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小説
第8話 「堕天使との距離」
魔法少女リリカルなのはWars
第8話 「堕天使との距離」

「リュウビ、デュアリスの容体はどうだ?」

ヴィレイサーは戻ってきてすぐに聞いた。

「今は大分落ち着いているわ。
 けど、三提督から次の任務が・・・。」

「早いな。」

任務概要を確認しながらヴィレイサーは毒づいた。


「今回の任務は、ガランガ洞穴の調査、創世主軍が関わっていた場合は殲滅。」

「了解。
 インペリアルの調整と、デュアリスの事、頼んだぞ。」

「えっ!? 本当にもう行くの?
 まだ戻ってきたばかりなんだから、少しは休んだら?」

「あの三提督が何を企んでいるのかも知りたいしな。」

「わかった。 気をつけてね。」

「あぁ。」

そう言って、ヴィレイサーはガランガ洞穴に向かった。


Side:なのは

「クロノ君!
 はやてちゃんたちは?」

「なのは、落ち着け。
 皆大事ない。 シグナムもほぼ全身を斬られたと言っても、傷口は全て浅いものだ。」

「よ、良かった〜。」

「クロノくん、三提督から連絡。」

私が安堵した時、エイミィさんがクロノ君を呼んだ。

「なのはとフェイトを、ですか?」

[あぁ、今すぐにガランガ洞穴に向かわせてほしい。]

「わかりました。 なのは、聞いていたか?」

「うん。 大丈夫だよ。」

「よし。 それじゃあ、フェイトと一緒にガランガ洞穴に向かってくれ。」

「了解。」

Side:なのは 了


「魔王地顎陣(まおうちがくじん)!」

ヴィレイサーが太刀を地面に叩きつけた後、そこから周囲が噴き上がった。

そして、ガジェットを駆逐した。


「何でこんな所にガジェットがいるんだよ。」

[仕方がありません。 創世主軍が近いのでしょう。]


「お? アレだな。」

ヴィレイサーはガランガ洞穴の入り口を見つけ、中を窺う。

「敵は・・・いないみたいだな。」

そう言って、ヴィレイサーは内部へと足を踏み入れた。


(随分と入り組んでるな。 出口まで辿り着けるか不安だな。)

内部を探索して、早1時間が経過したが、
特にこれと言って変ったものを見つける事は無かった。

[AMFがかなり強いですね。]

「あぁ。 しかも、飛行しながら移動できないってのはな。」

この洞穴の内部は、思ったよりも狭く、飛行はかなり厳しいものだった。

[いい運動になります。]

「『隊長』みたいな事言うな。」

更に奥に歩きながらぼやく。

彼が以前属していた部隊の隊長は基本を重視しており、
任務地まで歩かされることも多々あった。

「『姉さん』もよくぼやいてたっけ。」

[そうでしたね。]

そんな事を話しながら、ヴィレイサーは奥に進んでいった。


Side:フェイト

「・・・。」

「えっと、迷っちゃった?」

「だ、大丈夫だよ、フェイトちゃん!
 私がついてるんだから。」

「う、うん。」

(それにしても、かなり入り組んでる・・・。)

フェイトは周りを見回しながら思った。

フェイトたちがガランガ洞穴に到着し、内部に入ってから30分が経過していた。

しかし、なのはに任せてしまったためか、彼女たちは道に迷ってしまっていた。

「よしっ! フェイトちゃん、こっちだよ。」

「うん。」

なのはに着いて行き、調査を行っていく。


(それにしても、シグナムが敗れるなんて・・・。)

フェイトは歩きながら、前回のセグルニア沖での戦闘を思い出す。

レヴァンティンが破壊される直前の映像を見せてもらったフェイトは驚きを隠せなかった。

ヴィレイサーがこちらに転身し、刃が噛み合う前に、
スティレットを投げつけてシグナムを怯ませ、
左腰の刃を抜き放ちざまにレヴァンティンを破壊。

そんな事、常人にできるはずがない。

それに、シグナムの四肢をほぼ同時に、それも浅く斬ったのもありえない。

(ヴィレイサー・セウリオン。 あの人はいったい・・・。)

Side:フェイト 了


「ん? 向こうから誰かくるみたいだな。」

ヴィレイサーが探索を開始して、既に3時間が経過した。

その時、反対側の通路から灯りがこちらにきた。

(創世主軍か? ならば・・・。)

ヴィレイサーはエターナルを握る。


「フェイトちゃん、こっち大丈夫だよ。」

「気を付けて、なのは。」

そして、2人の女性がヴィレイサーと対面した。

「貴様らは、管理局の。」

「ヴィレイサーさん!?」

「どうしてあなたがここに?」

フェイトの質問にヴィレイサーは答えず、踵を返す。

「答える義理はない。」

「あっ、待ってください。」

なのはが唐突に呼び止める。

「なんだ?」

エターナルを鞘に戻しながら聞き返す。

「一緒に行動していいですか?」

「なのは!?」

「何故そんな事を提案する?」

ヴィレイサーは、体を少しなのは達に向けただけだった。

「えっと、道に迷っちゃうから・・・。」

「まぁ、今までもちょっと迷ったしね。」

「・・・。 好きにしろ。」

「「良かった。」」


「ヴィレイサーさんはどこの出身なんですか?」

「「さん」付けは止めてくれ。
 別に付けられるほどじゃないからな。」

「それじゃあ、ヴィレイサーくん?
 長いなぁ。 よしっ! 『ヴィレくん』にしよう。」

「・・・。 勝手にしろ。」

「うん。 フェイトちゃんはどうする?」

「えっ!? それじゃあ、普通に『ヴィレイサー』で。」

「お前らはよく『敵』にそんな事ができるな。」

「『敵』って・・・。 私はそんな風に思った事はないよ。」

「セグルニア沖で戦闘したやつらはどうだかな。」

「そんな事・・・。」

だが、フェイトは言い淀む。

「別に構わないがな。」

ヴィレイサーは慎重に進んでいく。

「それで、結局どこの出身なの?」

「なのは・・・。」

なのははお構いなしに聞く。

「地球の日本ってとこだけど。」

「「日本!?」」

「何故そんなに驚く?」

「だって、ヴィレイサーって名前だからてっきり・・・。」

「それじゃあ、本名は?」

「夜霧 襲牙。」

「どうしてそっちの名前を使わないの?」

「この世界で俺を育ててくれた親が冠してくれた名だからだ。」

「そうなんだ。 会ってみたいなぁ、ヴィレくんのご両親に。」

なのはの言葉に、ヴィレイサーの顔が翳る。

「無理だな。」

「どうして?」

しかし、ヴィレイサーはただ黙していた。

「?」

[あまり立ち入った事は聞かない方がいいよ。]

なのははその理由がわからなかった。

そして、フェイトが念話で伝えた。

[でも、なんだかほっとけないんだよね。]

なのはも念話で返す。

[ほうっておけないって・・・。 なんで?]

[だって、あの目。
 なんだか小さい頃の私たちに、1人ぼっちだった頃に似ている気がするの。]

そんななのはの言葉に、フェイトは驚く。

[そうかな?
 だって、セグルニア沖では仲間もいたし・・・。]

[それは・・・そうなんだけど・・・。]

2人が念話で会話をしていた時、ヴィレイサーはエターナルと念話をしていた。

[エターナル、三提督の考えがわかるか?]

[いいえ、まったく。]

[最近、こいつらと会う事が増えてきている。
 恐らく俺と彼女達を引きつけているのは三提督だろうな。]

[恐らくは。]

(ならば、それが意味する事はいったい・・・。
 だいたい、何で俺が『人間』と行動しなきゃいけないんだ?)


「ねぇ、ヴィレくんも魔法と出会ったのは9歳頃なの?」

(なのはだっけか? こいつは何故こんなにも俺に関わろうとする?
 やっぱり『人間』という存在はわからない・・・。)

「ちなみに、私も9歳だよ♪」

「俺もそうだ。
 しかし、何故その事を知っている?」

「管理局のデータベースが残っていたから。」

「そうか。」

「7年前、あなたが管理局を去ったきっかけになった事件って、何?」

それまでただ黙していたフェイトが聞いてきた。

「お前達には関係無い。
 それに、答える気も無い。」

「そう。」


それから数十分後、小さいが、光が見えてきた。

「あれって・・・出口!?」

「うん。 そうみたい。」

「待て。 この感じ・・・。」

ヴィレイサーが急に出口付近で立ち止まる。

「ヴィレくん、どうしたの?」

「魔力反応だ。
 少なくとも2人から3人はいるな。」

「そこまでわかるの?」

「俺のデバイスはそういう感度が高いからな。
 さて、どうしたものか・・・。」

この洞窟内ではAMFが強いので、強力な砲撃は行えない。

かと言って、出口から出れば敵の技の餌食になるのは目に見えている。


「上部から仕掛けるか。」

天井を見上げ、魔力を集中させる。

(この程度のAMFなら、砲撃に使うカートリッジは1発で十分だろう。)

「なのは、フェイト、お前達はしばらく経過してから出口から脱しろ。
 決して戦ったりするなよ!」

「う、うん。」

「砲撃後、ハイマットで一気に行くぞ。」

[Sure.]

掌を天井に向け、砲撃を放つ。

「イレイズカノン!」

ヴィレイサーが技を放ったそこは、そこだけ切り取られたように消されていた。

上空への道を作ったヴィレイサーは、一気に戦場へと飛び立った。


「っ!?」

「せやぁっ!」

外へ飛び出したその刹那、何者かが刃を振るってきた。

それを既の所で逆手に引き抜いた太刀型のエターナルで受け止める。

「創世主軍か。」

「AMF下で砲撃をしてくるとはな。」

敵は飛び退いて距離を取りながら、左手のウィップを振るう。

それを空中に行ってかわし、反撃する。

「チッ。 フリーズランサー!」

「メガブラスター!」

ヴィレイサーが放った槍の穂先を模した氷は、
敵に届く前に新たに現れた敵が放った光球によって消滅させられた。

「別働隊・・・。
 これで相手は3人か。 分が悪いな。」

敵は今までのように標準ライフルでは無く、特殊な武器を装備していた。

最初の敵は、右手に銃剣、左手にウィップ。

フリーズランサーを消し去った相手は、右手に口径の大きい大型のライフルのみ。

そいつと一緒に現れた奴は、攻防のできる盾を両腕に配していた。

「堕天使、我々は創世主軍の第3師団だ。
 武器は我等の師団以上の者は皆バラバラだ。 苦労するぞ。」

「・・・。 モード2−ギア1。」

[Halberd Mode.]

エターナルが太刀型から、刃の長い薙刀型へと姿を変えた。

「御託はそれだけか?」

「そんなに死に急ぐか。
 ならば、望み通り殺してやろう。」

「永久(とわ)に眠れ! 堕天使!」

左右に展開していた2人が散開し、中心の敵がウィップを振るう。

それを右へかわし、向かってきた敵と刹那、対峙する。

そして、エターナルを上から下へ回転させながら技を放つ。

「裂空旋(れっくうせん)!」

「紅蓮光輪(ぐれんこうりん)!」

敵はヴィレイサーの回転斬りを火球で受け止める。

「っ!? チッ!」

「バーニングフィスト!」

最初に左側に散開していた敵がこちらに攻撃してきた。

舌打ちしつつ、それを回避する。

「さすがの堕天使も3対1ではな。」


[情けない堕天使ですねぇ。]

エターナルまでもが嘆息する。

「黙れ。
 先程までAMF下にいたんだぞ。
 それなのに、いきなり魔力を完璧に生成しろって言う方がヒドイだろ。」

飛行でしつつ、攻撃をかわしながらエターナルに反論する。

「しかも「枷」までしやがって。
 おかげで毎度毎度ヤバい状況じゃねぇかよ・・・。」

[修行には丁度いいですよ。]

ヴィレイサーの言う枷とは、リミッターの事で、
オーバーリミッツと呼ばれる解除はもちろんの事、上級術、
モード1、2、3それぞれのギア2以降の使用禁止を定めている。

「しょうがねぇ。
 光十字の詠唱補助、よろしく。」

[Yeah.]

言うが早いか、ヴィレイサーは敵へと転身し、詠唱を開始する。

だが、それは相手も同じであり、術までもが重なった。

「「穢れを断ち切る凄絶の光。 敵に聖なる刻印を刻め!」」

「「エクレールラルム!」」

十字の光がぶつかり合うが、ヴィレイサーの方が押していた。

「無防備の今がチャンスだ。 やれぇっ!」

「その首、もらったぁーっ!」

攻防一対の盾の先に鋭い刃を出した敵が迫る。

だが、

「魔術消去。 空旋連転斧(くうせんれんてんぶ)!」

不意打ちのつもりでヴィレイサーに攻撃を仕掛けたが、
ヴィレイサーは放っていた魔術を途中で消去し、逆に相手を斬り裂いた。

「1人目、と。
 魔術消去の後すぐに動けたから、向こうのエクレールラルムをよけられたな。」

[だいぶ強くなってきていますよ。]

「チッ。 ブラッディーウィップ!」

「メガブラスター!」

残った2人は時間差で攻撃するが、ヴィレイサーはそれを悉くかわしていく。

「月華流麗(げっかりゅうれい)!」

2人目も、素早く斬り裂いた。

だが、そこで油断したために、敵のウィップに捕らえられた。

「しまっ・・・!」

「パルスウィップ!」

ヴィレイサーを捕まえたウィップから電流が走る。

「ぐあぁ!? く、こなくそ・・・。
 アンチグラビティ!」

そう言った瞬間、ウィップが独りでに広がり、ヴィレイサーを解放した。

「なっ!? これはいったい・・・。」

「地獄の剣舞に消えろ。」

背筋のゾッとするような声に敵は驚くが、もう遅い。

エターナルを太刀型に切り替えたヴィレイサーが肉薄し、敵をズタズタに斬り裂く。

「ヘル・マスカレード!」


「ヴィレくん!」

ガランガ洞穴内部から出てきたなのはとフェイトがこちらを見上げていた。

「離れていろ。
 今からこのエリアを消去(デリート)する。」

2人が空中に上がったのを確認し、カートリッジを3つロードする。

[One Destruction Cartridge and Two Normal Cartridge Get Set.]

「全ての悪しき者に、絶対なる氷結の力を!
 アブソリュート!」

太刀を空に掲げ、それが青白く輝き、ガランガ洞穴の周囲が氷漬けにされていく。

そして、その氷が砕け散った時、そこは平地になっており、何もかもが消されていた。

「ス、スゴイ・・・。」

「こんな事が・・・。」

なのはとフェイトはあまりの出来事に驚愕する。


「もう行っちゃうの?」

なのはが少し離れた所にいるヴィレイサーに声をかける。

「あぁ。
 お前達もとっとと戻れ。」

「少し、お話ししようよ。」

「断る。
 そんな必要性は無い。」

「私はもっとあなたの事を知りたい!
 だから 「放っておいてくれ・・・。」 え?」

「もう、俺という存在を放っておいてくれ!
 お前達『人間』とは違うんだよ・・・。」

それを最後に、ヴィレイサーはなのは達に背を向け、飛び去った。

「ヴィレくん!」

なのはの叫びは、そこに響いただけで、何も変わる事は無かった。


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