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小説
第6話 「違える翼」
魔法少女リリカルなのはWars
第6話 「違える翼」

午前6時 シャイル研究施設付近上空

「よし。
 とっととやるか。」

言いながらヴィレイサーはリュウビに渡されたバズーカを構えた。

[狙いと威力の微調整を開始します。]

「あぁ、頼む。」

確かにヴィレイサーは強い魔導師ではあるのだが、
それはデバイスであるエターナルがいてこその話だ。

デバイスが無くとも、剣術、体術、魔術はかなりのものだが、
いかんせん、離れた所からの攻撃の命中率は悲惨なものなのだ。

[準備完了です。 いつでも行けますよ。]

「了解。」

ヴィレイサーは呼吸を整え、引き金を引いた。


放った魔力弾が目標に着弾し、その周辺が破壊されていく。

数分後には、施設の破壊が終了した。


「任務完了。 撤退するか。」

[Yes,Leader.]


セフィア街

「結構賑やかな街だな。」

任務を終えた後、ヴィレイサーは情報収集がてら、近場の街にきていた。

[やはりここでもあまり情報が集まりませんでしたね。]

「そりゃあね。
 奴らだって所構わず出てくるわけじゃあないからな。
 ん? あそこならいい風にあたれるかな?」

そこは、街の出口近くにある大きな門の上だ。

ヴィレイサーは自然に吹く風が好きで、よく高い所に上ったりしているらしい。


そして、門の上に到着すると、先客がいた。

風に無造作に吹かれながらも、彼女の長い髪は綺麗に整った状態に戻っていった。


「何故人は真実を闇に葬るの?」

唐突に聞こえてきたその言葉は、誰ともなく聞いているように思えた。

ヴィレイサーは自然と答えてしまった。

「そりゃあ、生きているからじゃないか?」
女性が驚いてこっちを振り返った。

ヴィレイサーは言ってから後悔した。 何を勝手に答えているのだろう自分は。

「スマン。 勝手な事言って。」

彼女はしかし、更に問い掛けてきた。

「何故生きていると、そうなるの?」


ヴィレイサーは少し驚いたが、
「俺は生きている間はずっと罪を背負って行かなきゃならないって思っているんだ。
 嘘をついたり、他者を憎んだり、真実を歪めたり、それは多岐にわたるけど、
 それが生きている事に繋がるんじゃないか?」 と答えた。

彼女はその答えにしかし、首を振り、言った。

「もしそうだとしたら、真実を闇に葬られて悲しむ人たちが必ず出てくるわ。
 その人たちは諦めがつくと思う?」

「思わないさ。
 だからその人たちは抗えばいい。
 重罪にならない程度にな。」

「では、抗う力すら無い者は?」

ヴィレイサーは答えに詰まった。

確かにそうだ。

真実を闇に葬った相手が大きければ大きいほど、自分が負けるのは目に見えている。

誰が好き好んで負けるとわかっている戦いに挑むというのだろうか。


だが、ヴィレイサーはそれが絶対では無いと、かつて所属していた部隊の隊長から教わった。

「己が信ずる者と団結すればいい。
 力が無いのはむしろ当たり前なんじゃないか?
 この世界に強者なんていない。 俺達は皆弱者なんだ。
 俺はそう思ってる。」

それが今のヴィレイサーの答えだった。


それを聞いた彼女は驚いたからかどうかはわからないが、しばらく何も言わなかった。


「それも1つの真理なのかもしれないわね。
 それにしても、まさか誰かが答えてくれるとは思わなかったわ。
 そういえば、まだ名乗ってなかったわね。 私はエクシーガ。よろしく。」

彼女、エクシーガは微笑みながら言った。


「それじゃあ、襲牙は休日を利用してこのミッドチルダに来たの?」

料理を取り分けながら、エクシーガは聞いた。

「あぁ、ミッドの自然は結構好きだからな。」

あの後、2人は近くにあったレストランへと入り、食事をしていた。

ちなみに、ヴィレイサーがミッドチルダでの本名を言っていないのは、
創世主軍でないにしろ、どこで誰が聞いているかわからないのだから、
用心するにこしたことはないからだ。

ヴィレイサーは気になっている事があったが、敢えて聞くまい。

エクシーガに恨まれるのは御免だ。


しかし、そんなヴィレイサーの考えとは裏腹にエクシーガは、
聞いてこない事の方が不思議だった。


「何故何も聞かないの?」

その問いにヴィレイサーは、
「無理に聞くのはどうかと思って。」

自身の考えを正直に言った。

「そう。
 なら、私が聞いてほしいと言ったら、聞くの?」

「そりゃあね。」 あっさりと答えた。

「なら話すわ。」

エクシーガもあっさりと言った。


「そう、あれは5年前の事だった。
私の友人に、ヴェルファイアと言う男性がいたの。」

エクシーガは独白でもするように語りだした。


ヴィレイサーは、
(ヴェルファイアって、彼氏じゃなくて?)と思ったが、
話の腰を折るのは以っての外だし、わざわざ聞く必要などないのだ。

静かに黙ってエクシーガの話を聞いていた。


「彼はこのミッドチルダのすべてが大好きだと、いつも口癖のように言っていたわ。
だから平等で平和な世界にして、それを維持し続けたいともね。
 私は最初にそれを聞いた時、そんなの叶うはずのない理想論だと思っていたわ。
 でも彼は、自身の願いを叶えるために奮闘したの。
 その行動に私もだんだんと惹かれていったし、
 それだけじゃなく、たくさんの人からも応援されたわ。」


そこまで聞いたヴィレイサーの感想は、正直なところ『とんでもない人』だった。 

純粋にこの世界が好きだから。 それだけでは普通は無理だろう。

それを実行しただけでなく、周囲の人から信頼され、愛された存在。

ヴィレイサーは、早くもよく知りもしない相手の事を尊敬しだした。


「だけど、残念ながら彼は亡くなったわ。 5年前に、事件に巻き込まれてね。
 彼は私にこのミッドチルダを頼むって言っていたらしいの。」


(「らしい」? って事は、本人から直接聞いてはいないのか。)

気にはなったが、決して聞かない。

リュウビによく「ヴィレイサーは相手の話を深く掘り下げ過ぎ。」と言われているからだ。


「何か質問は?」 エクシーガが聞いてくる。

ヴィレイサーはしばらく考えてから、
「事件の概要が知りたいんだけど。」

と聞いた。


しかし、この質問に対してエクシーガが反論をしてきた。

「観光に来ているだけのあなたに事件の概要を話すと思う?」

確かに。

「だったら、今まで話してたのは何で?」

「誰かに話したかったからかしら。」

(エクシーガのやつ、応答が早いな。
 本当に事件の概要を話すつもりはないみたいだな。)

それっきり、会話は途切れてしまったが、
ヴィレイサーはヴェルファイアについての感想のまだ述べていなかった。


「ヴェルファイアさんは本当にスゴイ人だったんだな。
 自分の考えている事をしっかりと実行して、人々から愛されて、
 このミッドチルダをずっと想っている。 俺も会ってみたかったな。
 でも、エクシーガもスゴイよな。
 ヴェルファイアさんの意思をついで各地を回ってるんだろ?」

最後の言葉に、エクシーガの顔が翳った。

「そうね。
 それじゃあ私はそろそろ行くわ。
 さようなら、襲牙。」

そう言い残して、エクシーガは席を立った。


「フー、なんか重い話だったな。」

それにエターナルも同意する。

[そうでしたね。
 それで、戻って調べてみるのですか?]

「そりゃあ、一応。」

[それはまた、何故ですか?]

エターナルの質問に、ヴィレイサーは首を傾げる。

「さぁ?
 なんだか、エクシーガとは他人のような気がしなかったんだ。」

ヴィレイサーは溜息混じりに言った。


「さて、会計を済ましてくるか。」

言ってヴィレイサーは伝票を探すが、見当たらない・・・。

「アレ?
 伝票がない・・・?」

そこに店員がやってきて、
「さきほど女性の方がお支払いを済ませて行きましたよ。」と言った。


[情けないですね。]

「黙れっ!」


Side:エクシーガ

(支払ってしまった。
 まぁ、別に構わないわよね。
 話を聞いてもらったお礼ってことで。
 それに、彼とはどこかであった事があるような。
 他人のような気がしなかったのは、何故?)

裏路地に入りつつ、エクシーガは、影に問いかけた。

「何か用かしら? ヴァン。」

すると影から1人の男性が出てきた。

彼の名前はヴァンガード・レイス。

エクシーガの側近ではあるが、創世の書から造られてはいない。

「『厄災』組以外の師団は動けるようになったぞ。」

その言葉に、エクシーガはほほ笑んだ。

「そう。
 だったら、小手調べにレーベの艦隊に攻撃してみましょうか。」

「『堕天使』の力量でも見るのか?」

「それ以外にも目的はあるけどね。」

Side:エクシーガ 了


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