小説
雛祭り(コロナ編)
「…どうなってんだ、これは?」
「あ、パパ」
「お邪魔しています」
ヴィレイサーが帰宅すると、そこには着物姿のヴィヴィオ、リオ、そしてコロナの3人が。仕事の疲れがたまっているのかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。
「今日は雛祭りでしょ?」
「そういうことか」
ヴィヴィオに言われて、今日のことを思い出す。もっとも、ミッドチルダにはそんな行事はない。ヴィレイサーがすっかり忘れていても、仕方のないことだった。
「なのは、呼び出した用件はこれか?」
「そうだよ。雛壇の飾りつけは終わっているんだけど、料理とかがちょっと……」
「ん、了解」
「そ・れ・と……」
「ん?」
声を潜めて、なのははコロナを指さす。彼女の方を見ると、ちょうど視線が重なった。慌てた様子で視線を外し、ヴィヴィオたちと会話を楽しむ。
「熱い要望があったからね」
「茶化すな」
「いたた……」
「それと、嘘を言うな」
「あう……そ、それ以上は、本当に……!」
「ったく」
コロナ・ティミル───。
まだ10歳と若い──と言うか若すぎる──彼女に見初められ、ヴィレイサーは彼女と付き合っている。コロナの親には秘密だが、彼女が隠せているのか今一不安である。と言うのも、ヴィレイサーは隠すことに慣れていたのだが、コロナはそうでもなかったらしく、うっかりヴィヴィオ達に付き合っていることを明かしてしまったのだ。その時はどうなるか分からず、かなり不安だったが周囲は意外にも容認してくれた。
(寛容なやつばっか)
ヴィレイサーはそんな感想を抱いたが、コロナ曰く「ヴィレイサーさんがそれだけ信頼を得ていると言うことです」とのこと。どうにも信じがたい言葉だった。
(それは寧ろ逆だろう)
今でも、その気持ちは変わらない。自分なんかよりコロナの方がよっぽど周囲から好かれている。
まだ幼く、学校に通う彼女と、仕事に奔走するヴィレイサー。中々二人きりになる機会は少ない。ヴィヴィオ達にも気遣わせてしまうのが、少し難点な関係だった。
「ヴィレイサーさん」
調理場にしばらく立っていると、コロナが声をかけてきてくれた。自分から話しかけるのは、どうにも気恥ずかしいものがある。
「どうした?」
「いえ。ただ、ヴィレイサーさんの傍に居たくて……」
「そっか」
「ダメ、でしたか?」
「いや。寧ろ嬉しいよ。
けど、ヴィヴィオとリオの方はいいのか?」
「あ、その……」
「ん?」
「2人が、せっかくだからって……」
「そうか。あとで礼を言っておかないとな」
「そうですね」
コロナは料理を手伝えないが、暇そうには見えない。ずっと彼女からの視線にさらされるのは、少し擽ったい。
「そんなに見なくても……」
「いえ。ヴィレイサーさん、素敵ですから、つい」
「そりゃどうも」
料理を進めていく内に、待ちきれなくなったのかヴィヴィオとリオもやってくる。
「コラ、つまみ食いはダメだぞ」
「え〜」
「…太るぞ?」
「動いているから平気だもん!」
「そう思うだろ? けど、なのはとフェイトはどうかなぁ」
「…ママ達、太ったの?」
「そんなことないよ!?」
ヴィレイサーのでっち上げに怒るなのはとフェイト。が、彼は相変わらずそれに対して何も思わず、更にからかった。
「食べた分はちゃんと動きますから、平気ですよ」
「そうだよ」
「それで間食とか続けると、本当に危ないから」
子供らを宥めて、雛霰を食べるように勧める。もちろん、あまり食べ過ぎないように注意も忘れない。
「甘いね♪」
「うん♪」
リオとヴィヴィオはすっかりご満悦のようだ。
「コロナは、食べないのか?」
「あ、いえ。そういう訳ではないんですが……」
「どうした?」
「えっと……こないだみたいに、食べさせてもらってもいいですか?」
「そういうことか」
料理が一段落したところで、他の人に見つからないようにしてコロナの口に雛霰を運ぶ。
「あーん♪」
「どうだ?」
「甘いです」
「そりゃそうだよな」
何個か食べさせると、ヴィレイサーの指にも砂糖がついていく。
「…はむ」
「お、おい!?」
「す、すみません!」
つい、それを銜えてしまった。自分のしていることに気が付き、コロナは慌てて指を離した。
「嫌、でしたよね」
「びっくりしただけだ。コロナは、俺が同じことをしたらどう思う?」
「ふぇっ!? え、えっと……嫌いでは、ないです」
見る見るうちに頬が赤くなっていく。それを楽しく見ていると、コロナは顔を伏せてしまった。
(残念)
答えが聞けただけでもよしとしよう。ヴィレイサーは再び料理に戻った。
「そういえば……なのはさんから聞いたのですが、雛人形って早く片付けた方がいいんですか?」
「あー……そういえば、よくそう聞くな」
「せっかく綺麗なのに……」
「コロナの方が綺麗だと思うけどな」
「あ、ありがとうございます」
また頬が赤くなる。じっくり見たいところだが、これ以上恥ずかしい想いをさせるのも悪いので横目に一瞥するだけにとどめておいた。
「でも、どうしてすぐに片付けちゃうんですか?」
「その方が、娘が早くお嫁さんにいけるって迷信があるんだよ」
「そうなんですか」
じっと雛壇を見詰め、人形を1体ずつ眺めるコロナ。やがて視線を外し、今度はヴィレイサーを見る。
「なんだ?」
「いえ。だったら、私もすぐに仕舞ってしまいますね」
「そりゃまた、どうして?」
「だ、だって……早く、ヴィレイサーさんと一緒に……」
それから先は、か細い声に消えてしまった。だが、彼女が言いたいことはなんとなく分かった。とは言え、やはりちゃんと聞きたいものである。
「もう1回、言ってくれないか?」
「えっ!?」
「今度は、俺を見ながら……言って欲しい」
「で、でも……」
片膝をついて、コロナをまっすぐに見詰める。赤みを帯びていく頬。綺麗な瞳。艶やかな桜唇。整ったツインテール。そして、いつもと違う美しい着物。どれも、コロナの可愛さを引き立てていた。
「…早く、ヴィレイサーさんと……ヴィレイサーさんと、結婚…したい、ですから」
「ありがとな」
気絶してしまうのではないかと思ったが、それはどうやら杞憂だったようだ。恥ずかしさで伏せていたはずの顔を上げると、嫣然と笑ってくれていた。
「でも俺は、すぐに片付けなくてもいいと思う」
「ど、どうしてですか?」
「どれだけ時間がかかっても……俺は、必ずコロナを迎えに行くからさ」
「ヴィレイサーさん……」
「だから君も、待っていてくれよ。俺の、お姫様」
「…はい、私の王子様♪」
◆──────────◆
:あとがき
違う。こんなんヴィレイサーじゃないやい!w
最近は、つっけんどんなヴィレイサーの方が彼らしいと思っています。
甘々な話をまったく書いていないからかもしれませんね。
明日は、アインハルト編を更新します。
その後は13日〜15日にホワイトデーを題材とした小話を投稿する予定です。
ヒロインは、ティアナ、カリム、フェイトの3人になります。
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