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小説
Episode 7 動き出す者










『ギンガ、行こう』

 え? な、何々? 何で兄さん、タキシードを着ているの?

『ほら、行くぞ』

 ちょ、ちょっと待って! 兄さん、お姫様抱っこなんてしなくても……って、何で私はドレスを着用済みなの!?

 もしかして……これって、兄さんとの挙式? で、でも、まだ付き合っていなかったし、プロポーズの言葉だって……!


「──ガ」


 でも……兄さんとなら……。


「起き──…ンガ!」


 ずっと、幸せに……。


「ギンガ、いい加減起きろ」

「…ふぇ?」


 そこで私は、ようやく現実に引き戻されたのだけれど……今回ばかりは、起こしてくれた兄さんにちょっぴり怒りたかったかな。



【Another View END.】





「お目覚めか?」

「あ……兄、さん?」

「あぁ」


 のそのそと身体を起こし、ギンガは寝惚け眼のまま窓を見る。


(綺麗な夕陽だなぁ)


 ぼんやりとそれを眺めて数秒後。ようやく理解した。


「ゆ、夕方!?」

「そうだよ」


 2人が模擬戦を行ったのは早朝。終わってから10時間は眠っていたことになる。


「ご、ごめん」

「いや、俺に謝られてもな」

「そ、そうだよね、ごめん」

「…ていっ」

「あうっ!」


 また謝ったので、デコピンをして黙らせる。恨めしい視線を向けてくるが、特に気にしないでおく。


「ナカジマ三佐に連絡するぞ」

「あ、うん」


 模擬戦のあと、ヴィレイサーにお姫様抱っこと言う形で部屋に運ばれたギンガは、すぐに疲れが出て眠ってしまった。ブリッツキャリバーとの連携初日だったことや、ダメージがかなり蓄積されたためだ。


(うぅ……兄さんにお姫様抱っこなんてされたから、変な夢見ちゃった)


 先程まで見ていた夢の内容を思い出し、また赤くなる頬。それを目ざとく見つけたヴィレイサーは、そっとギンガの額に自分の額を当てる。


「ふえっ!?」

「熱は、ないみたいだな」

「あ、当たり前だよ……!」

「けど、顔が赤いぞ?」

「な、なんでもないから」


 立ち上がり、そそくさと食堂に逃げ去るギンガ。そんな彼女の後姿を見送るしかできず、ヴィレイサーは溜め息を零す。


「なんなんだ?」


 逃げられたことを不思議に思いながらも、無理に聞くのも悪いと思い彼も食堂に向かう。その道中、沈んでいく夕陽の眩しさに目を眇める。


(なんか、綺麗って言うより……寂しいな)


 10年前は、よく仲間たちとこの夕陽を見ては笑いあっていた。この短い時間だけは、苦しみや怒り、憎しみから解放されていたのを今でもよく覚えている。それが今や、隣には誰もいない。


「兄さん」

「ギンガ……先に行ったんじゃなかったのか?」

「うん、そうなんだけど……やっぱり、兄さんと一緒がいいなって」


 頬が赤らんでいるのは、きっと夕陽のせいだろう。ヴィレイサーは微笑み、彼女の頭を優しく撫でる。


「どうしたの?」

「何が?」

「なんだか、寂しそうな目をしているから……」

「そんなことは……」


 否定しようとして、その言葉を呑み込んだ。そういえば、よく母から甘えるように言われていたのだと、今しがた思い出す。


「兄さん?」

「いや、やっぱり寂しいのかもしれない」

「…大丈夫だよ」

「ギンガ?」

「だって、兄さんの傍には私がいるから」


 笑み、ギンガの両手が頬を優しく包む。温もりが、とても心地よい。


「…も、もちろん、私だけじゃないよ? 父さんだって、スバルだって兄さんとずっと一緒だから」

「あぁ、そうだな。けど、今はギンガに甘えたい」

「に、兄さん!?」


 いきなり引っ張られたかと思うと、そのまま抱き締められる。ドキドキが止まらない。胸の高鳴りが抑えられず、それを兄に聞かれてしまうかもしれないかと思うと、余計にドキドキしてしまう上に、顔が真っ赤になってしまう。


「…ありがとうな、ギンガ」

「う、ううん。これで兄さんが元気になれるなら……」

「甘えさせてもらったわけだし、ギンガも甘えてくれて構わないからな」

「私、本当は甘えん坊かもしれないよ?」

「いいさ、それでも。ギンガに甘えてもらうのも、悪くない」

「…食堂、行こうか」

「あぁ」





◆◇◆◇◆





「ギ、ギンガ?」

「なぁに?」

「確かに甘えてもいいと言ったが……何故、食べさせられているんだ、俺は?」


 食堂に到着して、ギンガは早速ということでヴィレイサーにある提案をした。


「甘えていいって、言ったよね?」

「それはそうだが……」

「だから、あーん♪」


 それは、子供の頃みたいに食事を食べさせ合うと言うもの。この歳にもなって、よもやこんなことをするとは思ってもいなかった。


「何で甘えてくるのに俺が食べさせられているんだよ」

「それよりお前ら、少しは自重しろ」

「あ、主任」

「お疲れ様です」


 呆れ顔のラッドの登場により、ギンガの手が止まる。それに安堵しつつ、彼の言葉に首を傾げた。


「自重、とは?」

「あー……お前が気が付いていないのならいいんだ」

「いや、気になるんですけど……」

「…ここだけの話、ギンガは108部隊でもかなりの人気者でな」

「そういえば、フォレスターもそんなこと言ってました」

「なら分かるだろ。兄妹だってことはみんな理解しているが、だからってイチャイチャされたら堪ったもんじゃない」

「イチャイチャって……!」

「別にそんなつもりはないですよ。ギンガが甘えてきているだけです」

「甘えている? 甘えるなら、普通はギンガが食べさせられるはずだろ」

「ですよね?」

「えぇ!? そ、そんなことないよ」

「いや、ある」

「カルタス主任の言うとおりだ。ギンガ、お前が食べさせられろ」

「うぅー……い、いいよ」


 何故かギンガが食べさせられる立場に変わっていた。それに気づき、ラッドを見ると、彼はそっぽを向いて口笛を吹いていた。あからさまにわざとらしく振る舞っている。


「主任、謀りましたね?」

「あ、分かっちまったか?」

「いや、誰だってわかりますから」

「ナカジマは呆けているがな」


 食べさせられたのが随分と嬉しかったのか、ギンガはのほほんとしていた。それを横目に、ヴィレイサーはラッドに対してこれみよがしに溜め息を零す。


「あまり妹を困らせないでください」

「困っているようには見えないけどな」

「それは……御もっとも」





◆◇◆◇◆





「…見〜つけた♪」


 楽しそうに言うのは、ピンク色の髪を肩辺りまで伸ばした少女。楽しそうに笑んだ彼女の周囲には、ヴィレイサーが戦ったセイバーが何体か控えていた。


「どうしよっかなぁ〜」


 しかし、彼女はこの情報をどうするか決めあぐねる。と言うのも、本来であれば真っ先に伝えたいはずの女性とは5年ほど前に別れてしまった。だが、誰かに伝えたい衝動はある。


「そうだ♪」


 何かを閃いたのか、彼女はある男へと通信する。


《おやおや、君の方から連絡なんて珍しいね》

「やっほ〜。スカリエッティ」


 相手は、広域次元犯罪者として有名なジェイル・スカリエッティ。ロストロギアに関連するもの以外でも数多くの事件を起こしている彼と少女が知り合ったのは、数日前だ。予てから魔法生物とセイバーの研究をしていた彼女は、ガジェットに興味を示し、遂にはスカリエッティに連絡を取った。


《用件はなんだい?》

「あのね、私の昔の知り合いを見つけたんだ」

《ほう?》

「興味があったら、遊んであげてよ」

《構わないよ。君がそう言うからには、それなりに強い相手なのかな?》

「もちろん。私達の中では一番強いって話だもん」

《それはそれは。中々に楽しめそうだね》

「じゃあね〜」


 件の知り合いの情報を送って、少女は通信を切る。そして席を立つと、風呂場に向かいながら衣服を脱ぎ去っていく。


「はふぅ。あったか〜♪」


 湯船に浸かりながら、少女はぼんやりと久方ぶりに見た知り合いの姿を思い出す。思わずにやけてしまった。


「いや〜、かっこよくなってたなぁ」


 こんなことを素直に言えるようになったのは、“彼女”と別れたから。10年前と同じ状況だったら、間違いなく自分の首が飛んでいたことだろう。


「R……いい男になったね」


 ぺろりと舌なめずりした彼女の左肩には、ヴィレイサーと同様にアルファベットが一文字。そこには、Aと刻まれていた。







◆──────────◆

:あとがき
お姫様抱っこをされたことで、ギンガには幸せな夢を見てもらいましたw

ギンガの頑張りもあって、自分の寂しさを少しだけヴィレイサーも明かしてくれました。まだまったく全体を見せてくれませんが。

いよいよ物語が動き出します。ちなみに、別に恋愛面の戦争は起きないのでご安心をw

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