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小説
魔法少女リリカルなのは 〜憎悪の双頭龍〜





 燃え盛る焔は留まることを知らないのか、ゆっくりと──しかし確実に広がっていく。黒煙は空を覆い隠すまでに巨大化し、火の粉が舞うようにして時折色をつける。地は炎の大蛇が這い、空は黒煙の龍が駆けているように見えた。


「あっは、はは……あははは!」


 聞こえる声は、どれもこれも恐怖や戦慄を内包している。しかし、その例に当てはまらない青年が、1人。


「壊せ……壊せ壊せ! 壊し尽くせえぇっ!」


 憎しみの中にひっそりと芽生える愉悦。人々を恐怖のどん底に突き落とす彼の背後には、巨大な双頭の龍が控えていた。口から火球か、或いは炎そのものが際限なく放たれ、何もかもを焼失せんとする。


「や、止めないか!」

「……あ?」


 初老の男性が声を張り上げ、青年の行動を制しようする。


「お前は、自分が何をしているのか分かっているのか!」

「あー……? 分かってるよ、うるせぇなぁ」


 目上の者に対する礼儀など持ち合わせていない彼は、気だるそう続ける。


「ルシエの一族を滅ぼしているんだ。楽しいったりゃないぜぇ」

「い、異常だ……」

「壊れている」


 初老の男性の傍らに控えていた2人が、戦きながら呟く。


「はっ! 誰が俺をここまで壊したと思ってやがる? テメェらだろうが、屑が!」


 その言葉に、反論はなかった。即ち青年の言うことに間違いがないと、少なからず意識していると言うことだ。


「なんと悲惨な……」

「長!」

「老い耄れジジィの御出座しか」


 青年が属する一族の長の登場に、誰もが敬意を払った。


「…お前は最早、ここに居ることは赦されん」

「追放するってか? いいぜ。それなら、ルシエの末裔だったあのガキをぶっ殺せるからなぁ!」

「それはならん!」

「あっはは! だったら俺をどうするよ? ここに居たら一族の面子が丸潰れだぜ?」

「ぐっ……」


 苦悩する族長を嗤う青年。誰もが彼に憎悪の視線を向ける。それすらも意に介さず、彼は双頭の龍を見上げた。


「族長。ここは追放しましょう」

「だが……」

「彼が言うルシエの少女とて、村を追放されています。村の外で何が起ころうと、誰も気にしません」

「むぅ……致し方ない」


 落胆する族長。それを嘲笑うかのように見ていた青年だったが、突如として表情を歪める。


「ぐぁっ、は……あ゛あ゛あ゛っ!」


 吐血した量は半端ではない。血溜まりが焼け焦げた土に出来上がる。


「い、いかん!」

「カストールが暴走するぞ!」


 それまで平静を装っていた彼らだったが、慌ててその場を離れようとする。その恐怖を敏感に感じ取ったのか、双頭龍──カストールは眼下で慌てふためくちっぽけな人間たちを視界に収める。


「カストォォォォォルっ!」


 だが、それを制したのは誰であろう件の青年だった。


「俺の許可なく動くんじゃねぇっ!」


 荒々しい命令だったが、カストールはそれに従う。口の端から僅かに炎が見えた。火炎を放つ直前だったら、如何にカストールの主が命だとしても従わなかったかもしれない。


「あの若さで双頭龍を召喚するだけでも危険だと言うのに、怒りで御するなど……」


 族長の呟きは青年にも届いていたが、彼は何も言わずにカストールを下がらせた。


「もういい。失せろ、カストール」


 最後に吼号を残し、カストールは四角い魔法陣にゆっくりと沈んでいった。


(俺がこうなったのも、全部あの小娘の所為だ……!)


 憎悪をたぎらせ、脳裏に思い浮かべるのは1人の少女。大型の龍を2匹も従える彼女がいなくなった所為で、彼は自分を壊された。


「キャロ・ル・ルシエ……殺してやる!」












◆──────────◆

:あとがき
こんな憎悪を撒き散らすだけの奴が、キャロに好かれるはずがない……(汗

やっぱりヴィレイサーと絡ませて、彼のロリコン具合を上げた方がいいですね(爆

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