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小説
第29話 「意志、貫いて」




「紫電………!」


 レヴァンティンを鞘に戻し、シグナムはカートリッジを射出して炎熱を付与する。


「…一閃!」


 腰だめに構えた体勢から、一気に踏み込み、デメテルへと素早く跳躍し、彼が間合いに入った刹那─────焔に彩られた刃が引き抜かれた。しかし、それをデメテルはなんとも思わず、難なく鞘で受け止める。


「ぐっ………!」


 シグナムは、この一閃に自信があった。確実にデメテルを捉えられる─────と。だが、目の前に居る彼は容易くその刃を受け止め、あろう事かシグナムに 押される事すらなかった。騎士甲冑で包まれた下には、屈強な身体があるのかもしれない。とは言え、その場からまったく動かないはずがない。


(だとすれば、やはり何か力を使っての事………)


 デメテルを睨み、しかし彼は表情を一切変えない。自身の方から後ろへ飛びのき、シグナムは一息吐いた。


「ふむ」


 そして、刃を押さえた鞘を持った左腕を下ろし、デメテルは呟いた。


「太刀筋、勢い、間合いの取り方………。
 流石はベルカの騎士………いや、烈火の将、シグナムだったか。見事だな」

「………貴様も良い騎士だ」


 互いに笑みを浮かべ、しかしすぐに顔を引き締める。


「皮肉なものだな。
 良い騎士であればある程、その手は血に塗れていて………叶わぬのなら、決して相容れぬが故に戦う………。
 願いが違うだけで、どんなに良き騎士であろうとも殺し合うしかないとはな………」


 剣尖をシグナムに向け、デメテルは肩を竦める。


「デメテル、何故貴様はゼウスに従う?
 世界を壊すなど、お前は本気で叶うと思っているのか?」

「おかしな事を言うな、シグナム。ならば聞くが、貴公は願いを抱いた事はあるか?」


 デメテルの問いかけに、シグナムは一時ながら呆けてしまう。だが、そんな彼女の答えを待たずに、デメテルは続けた。


「貴公は、“願いが叶うと信じて”それを成就させるべく動いたのではないのか?」

「それは………」


 そう言われ、シグナムは自分が闇の書の1人として動いていた時の事を思い出す。主の願いを叶えるべく─────或いは主を救うという願いを成就させる為、戦い、時には血に塗れ、奔走した。


「分かるだろう、貴公にも。叶うと信じているからこそ、その身を動かし、戦うのだと!」


 シグナムに向けていた剣尖を下ろし、剣を一閃させてデメテルはシグナムへと斬りかかった。


「くっ!」


 そこまでのスピードでは無いにしろ、やはり不意に突撃してきたのだ。どうにも防御が柔なものとなってしまう。重い一撃をなんとか受け止め、しかし反撃で 押し返されぬ様に剣に体重を乗せたまま、蹴りを繰り出され、シグナムは額にそれを受けてしまう。仰向けになって飛ぶ自分を叱咤し、彼女は宙返りをしてデメ テルに対峙した─────つもりだった。だが、彼女が体勢を立て直した時には、目の前には彼の姿はどこにもなかった。


「ゼウスの望みに従うのもまた、同じ理由だ」


 デメテルの声が聞こえてくる。だが、シグナムは動かなかった─────否、動けなかったと言った方が正しい。シグナムの喉に、ピタリと刃が当てられていたからだ。


「それに俺は、世界などどうでもいい。
 ゼウスが………いや、仲間がいればそれだけで充分だ」


 静かに語るデメテルの声が、自身の“背後から”聞こえてくる事に、シグナム戦慄した。いつの間に背後を取られた? そう考えるのが億劫になるほどに。

 シグナムを蹴り飛ばした後、デメテルは仰向けに吹っ飛ぶ彼女の真下につき、シグナムが体勢を立て直す際も、彼女とまったく同じ動作でずっと背後に居続けたのだ。


「致し方ない事とは言え、敵から目を逸らすのは感心しないな、シグナム。
 曲がりなりにも、貴公は騎士であり………そして将なのだろう?」


 嘲笑うように口角を吊りあげ、デメテルは嗤った。


「貴公がその程度では、今頃は貴公の仲間も………或いは、主も死したやもしれぬぞ」

「ッ! 黙れ!」


 いきり立ったシグナムは、首に刃が当てられていようとも、思い切り身体を動かした。紙一重と呼べる、本当に小さな分だけ、デメテルの刃から首が離れる。それを感じ取った刹那、シグナムは彼に向かってレヴァンティンを一閃させる。


「遅いな」


 だが、その凛とした声がシグナムの耳に聞こえてきた時、デメテルは既に、シグナムから距離を取り、しかし離れた所から一気に距離を詰める。


「ッ!」


 身を屈めて懐に入られ、シグナムは目を見開く。その視線の先に見えたのは──────────己の腹部を滲ませる、紅の雫だった。










魔法少女リリカルなのはStrikerS-JIHAD

第29話 「意志、貫いて」










「来たわね」


 のんびりと椅子に座していたヴァンが、1人の気配を感じて椅子から立ち上がる。彼女の目の前には、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来ている女性がいた。


「名は?」

「……リュウビ」


 女性─────リュウビはヴァンに名を聞かれ、答えた。


「私はヴァン。とは言え、これは字。
 真名は、アフロディテ」

「アフロディテ………」


 リュウビは頭の中で彼女の名前を反芻しながら、両刃剣となっているイーブン・クレイドルを握る手に、自然と力が籠っていく。


「ねぇ、リュウビ。
 貴方は………貴方達は、世界がどれだけ理不尽か知っているかしら?」


 耳に掛かった髪を指で綺麗な所作で退かしながら、アフロディテはリュウビに問うた。


「いえ、知らない人間なんて1人もいないでしょうね。
 誰だって、1度くらいは世界を憎んだでしょう」


 頭上に広がる蒼穹を見上げながら、アフロディテは語り続ける。


「でも、だからこそ理解できないわ。
 何故貴方達は、世界を壊させてくれないの?」

「『世界を壊すから素直に殺されろ』………なんて、誰が言う事を聞くと思う?
 誰だって、死ぬよりも生きていたいよ!」

「好きでも無い、知りもしない………………そんな奴らすら守るなんてね。
 そうやって生かした奴らが、いずれ貴方を………貴方の想い慕う誰かを喰い殺すかもしれないのよ?」

「それでも、私は守るよ。
 どんなに辛い世界でも、“彼”となら………………彼らとなら、一緒に歩いて行けるから!」


 リュウビは叫び、アフロディテを睨み返す。


「なるほど。所詮、人は独りでは生きていけないって訳ね。
 だったら、どうして孤独なんてモノがあるのかしら?」


 蒼穹に向かって問われたその問いは、答えを得ずに空へと消える。


「ならば、守ってみなさい。貴方と………貴方の大切な人が生きる世界を!」


 双剣を引き抜き、空を薙いだアフロディテは一気にリュウビへと迫った。




















「ほう」


 眼前にいるシグナムに対し、デメテルは一瞬だけ目を見開き、そして面白そうな顔をしている。


「流石は将と謳われるだけはあるな。」


 デメテルの前で片膝をついているシグナムは、腹部から出血はしているものの、本当に浅い傷で済んだようだ。

 すくっと立ち上がり、シグナムはデメテルをキッと眼前から見据える。


「デメテル………貴様、魔力変換資質を持っている様だな?」

「よく分かったな。その通りだ」


 シグナムに真っ直ぐに見られ、デメテルはふっと笑い、彼女の問いを肯定する。


「俺の魔力変換資質は【衝撃】だ。
 だが、ただ衝撃を付与するだけでは無い。相手からの衝撃を、我が剣─────ガイアがその刃に内包する事が出来る」

「そして、内包した衝撃を、自身の加速、或いは剣を一閃する際の力にする訳か」

「そこまで見抜けるとは、流石だな」


 一瞬だけ驚きに目を見開き、しかしすぐに元の表情に戻る。


「本当に、良い騎士だな」


 シグナムを真っ直ぐに見詰めるデメテルの瞳には、どこか愁いが含まれている気がしてならなかった。


「故に………ゼウスの邪魔となるから排除しなくてはならないとはな………。
 力を持つ者の宿命とは言え、どうにもやりきれぬものがある」

「ならば、剣を引いてはどうだ?」


 肩を竦めるデメテルに対し、シグナムは戦いを終了させる事を提案する。


「将ともあろうものが、腑抜けた事を言う。
 既に干戈を交え、兵刃を交えたのだぞ? 今更、按甲休兵するはずがなかろう」

「確かに、な」

「それに、いくら貴様に『世界を壊す事が間違っている』と諭されようと、剣を捧げた主が戦い続ける限り、俺も剣を振るい続ける」

「そうか」


 デメテルの騎士としての姿を前に、シグナムは何も言えない。否、戦いを避けたい気はあったが、それが叶わない事をシグナムは心のどこかで気づいていた。今更、何も言う気はない。


「ならば! 全力で行かせてもらう!」

「存分にくるがいい!」

「レヴァンティン!」

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 カートリッジの薬莢が飛び出し、そのまま空を舞う様にして地に落下していく。

 シュランゲフォルムになったレヴァンティンが、シグナムの周りを舞って蒼天へと昇り、駆け廻る。


「ガイア!」

「飛竜……一閃!」

「衝波………一閃!」


 渦を巻いて迫りくるシグナムの衝撃波を、デメテルは衝撃を加速させて、ガイアを下から掬い上げる様にして巨大な衝撃波を放つ。

 力が拮抗したのは─────数瞬。その僅かな時間で、デメテルはシグナムの飛竜一閃が上回った事を悟り、彼はその場から急いで離れ、上空を舞ってシグナムの背後に回り込もうとする。


「空牙!」


 だが、それをあらかじめ予想していたシグナムは戸惑う事なくレヴァンティンを急いで鞘へと戻し、そしてすぐさま抜刀する。紫色の魔力刃が、踊りかかろうとしていたデメテルへと迫る。


「チッ!」


 舌打ちし、身を捻って魔力刃をかわし、再びシグナムへと肉薄する。だが、シグナムはそれすらも容易く─────否、力強く足を踏ん張り、受け止める。


「くっ………!」


 先とは打って変わって、決め切れない事がデメテルの焦燥感を駆り立てる。故に、ガイアに魔力変換資質の衝撃を付与して振るったのだ。だと言うのに、シグナムは既の所とは言え、それを抑えた。

 苛立たしげに眉を潜め、デメテルはシグナムと刃を噛み合わせたまま対峙する。レヴァンティンとガイアが、時折金属独特の音を響かせて微かに動きあう。


「は、あぁっ!」


 衝撃を加速させて、剣圧を維持したままガイアから片腕を離し、拳を握りしめてシグナムの腹にそれを叩き込もうとする。だが、シグナムは咄嗟にその場から 飛び退いて拳をかわし、レヴァンティンをシュランゲフォルムに変更して、剣尖をデメテルに射出し、彼の周囲を囲んで束縛しようとする。


「嘗めるな!」


 すぐに周囲を囲んでいるレヴァンティンが狭まり、デメテルへと迫るも、彼は『衝撃』を上手く活用して、噛みつこうとしてくる連結刃の一部をガイアで叩き、流麗に並んでいた繋がりを崩し、その刹那の隙を突いて脱する。


「ぐっ!」


 だが、そう簡単には上手くいかず、デメテルの胸部が連結刃によって裂かれる。


「紫電……一閃!」


 そして、その痛みに顔を歪めている一瞬を見逃さず、シグナムは炎熱を加速させてレヴァンティンに炎を纏わせ、デメテルに向かって振るう。


「旋衝破(せんしょうは)!」


 炎熱を纏ったレヴァンティンと対するように、ガイアは衝撃を刃に宿してデメテルに力を与える。ブンと鈍い空を切る音が走り、デメテルを狙っていた炎の刃 が衝撃を司る刃によって思い切り弾かれ、シグナムは体勢を崩す。このままやらせる訳もなく、シグナムはレヴァンティンの鞘を防御に回し、デメテルの追撃を 防ぐ事に成功した。だが、その目に映ったデメテルの姿に、目を見開く。


「貴様………!」


 レヴァンティンがシュランゲフォルムだった際に斬り裂いた胸部の服が裂けた所から、白い布が顔を覗かせていた。それは、包帯の様な布質とは違い、まるで─────“晒し”の様だった。


「まさか………」

「ふふ………露呈してしまったのなら致し方ないか。
 そう。俺は………いや、私は“女だ”」


 恥ずかしさなど微塵も見せぬ凛とした姿に、シグナムは思わず固唾を呑む。

 デメテルはガイアを大地に突き刺し、衣服を正しながら………しかしその表情には愁いが浮かんでいた。そう見えたのは、シグナムの錯覚か? それとも………?


「私は、女でありながら幼少期から剣を振るい、騎士を志していた。
 が、世は【男が戦う】という時代であり、女であった私はその性別が故に疎まれ、侮蔑され………。
 『女だから』……『女には無理だ』………そう言われ続けた。」


 自嘲の笑みを浮かべ、デメテルは淡々と語り続ける。


「だが、だからこそ私は、周りの連中を見返す為に騎士になるべくその道を這い上がった。
 まぁ、大本の理由はそれだけではないのだが、な」


 衣服を整え、デメテルはまっすぐにシグナムを見詰めた。


「貴公には、家族と呼べる存在はいたか?」

「家族………」


 唐突な質問にシグナムは思わず呆けるが、すぐに答えを返す。


「いなかったな。
 だが、今は違う。仲間が、家族そのものだと言っても過言ではない」

「家族の為なら、自分が出来得る限りの事をする………そう言えるか?」

「無論だ」

「………ならば、私の道を理解し得る事もまた、可能だろうな」

「どういう事だ?」


 シグナムが眉を潜め、デメテルはそれに対し大きく溜息を吐いてから答える。


「私には、私を赤後の頃から育ててくれた唯一の肉親がいる。
 彼は、幼心に私を育て上げる事だけを貫いた。自分以外に、私を育てられる者は誰一人としていなかったから………。」

「唯一………」


 デメテルの口から零れた『唯一』と言う言葉に、シグナムはそれが何を意味するのかすぐに分かった。


「両親は、私が生まれた時に死した。
 故に、私はたった1人の肉親である兄に─────“ゼウス”に育ててもらった」

「ゼウスが……兄………!?」


 デメテルを育てたのは、たった1人しかいない唯一の肉親である兄………ゼウスだと聞かされ、シグナムは耳を疑う。


「ゼウスが兄だと言うのなら、何故こんな事を止めさせない!?」

「兄だからこそ、彼の意志を支え、彼の願いの礎になる事が出来るのだ。
 私が私たる所以は、ゼウスに………兄にある!それは、兄の理想は、私の理想であり願いでもある事に繋がる!」

「世界を壊すなど………今の世界に、何の未練もないと言うのか!?」


 シグナムの叫びに、デメテルはしばし考え込む仕草をして、しかしすぐに顔を上げる。


「恐らく、世界に未練のない者など誰一人していないだろう。
 だが、未練はあろうとも意味はないのだ。ヘラがいない、この世界ではな!」


 ガイアを引き抜き、その剣尖をシグナムに向け、デメテルは咆哮する。


「所詮、“俺”達は互いには相容れぬのだ!
 戦う道しか選べぬから………世界に価値を見出せぬから!」

「価値など、見出せるはずが無い!
 私達はただ生きる! それだけでいいはずだ!」


 デメテルの、自分を指す一人称が私から俺に切り替わり、シグナムはそれが、戦闘の再開を指し示す物だと理解し、レヴァンティンを構え直す。


「言ったはずだぞ、互いに相容れぬと!
 ならば諭すな! 剣を振るえ! 戦え! 存続の道を勝ち取れ!」


 ガイアを天に向けて構え、デメテルはそれを一気に自身の足元に突き刺す。


「蹶起せよ、地の牙! 轟爆(ごうばく)……九頭龍神(くずりゅうじん)!」


 ガイアが突き刺さった大地が徐々に起伏し始め、デメテルの周囲に大地を圧縮して作り出した龍の様な生き物が9頭模られる。


「さぁ、これで終いにしようではないか。」


 ガイアを一閃させ、再びその切っ先をシグナムに向けると、龍は一気に彼女へと殺到した。


「くっ!」


 急いでその場から飛び退き、真上から龍達の巨躯を見下ろす。


「飛竜一閃!」


 炎熱を纏わせたレヴァンティンをシュランゲフォルムに切り替え、空で舞う様にして剣を振るい、炎で渦を作り出して迫りくる龍を1頭、取り囲む。


「衝撃消去。爆砕!」


 だが、デメテルはその行動を待っていたかのように静かに笑みを浮かべ、シグナムに迫っていた1頭の龍に瞬時に手を掲げ、拳を握る。その瞬間、飛竜一閃の渦に呑みこまれた龍が突如爆発し、砂礫が飛び散る。更に、シグナムの放った炎が彼女自身へと戻る様にして襲いかかった。


「なっ!?」


 驚きに眼を見開き、しかし呆けている訳にもいかず、炎の手から逃れる様にしてその場から離脱する。


「逃がさん!」


 龍を1頭自分の傍に呼び、デメテルはそれの頭に乗ってシグナムへと追撃に向かう。


(先の爆発は……一体………?)


 呆ける暇はないのだが、それでも先の爆発がどうして起こったのかが気になって致し方なかった。


「俺が作り出した龍が、そんなにも気になるか!?」

「おかしな話ではないと思うが?」


 龍の頭から跳躍し、ガイアを振るう。それを避けず、シグナムはレヴァンティンで対抗する。剣(ガイア)と剣(レヴァンティン)が刃と刃をぶつけ合い、火花を散らす。そんな2人の周囲を、大地の砂礫で作られた龍が駆け巡り、天へと昇り、また地へと降りる。ただただそれだけを繰り返すだけで、決してシグナムとデメテルの戦いに横槍を入れてはこなかった。


「何、簡単な事だ。単に俺の魔力変換資質、衝撃大地を隆起させ、砂礫を外側と内側の両面から圧縮して龍を模っただけだ。
 中身は所詮空気。圧縮を解く際に上手く衝撃を加速させれば、軽い爆発を起こす事も出来る」

「なるほど………!」


 龍の作り方を理解した所でシグナムは飛び退き、炎熱を加速させずに単純なシュランゲフォルムでデメテルを襲う。だがそれは、衝撃を利用して空気を圧縮して作られた龍によって阻まれる。よほど強く圧縮されたのか、龍はレヴァンティンの刃を簡単に弾いた。


「強固だが……勝機はある!」


 シグナムはレヴァンティンを構え直し、愛気に告げる。


「行くぞ、レヴァンティン!」

《Jawhol.》


 シグナムの掛け声に応じる様に、レヴァンティンはすぐさま形態をシュランゲフォルムへと変える。だが、その剣に炎は付与せずに刃だけで龍に対抗しようとする。


「戯け! その程度の刃で我が龍達を切り崩すなど出来ん!」

「ただ斬るだけが、私の刃………それは、以前の私も思っていた事だ。だが! 今は違う!」


 その場で体躯を一回転させ、その勢いが殺されぬ内に思い切りレヴァンティンを振るう。シグナムの回転による勢いによって更に連結刃は加速し、1頭の龍に 迫った。しかし、連結刃は真っ向からぶつかろうとはせず、龍の側面から喰らいつく。それは、決して戦いを避けた訳ではない。レヴァンティンが喰らいついた 刃は─────龍を模っている砂礫と砂礫の繋ぎ目を穿つ。


「貫け、閃光! 翔破(しょうは)…裂光閃(れっこうせん)!」


 1頭目の龍の側面を貫くと、レヴァンティンは速度を衰えさせる事もなく次の龍を貫く。


「貴様は言ったな。『砂礫を外側と内側の両面から圧縮して龍を模っただけだ』と。」


 2頭目の龍がレヴァンティンに貫かれ、その姿をただの砂礫へと変えていく。


「ならば、繋ぎ目を破壊すればいいだけだ」


 3頭目は、レヴァンティンに襲いかかろうとして─────しかし、刃の速度に付いて行けず、顎下から繋ぎ目を破壊される。


「幾ら圧縮して作ろうとも、決して繋ぎ目を消す事など出来ん」


 4頭目と5頭目が同時に、空を駆ける一条の閃光(レヴァンティン)を喰らおうと迫るが、結果はシグナムが顧みるまでもなかった。


「それこそ、元より本物の龍を従えているのなら別だがな」


 まるで、レヴァンティンの位置が分かっているかのように、彼女は軽く柄を振るう事でレヴァンティンを龍から回避させ、再び貫かせる。


「終わりだ、デメテル」


 シグナムが静かに呟いた時─────そこにいたのは彼女とデメテルだけ。周囲は龍達を模っていた砂礫によって多少はけぶっていたものの、視界に問題は無かった。


《Bogen Form.》

「駆けよ、隼!」


 流れる動作で進まれた最後の一撃は、あっという間にその姿を確立し、そして─────


「シュツルムファルケン!」


 ─────引かれた弓弦から、勝利を信じたシグナムの想いが解き放たれた。




















「ふふ……流石は烈火の将と謳われるだけはあるな」


 蒼穹を仰向けに寝転がったまま見上げ、デメテルは小さく呟く。


「兄上………歪んだ世界を……改革、して………」


 虚空に伸ばされた彼女の手は、誰に取られる事もなくすぐに大地にたおやかに置かれる。


「最後まで、この世界が歪んだように見えたか………」


 ゆっくりと地に降り立ち、シグナムは気絶しているデメテルを愁いを帯びた瞳で見詰める。


「ならば、見届けてもらおう。
 世界には、歪んではいない面もあると言う事を」


 レヴァンティンを鞘に収め、シグナムは出口へと通ずる扉に踵を返した。


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