?」

「やったぁ♪」


 驚くヴィレイサーを他所に、リカは万歳して喜んでいる。


「メイヤ、本気か?」

「せっかくですから、いいじゃないですか」

「まぁ、メイヤがそう言うのなら……」


 疚しい気持ちはないが、やはり女性と一緒に入浴するのは緊張してしまう。





◆◇◆◇◆





「お待たせしました」

「お父さん、どうしてリカ達の方を向いてくれないの?」


 メイヤとリカが風呂場に入ってきたので、ヴィレイサーは背を向ける。不思議そうにするリカは、メイヤが言い聞かせてくれたお陰でいつもの姿に戻っている。


「ヴィレイサーさん。私達は、家族ですから」

「…分かったよ」


 メイヤにも言われたので、ヴィレイサーは折れた。リカが湯船に浸かるヴィレイサーの前に座り、父の体躯に寄り掛かる。


「お父さんの身体、傷がいっぱい」

「ごめん、怖いかな」

「ううん、そんなことないよ」


 振り返り、ヴィレイサーを見上げる。


「お母さんがね、『お父さんの身体にある傷は、私達を守ってくれている証だ』って」

「そっか」

「いつも守ってくれてありがとう、お父さん」


 笑顔のリカを撫でて、次いでメイヤを見る。


「メイヤは、怖くないのか?」

「当然ですよ。貴方を愛しているのに、どうして貴方の傷を畏怖出来るのですか」

「あぁ、ありがとう」


 ここまで愛してくれるメイヤに謝辞を述べ、自分も彼女を同じくらい愛すると内心で誓った。


「お父さん、背中洗ってあげる」

「んーっと……それじゃあ、お願いしようかな」


 一応、メイヤの方を見て確認する。彼女が頷いたのを承諾として捉え、一緒に湯船から出た。


「では、私はリカちゃんの背中を洗いますね」


 ヴィレイサーを先頭に、リカ、メイヤと一列に並び、背中を洗った。


「お父さんの背中、おっきいね」


 リカは懸命に背中を洗ってくれる。


「リカちゃん、背中を流しますよ」

「はぁーい」


 メイヤが先にリカの背にシャワーをかける。泡立ったボディーソープが流れ落ち、子供らしい柔肌が現れる。


「お父さんのも一緒に流しましょう」

「うん」


 リカがシャワーを落としてしまわぬよう、メイヤが一緒に持ちながら背中を流す。


「終わったよ、お父さん」

「ありがとう、リカ。それじゃあ、次はお母さんを洗ってあげようか」

「うん、洗う」


 向きを変えて、今度はメイヤの背中が洗われる。


「お母さんの肌、綺麗だね」

「リカちゃんも綺麗ですよ」


 家族での入浴は楽しくて、リカは終始笑顔だった。





◆◇◆◇◆





「んにゅぅ」


 やがて就寝時間となり、リカはメイヤとヴィレイサーを両隣にして静かに眠る。


「可愛い寝顔ですね」


 安心しきっている寝顔を見詰め、メイヤは顔を綻ばせる。ヴィレイサーも同意見で、メイヤと同様に笑んでいた。


「親として、リカの幸せを守っていかないとな」

「そうですね」


 リカをそっと撫でて、ヴィレイサーはメイヤを見詰める。


「ですが、その前に……」

「ん?」

「その前に、私達が、本当の夫婦になった方が……」


 仄かに顔を赤くして、メイヤはヴィレイサーの手を取る。心夫として定めた人と、真に夫婦となりたいのだろう。


「俺でよければ、いつだってメイヤの隣に並ぶよ。君の伴侶として」

「ヴィレイサーさん……私も、いつまでもヴィレイサーさんの妻として、貴方のお傍に居ます」


 窓から差す月華が音もなく照らす中、2人はそっと唇を重ねた。





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