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小説
兄から、恋人へ






「うーん……」


 ギンガは、しきりに頭を悩ませていた。目の前にあるのは、ハートの形をしたチョコレートが1つ。それをしばし見詰め、溜息を零す。昨日、妹のスバルが機動六課でバレンタインと呼ばれるイベントが行おり、その概要を聞いてギンガもチョコを作ったのだが……。


「どうしよう?」


 それを渡す相手を思い浮かべ、戸惑っていた。


「兄さん……」


 型にはめられたチョコを見ながら、ギンガは兄、ヴィレイサーの事を考えていた。兄と言っても、血の繋がりはない義理の兄だ。だからこそ、ギンガはチョコを渡す事が怖かった。兄が自分をどう想っているのかはもちろん知らない。妹として見られているのだとしたらこれを渡す時に、今の自分の想いを伝えれば、今の関係が崩れ去ってしまうかもしれない──そう考えると、どうしても想いを伝える事が出来なかった。

 だが─────


「好き、なんだよね」


 ─────頬を僅かに紅潮させ、想いを呟く。自分の内にある想いは、とても大きくなっていた。伝えたい──それだけのことなのに、こうも難しく、辛いものになるとは思わなかった。


「あれ? ギンガ、何やってるんだ?」

「兄さん」


 そこにやってきたのは、母であるクイントと同じ紫銀色の髪を、腰辺りまで伸ばしたヴィレイサーだった。


「悩みごとか?」

「よく分かったね」

「そりゃあ、兄妹だからな。ギンガのこと、ずっと見てきたし」

「兄さん」


 兄の、想い人の優しさに触れ、ギンガはヴィレイサーの方を振り返る。


「その……これ! 1日遅れだけど、バレンタインの……本気、だから……!」

「え?」

「私、兄さんの事が好き! 1人の、男性として……!」


 涙を浮かべ、揺らいだ瞳でヴィレイサーの顔を見る。


「兄さん……ううん、“ヴィレイサーさん”」

「ありがとう、ギンガ。俺も、君の事が好きだ」


 ヴィレイサーの想いを耳にし、ギンガは息を呑む。


「前から、ギンガの事が好きだった。だけど、家族が壊れるようで、怖くて言えなかったんだ……すまない」


 ギンガを優しく抱き寄せ、ヴィレイサーは自分の胸の内を明かす。


「私も、怖かったの。兄さんが、家族じゃなくなっちゃうんだって……そう思ったら、怖かった」


 ギンガも、ヴィレイサーに手を回す。そして、どちらともなく唇を重ねた。


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あきゅろす。
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