[携帯モード] [URL送信]

小説
第28話 「光芒」








「アクセルシューター!」

「ハーゲルシューティング!」


 なのはの言葉に応じるように、レイジングハートの尖端の幾つもの魔力弾が形成されていく。それに合わせて、ディオニュソスの右手にある銃口に、氷を模したような半透明な魔力弾が具現する。


「シュートッ!」

「ショット!」


 ほぼ同時に放たれたそれらは、まるで銃口から花が開いたかのように外側へと舞い、目標に近づくにつれて集束していく。だが、どれも目標である相手に届かずに終わる。全てが磁石のように引き合い、相殺されたのだ。


「やるなぁ、女!」


 相殺し、爆散の弾みで起きた爆煙をくぐり抜け、ディオニュソスは両肩と両足にあるミサイルポッドの蓋を開いた。


「くっ!」


 煙からディオニュソスが飛び出してきた事に驚き、呆けていたなのはだったが、それらを体を躱す事でやり過ごす。

 2人が砲火を交えてからそれなりに時間は経過するが、ディオニュソスはミサイルを使う事で魔力消費を限りなく抑えている。対して、なのははかわし切れなかった分への迎撃に魔力を割いてしまう事もある為、なのはの方が魔力の消費量は多かった。


「ディバインシューター!」


 ディオニュソスからのミサイルを中心とした魔力弾と併せての攻撃を、なのははきりもみしながら回避していく。そして、頃合いを見計らって、新たな弾幕を作り出す。


「そんなもん!」


 なのはから新たに放たれた数多くの魔力弾を見て、ディオニュソスは平然としていた。


「全て消し去ってやるよぉっ!」


 咆哮すると同時に、左手にある魔力圧縮兼散弾銃と右手にあるライフルを連結する。ライフルを前面に引き出し、なるべく多くの魔力弾が浮遊しているラインを、連結した長銃で狙い撃つ。


「フローズンレイザー!」


 魔力弾が数多くあるラインに向けて、半透明な砲撃が一直線に放たれた。


「遅い!」


 しかし、その砲撃はディバインシューターを1つも捉えきれずに、氷山の山肌を削っただけに終わる。


「何だってんだよ、あの動きは!」


 砲撃を放った直後の隙を狙って、なのはがディバインシューターをディオニュソスに差し向ける。それらは高い誘導性を持ち、不規則な軌道を描いてディオニュソスを翻弄した。


「チィッ!」


 ディオニュソスは、身を捻ってディバインシューターを紙一重でやり過ごす。

 なのはが放ったディバインシューターは、誘導性に優れ、それが描く軌道は不規則だ。撃ち落とすのは容易い事では無い。ディオニュソスの周囲を旋回する数多の桃色の弾丸は、いつ彼へと迫ってもおかしくない。無理矢理な行動に出るのは逆に危険だ。


「やるなぁ、高町!」

「そりゃどうも!」


 不規則に動く魔力弾が、僅かにディオニュソスが逃げ出す空間を作り出し、一瞬の隙を見逃さず、ディオニュソスは身を捻って動き出す。


「逃がさないよ!」

《Buster Mode.》


 空を駆けだしたディオニュソスに数瞬遅れて、ディバインシューターが肉薄する。そして、なのはは離れていくディオニュソスに向かって、レイジングハートをバスターモードに切り替え、その先端に魔力を集束させていく。


「ディバイン………!」

「来るか!」

「……バスタァーッ!」


 ドォッと空間が振動するほどの巨大な円錐形の砲撃が、ディオニュソスを今にも呑みこまんとして接近してくる。


「フローズンレイザー・サイドハーゲル!」


 再び2挺の銃を連結し、長銃に集束砲の魔力を注ぎ込んでいく。


「させない!」


 それを見て、なのはは周囲に散らばっていたディバインシューターを、ディオニュソスに向けて殺到させる。


「そんなもん!」


 しかし、ディオニュソスは決して焦らずに、肩部に残されたミサイルを全て解放する。放たれたミサイルは、なのはの魔力弾によって撃ち抜かれると思いき や、魔力弾に着弾した刹那、ミサイルは霧のようなものを放出しながら、次々と爆散していった。そして、なのはのディバインバスターと、ディオニュソスのフ ローズンレイザーが真正面からぶつかり合う。どちらも退かずに鎬を削り続ける。そう思ったなのはだったが、ディバインバスターが徐々に凍りついている事に 気がついた。急いでディバインバスターに注ぎ込む魔力を遮断し、そのままディオニュソスの直上へと移動する。

 ディオニュソスの放ったフローズンレイザーは、なのはのディバインバスターの全体を凍らせて、やがて1本の巨大な氷柱となり、氷山にドッと落下していく。砂埃に次いで氷の礫が舞い、まるでダイヤモンドダストのように綺麗に魅せた。


「魔力が………!」


 その時起こった現象に、なのはは戸惑いを覚えた。


《Master.》

「うん」


 レイジングハートも違和感を覚えたのか、なのはに注意を促す。本来なら、ミサイルを魔力弾で破壊した後は、魔力弾は“散布用”として空間に霧散していくはずだ。だが、先程ミサイルとぶつかり合った魔力弾は魔力の散布を行わずに霧散していった。


(スターライトブレイカーを簡単には放てなくなっちゃったなぁ………)


 レイジングハートを振りかぶり、それを前面へと構え直した刹那、ディオニュソスに向かってディバインバスターを改めて差し向けた。


「おっとぉ!」


 それを紙一重でかわし、ディオニュソスはライフルと散弾銃の連結を一時、解除する。


(チャンスだ!)


 連結が解除されたと言う事は、その分威力が減少したと言う事だ。ならば、今は正に攻撃する絶好の機会。その好機を見逃さず、なのはは抜き打ちでストレイトバスターを遠慮なく撃ち放った。


「アイスリフレクト!」


 ディオニュソスは両の掌を前面に突き出し、そこに空色に彩られた巨大な六角形の壁─────正確には鏡だろうか?─────を作りだした。そしてストレ イトバスターが鏡に着弾し、何度も閃光を瞬かせる。だが、幾ら経っても鏡を突き破らない。寧ろ、その鏡に吸い込まれているようだった。


「な、何!?」


 訳が分からず、なのはは思わず叫ぶ。やがて桃色の閃光が沈んだ─────そう思った時、空色だった鏡は、その中心の一点に桃色の小さな点の明かりを宿していた。


「さぁて……コイツは本来、多数の奴を殲滅する時に使っていたんだけどな………。
 俺に使わせた事、褒めてやるぜ」


 ディオニュソスは心底、なのはの力を認めていた。故に、徹底的に叩きのめす事を決意し、この技を使う事にしたのだ。


「アイスリフレクト・マスカレード!」


 前面に展開していた鏡を思い切りなのはに向かって投げつける。


「ディスチャージ!」


 ディオニュソスがそう叫んだとき、回転し続ける鏡から桃色の閃光が─────吸収したストレイトバスターが─────解き放たれた。


「くっ!」


 鏡が回転している事で出鱈目な方向に発射される一条の光に、咄嗟に、なのははシールドを展開してガードする。


「後ろががら空きだぜ?」

「しまっ………!」


 なのはが、背後からかけられた声に気付いた時には既に、ディオニュソスの銃身から一筋の光華が発射されていた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS-JIHAD

第28話 「光芒」










「やっぱり、俺の相手はお前か………」


 眼前で、腕を組んで目を瞑っている男を睨み、デュアリスは大仰に息を吐く。


「感動の再会……ってか?」


 おどけた様子を見せているが、内心では緊張で心臓が張り裂けそうだ。今頃、自分達の大切な仲間達も、そして彼女─────リュウビも同じように死闘を繰 り広げている頃だろう。誰かが敗れてしまうなど思いたくはないが、絶対ではない。こうした緊張をほぐす為には、多少無理矢理にでもおどける必要があるのか もしれない。


(まぁ、効果がなきゃ意味ないけど)


 しかし、デュアリスの願いとは裏腹に、緊張がほぐれる事はなかった。


「貴様にとって俺は、憎むべき対象だろう………デュアリス・F・セイバー」

「あぁ、そうだよ、ゲイル!」


 やがて瓜二つの顔を上げ、ゲイルはデュアリスと視線を交錯させる。ゲイルの言葉に、デュアリスは怒りを隠さずに思い切り声を荒げた。


「アンタの所為で俺は、非人道的扱いを受けたんだ!
 ただ他より劣化しているからって、廃棄処分されそうだったよ」


 腕で空を薙ぎ、デュアリスは怒りを募らせていく。


「分かるか!? 【廃棄処分】だぞ!? 物と一緒の言い方で捨てられたんだ、俺は!
 それに、俺を育ててくれた両親も、俺を捨てた奴らの様に身勝手な局員に殺された!
 人はいつも身勝手で、自分の事しか考えられなくて………!」

「ならば」


 一気に怒りを解放したかのように叫ぶデュアリスの怒りを汲み取ったのか、ゲイルは彼の言葉を遮り、凛とした声で告げた。


「ならば、“我々と共に世界を壊せ”」

「何………?」

「貴様は充分に分かっているはずだ。人がどれだけ目先の利益に執着しているのかが」


 右手をデュアリスに伸ばし、ゲイルはいつもの口調で淡々と続けていく。


「劣等を感じさせる者、総てを………! 我らと共に消し去るのだ」


 伸ばされたゲイルのその手を見て、デュアリスは………………嗤った。


「それもいいかもな」

「ほう」


 デュアリスの返答に、ゲイルは珍しく喜色の声色を出した。


「けど、今は違う」

「む………?」


 デュアリスは1度だけ顔を伏せ、すぐに上げる。その表情には、はっきりと強い意志が浮かんでいる。


「今は違うんだよ、ゲイル。俺は今、アンタのお陰で生まれて良かったと思ってる」

「なんだと………?」

「確かに、世の中は不便だよ。
 必ず優劣がついて、しかも自分だけが不幸かもしれないって感じさせられて………果ては、人間扱いすら叶わない………俺はそんな世界が大嫌いだ!」

「ならば!」

「だけど、“それ以上に”!──────────それ以上に俺は、今、俺と一緒に居てくれる仲間達の事が大好きだ!」


 デュアリスの叫びに、ゲイルはしばし目を瞬いた。だが、やがて肩を震わせ、盛大に笑いだした。


「ハハハハハッ!」


 しかしそれは、決して小馬鹿にした笑い声では無く、寧ろ─────楽しそうな声。

「ふふっ、見事な決意だ。
 では、貴様のその決意と、俺の願い………………どちらがより高みに往くか、確かめようではないか!」


 虚空から矢筒と弓を具現させ、ゲイルはそれを手にする。


「面白い。実に面白い奴だ。やはり貴様は、“俺では無い”のだな。」

「あぁ、そうさ。俺は………俺の名は、デュアリス・F・セイバーだ!」

「我が真名はアポロンだ!
 行くぞ、デュアリス! 最早貴様が誰だろうとどうでもいい!
 ただ純粋に、戦士として………人間として! 私に勝って見せよ!」


 目一杯引かれた鋭い矢が、疾風を纏い、デュアリスへと迫った。




















「チィッ! 強固だな………」


 なのはに向かって放たれた閃光は、しかし彼女が咄嗟に張ったシールドによって間一髪の所で防がれた。ディオニュソスは舌打ちし、なのはから距離を取る。 刹那、先程までディオニュソスがいた空間を、桃色の光が薙いだ。追ってくるなのはの砲撃を、ディオニュソスは身体を仰け反らせてかわし、対してなのはは、 かわされた砲撃をすぐに小さな魔力素に変化させて空間に漂わせる。


(これで、スターライトブレイカーの布石がまた増えた)


 スターライトブレイカー用の魔力散布に成功し、なのははホッと一息吐く。


「フローズンレイザー!」

「っと!」


 その隙を逃さず、ディオニュソスがまたも2挺の銃を連結させて砲撃を放つが、なのはは既の所でそれを回避する。


「ディバインシューター!」


 お返しとばかりに、なのはは数多くの魔力弾をディオニュソスへと殺到させた。上手くいけば、少数の魔力弾を撃ち漏らしてくれるかもしれないからだ。


(そうなれば、またスターライトブレイカーの為の魔力が散布できる!)


 だが、なのはのその淡い期待はあっという間に砕かれることとなる。


「そんなもんっ!」

 ディオニュソスが、連結を一時解除し、すぐに散弾銃を前面にして再度銃身を連結させる。広範囲に対しての攻撃を可能としている砲身だ。


「ブリザードクラッシュ!」


 ドォンと一際大きな爆発音が轟き、連結した散弾銃から1つの丸い弾丸が飛来した。かと思うと、その弾丸はあっという間に炸裂し、氷の礫のように白くも美 しく、それでいて儚さを感じさせる霧が発生しだす。ディオニュソスへと殺到していた魔力弾を全て呑みこみ、一瞬で氷像を作り出した。


「やっぱり、簡単にはいかないね!」


 これ以上出し惜しみをする訳にもいかず、なのははレイジングハートに告げる。


「エクシードモード!」

《Exceed Mode.》


 主の言葉に応えるべく、レイジングハートはすぐさま力を解放する。なのはのバリアジャケットと共に、レイジングハートもその姿を大きく変化させた。周囲 には、ブラスタービットも2基浮遊している。ブラスタービット自体は、4基まで運用が可能となっているが、その分負担も大き過ぎるが故に、3ヶ月程度のリ ハビリでは、ゆりかご戦でのダメージが回復し切っていないなのはには辛いのだ。


(皆から無茶しない様に言われているけど、こればっかりはね)


 戦いに敗れる訳にもいかず、なのははヴィレイサーの言いつけを守る事だけに専念した。



 ─────死ぬな



 それだけだったが、なのはを突き動かすには充分過ぎる言葉だ。


「ソイツがお前の全開って所か?」

「残念ながら、まだ傷が完治して無いから本当の全開は見せられないよ」


 ディオニュソスを刺激してしまわないように、なのははゆっくりと真実を告げた。


「ハッ………! ソイツァ残念だったな。
 俺だけ全力をやっちまって悪いが、死んでも恨むなよ」

「どうかな? 実際、死んだら相当恨むよ」


 物怖じしないなのはのその態度に、ディオニュソスは笑む。


「お前、面白い奴だな」

「そういうディオニュソスは、つまらないね。どうして世界を壊そうとするの?」

「そんなの、ゼウスの為さ。ヘラが愚鈍な屑共に殺された事、お前も知っただろ?」

「確かに、ヘラさんを殺した人達は酷いと思うよ………。
 でも………」


 顔を伏せ、しかしすぐにキッと鋭い目つきになり、なのははディオニュソスを見る。


「でも! どうして自分達から歩み寄ろうとしないの!?
 ヘラさんにばかりやらせないで、貴方達も頑張れば………!」

「そりゃあ、初めて人間と関わり合いを持つのなら、或いは頑張れたかもな」

「え?」

「俺達は皆、どうして人間を憎んでいるか分かるか?」

「そ、それは………ヘラさんを殺されたから………」

「半分正解だが、半分は不正解だ」


 2挺の銃の連結を解除し、ディオニュソスは真っ直ぐになのはを睨んだ。


「俺達は、ゼウスやヘラに会う前から人間とやらに蔑まれ、罵まれ、屈辱を味わわされ、果ては絶望を叩き込まれた!
 だから! ヘラを殺された時にまた思い知らされたんだよ! “人間は信じるに値しない”ってなぁ!」

「そ、そんな事………!」

「お前、仲の良いダチはいるのか?」

「え………?」


 いきなりのディオニュソスの問いかけに、なのははすぐに答えられなかった。


「お前には、友人って呼べる奴がいるのかよ?」

「………いるよ」


 訝しく思いながらも、なのはははっきりと答える。


「へぇー? その目、まだ知らねぇ目だな」

「“知らない”って……何を?」

「そんなのは決まってる。『裏切り』って奴さ」


 ディオニュソスのその言葉で、なのはは彼に何があったのかを察した。彼は、裏切られたのだ。それも、信じていた友人に。


「俺はな、ガキの頃から射撃だけは得意だったんだ」


 まるで、他人の昔話を語るかのように、ディオニュソスはゆっくりと語りだす。


「周囲よりちょっと上手い程度だったが、それでも出来る俺の事を囃し立てる奴はそれなりにいやがった。
 子供だったんだ。周りよりも成績が上位なら、誰だって羨むだろうな」


 淡々とした口調に、なのははどこか冷たさを覚え、身を竦める。


「そんな俺にも、ダチが何人かいた。
 俺は、射撃以外はからきしダメだったからな。勉強を教えてもらったりしていたさ。
 けど、その程度の繋がりは簡単にぶっ壊れる!」


 強く拳を握り、ディオニュソスはなのはを睨んだ。


「俺とダチは貧乏だったからな。毎日の食事にも困らされていたんだ。
 ある日、いつものように街を散策していた時だ。俺がちょっと目を離した隙に、ダチは店から食いもんを奪って逃げたんだ。
 ソイツはバカだからすぐに捕まったが、そっからアイツは、“俺(友人と言う名の駒)”を使いやがった」

「まさか………!」

「そうさ。奴は『ディオニュソス(俺)に脅されて盗みを働いた』って言ったんだよ!」


 ディオニュソスに対して行われたのは、友人による裏切りだった。喧嘩ならまだしも、裏切りだ。


「当時は盗みを働いただけで拷問だ。
 濡れ衣を着せられた俺は、寝る事は許されず、鞭で打たれ続けた………。
 その時から人間なんてのを信じられなくなったのさ! 俺は!」


 怒りの形相を浮かべ、ディオニュソスは手で虚空を薙いだ。


「だから俺は、殺し尽くすのさ………身勝手で話を聞かない愚か者どもをなぁっ!」


 再び2挺の銃を連結し、フローズンレイザーをなのはに向かって発砲する。


「そんなの………間違ってるよ!」


 体を躱してやり過ごし、なのはも応戦する。


「確かに裏切った人を許せないかもしれない………。
 だけど! 今この世界に居る人達を皆殺してしまうなんて、絶対に間違ってるよ!」

「ハッ! 所詮、人間は自分の事しか考えられねぇ!
 いつか裏切られる恐怖と戦うぐらいなら、いっその事ぉ! 殺し尽くして孤独になった方が増しなんだよおおおおぉぉぉぉぉっ!」


 互いの砲撃がぶつかり合い、拮抗した力が行き場を失ってどちらともなく爆散する。


「くぉっ!?」

「うぅっ!?」


 それによって生じた爆風が、2人の体躯を呑みこむかのようにして駆け抜けた。2人は、思わず身体を膠着させてしまう。


「そろそろ頃合いだな」


 ポツリと呟き、ディオニュソスはなのはの真下に素早く移動し、もう1度フローズンレイザーを放った。


《Master!》

「うん!」


 レイジングハートからの警告になのはは頷き返し、身を捻って砲撃を難なくかわした。


「よし………やるか!」


 2挺の銃の結合を解き、ディオニュソスは両手を天空へと掲げる。


「アイスリフレクト・リメンバランス!」


 なのはのストレイトバスターを吸い込んだ鏡を複数作り出し、様々な場所に配置させる。


「さて、解放するか!」


 なのはの眼前に配された1枚の鏡に向かって、ディオニュソスが手を翳す。すると、先程と同様に取り込んだストレイトバスターがなのはに向かって放たれた。それを既の所でかわし、なのはは真正面にある鏡を破壊しようと、レイジングハートを構える。

 だが─────


《Master!》

「え!?」


 ─────レイジングハートの警告に、なのはは慌てて背後を振り返った。

 視線の先には、ディオニュソスが配したと思われる鏡があり、なのはがかわしたストレイトバスターが直撃している光景があった。そのまま鏡が砕け散ると思われたが、あろう事かストレイトバスターが再びなのはに向かって飛来する。


「危ない!」


 紙一重でかわし、今度は高度を下げる。しかし、そんななのはを追いかけてくるようにストレイトバスターが背後から接近してきた。


「反射している!?」


 かわす事で頭が一杯になりそうだったが、なんとか思考を振り絞ってディオニュソスの攻撃方法を理解した。周囲に配された鏡は、ストレイトバスターを何度も反射させているのだ。どうやら、その角度も自由に調整がきくらしい。


「だったら………!」

「おっと、そうはさせないぜ?」


 ブラスタービットで鏡を壊そうとするなのはだったが、それを予め読んでいたのか、ディオニュソスは散弾銃を連射してブラスタービットの進路を妨げた。あわやブラスタービットそのものが破壊される所だったが、なんとかそれだけは免れる事に成功した。


「厄介だね………」


 鏡を利用して様々な箇所に反射し続けるストレイトバスターに対し、なのはは毒づいた。


「おいおい、呆けていていいのか?」


 いつの間に散弾銃から結合を変更したのか、ディオニュソスはもう何射目かすら忘れたフローズンレイザーを放つ。


「くっ!」


 咄嗟に回避し、だが、大きなリボンが微かに破れる。フローズンレイザーも、ストレイトバスターと同様に鏡によって幾度となく反射しては、時折なのはを狙って襲いかかってきた。


「そらそら! 逃げるだけでお終いか?」


 残ったミサイルを全てなのはに殺到させ、動きを制限した所で、背後から2つの光華も迫らせる。


「させない!」

《Oval Protection.》


 咄嗟にオーバルプロテクションを張り、周囲の攻撃を全てギリギリの所で防ぎきった。シールドによって妨げられたストレイトバスターとフローズンレイザーも、鏡に到達せずにシールドの前にその姿を霧散させる。


「チッ! もう1度………うあっ!?」


 なのはがシールドを解除した一瞬の隙を狙って、ディオニュソスがフローズンレイザーを放とうとしたが、それはバインドによって叶わなかった。


「なっ!?」


 見ると、ディオニュソスの手足はいつの間にか接近していたブラスタービットから射出されたバインドによって封じられていた。


「これで………終わり!」

《Starlight Breaker.》


 天空に掲げたレイジングハートに呼応するかのように、なのはの眼下に、散布していた魔力が一点に集中していく。


「スターライトォ………」


 そして、強大な球体がなのはとディオニュソスの間に形成されていく。それは今この瞬間にも爆発してしまうほど巨大で、そして神々しかった。


「……ブレイカアァーッ!」


 勝利をもぎ取る様に、なのはは渾身の力を籠めて叫んだ。レイジングハートが振り下ろされ、閃光がディオニュソスを呑みこんだ。




















「へ、へへ………」


 やがてスターライトブレイカーが収まった時、ディオニュソスは仰向けに倒れて笑っていた。


「あぁー………なんか清々しいなぁ」

「え?」

「もう、身体を動かすのも面倒な程どうでもいいや………」


 ディオニュソスは己の敗北をなんとも思わず、あっさりと認めた。


「メンドくせぇ………あぁ、メンドくせぇ。
 俺が負けても、誰かが世界を壊すんなら、それでいいや」

「そんな………!」

「けど………けど、誰も壊さなかったら壊さなかったで、面白いかもな」


 それっきり、ディオニュソスは満足な笑みを浮かべて意識を手放した。


「扉………」


 なのはのすぐ傍に、外へと通ずる扉が具現した。


「勝った…んだね………」


 それを認めた瞬間、疲れがドッと彼女に押し寄せた。その場に寝転がる様にして座り込み、なのはは大きく息を吐いた。


「皆………頑張ってね」


 微笑しながら、彼女は仲間達に想いを馳せた。


[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!